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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
六章 過去って
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ゆらりゆらり

 それは敵軍を連れての帰還。

 いっぱいいる。


「むりむりムリ人一人でどうこうの人数じゃねえだろこれ‼︎」


「………クスっ」


「待っていたぞ幻想げんそうども」


 ミグサを追い掛ける敵軍が止まり、それはメイミアとワルプルギスをミグサが過ぎる頃合いに男の声が響いた。


「機は熟す。接触を避ける領土から西の方角を写していた。戻りたまえ諸君。我々の勝利は目の前にある。さあ我らの白魔術界へ」


 文言の様な指揮に散開し「相変わらず圧倒する人相達。しかも粛清対象の塊だらけ、なお招かれざる人もいるみたいで、これって悪い世界へ行く王道よ。そう思わないシオン君」とファラドーナ エレンティーン メイリス。依然指揮をとった男の横にいる後方に、肌の白い人がいる。

 白い髪に。白い目で視ているもの、その存在が俺を写している。


「そうだね」


「ひど‼︎」


 後ろから叫ばれる。

 特に意味のない相槌だったが、未だ目が合う肌の白い人に既視感があった。

 見れば見る程、敵の勢力というには熱のない眼で俺を視ている。

 妙に気になる。

 千の軍勢はメイミアとワルプルギス、この二人に侵攻を止め、指揮をとった男も、メイリス先生も会話で意思表示する位に注視している。

 なのに、あの人は?


 『おきて』


 頭にそう響いて、思わず眼を背けていた。


 五感が震えて実感し出す。


 一瞬で天敵に遭遇したかの怯えを体感した。


 怖い。


 本能の拒絶反応みたいに。


 こんなの今までにない。


 何で。ああそうだ、勘違いさせてしまったミグサに全然聞いてなかった相槌だと紛らわそう。

 そう思い逸らす視界にワルプルギスが映る。


「正義とはルールの建前にある、小僧。事実から背ける愚者に惑わされるな、前を見ろ。強い者ほど前提が違う、この覇者が手本を見せてやろう!」


 漆黒の霧掛かった姿が先陣を桜花する。更に越えて振り返ると腰から着地する翔。

 大胆に落ちていった、過呼吸となる身体が瞳孔を奪われている。

 急いで視覚を遮ってベールで包んでいった。


「直ぐに終わらす」


 思えば翔を連れて来たのは俺。

 どうかしていた。

 そう覚悟を決め「奥の女が可笑しい、廃虚にいた…後ろにいた奴なんだ。兄貴!」と気迫で治す翔。


「あの女の傍に行かせるな」


「あの女がどう、した?」


 俺を匿う翔に混乱のミグサ。

 一方その会話に思い出す。

 学校の門で翔を待っていた時だった。

 既視感が逆さの女性らしき人だったと遡れる事と。


「あの女は俺らが揉めた廃虚に現れた。その時に兄貴は居ない、もっと言えば俺と友達がシオンと別れようとした時に、シオンの背後に居たのがあの女だ」


 翔の説明にまた。


 震える。


 行きたくねえ。


 クソ。


 翔とミグサの背に暖かさを感じる。

 情けねえ。

 今まで亡くなった家族達もこれを望んでいたのか。

 今更こんなに怖いだなんて知らず、こんな学び方ってあんのかよ。

 辛いし動けねえし、視界がぼやけていたら、黒と白の翼がふわっと過ぎていった。



 ゆらりゆらり。ゆらゆらりと。


「極楽浄土 (しめ)の遊びは神殺し、鬼門の解放は招きの地獄。舞い散るまで、最後の遊びごとを狂うまで」


 空を、日食の風情をもって、月の光は妖麗の黒に変わった。


(ゆいじめ)死紋の一舞 極楽浄土」


 俺は新鮮な視界が映し出された。

 黒い翼と白い絢爛な翼。更にメイミアの背中に彫りものの発現。

 ワルプルギスに並び、その死紋は赤く迸る。

 それが脳裏に一瞬、ある人が写し出された。

 そこで眩んだ。血の巡りが萎縮し渋滞する、光で溢れる繊細な視覚に、それが、刻一刻と入る情報が干渉不可能と諭される。

 ただ意識を保つ事に、経緯の発端に耳を傾けながら視点を合わせた。


「魂を喰らう獣の後輩ども。魔人の血を引くなら頭蓋を砕き、倒してゆくのよ」


「可愛いって言えば?」


「抜かすな。此奴こやつらはまこといしずえに達していない。のちの地獄には程遠いひよっこよ。そうフォールオルドに言ったはいいが、今頃契約が失われ白骨かも知れぬ。所詮今の黒魔術界はその程度だ。底知れぬ悪ばかりが集いいじめられているならマシだ。分かるだろう?」


「償う場だもの、けど善っていうのは勝者がそういう仕組みし、みなが賛同しているくだらない同調でしょ」


「ああ、意味を作ったのが生命ならば人生に善や悪など元々ないのだ。だがメイミア。お前と俺の違いは軋轢を呼ぶ。古参にしてみれば俺もまだまだだが、地獄には六つの墓石があるのよ。お前が継承したのは内の一つ、その先に十羅刹女じゅうらせつにょが鎮座している。俺自身信仰している以上、此奴らは俺の子孫だ。ならばここに立つ通りがある。だがお前は何故立つ?」


「貴方みたいな大層な言葉はない」


「元々言葉に重いも軽いもないが?」


「さあね。好きを追い掛けているからかな。けど、もう私だけの意志じゃないの。死んでも渡したくないの」


「野暮だったか?」


「別にいい。興味ないでしょ」


「いいや、闘う誇りは生命力に触れられる。さて」


 仁王立ち、この最前に敵が出方を伺っている。

 味方と言っていいのか、この二人は偉く愉しげにいて。白い一張羅を脱ぎ捨てる男が、恐らく先程の指揮含め軍を従える権力者か。

 この中で唯一力を感知できるワルプルギスからは、波の様に、激しく、騒いでいる。

 勢力は大きく二つ、なのに三竦みに見える戦況は動いた方が不利。

 また「動いたら、いけない」と大多数を引かせるフィナ。

 そこで火蓋を切るのは。

 漆黒の剣を顕現し、空間を歪ませ、その空間を繋ぎメイリス先生の背後をとる。


幻想位ごじげんでただ一人、転移を許された者よ。一度は殺してみたかった」


 斬りかかるワルプルギス。


「良かった。お不良さんは相性がいいの、妾」


「なら安心よ、頑丈な頭蓋で無くては骨も残らぬ」


 「よい幕開けだ」と上機嫌の一振り。

 その軌道はメイリス先生に変えられ、地に流れる。

 ワルプルギスの刃は静寂に、地を腐敗した。

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