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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
64/109

善の裁き

 片やメイミアから優しい目元が印象的に映る。

 初めて霧のない素顔が見えた様に、人としての魅力に背けて来た俺はどう思って化粧をし、死に向き合っていて。

 長い時を過ごしている様で表情すら気付けていなかった。

 メイミアにとっての幸せって一体。


 ◇不明。 不明。◆


 ──この地に集まる人達は。


 ◇不明。 不明。◆


 青い魔力が湧いて、奥底から悲鳴を感じる。

 水の底に、以前より具体的で鮮明に光っている鎖に。

 体が思うがままにでき、この縛りが嘘の様に萎縮しなかった。

 そうか。

 奥底を縛る鎖に、今までなら頭痛や平衡感覚を伴う強力なものだけれど、青い魔力に共鳴して鎖が力を発し、続けて発現した紋様には黒い魔力が組み込まれてる。

 その中で軋轢に対し魔力が湧く体質だった事や、鎖の力に支配されていたが、この世界に飽和領域はない。


 けれど、


 封印から、意思を感じる。


「……守りたい」


 鎖や紋様は未知数の術式で編まれ、解き方すら想像できないし、封印をいじる度、想いがそういってくる。

 法則性が無ければ俺自身の力を高度に抑制しているし、分かる事は、封印している人らが俺より俺を知ってるって事だけで、分からない、分からない、分からない。

 頭で立体を想像して、動き回して、試行回数を積み重ねるみたいな駄目元は、混乱して、目が回りそうで。

 ああもう。

 全然らしくない。

 大体負けん気の強いメイミアが聞き流せる筈ないんだよ‼︎


『短気って言ってるの?』


 そう聞こえた気がした。

 呟いた声はメイミアで視点はこちらにない。

 寝言か乱心しているのだろう。


「私より食い物とかゆるさないよ」


 ほらね? ほらね⁉︎

 紫の魔力を流しながら髪が揺らいでいるんだから、うなされているに違いなく。

 粛清場にはだかるうん十万の団体を、それが既に冷気の境界を越えていたかのよう、虚空から姿を現した。

 三重に包囲し出す武装の集大成が白い翼を羽ばたかせ、天命を全うし還すかの。

 一人一人から道導を見ている様な。

  そうなりたいと思うばかりに。

 きっと一度は抱いた理想像を一遍に魅ている。

 それら生命の脈動は人智の遥か模範を諭すものを感じる。

 よって異常なのは極めて薄い脈動が空気と共に在る、御大達や。


「目を。覚ませ」


 凛界の生命に呼び掛ける白金髪の青年。

 粛清場を囲っていた一人が天使達の最前に現れる。

 白い衣装に、すうっと腕を上げていく。


「我はウリエル。和魁玖歌は君達の進軍を想定している。決して勧めない、引けば咎めない」


 そのウリエルに半数の御大達が公言していた。


「不法の踏み入れであろう」


「同志の死より制裁を選ぶかステンドグラス」


「潔斎は致し方なし、善の聖地は神聖であらねばならぬ。そうだろう?」


「同感じゃ」


「わしも争いは好まぬが嫌いじゃない」


「同胞が分からぬとでもありなんし」


 四色の目がウリエルと張り合っている頃合いを三人の御大が咲っていた。


「目を覚ませ」


 メイミアの肩に横髪が乗っている。

 ドクンと。

 見開いたメイミアに両手を閉まっている白金髪の青年。

 御大三人がその姿勢に矢や剣を振るうが、指揮者として元の配置に付いていた。


「外道が」


 ステンドグラスと呼ばれている御大の声や醜いとも聞こえる。

 また暗い瞳が髪に被さる粛清場で、呼吸の乱れが起きていた。


「…何よ…これ…ふざけないでよ‼︎」


「こちらの台詞だ。私が外交の会談にどの姿勢で迎えるか…たく、世界的に愚れやがって」


「私はこんな結末望んでない、みんな不幸じゃないの!」


「別に変わらん、どん底と化した財政や同盟はお前が居た以上に豊かになった。だが民達の幸福度は最低値を記録している、不眠症に悩まされてるらしい」


「何よそれ」


「お前は民達の睡眠薬だったらしい」


「違うわ私は天使で‼︎」


「ああ、お前は民達の大切な天使だ。よって今後の意向は辞任だ。復興の道を一生懸けて進んだがどうも向いていない。見ての通り粛清に対する反乱から残る大勢は国で止めているが、いつ乗り込むかの憤然状態になっている。それも人を束ねる力を持ち合わせていないと思い知らされる日々に、命を大切に思う心意気に触れられ嬉しいのだ。よってすまない、未熟な心故天使達。うちの者を返して貰うため戦争に参った」


「何で…」


「罪の代償は粛清ではない。己の選択で起こる結末を受け止める事だ」


「結末なんて知れてる。誰相手にしてるか分かってないのはアンタでしょ」


 唇を噛むメイミア。

 うん十万の生命の脈動が感じられなくなり、逃走不能と思わしき、また精神的な意欲を削り落としているその中で、うん十万の団体は一点のみを洞察していた。

 ウリエルは結界と表現し「虚無の永続の中で改めろ、さすれば間に合う。身を呈して謝すれば」と、硬直。

 指揮の元に放たれる力を一点に打つけ、結界の残滓が雪の様に溶けていく。


「それが答えか?」

 

 ウリエルは剣を握り、白金髪の青年を伺う。


「こちら側に来る気はないか?」


「ある訳がない上に命を粗末にするでない」


「ご返杯だ」


 青い鋒がウリエルの鼻を掠める。

 しかし「分かり合える仲であった」と、振り込まれる白金髪の青年。

 腕で受け止めるその刃がすり抜けていき、ウリエルの体勢が崩れる。

 ほぼ無傷で済んでいるその距離を白金髪の青年が埋め出し。


「長く共にした。何がそこまで君を変えた?」


「はぁあはははぁぁあアアハッハッハ‼︎‼︎」


「前言撤回する、余り変わっていなかった」


 深い息をし好戦的な意欲を現す白金髪の青年にウリエルは距離を確保した。


「あぁ生きている実感は死の枢軸に見合ゔ」


 うん十万の団体も同じく距離を確保していた。


「いや私は斬撃に驚いたのだ、狂ってはない」


「…素敵」


 一定あった距離感が少女を筆頭に縮まった。

 掛けられる言葉は『先生』や『生き生きしてましたね』や『カッコいい』や、会話の花に囲まれていながら杭が打ち込まれる。


「安らかに眠れると思うなよ、罪人ども」


 ステンドグラス並びに天使達が動く。

 白いもやの様な流動的な移動で一斉に仕掛けられるうん十万の団体を、鋭く見渡し指示を仰ぐ白金髪の青年は劣勢へ声を張り上げた。


「いいか、手足引きちぎってでも連れ戻せ、私が生きている限り回復は保証してやる。だが強い天使と渡り合うは選別した者のみだ。相性を見極め、培った全てを活かし出し、決断しろ。直感を研ぎ澄ませ、鬼になれ。戦争はいわば生命力の奪い合いだ」


 迅速に負傷者が運ばれる。

 開幕僅かな時間に血飛沫が飛び交い、天使達の進軍で武器や能力的なものに部分的四肢の損失、その重体は担ぎ込まれる間に骨や肉が回復していく。

 また応戦中に指示をこなし人員を入れ替えている白金髪の青年。

 それは相手を熟知しているかの、劣勢を覆していく統率力、その戦場は蔓延しておりシイナは潜めて言った。


「戦力が分散している今を逃してはいけません」


「うん。戦おう」


「ここはいいです行って」


 俺らは天使に包囲され、しかし『行け』と頑なに言い張る。


「思い出して。天使の軍勢の集中砲火を浴びると。まだ僕らを警戒していないのです。あれら全て相手に出来る筈ないでしょう」


 それは会頭が言っていたもの。

 ただそれは一人だったらの話。

 

「突き進めって‼︎」


 天使の気を引いているわ、その体をおぶったら噛み付かれた。

 この行いがどう出るか分からないが、シイナは、俺の唯一の理解者だった。

 大抵の事は何とかやって来れたが、どうしようもない時は決まって駆け付けてくれた。

 この地に来るすら絶対叶わない事を。

 それに翔や部長と廃墟にいる時、シイナが来なければどうなっていたかも知らず。

 だから首から血が幾ら出ようが離すつもりはねえし朧げな記憶を言霊していった。


「創生の遡り レベル七」


 ◆シイナは俺に満身創痍と言っていた◆


「教えてくれ、俺の本気はこれでいいのか」


 見知らぬ力の奔流を感じる位に漲ってはいる。

 ただ自分の生命力がそもそもどれくらいなのかすら。

 薄い記憶にあった残滓みたいなものが天使に抗えるのか、あの時はもっとこう。

 地が正方形となってばらばらに落ちていく。

 そう思っている間に天使達の視線が集まる。

 耳に「は…」などの感想が飛び交って、シイナは終わったと呟いてる…。


「知りませんよ」


 そう…。

 それが突然にも、シイナが吹き出し笑っていた頃には、凛界の全生命がこちらに向いていた。


「貴方の本気なんて知りませんよ。でも、やってる事はイカれてますよ」


 凄かった。

 何が凄いってシイナの存在に震撼している天使が伝達の連鎖を起こす大混乱に乗じて。


「それ、十羅刹女じゅうらせつにょ本源ほうがくですよ」


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