始まりは蘇る
……。
そう聞けば内なる声は途絶えた。
思えば幻聴かもしれず、その記憶も薄く。
ベールが潰え。動けば傷が広がる。何度か反撃の兆しがあり、刃を回し込んで、突いてみたり、これら綺麗に躱される。
「あぁ…」
「どうしたんだい?」
俺はメイミアを見つめた。
シュネーヴィッチェンの羽の矢を黒い翼で防御、その身には魔法陣を断切している剣を持つ。
片やシュネーヴィッチェンは魔術の処理や判断速度がメイミアを上回っており、相殺している。
その視界に女の子は緩やかに立ちはだかった。
「我を忘れ独り言すら聞こえるけど、悩みでもあるのかい?」
「…今。殺されそうな状況に悩んでる」
ぼーっと零れる。
女の子は意外そうに休まった。
「人体はボロボロだろうに体はさっきより速い、なのに心は脆い。体と心は常に一定の繋がりがあるってことを、君を観てると、越えるべき壁を越えずして得ていると実感したよ」
「逃げる意味は知っています」
「尊敬だよ、生命の道を通らずに得た君を。追い詰める程視えなくなる様だ」
体から血飛沫が上がる、斬られ折れる骨や身が。熱い。
その度に冷える。
「あたしの悩みはさ、君が応えてくれないことさ」
俺は地にくたばった。
「見せておくれ、本気を」
意識がゆらゆらする。
まるで体が水の底まで堕ちる居心地は悪い気がしなかった。
◆確か尊厳に達しここへ◆
少し記憶が曖昧だがここは静かで、そんな元に『人』がやってきた。
──見たいと──
容貌は白金髪で青年風、肌の露出から死闘の傷跡が伺える、真っ白の衣を纏った飢えている獣を。
当時はこの『人』をよくは見ていなかった。
白く錆びれた剣で斬りかかった姿勢含め。
青年の血液を蒸発した。
地獄の支配者に意思を繋げるため、戦いに飢えているなら地獄がいいと、ウトウトしながらの申請は受諾されなかった。
超強え。
奴らが脅威と見做し封印したのが分かったが、初代悪魔を相手に当面無理だ。
それに地獄に来ねえで相棒ん所に来たんだろ?
話してていいのか。
「…。」
俺は背後を取られているとも知らず、みくびっていた。
「本気が見たい」
平然と立っていた青年から冷気が吹き抜け、俺は激しい渦潮に囲まれた。
ど偉い事だった。
青年が奥底に干渉している。
そう解釈し落雷かの刃が額に振ってきた。
目覚まし時計が鳴ったみたいに、目が覚めた俺はたんこぶを摩り尽くした。
その日から隙あらば襲われる時間を過ごし、刃を研いでる青年を横目にしていた。
「戦う以外に楽しみないの?」
「強さに勝る幸せは他に知りません」
「じゃ…。他の楽しいを探しに行ってみないか?」
「追放ですか?」
「えっと、お前を放り出したら世界が滅亡しそうだ。鞘になるから俺の付き人にならないか」
「付き人とは、楽しいとは、何ですか?」
「身の回りの世話してくれ。楽しいは、自然に知れる」
「分かりました。何から始めましょう」
応えは意外と軽かった。
「まず世界を創る」
「は?」
「確か世界には天使を祀る仕来りがあるから、人が住めるまでにしたら民を呼ぶ立役者としてやって欲しい」
「て…天使…って?」
「お前さん和魁玖歌だろ?」
「何故…それを…」
「大分前に親父から聞いた事があった、強く気高い知恵の象徴って。初めの印象に惑わされたが、聞かされた能力は一致してる。それで干渉のヒントは親父の性質からきてんじゃないかって、思った。どう?」
「合っていますが、私は貴方の理想と違います。なにせ知性が低いので」
「その成長力で知性が低いとは思えない、牙を受け止める者がいなかったんだろう」
「私はそうとは言えませんでした」
「何て言われた?」
「自分の違和感に気付いたら全欲望を倅にぶつけてみろ、と。あの、その方は今…」
「死んだ」
「すいません」
「いい。俺が殺した」
「どうしてかを聞いたら不愉快、ですか?」
「王位継承権の二位だったんだが長い」
適当に促したら雰囲気が鉛の様だった。
「話は逸れたが国づくりに、天使の存在が打ってつけだ。慕う人が集まってくれるし身構えなくていい、形だけ、少数でいいんだから」
「その、私は暴君として飛躍していたので。崇める者はいないかと」
「戦い好きなら強さを誇ればいい。後の足りないもの必要なものは補おう」
「これからは国王とお呼びすれば?」
「それでいいが俺は表に出ない、国内の顔にはなるが外の長は付き人の役目にしよう」
「どういう国になるのでしょう」
「うん。人が沢山集まれば、国として繁栄しそうなら学校とか、ま未来の事は分からないが子供が笑ってるといいな」
「なんか、ワクワクしてきました!」
「決まりだ──」
──ああ。そうだった──
くたばっていた体を立ち上げ、滝を司り、波を伝って森の人々を上へ掬った。
「水。英霊齎せ、慈しみ、悦び、導け、喰らって息吹け」
水の居所を呼び覚ます。
空を登るその水は人々を更に持ち上げる。
地にいるのはワルプルギス、メイミア、シュネーヴィッチェン、そして。
「マダだよ。追い詰めた先に現れる心を魅せておくれ」
活動領域が上がる女の子。
生命力が飛躍的に向上しており、衝撃波を繰り出し俺の前へ辿り着く。




