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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
六章 過去って
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遅咲き

 帰りは土砂降りで、シイナとミグサはアルタイルに、翔と部長は先に帰っていたそうで、浴室の音がする中メモの感触がなくなる。


◇◇◇


 朝方翔の家に向かうと、玄関の手入れをする家人が箒を落した。


「お疲れ様です‼︎」


「はい!」


「深く感謝しておりました」


「い、いえこちらこそ。食べ物美味しかったですよ!」


 混乱して使う言葉を間違え「朝が早いと伺っております、少々お待ちください」と誤解を生む。


「いえ今日は個人的に、先日ここに居た白い服の男、そこの事務所を知りたくて来ました」


「…あの男の。事務?」


 渇いた声。額にシワが寄る家人。


「差し支えなければ要件を確認したい」


 一瞬と描く闘争の顔に「要件」と聞き返した。

 勤しむ様に「抗争が勃発する可能性に、家としてはそれ相応の準備といいますか、親父に報告を想定する。そういう御話と承りますが、如何なさりますか」と体を広げ、醒める様な圧倒感に翔がいう流れる血が違うを、眼前に映し込む。


「深海の場所は覚えてるし渡り合えると思います」


「仮として、実力行使に出て来たら。どうおつもりで?」


「どうも致しません」


「何故?」


「俺は何もかも知らなさ過ぎています、だから戦わず…知恵を得る為に行きたいんです」


 曇天の地が暗がる。

 瞬きを挟み「直ぐに、お待ちなさって」と玄関に取り動く家人から、紙と現金を貰った俺は精一杯御辞儀した。

 電車に乗る。

 改札口からバスに乗り換えるらしく、けれど詳しく書かれた紙のお陰で迷いはしなかった。

 品性の敷居が軒並み揃う目印に到着し、黒い鉄格子を飛び越える。


「止まれ‼︎」


 上り坂となっている道中でトランシーバーを仕舞う男。

 「近所の子じゃないな」と不法侵入の問答を受ける俺は「インターホン無いから、いっぱい考えて、よじ登るしかなかった」と連行されながら頂上に着く。

 自然生えに白い屋敷。扉を男が叩くとギブスする大男が出る。

 「素性を」と引き渡されて大男は叫び上げた。


「どうした⁉︎」


「俺を殺し掛けた張本人だ」


「…殺し?」


「あの人を…ボスを…ファミリーを呼ん…しん、し…」


「ただの不法侵入だぞ、誰も呼ぶ必要がない。しっかりしん、かい?」


 男に暗い影が充満。

 しばらくして「君は今年のコロシアム出場者かい?」と聞かれ「うん」と応えると俺の髪に触れ「青い」と呟き、頭を撫でる男。


「いや綺麗だッ! 美しい容姿で全く羨ましいな」


「それで?」


「ボスはこの天辺の部屋だ、行って来るといい」


 許可が降りた。

 しかし入口から複数の階段があり、複雑な構造をしているし。


「情熱的に絡んで来て今更突き離せる訳無くね?」


「何が言いたい?」


「案内して!」


「ダメだ私は…忙しいんだ! これから本拠地で凄い重要な対談と凄い取引がある。偉い者にしか出来ない凄い仕事なんだぞ、そこの男に案内させれば良かろう」


 凄いを三回言って歩き出す男は、ハンカチを片手に「いやあ忙しい」と同じ場所を蹴り上げている。

 袖を摘んでいた俺は、泡を吹く一幕の殺人鬼に指を差した。


「ああなりたい?」


「良かろう、君の接客を私奴が務める!」


 俺はいい声でニコッと笑う案内人が出来た。

 敷居を跨ぐ。

 溜息の中に左手奥、灯りで大理石の艶がある階段、天井を蛇の様に開けて続いている。これを上っていると鐘の音が聞こえてくる。

 何度目かの天井を越え、無空間となる階で巨大な音と遭遇した。


「お客様、当階は爆音につき鼓膜が破れます。御注意下さい」


 乱反射のガラス張りで大時計のぶら下がった針が、巨大な音を立てている。

 またそれしか無い階のようで、脳が震え出す環境に両手が塞がっていると、ピタリと止まる男が朗らかな顔を突き出し。


「次で最上階ですお客様」


 徐々に静まる。

 天井を越えて一直線の廊下に着くと左右の突き当たりを窓で仕切った最上階。

 目の前は幾何学紋様が彫刻されたドアがあり、背後から言葉が贈られる。


「私は多くのリピーターに支持されますが、君の指名は二度と受け付けませんので悪しからず」


 皮肉まみれに御辞儀していた男が闇に溶けていった。

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