誤算
意識が薄れる中に思い出が溢れた。
黒魔術界でいっぱい戦い、その度に友達ができた。
楽しかったな。
ヴァレンと会うのはそれからで、悪戯ばかりされたけど遊びたかったのか?
いや致命的な記憶あるし違うか。
当時は最悪だが思い出すと面白いな。
最悪ついでにヒビキ先生は何故あんなに強かったんだろう?
まあ負けたから学校のみんなと出会えたしいっか。
魔王城にも行ったし自分が認知されてたなんて考えもしなかったしあれから変わった。
心身が光を受け入れる様になれた。
そんな変わり目で家族と再会したり、先生とメイミアの衝突はおっかなかった。
そうしてこの世界に辿り着いて、やっぱり引っ掛かる。
弟は魔力を宿し兄が、死んだ要因について。
確か深海で一幕の殺人鬼が刺したと言っていた。
どうやって?
翔は確かに魔力を宿していた、魔力を宿した人がどういう風に、刺される?
死の淵で魔力が現れるし充分な戦力があったにも関わらず。
確か七次元という敵に対して〝斬られるところだった〟と言っていた──シイナは序列という力関係で〝勝てない〟と言っていた。
この矛盾は何?
ミグサはあの時。
◇敵に背を向けていた。
◆ベールが無ければ?
◇あの時、影は確かに倒れていた。
◆その後の影を処理したのは誰?
◆ミグサには倒す意思が無かった?
◆森林でも俺に勝ちを譲った様に?
◆大隊長として今も?
ヤバイ完全に目が冴えた。
「ここで留まっていたら…けど…この魔力をどう」
支配し返す?
思えば意識がまだある。
なら俺を活かしてる人がいる事に。
誰が何で?
いや取り戻す方法を考えなければ。
確か。
◆兄弟!◆
あの時に。
◆できる直感を信じろ!◆
俺は無謀と応えた。
難し過ぎてやってみろって。
◆そんな高次元な魔力俺じゃ喰われちまう。頑張れ!◆
あれからどうしたっけ。
そもそも支配したっけ。
◆やるか兄弟?◆
何回か挑戦し諦めた様な。
そう、自然に出せるからって辞めたんだ。
んで今である。
白魔術界で黒い魔力が出たのはヴァレンとユキ君、いや大隊長が魔術師達を率いていて、少し沸いた。
逃げた後にも実感あったが青い魔力だったし、んー。
ハイライトのお陰で助かって、その前に湧いていた理由。
幼少期は自然に出せて、大隊長と繋がるもの。
危険。
あの時二人を逃すのに危険で、治安が悪くて有名な黒魔術界も危険だった。
じゃあ、翻弄されてるんだ。
黒魔術界の最強を斬ったあの頃は、純粋に、近寄る者は畏縮し、向う者を征服し、怖れる事はなかった。
あの頃の力はここにあり、それをもう一度ものにしたら軽蔑されてしまう。ミグサは悪が嫌いらしい。
分かったよ。
ちゃんと伝える。
──もう一度、力を貸せ──
故郷に仇なす敵が誰であれ、同じ悪人。
強い奴が生き残る大義名分だ。
乱入してやろう。
そう思い周囲の黒を体に取り込み、我に返った目を開ける。
身を起こし「随分長い眠りにいたね、久々に荒れた気分はどうでしたか」と微笑むメイミアからそう聞こえ、変な言葉遣いに目が入ったが、どうやらメイミアの実家で眠っていた俺は横になっていた翔に意識が飛ぶ。
「翔君は極度の力に当てられただけ。三日経つけどいずれ目を覚ますから」
「…そう、起きたら謝らなきゃ三日⁉︎」
心臓が飛び出しそうだった俺は「どうした‼︎」と飛び起きる翔にガン見され「どう…おはよう?」と平常心を装う。
それが不服を生んだ。
翔は「行くのか」と儚い一面から「兄貴は。根は優しい奴なんだ。助けてやってくれ」と笑う。
俺は応えられなかった。
三日という時がどれだけの事か、静まっていたが「翔君も魔術の世界に行く? 今戦争中だし盛り上がってるよ」と軽すぎるメイミア…。
危ねえし…。
俺はメイミアに言い掛けて止まった。
軽いや危ないは俺らの方で「すっごい治安悪いけど来る?」と紡いでいた。
倫理的に終わってるが「その…邪魔じゃないだろうか。魔術の世界っていうのは…メイミアさんのいう戦争中だと」と一瞬の輝きを表情に浮かべ畏まる翔。
その姿勢が悪魔に火を付けた。
翔の顔前で鼻から上を黒い影で覆い「腕の一、二本飛ぶ覚悟はしてね?」と、吉凶な雰囲気に身震いする翔、その悪戯が度を越え始め、満悦なメイミアと蒼白の翔に「幸せな方選びなよ」と伝える。
死ぬ可能性も。
その上で環境が変わるならと、俺と全く同じ理由で同意を経た。
俺らは光に照らされ──この世界から消失した。




