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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
72/109

憎悪

 申請したのは月日を重ねた後の事。

 シェスヴァレンを二親等として正式に届け出た。

 あれから参謀が定着しつつある頃には、全く帰って来ない。

 組織内は役割分担が浸透し、会頭の指示なしでも成り立っていた。

 その唯一の気配は悪魔の来日だった。


「どうしてレナがいんのよ」


「んん…そりゃあの人が色男つう事だな!」


「いい。善の象徴と生きていたら居場所が筒抜けよ」


「だからこそ俺が付いてる」


「容姿に限界って書いてある」


「まだいけるさ」


「地獄に居たのも分かってるんだから」


「お互い様だ」


「いい。これから私が、貴方は」


「分かってる、危ねえ奴らは容赦なく奪い留めてる」


「休んだ方がいい」


「おいおいシオン様といて、こうやって家族といて、何に疲れる。それに俺の尊厳の方が平和だぜ」


「ハイロン。地獄にいるって事はあなたの一部となって罪を」


「それでも、思い出のねえ人生なんざ死んでんのと変わらねえ」


「でも」


「分かってる。気が狂う前に、メイミアに任せるさ」


 夢から覚める。

 体中の包帯を払い病室から抜ければヴァレンに引き止められた。

 俺は黒魔術界最強に慢心し、敵は来ないと油断して、自分の強さに過信した。


 そうして幾日が過ぎたか、年月が経った。


「髪色。お変わりましたね」


「そっちもな」


「何人の返り血を浴びましたか?」


「なあに、あなたにとっては小鳥の囀りだろう」


 朦朧と映る会頭とシイナ。

 それは凛界に行く前夜。

 視界が閉じる。


 疲労を忘れて。


 目を開けると白魔術界の領土?

 幾万の標的を受けている存在が倒れる。

 俺は向かった。

 高身長で刺青の入った逞しそうな体を抱えて。


「ふふん」


 回復させている実感と共に景色が変わった。


「この者が御目にかけた魔力位の?」


「そそ」


 休めの姿勢。

 その腰を曲げて白金の毛先が透き通る。

 一方で片目無し、顔中刺青、やはり会頭だった。

 街中に水が流れる世界、ここは。


「ようこそレリアスへ」


 迎える姿勢でアルトが続けた。


「初めまし、ん。殺す? はは、いいよ望む所…」


「どの道王って奴は殺す、人なんざ信用ならねえ」


「おお。僕らの前で暗殺企む人は初めてだ」


 アルトが興味津々でいると、大地に雷がふわりと奔る。


「今日から君の担任を務める、オルトロスと呼んでくれ」


 会頭に居合わすオルトロス。

 魔力位の先生だと説明していると「血気盛んだなっ‼︎」と会頭に振られる剣を掴んでそのままさらって行った。

 俺は白金髪の青年と宮殿に向かう。


「筋金入りの憎しみって所でしょうか」


「うん資質を感じた」


「ええ。教師達が居る卒業までに思想が変わらなければ…」


「誰が連れて来たと思ってる?」


 夜になる。

 まるで水が流れて来たかの視界が宮殿を映し。

 警報が響く部屋で寝ている俺は毛布に刃物が刺さる。


「警備が異様に少ないわ見た事ねえ力使うわ、何だこの国は…」


五次元げんそう


 俺は会頭の背に言った。

 ゆっくりと抱擁して。


「お気に入りの毛布だった、つぐなって?」


「知った事か」


「体で」


 苦渋の表情から離れベッドに入った。


「おいで」


 毛布を剥ぎながら誘っているものの、放心してる会頭。


「こういうの理想じゃないの?」


「色気がねえ」


 じゃ…

 巨乳にした。


「カモン」


「化け物が」


「わがままだな。どんな容姿がいいか言えよ?」


「積極的な女は嫌いだ」


 ほう?

 血行の促進から赤い肌を作る。


「見な…いで…」


「興味ねえ」


「あれ…」


「オマエ」


「おう?」


「普段からやってんのか?」


「いや。生命力ハイロンが一番やらしい奴だったから挑戦した」


 会頭から魔力が吹き出す。


「やらしいだと…このツラ拝めよ? 顔中刺青、身長二百十八、俺と目を合わせる奴なんざ居なかった。だがこんな醜い俺を王だけが評価した。軍団長になった。見ただろう。軍団長に仕立てた目論見は囮。剣が片目を貫き使い捨てだ。何で刺青入れたかって? 生まれながらに忌子とした親が迷信じみた詐欺師に彫らせた。俺はこの顔が大嫌いだ!」


「知ってるよ」


「効いた風な口をきくな‼︎」


「ずっと見てたから」


「あ?」


「忌子が生き残るには王の側に置いておけばいい」


「は?」


「ただ国に迎えるには自然に反すると怒られた。だから死と近い時を狙っていた」


「…」


「お前はあの日死んだ。で輪廻に精通して肉体を治した」


「何者なんだ?」


「さっき行った学校とかこの国の初期を創設したり、でもレリアスってのは民が名付けた」


「根底を逸らすな、身分を明かせん奴など信用せん」


「王として守ってやる。ここで報われろ」


 会頭の目が充血する。

 髪が逆立つ勢いで斬り掛かかってきた。


「欲張り命すら利用するのが王だ、俺の敵だ」


「お前は環境に恵まれなかった、ここは容姿に畏れやしない」


「ふざ…けるな…」

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