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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
最終章
61/109

互いが進む道

 太陽に雲が覆われた涼しげな気候。

 あれから魔術師達と教員達が城に訪ねてきた。

 侵略から政策を重ね、黒魔術を見直す話や同盟の進展に寄与したという知らせをミグサやフィナから、その様に受けた上の方々からお礼がしたい。

 聞いていてそんな感じだと思う。

 莫大なお金が贈呈された。

 正確には俺の支出は白魔術界が無期限で生活に必要なものを負担してくれるというもの。

 結果復学した俺は自席でノートを開いていると、後ろからしのび寄るみたいに覗いてきた。


「おはよ!」


 アユラだった。


「おはよう」


 笑顔で言った。

 アユラはかばんを下ろして席に座ると楽しげに口を開いた。


「あんな事になっても期末試験するこの学校はさ、ある意味でタフだよね〜。ミグサ」


 賑やかな教室。

 ミグサは空席を眺め「友達から勇者の話で一杯だよ」と座った。


「業火の魔法に金色の聖剣でね! 理屈が分からない暴力からみんなを、ウチを、生きてる私を大事にしようって思い直す位に。他の悲惨さは魔術師達のとむらいの中で知ったから、みんなも無事に帰還したミグサと喋りたいんだよ」


「ああ」


 その会話や鐘が耳に入る。

 静まり始める教室はアユラの存在を強めていった。


「気になる。白と黒の同盟条約の際にフィナ女王が公言してさ、主導者が黒魔術界に侵攻したが黒魔術師の戦死は二人だったと。ウチが思うに誰かを説明している様に聞こえたし敵は無敵に感じた。つまり何らかの事情で公表出来ない戦士がいたと思うの!」


 ドアが開く。教卓に歩むヒビキ先生や薄い鼻息が混じったミグサは微笑んだ。


「理解の外側にいる戦士達だった」


「理解の、外側……幻想ってやつ⁉︎」


「ううん。綺麗な人が俺らを救った」


「救った救世主がミグサじゃん? あれウチ、何か忘れてる?」


 アユラが混乱中、黒板に日程を書き進めていたヒビキ先生がその文章に説明を始めた。

 幻想という授業が組み込まれるらしく、実践的な向上に努めていく教育の会議があった事、また期末試験の結果を渡された者から下校して貰う。

 そうして俺が呼ばれた。


「よく、頑張ったな」


 教卓で期末試験の通知表を受け取った。

 見ると全成績を振り返ることが出来る。

 いずり回る折れ線から真上に向いて学年二位と記されていた。


「ありがとうございます」


 軽いお辞儀をして自席に戻る俺は帰り支度を済ませた。

 家に帰る。

 セイドウ街を過ぎ、霧がかった渓谷の奥地にある城の門に入ると、身内とのあいさつが響く長い廊下を進んで部屋に篭る。持っているものを放り出し、机の灯りを付けて書きものを握る。

 学問に没頭して、時折り来るならず者と対し、シマの用心棒として駆け付ける日課に眠気は無かった。

 期末試験で結果を出せたのは寝ずにいられたからか、元々知っていたのか。

 学問に既視感があり、そう没入していたら部屋中に目覚まし時計が鳴り出す。

 ベッドから体を起こすヴァレンが両手を伸ばしていた。


「何してんの…」


「…今日休みで。暇潰しに部屋漁りしていたら面白くないものばかりで、眠くて、留守番してました」


 教科書をめくる。


「暇潰し、眠い、留守番?」


 茫然と口にしてると、ヴァレンは枕元の紙を摘みひらひらと泳がせた。


文献ぶんけんばかりで退屈でした、意外な一面があったんですね?」


「人の私物を漁るな」


「そう思って午前中に起きたんですよ、褒めて下さい」


「えぐい」


 俺はめくっている手を止め、流し読みしていると気付く。


「私ケーキ食べたいです、ケーキ! 連れてって下さいまし」


「私はケーキ。種別方角は陽とケーキ。魔術の紋様はケーキを通してケーキになる。へえー?」


 また文章を流し読みしていた。


「私とのお出掛けが嬉しいんですね」


「違う」


「ツンデレですか?」


「デレてない」


「恥ずかしいんですか?」


「だ、ま、れ」


 俺は机のものを整理した。他に出来る事を、ヴァレンの持っている文献を取り上げる。

 これは治癒の参考にしていたものだし、灰ごと燃やした。


「いいんですか⁉︎」


「使わないから」


 俺は服を脱いで言った。

 黒一式に着替えて正装する。

 戸を開けた俺はふと。


「この辺にそんな所あった?」


 肌けた姉ちゃんの所、その辺りですら無さそうな黒魔術界に戸惑うと「白魔術界に行きましょ」とヴァレン。

 組織の正装で行く勇気は無いけれど、勢いよく引っ張られ城の外に出ていた。

 活気なセイドウ街を進み、境界となる柵に差し掛かる。

 魔術師の重厚な管轄区域かんかつくいきに指定されているものの、現在は策定さくていされた無人の境界を渡り、白魔術界の領土に入った。


「私達を見送られた日を覚えていますか? 大隊長の横をユキと通ったんですよ。今じゃすっかり変わりましたね」


「そういえば行きは?」


「スキルです」


「そっか、ユキ君と会った日もそうだった。実はさ」


 これより前にスキルを知った話をした。

 魔王がいて、魔物や勇者がいて、立場が違えばヒーローになっていたのかなと、たわいもない話で、家族がいる事が夢みたいな日常は蝋燭に照らされる影となり、何もかも崩壊する。


「気は晴れたか、兄弟」


 城の地下にある一室。城の創設者であり背に掛かる印象的な赤髪の長身に、今日も敗れた。


「合理的に言った方がいいか。人一人に苦戦している兄弟が凛界に行き、天使の軍勢の集中砲火を浴びて死の犠牲を増やすなと、伝わってくれると助かる」


 剣が転がっていく、暗い意識の中に、分かってきたことは奥底のふういんがこの人と繋がっている。

 微かな残滓の名残りを頼りに、俺は眠りの底に落ちていった。


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