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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
79/109

願掛け

 その口跡と惑乱する御大達の間に議論が始まった。

 地上の沈没がどれ程とか、ポセイドンは継承されたと聞いているとか、水を司る尊厳はどう説明するなど聞こえるが。


「ここは上…だよな。座軸がピンとこんが八次元?」


「仰る通りです」


 慎まれる俺。

 支配権は無く、異常に体が重いと口にする辺り現状の理解はないらしく、用の最中だったと告げている身体から不快な念を感じる。


「去れ」


「…何卒。エネルギーをお沈め願いたい」


「一度放ったものを収められるか」


「我らが神と争うつもりか」


「神?」


「同胞の失言、お許しを。しかし我々は他言なき様配慮を」


「神って、誰?」


「最高神ゼウスです」


「叔父の領土か」


「叔父?」


 御大達がポセイドンではないのかと混乱。

 まるで系譜の血筋を追求されるかの間に。


「気が変わった。本気で滅ぼす」


 体が宙を浮遊していく。

 ルシフェルと白金髪の青年を越え、青い太陽へ抑止に働く一同から。

 全生命をこの目で収め終えると、ミカエルとリオンの白熱している粛清場へ移動した。


「シオン様」


 戦いが止む。

 一瞬、リオンに目移りしたが、鎖に手を掛け「滅ぼすとはいえこの地から逃げれぬ者はお前一人だ」と、ヒビが入り強烈な雷が俺を襲う。


「ヤメて」


 俯くメイミア。


「私は神に叛逆した大罪人、反乱者を野放しにしていたらいずれ領域文明から下ろされる。粛清される事が最善なの」


 泣いていた。

 方や息を深く吸い脳裏に浮かぶ記憶の数々が過ぎる。

 思い当たる出来事を零していった。


「悪いが俺は懺悔ざんげうとい。行いに喜び、悲しむかは娘、お前が培った環境や遺伝的な感受性が根強く関わっているが、本来意識的なもんは自由に選択出来る。だが問題と死を結び付ける程思い詰めているならば根底から見出せ、生まれながらに迷惑を掛けず生き抜いた生命などいやしない。一度や二度神に叛いた位で現実は変わらない様に。それにこれはある奴の生い立ちだが、親父は偉大と称され、その息子は愚れたと騒がれているんだが、更生させようと何を企もうがそいつの意識は揺るがない。神の叛逆に落ち込んでいる娘と、そいつの様に揺るがない違いは何だと思う?」


「…分からない、難しくて…」


「本当にそうか?」


「そう。私は神に叛逆したの。粛清以外に覚悟は要らないの」


「いいや。お前が悲しむ秩序が悪い」


「優し過ぎでしょ」


「逆だ。今も尚悲しむ人達が溢れるこの文明の発展が遅過ぎるのだ」


「…。」


「質問を戻す。変化はあったか?」


「でも言えないって!」


「なら代弁してやる。どこぞの馬の骨を正義として、付いて来れる者が報われるとほざく愚かな思想をブっ潰すためだ」


 この身から奔り出す青い奔流が鎖を砕き、粛清場が大破する。

 うん十万の人々が駆け付ける歓喜しゅくふくが起こった。


「…ありがとう、みんな。でもシオンが」


 囁き声が途切れていった。

 同時に赤らめながら囲まれている様子が、幸せそうに感じる。

 薄い自我でそう思う。

 もう青い太陽に目掛けている視界しか見えないが、不思議と幸福感があった。

 この自我に飲まれる時は、強力な威厳に止められず迷い込んで、結果メイミアの拘束が解除されるに達した。

 ルシフェルの言う通りあのままじゃ無謀だったが、同様にメイミアが大切だったんだと感じる。

 報われるみたいだ。

 もしかしたら俺という自我は仮初に過ぎず、何らかの事象で生まれたものだったのかもしれない。


 消える──。


 そう。

 思い残す事がない感覚は──

 もう。


「それがお前らの願いか?」


 なんか騒がしい。


 ──帰って来てと──


「お前らの死と何の繋がりがある?」


 ──約束したから──


「なもん各々が遭遇した運であろう」


 何の会話を…。


「相殺出来ぬだろう」


 目を開けるとうん十万の人々が、居る。

 リオンが中心となって俺の問い掛けを肯定した。


「なら去れ」


「出来ません」


「矛盾しているが?」


「いいんです」


 青い太陽を増幅させ、着弾寸前だった。


「遺言を」


「愛しています」


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