帰還
視界が変わった。
落下無し、水辺でない、アルタイルの上空。
異常な魔力の濃度や裂けた地表、建物は焼け焦げ山々が燃える。
目に幾何学紋様を起こす俺は多くの生命が写る北の方角から非難の人々と読みとり、西に自身の象徴を感じた。
「俺先に行く、ゆっくり来て」
幾何学紋様から魔力に切り変え、最速でこの場を抜けた。
◆◆◆
白魔術界魔術王族護衛隊師、通称魔術師。名の通り大層な塔がある南に大隊長達が集中し、東に魔術学校。
感知する紛争は三つ。南の大隊長達と東の魔術学生並びに魔術教員の衝突。
そして西の黒魔術界奥地。
それは白の同盟申し出から部隊が絶命になり「お前ら…黒魔術界の連中は揃いも揃って…敵に加担するつもりか」とミグサ。
「いいや違う、お前の象徴が気に食わねえだけだ」
燃える雑草に倒れている魔術師達。
負傷は法則崩れの痕跡、刃物による傷で赤い飛沫が軽症と錯覚する抗争跡。
陰の魔力が傷痕を膨張し空気に湧き出す者達に息はない。
部隊を殲滅させたリーダーである男は中指で耳たぶを突き、木の根元で野垂れるミグサを睨む。
浅い息で、青い羽根のピアスから魔力を採取し「しんぼる…これは親友からの…貰い物だ」と生命維持を続けた。
「親友。そうか親友か、ならその親友とやらの居場所も知ってるだろう」
リーダーの男が吹き出す間に、配下二名がミグサの両腕を樹木に貼り付ける。
「態々生き残した後始末を続ける、ソイツの居場所を吐け」
ミグサの肩に刃を突き向け、数える様にそれら関節を「一つ一つ」と口にして、嗜虐な笑み。
片やミグサの表情は疑問。
「そうか、魔術師大隊には教育が施されていないか。手短の紹介なら人柱。あの方の弟子だった。師から教わったのは必ず殺れ。酷く。反骨の完膚なきまで。尋問で俺の右に出る者は居ない、四肢を削ぎ落として活かすなどと言われているが、生命力から死の損傷限界まで手に取って分かる。新参でも聞いた事あるだろう、遭遇すれば」
死ぬ。
今遭遇している男は悪の権化。
名はフォールオルド。
粛清対象の第一位が、王だったとは。
「終わっ…てる」
顔を覗かれ血の気が引く、負傷の後遺症もあり。
無防備に裂かれる。
肉を、腕を、足を、結末が駆け巡る。
そう想像し──しかし、首に力を入れ意地の悪い顔を上げた。
「言わねえよ」
唾を吐く言動、また最後の力を見せつけた結末が下る。
「お前の様な奴には(時間の)無駄か」
同時、奇声が響く。
腹の肉を刺し曲げる剣を引き抜くと、滝の様な汗が滴る。
「喋れば惨い逝き方をしなくて済む、だか余りに耐えられるとこっちの気が狂っちまう。そうだろ?」
娯楽。
黒魔術界では見慣れたものであって、拷問ではなく。
笑いが起こる総勢に食いしばり、それが清々しく、赤く塗れた口で言葉を返す。
「ああ…みっともねえんだ、敵であろうと命を奪ったら、その繋がりの誰かが傷付いちまう。誰かが死ぬとすれば、俺でいい」
──笑止した。この場で最も慣れていたフォールオルドさえ、寒気に襲われる。
一頻り背けながら。
「興ざめだ。ソイツはお前を親友と思っていない。弄ばれてるんだよ…」
全てが無駄だと悟り、仮に聞き出した所で嘘を付かれる。
直ぐにでも始末つもりで、象徴を奪おうとした。
「騙され恐怖し苦しむ寿命が伸びた。悪運も尽きる。今更黒魔術界の力を欲し自滅していく? 自業自得だ。法則崩れを規制し罪人とする白魔術界の王に首を返却してやろう……は?」
ミグサを拘束する一人に腕を抑えられるフォールオルド。
視界には左耳に銀の十字架と紅い羽根が光っていた。
「よく分かんないが、この人を助ければあの時の恩を返せるかもしれない」
不安な声。
対してフォールオルドの顔を押し出してもう一人。
「は? 私のでしょどう考えても! 何で先輩の象徴付けてんのよ。誰の許可を得てんのよ!」
その矛先はミグサに向いていた。
「ウルメスドに…シェス…配下の奴らは…」
「獲物の前で背けるアホに説明する筋合いないわ」
「この非常事態で動いてる輩の情報収集をしていたら、この人の象徴が、会頭から聞いたあの人の象徴と一致してるから背けた時に拘束してる二人となりすました」
一連の意図をユキが説明した瞬時、大地が響く。
「俺らの領分で邪魔した狼藉の、抗争の覚悟は出来ているんだろうな…」
ミグサを匿い身を引くユキ、人柱に歯向かうは死を招く黒魔術界の通例を予期しており、組織内では御法度だが遠に空も侵食し尽くす飽和領域に付け入る魔力なく。
フォールオルドは企む。敵対勢力を晒し上げる機会だと。黒魔術界の人間に納得のいく素晴らしい動機が仕上がり現状のアルタイルなどどうでもよいのだ。
あの最強の、あの方が仰った魔人の実現。これに最も近いのは我々だ。本当の最強こそ、あの方に仕えて来た俺が知っている。
フォールオルドに迷いはなかった。
支配下の前で身体能力の向上など不可能、真っ先に捉える鋒がミグサにいき、抑えられる者は居なかった。
だが、真髄に刻まれた声が、この行動の抑止を持っていた。
「よ。フォールオルド」
木陰から明かりが照らされる中で、その歩みが四人の元へ向かう。
「俺の身内に何の用だ…」
間一髪。ミグサ達に炎の壁を司り、距離をとり計らうフォールオルド。
見よう見真似でヒビキ先生の魔法を黒魔術で再現した。
親友の元に辿り着いた俺は笑みを込め。
象徴の使い方が違うと伝える。




