天の使い
脆い足場に順応するメイリス先生や俊敏な動体視力は沈着なものを感じる。
互いの力量を確かめ、嫋やかな身の動き、残滓の火花が音、光、空気から響いてくる光景は眩しさを重ね、音も色も変えていった。
今、青い空の下に……いる。
対面に会頭?がいて片目無く、顔中刺青、詰問中の様に流れていた。
◆連中を殺したらどうなるか?
俺は俺の中の術式がお前を縛り、共に地獄行きだと伝える。
◆人一人の罪で命を捨てるのか?
捨てるつもりなく繰り返して欲しくないからだ。
◆こんな他所者を迎えるとは、将来性が薄い。勝手に壊れる未来でその命、俺が奪ってやる。
そうか俺の寝床は宮殿だ。いつでも…おいで……
そこで光景が戻る。
思えば今起こっている異常な力の打つかり合い、これがどうして、知ってる……。
どんな力で名も知らず、けれど身体が覚えて。
不明。 不明。
また眩む── 平衡感覚が失う── でも──
忘れそうになる無力感で、既視感はまだ。
あの詰問中に青い剣を拵える人が俺の後ろに。俺は人相の悪い者を迎えているが、その人は会頭で、後ろの人の顔は影で覆われて見えない。ただ、その先を確かに知ってる。
光景はそこで終わったが、異様に懐かしくて、意味が分からず鼓動が熱い。
目が冴える。
けどまだ。
あの宮殿から生命力を感じた人が。
忘れる。また、消え。
──ン、オン──シ──。
頭に響く、メイミアの声で思考が働かない。
煩い。あと少し、少しなんだ。
──シオン。
何だよ!
──死んで。
うるせーよ。
──死んでしまう前に。
聞けや‼︎
──私はもう邪魔はしない。これから会う事もない。だからお願い聞いて、アルタイルで生きて、偶には笑って。だってほら、貴方に惹かれる人達がこんなにいるんだよ。どうか幸せになって。
…何か企んでるとしか聞こえない。
──それでいい、この記憶は時期に失われる。でもね、これからシオンは一時的に力が増す。だからお願い、忘れるまで、大人しくしていて。
その後。俺の声に反応無く、違和感に気付いたのは暫くしてからだった。
◆戦闘中のメイミアと対話した事が漠然と流れていたが、俺の声に反応がないのは◇
それがどういう意味か、俺は大切な人を忘れていたのではないかと映す、権力者と疑う男は剣もろとも砕けて倒れた。
「唯一無二、武術の身で熾天使となった如月紬心。俺は貴女に憧れ、悲しんだ。一代で築き、生命を桜花した末路は堕天。神に叛く行いは全ての世界に失望の渦を生んでいる」
男は苦渋の眼光でうつ伏せ、首元は弱く潰える、枯れ果てる姿勢は忠誠を表した跡に尚零した。
「神を討つ、そうでなく貴女自身が成功の神として祟められる日を待っていたかった…」
「私は貴方達の御手本じゃない、けど都合は良かった。最上級の罪人にはこれでもって程に」
刃先が紅く光る。
半物質的なそれがメイミアの手元から消失した一瞬の勝利だった。
「ねね?」
「ゾク──」
悪寒に襲われる。
ミグサと翔も驚いてこちらを見ているし、示唆した方に向いたら華奢な女の子が俺の胸を触れていた。
「君にある封、解いてみようよ」
「…解く…解けるの…」
咄嗟ながら意識は思慮に向いて、あたかも肯定した俺に白装束の衣を踊らせた。
「解けますとも、なんたってあたしは凛界の使者。天使の中の天使にかかれば赤子の手を捻るよりけり〜…クス。ね怖い顔してるメイミアちゃん!」
轟音が奔る。
幾つかに響く雷の嵐、その渦中で打たれるメイミアは確かに怖かった。
天を掲げる片手には、大気圏をはみ出す紫の球体を支え暴風を生んでいる。
「気安く、触んじゃないよ‼︎」
その手から投げ飛ばす。
大地がひび割れ、汗が一瞬で乾き、みな発狂する着弾寸前「メイミアちゃんって感情に流される我慢のできない子だったっけ?」と一瞥する女の子。
まるで何かに吸われ紫の球体が破裂、残骸が焼失した。
その間目に幾何学模様が刻まれていたが「他に目新しいものがあれば、んねえシュネーヴィッチェン。得体の知れない紋様が封の奥に…」と俺を見ている。
一方でシュネーヴィッチェンと言った女の子に肌の白い人が消失。高々な音が鳴る。
目で追うと刃を受け切られており「先生、お久…」とのメイミアに「天使の箔に泥を塗った大罪の、反省は?」とシュネーヴィッチェン。
「無いよ」
「ならいい、抵抗は構わない。堕天に相応しい末裔は叩っ斬って我ら神の御前に連れ帰る」
「あたし、忙しいからそっち任せる」
「おい。神の言付けを忘れたとは」
女の子にシュネーヴィッチェン。
足場に異変を写す笑みや「あたし、この子、欲しい」と女の子が膝を越えた湖にいる。
「これは」
上半身の水気を絞りシュネーヴィッチェン、ハッとして「第七譜水鞠。なるほど、類は友を呼ぶか。真逆メイミアと並ぶ俊才がいたとはな」と至って沈着な様子。
片や人差し指に青い光を集め、指の先端に浮かぶ水の球体をバシャバシャと遊び「水鞠は、身近な素粒子を培養し、水を作る精霊独自の自然学。嵩も質も違うこの子がやっている事は水の創生だ」と女の子。
一帯は静寂になり「なんで…聞いてくれないの」と俯いたメイミアに眉を顰め「メイミア。気安くとは何の意図があった?」とシュネーヴィッチェンに「ある訳ないでしょ、全く話してくれないんだから」と憤る小声。
「解答がずれるか、ならば封は解読だ。組み込まれた紋様から生命系統の特定、出て来た者全てに追って使わす。おい?」
「あたしの人生で水使いと対峙すること、叡智にもこの先得られない。砂漠の中の原石をさ、シュネーヴィッチェン。誰に取られたいって言うのさ」
「貢献出来る可能性がある」
「命令は守るさ。けど、メイミアちゃんを引き取る我々にこの子は阻もうとしている。見ていこう」
「私も同罪になるんだが?」
女の子から「その時は守るから、邪魔。しないで」と全く魔力を感じないが、宿いていない訳ではない。
そう判断した俺は女の子に対面した。
渡り合えるめどはないが「一先ず俺の後ろに」とみなに伝える。
やけに五感が澄むし、それが勇気になって今までに無い感受性が働く。
「身の程はわきまえて、なければ、卵を割る様に終わってしまう」
髪が靡いた女の子から空弾が聞こえた。
伐採の残骸が空に打ち上げられ、半壊した森が後ろに、本人にまで飛ぶ樹木は空気の刃で粉砕し頬を吊り上げた。
「絶対防御。天才の域を超えてるよ」
全身を丸く包む水が空弾から俺らを守っていた。同時に身体は乗っ取られていた。
「それで娘よ。ほのぼの日向ぼっこしてる世に期待したいのだが砂漠の原石とはいかようか? いつから退屈していた老後に夜な夜な姉弟から襲撃され、一体何の魅力があるか分からなかった」
意思に反した発言や溢れる魔力で煽っている。
相手の出方を伺っているのか。
俺…乗っ取られて…歩いてる。
痛覚普通にあるんですけど。
おい…俺の体を気に掛けろよ!
あっ…あ”あ”。
青い魔力が女の子と接触しアルタイルが、激震した。




