憎悪
申請したのは月日を重ねた後の事。
シェスヴァレンを二親等として正式に届け出た。
あれから参謀が定着しつつある頃には、全く帰って来ない。
組織内は役割分担が浸透し、会頭の指示なしでも成り立っていた。
その唯一の気配は悪魔の来日だった。
「どうしてレナがいんのよ」
「んん…そりゃあの人が色男つう事だな!」
「いい。善の象徴と生きていたら居場所が筒抜けよ」
「だからこそ俺が付いてる」
「容姿に限界って書いてある」
「まだいけるさ」
「地獄に居たのも分かってるんだから」
「お互い様だ」
「いい。これから私が、貴方は」
「分かってる、危ねえ奴らは容赦なく奪い留めてる」
「休んだ方がいい」
「おいおいシオン様といて、こうやって家族といて、何に疲れる。それに俺の尊厳の方が平和だぜ」
「ハイロン。地獄にいるって事はあなたの一部となって罪を」
「それでも、思い出のねえ人生なんざ死んでんのと変わらねえ」
「でも」
「分かってる。気が狂う前に、メイミアに任せるさ」
夢から覚める。
体中の包帯を払い病室から抜ければヴァレンに引き止められた。
俺は黒魔術界最強に慢心し、敵は来ないと油断して、自分の強さに過信した。
そうして幾日が過ぎたか、年月が経った。
「髪色。お変わりましたね」
「そっちもな」
「何人の返り血を浴びましたか?」
「なあに、あなたにとっては小鳥の囀りだろう」
朦朧と映る会頭とシイナ。
それは凛界に行く前夜。
視界が閉じる。
疲労を忘れて。
目を開けると白魔術界の領土?
幾万の標的を受けている存在が倒れる。
俺は向かった。
高身長で刺青の入った逞しそうな体を抱えて。
「ふふん」
回復させている実感と共に景色が変わった。
「この者が御目にかけた魔力位の?」
「そそ」
休めの姿勢。
その腰を曲げて白金の毛先が透き通る。
一方で片目無し、顔中刺青、やはり会頭だった。
街中に水が流れる世界、ここは。
「ようこそレリアスへ」
迎える姿勢でアルトが続けた。
「初めまし、ん。殺す? はは、いいよ望む所…」
「どの道王って奴は殺す、人なんざ信用ならねえ」
「おお。僕らの前で暗殺企む人は初めてだ」
アルトが興味津々でいると、大地に雷がふわりと奔る。
「今日から君の担任を務める、オルトロスと呼んでくれ」
会頭に居合わすオルトロス。
魔力位の先生だと説明していると「血気盛んだなっ‼︎」と会頭に振られる剣を掴んでそのままさらって行った。
俺は白金髪の青年と宮殿に向かう。
「筋金入りの憎しみって所でしょうか」
「うん資質を感じた」
「ええ。教師達が居る卒業までに思想が変わらなければ…」
「誰が連れて来たと思ってる?」
夜になる。
まるで水が流れて来たかの視界が宮殿を映し。
警報が響く部屋で寝ている俺は毛布に刃物が刺さる。
「警備が異様に少ないわ見た事ねえ力使うわ、何だこの国は…」
「五次元」
俺は会頭の背に言った。
ゆっくりと抱擁して。
「お気に入りの毛布だった、償って?」
「知った事か」
「体で」
苦渋の表情から離れベッドに入った。
「おいで」
毛布を剥ぎながら誘っているものの、放心してる会頭。
「こういうの理想じゃないの?」
「色気がねえ」
じゃ…
巨乳にした。
「カモン」
「化け物が」
「わがままだな。どんな容姿がいいか言えよ?」
「積極的な女は嫌いだ」
ほう?
血行の促進から赤い肌を作る。
「見な…いで…」
「興味ねえ」
「あれ…」
「オマエ」
「おう?」
「普段からやってんのか?」
「いや。生命力が一番やらしい奴だったから挑戦した」
会頭から魔力が吹き出す。
「やらしいだと…このツラ拝めよ? 顔中刺青、身長二百十八、俺と目を合わせる奴なんざ居なかった。だがこんな醜い俺を王だけが評価した。軍団長になった。見ただろう。軍団長に仕立てた目論見は囮。剣が片目を貫き使い捨てだ。何で刺青入れたかって? 生まれながらに忌子とした親が迷信じみた詐欺師に彫らせた。俺はこの顔が大嫌いだ!」
「知ってるよ」
「効いた風な口をきくな‼︎」
「ずっと見てたから」
「あ?」
「忌子が生き残るには王の側に置いておけばいい」
「は?」
「ただ国に迎えるには自然に反すると怒られた。だから死と近い時を狙っていた」
「…」
「お前はあの日死んだ。で輪廻に精通して肉体を治した」
「何者なんだ?」
「さっき行った学校とかこの国の初期を創設したり、でもレリアスってのは民が名付けた」
「根底を逸らすな、身分を明かせん奴など信用せん」
「王として守ってやる。ここで報われろ」
会頭の目が充血する。
髪が逆立つ勢いで斬り掛かかってきた。
「欲張り命すら利用するのが王だ、俺の敵だ」
「お前は環境に恵まれなかった、ここは容姿に畏れやしない」
「ふざ…けるな…」




