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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
六章 過去って
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灯火へ

 横になっていたら部屋の扉が開いた。


「レナさんの治療が終わりました」


 銀の十字架(ピアス)が光る白衣姿の青年。

 先程の女性であるレナの治療報告や「お見舞いはされないのですか」と聞かれるが治療術を身に付ける彼が終わったというなら心配はなかった。

 しかし「心の傷があるんです、せめてお顔を拝見できれば、癒えると思い」と、不安そうな姿が映る。

 俺はどんな効果が?と待ち兼ねるが喋ってくれる気配はなく、日が暮れ、白いベッドで点滴中の彼女に紅い果実を放り投げたら「君は優しいのか、冷たいんだか」と、傷が癒えている肌が清楚に映った。


「強いのに…ううん、そういう人が強くなる資質か」


 俺は椅子に座り寄り添う。

 きっと独り言だが彼女は観測者の様な一面があり博識。

 また組織の中でもそう親しまれ、そんな人に「強くなりたいの?」と拾えば「君みたいになりたいから同じ所属にいるの」と聞き「弟子入りしたらいいのに」と呟いていたらその鼻が触れるまでに近い。


「君に?」


「強い人は幾らでもいるでしょ」


「また誑かす」


「俺教え方知らないし」


「君が盗んだんだから君に教わりたい」


「レナが食物の在処ありかを教えるから盗んでって言ってたじゃん」


「初めて会ったの覚えてるんだ?」


 俺は鎖に繋がれた彼女が脳裏に過ぎる。

 もどかしく距離感を保つと「意外だな! 君は過去に無関心だと思ってたよ」と朗らかに笑う眩しさがあり「会頭はほとんど居ないから知り合い紹介する…それまでに傷は癒やしておいて」と戸を閉め「君がいい」と聞こえる。

 俺はロウソクの火が揺れる暗がりを進み「意味不明」と呟いていた。

 それが、いつからか。

 戻れるなら教えてあげたかったとずっと思う。

 そうやって実感した日々は四六時中寝ていた。

 夢に見る時が合ったから。

 そこにいるみたいに記憶を起こしていた日々に魔力は消えかけていた。

 過去は二度とやって来ないし、大切にしたって遠のく。

 なのにあの時の様な居場所はもうない事に涙が溢れ「大丈夫か」と聞こえ「ああ。来てたんだ!」と笑顔でいると「何があった…嫌な事でもあったか…幾らでも聞いてやるぞ!」と翔はそこにいた。


「ううん、今日はどうした?」


「え…いや、この前のさ。学校見学したんだけど、明日医学を体験するんだよ」


「入学、決めたんだ」


 聞くと親父に反対され、それも相談しに行くつもりらしく。「「なあ」」と重なって息詰まった様子を待っていた。


「シオンもどこかに行く、のか?」


 俺は上目遣いの翔に「居なくなったら、嫌?」と零れる。

 部屋に「当たり前だ‼︎」と通い「なら、脳手術は多くの人と思考共有する仕組みらしいよ。何より人を支配する事も出来る」と文献を思い返す。

 翔は「そう、だったのか。けど学費免除のチャンスは家から離れる唯一の機会で逃したくないんだ」と本音を感じ「それは記憶を失う覚悟があるって事だ」と紡ぐ。

 翔は「シオンも行こう」と体を揺さぶってくる。

 俺が「ごめん」と応えれば「だよな…」と旋毛が映る。

 ほどける様に手が滑り、唯一の原動力が止まった様に。

 でも備えていたしあの日の教訓があった。


「だからさ。ネット回線に対抗する術を見たし考えた。賢さより才能が上って実証しようぜ!」


「才能って…俺にあるのか?」


「あるよ。俺と同じ方角で首席の血筋なら確実に」


 それはネットに干渉する仕組みや膨大な魔力量を必要とするが、俺が鍛える。

 もし悪い様になっても対抗できるなら本人次第。

 それに友達として尊重したかったから。


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