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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
63/109

ずっと遠い場所

 この場に紅い気泡を超える速いは無かった。

 恒星の存在が長い糸状に見える紅い気泡の中で、この速いが透明感ある月白げっぱくに差し掛かる。

 まるである境界の隔たり、一度地面として遭遇したその壁を「一瞬でしたが、通った惑星達を魔力位よじげんと言います」と、粉砕。

 月白の残骸が宙に舞って、突破口が修復されていく。


「恒星が栄えて明るいですね、幻想位ごじげんです。加速します」


 惑星の質量が高い次元らしく速度の幅が広がるらしい。

 砂粒程の俺らが惑星の表面を飛んでいるみたいに、膨大数々の恒星から自然の景色となった。


精霊位ろくじげんです。この時点で宇宙の認識は不可能となります、一気に最速まで」


 紅い気泡に背が引き寄せられる。大地を這う様に進むこの地は蜃気楼のよう、立てそうに無い偽りの地から天に昇る太陽も、雲も、妖冶ようや。はたまた神秘な生き物が寄ってくる。

 大きくてふさふさしていた。


「可愛い」


 凛々しい顔立ちで走ってくるけれど、翼を使う生き物に追い越された。

 その後は、鋭い眼孔で如何なるものを捉えそうな爪、計り知れない全長は尾の先まで燃えて、くちばしで紅い気泡をツンツンしてくる。


「怖い怖い怖い」


 デカイし揺れるし割れないかと思っていたら、尻尾を振って逃げていく。


「大犬と朱雀すざくです、懐かれていたのでしょう」


「食べられるかと思った」


「ええ、二匹して友を閉じ込める獣物ケダモノ風情がと蔑まれていきました」


 二匹とも凄い睨まれていたが、冗談だと思う事にした。

 にしても精霊位とは不思議な生き物が沢山いる。

 空を飛ぶもの、宙を自在に操る飛行法、地を跳ねるものや、大地すら。

 雲を越える木々の実が湖に落ちる度、津波が発生している。

 湖を造っている滝は高過ぎて見えないし、水浴びしている生き物はずっと楽しそうで、水飛沫で震災している。

 また大自然な景色から離れた場所に人が居た。

 作物していたり、人と同じ位の生き物が共存し共栄している風景が、停滞し、意識に距離感が無いと悟り出した光景が入り乱れていった。


「惑星の重ね合わせみたいですね。理解はしなくていいですよ、無限はそういうものです」


「ここが八次元げんてん


 いく旅の対峙において絶対のもの。

 飽和領域が失われた。

 正確には意識の乱れが絶対値の消息だったと、外的要因が肌を通し、自由という概念に後悔しそうな肉体の感覚。

 確かめる様な息をして、考え、物体が重なって見えるのに存在は幾つもあるここは、頭が澄む。

 距離感がないからか、見失いそうなこれが本当に自分なのか。

 底無しの地に身を浮かすみたいだ。


「おかえり」


 シイナが微笑んでいた。

 頭では「ここにいたのか」と解釈した。


「一部分では肯定的に捉えられます」


「会頭が過小評価なの思い出した」


「ビビってます?」


「背伸びしたいくらいだ」


「では、ここから凛界までどうやって行くと思います?」


「どうって? さっきみたいビューと」


「行ければいいですよね」


「ですね」


八次元げんてんを闇雲に辿ると迷子になります、昔はよく困らせたものです」


「ううん?」


「善の聖地では、特に罪人には、なんと認識出来ないんだとか!」


「何で喜んでるの?」


「だって邪魔者がいない、このまま愛し合えるじゃないですか」


「嫌だ。知らん土地だか世界だか何て言うのか分からないだらけで不安なのに、更に不安にしないで欲しい」


「あの…冷た過ぎるんですが! 受け入れるって言ってたのに!」


「窮屈は苦手だ」


「そうですか、あぁそうですか‼︎」


 騒ぐ気泡の中、その膜は消える。冷える体を丸めていたらお尻に蹴り込まれる。

 宙を飛ぶみたいに爆速で、星々を貫通している光景や速度が増してくる。

 何十と、やがて何百の地に打つかると思えば貫通する。

 分厚い雲を突き抜け、浮かぶ岩石を壊し、白い冷気に浸されるその地で顔から着地した。


「着きましたよ」


「殺す‼︎」


「知らない土地は不安って仰っていたし、縮こまる様子に居た堪れなかったんです」


「ざけんな毎度のごとくダメージ負わせやがって‼︎」


「僕だってダメージ負いましたが‼︎」


「何だと?」


「僕はけして蹴りたい訳では無かったんです、当然ですよね。それでも仕方の無い事だったんです。悪いのは貴方が僕を拒絶したから」


「殺す」


「殺されるのはいいですが、ふう。遊びは終い。チカラがありませんというか立てないです」


「確かに…ここに来て生命力が見て取れる」


 純白の橋、ここで倒れたシイナから生命の脈動を感じる。

 消耗した身が吐息で崩れそうなものを、その下からゆっくり湧く冷気で霧掛かる。

 また霧が皮膚に浸透し神経を鈍らす毒の様な効能が蝕んで、浅い呼吸で細い目、瞳孔の光が消えているシイナが仄かに咲った。


「恐れるに足りないと。僕は未来に黒色の世界が写ります。貴方は不確定な未来に黒色の花があれば革命だと。貴方には咲いて見えていますか」


「分からない」


「ですね」


「死ぬのか?」


「ええ、天使にしてみれば恰好の的です。上を」


 白い大柱が天高くあるもの。

 シイナが指すこの塔の上には、空を見上げて、鎖に繋がれる死装束の少女が穏やかに座った。


「心身の制限があるのでしょう、和魁玖歌とて油断はないというところでしょうか」


「あのメイミアが捕まるなんて、夢を見てるみたいだ」


「落ち着いて話せますか?」


「…聞かせてくれ」


「あれは粛清場です。執行の際合図があるでしょうが、メイミア様は神の叛逆者です。幻想位までは公開するでしょうから膨大な発信を要するでしょう、よって派手な告知があれば覚悟して下さい。また、配置済みの天使達が備えていますし、今は身を消していますが、非戦闘隊を含め数百万はいると思って頂ければと。覚えておく顔があります。浮遊し粛清場を囲っている人達が、僕らが通った惑星の起源とされる、精霊位・幻想位・魔力位・武術位を生んだ天使です」


「誰かが、言っていた。強く気高いと」


「そうです、強い天使と謳われる内八人があの顔ぶれです、残りの御大も何処かに潜んでいるでしょう。それと」


 「対にいるのが」とシイナは言った。

 それはもっと。

 ずっと上の方だった。

 瑠璃色と紅色の天体が二つ、観測できる空の虚空から続々と現れる子どもから老人まで。

 名も知らぬ人々から生命の脈動を感じる度、樹木の葉が一枚、また一枚が緑一杯に溢れるばかりの安堵感に駆られる。

 顔も、年齢も、何も知らない。

 一体どうして、喉が詰まる?

 涙している?

 塔の高さに立ち並ぶその人達は、うん十万の団体となって声を上げた。

 助けると。

 白金髪の青年が指揮をし特徴的な部隊に仕上げると、息をふんと吐き、粛清場に紡ぎ上げていった。


「じゃじゃ馬娘。断末魔に脈絡なく偏に幸せそうだ、国王のめいを背き独占した高揚でも噛み締めているのか、なあ゙?」


 皮肉じみた心が嫌でも分かった。


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