いざ出発!
浮いてる。何、ここ?
上空?
そんな星雲が駆けており、ドシン、ドシンと感じる。
まるでのし掛かるものに背中を押され「にしても焦りましたよ? シオン様」とシイナと対面するが、爆風に晒されており、指で米神を突くが「耳が変なんですか? フンってやると治るかもですよ」と指南の顔を浴びた。
「いや死ぬだろこれ‼︎」
俺はシイナに伝えるが、アルタイルが上にあり、移動先が下に位置しているそうで「普通に落ちては数千年掛かりますから十分で着くよう加速してますし更に加速を…って‼︎」との事で、更に加速されてたまるかとシイナの髪を引っ張るが「違うんです頑張ってるんだと自慢したくてちょっと! ハゲたらどうしてくれるん。加速しませんから許して下さい」と聞いた。
ふと手放すと赤い髪が手にくっ付いており、その髪は飛んでしまう。
シイナは黒い髪、そう見てると涙目が映り込む。
「えと。この環境も慣れたし、どこ向かって?」
聞くと「忘れてました。ありますよ、地面」と、足先を下に向けるシイナから高めに見下ろされた。
俺もうつ伏せから立つように、はずが思うようにならない。
結果反転し突然着地する感覚を全て集める腰。悶絶してる横で「着地時に身体を強化しましたので打撲で済むはずです」と服の乱れを整えるシイナ。
また「痛みも気持ち吸収しましたが骨折程の痛みが…あると思いますが動いて大丈夫ですよ」と聞いて、角度により月白を映す地、この下に何かがある気がした。
けれど頭が回らず「着きますよ」と、さり気なく肩を引いてくるけど、体中にビリッと流れるし、精一杯起こしていたら体が震える。
シイナは「本当に痛がってます?」と俺の腰をちょんちょん突いてやがる…。
悶絶なんだが理解したらしく、身を引くシイナ。
俺は空中に立つかの光景を眺めていった。
「で。着くって、行きたい所あったんだけど、どこ向かってたんだよ?」
「行きたい…、どこですか?」
「えっ。んと、地球」
「行く予定は無いですね」
「無いって、行きたい世界を選べないの⁉︎」
「行きたい世界って何ですか。僕とデートしたいんですか?」
「は。命が足らんわ」
「足りない?」
「何?」
「いえ」
「そこってどんな世界?」
「ファンタジーな世界です」
「ファンタシー?」
「ファンタジーです。勇者と魔王が命を削って戦う、剣と魔法の世界です」
「はぁ」
「不満でしたか?」
「鬼かよ…」
「精霊ですが、到着です」
その『到着』で視界に白い光がいっぱいになり、硬い砂地の感触や「まず宿屋に向かいます。付いてきて下さいね」との潜め声、視力がやんわり戻ってくる。
日差しが馴染んでくる様に屋台が出回る道中に立っていた俺は人とすれ違う。
木箱を運ぶ大男、ローブを着る女性や内服の胸に杖?を装備?してる服装で。
コートを着ている人や、薄着だったり、ブーツを履いていたり、手袋だろうか?
そんな人々が穏やかに歩いて、風情ある建物が広がっている世界に移り変わっていた。
「おっとお嬢ちゃん。すまないが」
声が背に当てられ振り返ると、木製の荷台を引く三十半ば位か「クエストでヴリトラを狩って来たんだ。通れないんで…どいてくれないだろうか?」と革のような鎧を着てる男が立ち止まっていた。
強大な竜がはみ出た荷台をガン見で眺めていた俺は、謝罪しながら端に寄るが、視線が続く。
突然、革のような鎧を着てる男が冴えだす顔となって荷台を下ろしていった。
「君はパーティーを探していたりしないか?」
更に「よかったら」と逞しい腕に囲われ咄嗟に身構えていたら「こらまた勧誘する、Sランクを制覇したからって浮かれない! とっととギルドに行くよリーダー」と女性が慌てて駆けつけた。
また「ねえリーダー、いつも寄り道先でよからぬものを発掘してくるリーダー。毒キノコで仲間壊滅させたり、崖に転落して回復するの私たちですよ。今回に関しては、ヴリトラの前でコケるリーダーに唖然失笑したヴリトラあっての討伐。油を売る前に納めに行きますよ」と少女が迫る。
「おいおいポンコツに聞こえるぞ? いいか、まずアレは毒キノコじゃない、筋肉成長の効果があってだな、まあ。コケて討伐出来たんだからそんな世界一ついてる俺がぁぁ」
男を引きずっている女性と少女が、蔑んだ目で荷台の元に放り込んだ。
「だからお嬢ちゃん、もしパーティー探してたらギルドの募集欄から焔艶を探してくれよ? 俺の目指しているものはこの世界最大の、パーティーを作ることだ。苦楽を共にこんな感じだが良かったら!」
「どうも…お気をつけて」
笑顔で荷台を引き始める姿にそう言って、更に聞こえてくる。
「気に掛けてるけど、あの子は魔力指数ゼロだよ。その心眼で何が視えたわけ?」
「んん、しいていえば。純粋な生の持ち主だったが。魔力の消耗量が振り切ってた。あの容姿で、あんな風に綺麗だなんて余程の……駄目だ。言語化無理だ」
「ふーん? 正義って感じじゃなかった様な…そうよ。知ってる? ラルフ様を筆頭に三と六を討ち取る快挙を遂げているってこと。これに私達も貢献した方がいいと思うの。貴方にはその力があるんだから、仲間集めは程々にして魔王を」
「またその話か、俺は師匠から受け継いだ感性を大事にしたいんだ。その人はな、子を教──」
遠くなる声が途絶える。
日差しで蒸せた服を仰ぎ、屋台の影に移動して思う。
シイナ、どこ?
その場で見渡すと「もし。涼しそうなのに暑がりなんだね、水分でもどう? 新鮮な果実だよ」と口を緩ませたお婆さんが映った気がしたのと果実の香りがする。
温厚に豊富な果実をとって見せてくる、屋台のお婆さんに「美味しそう。これは?」と気になる果実があった。
甘美な彩りに渇きが増すし、知らないものばかりで想像が膨らむし、でも一番気になる桃色の果実は遠かった。
なので橙色の果実に指差してみた。
「それは八百ゼニーだけどお嬢ちゃん若いから食べ盛りでしょ? 半額でいいよ」
「マジ⁉︎ じゃそっちの果物は”っ‼︎」
奥に差し変えた俺は「何やってんですか‼︎ それは五十ゼニー。僕らが物価を知らないと高値で売りつけてるんです、行きますよ」と鼓膜を貫かれた。
奥歯を噛み出すシイナに引きずられながら屋台が遠くなるまで耳にお婆さんの舌打ちが残っていった。
「初っ端から僕を無視して桃ですか」
「これ…桃って言うのか」
熟れた甘味で喉が潤う感じ。
俺は桃をシイナに渡し体が自由となる。
賑やかな繁華街を通っていった。
この地の娯楽に年齢制限はなさそうで、交友感覚の場所になっているのか、酒場や賭博場が見えたりすると表情が強張ってしまう。
見ない様にして「なあシイナ、今度行って見ようよ」と弓矢の遊びに目をやった揚々としてる俺と。食べかけの桃を見つめてるシイナから太陽が遠ざかった。
「見知らぬ土地では、いいように騙されたり利用されるので心配だったんですが。御上手ですね、そういうの」
「うん?」
空に雲が敷いた影がかる道で、尊く、滲んでいるシイナの紅い瞳を見入ると──遠い意識に誘われ──灯火が揺れて、動いている──
◆やっぱり、可笑しいですね◆
意識にシイナの声が流れていった。
◇◇◇
当時森の奥地を宵闇に変える者がいた。
黒い羽根を落とし、剣を振り重ね、現実から抗うみたいに。
完封され、躱され、布を払って飛び起きた。
「俺は…。寝てた?」
ベッドの上で寝ていた感覚。
息を整えると側から「立って寝る人初めて見ましたよ」とシイナがいた。
ここは木造一間の電球が時折チカつく部屋、右手には腰ほどの棚にシェードランプ、左手には窓がある宿屋のようで。
「…ごめん」
あれから運んでくれた様だ。
そうしてベッドから出ようとしたが「構いません。寝ていなかったですしそのままで居て下さい…明日は早いので」と俺の腕を掴んでいるシイナから遅れて聴こえた。
「分かった…」
軋む床が響いて戸は閉まり、何か隠してるようだが深く吸うと樹木の香りに包まれ「読んでおけばよかった」と実感する。
正に今風景も文化も違う世界に来て、初めて話した人が冒険者っぽい人で良かった。
そうだ。
待ってても始まらないのだ。
折角だし出掛けようと窓に足を掛ける。
わくわくしていた俺はびくっとした。
「シオン様…」
「はい…」
「何処へ?」
「ちょっとトイレへ」
「面白いですね。逆ですよ?」
「。」
「いいんですか?」
「…なにが」
「女がいるのに街に興味持って行かれるんですか」
「…ある人達が女湯覗いて血祭りになった。あれから女には気を付けてる」
「それは見せたくもない時に覗いてるからです」
「ん。そうなの?」
「そうです、僕は」
「分かった。好きな人出来たら参考にする。じゃ!」
言ってると俺の体が吹っ飛んでいった。
壁に激突し「次外出しようとしたら許しませんから…」と耳に入って、なんで気を付けてるのにこうなるんだ…ぶっ‼︎
そう思って吐血した。
気付いたらシイナに揺さぶられ「おはようございます、朝です」と、ベッドの上で目を覚ましていた。
「…何時?」
「一時半です」
窓を見ると星が煌めく。
「その二度寝は良くありませんよ。さあ来れから」
「眠い」
「魔王城へ行きましょう」
…聞き間違いだ。俺は毛布を耳まで被せ「魔王城に…行くって…言われて熱‼︎」と発火し焼ける毛布を払っていた。
シイナがろうそくで着火しており、ろうそくは棚に置かれる。
俺は不満だが「魔王城に行くって言うけど魔術師の称号だけ持ってるペーパードライバーに何しろと?」と頭を掻いていた。
「ええ、そこはいいので。この世界に来た本質をお話します」
「ん」
「この世界ティバイでは、魔王と相対関係にある勇者が」
真面目に始めるシイナ。それが間を取り十秒ほど、更に経っていく。
「瀕しています、とか?」
焦らされて聞くが「いえ、勇者が強過ぎて魔王は危機に瀕しています」との事で。
「それって良い事じゃないの?」
聞くと答えてくれる気配がない。
変な違和感を抱いて続けた。
「何か試してる?」
「ええ、今の情勢についても…」
「ん?」
「いえ…。出ましょう」
外から物音が聞こえる。これに合わせるかの指示に従った。
「因果バランスが各場所で異常を起こしています」
「…因果、バランス?」
「はい、全ての世界には序列が定められてます。例えば昨日、ミグサ様との対峙を簡易で当てはめますと魔力階級のミグサ様は序列で六位、相手は三位。こうやって戦力を測れば力関係でまず勝てない、どうこう出来る相手じゃないんですが、逸れました」
鋭い目で俺を見ていた。
適当な相槌でいると、前に直るシイナを先頭に廊下を進み。
「ここからの体験をどう思うかは分かりかねますが、口頭じゃ限界があります。どうぞ、いってらっしゃい我が君」
ランプで灯す扉。それを開くシイナを辿り外に出る。
強い風に当てられ、目を抑えて凌ぐ──それが、不穏な魔力を漂わす何十もの漆の馬車が出入り口を取り囲っていた。
「これは…」
半円に囲う外側の馬車に用心棒かの馭者が見張り、内側は狩り出しそうな気迫がこちらを凝視。
昼間と打って変わった裏の世界を観ているような、危険性に身構えると。
中心部。
馬車の黒いカーテンを潜り、現れる銀髪の男。
前髪を上げ火傷のある顔、丈夫そうな衣装には琥珀色の剣を帯刀。
また片膝を付く。
新たに純白の肌にドレスを纏った女性が現れ、凛とした威厳が、魔力が、強調する美しさを持って来た。
「初めまして私魔王です。シイナさんと、シオンさんでいらっしゃいますか?」
「はい」
目を合わせれば心拍数が上がるし、何用ですかと、続ける勢いが消えていく。
危険な人と認識した俺の隣で。
「シンク様、こちらが貴女を勇者から護衛致しますシオンです」
知人の様に笑顔のシイナ。
それに戸惑い、時間が過ぎた。
「いや…いやいやいや…もう充分逞しい人達で溢れ返ってますよ…何で俺。ねえ…ねぇ!」
シイナに求めていたら魔王は微笑んで何も言わない。
ならと周りを観察していたら、人に扮した人外の姿がある。
思わず目を細めると、腕や足が二つ多かったり肌の色が違っていたり。
服装に紛れていたけれど純粋な人の方が少ないというか……魔物⁉︎
いやいやいや、逞し過ぎでしょ…。
「見ての通りですが、後をお任せします」
「ええ長いは無用、いつ勇者に見舞われるかもしれない。シオンさん、私の馬車へ」
──魔王の意向に「はい」と頷いていた俺は、というか拒否したら殺されそうで。
深夜二時、魔王と黒いカーテンを潜った馬車に乗ってしまった。