凛として花返す
翔を盾に覗く部長。
ミグサは代表者を背負い「観たもの感じたものは大体合ってたぞ」と、身内ならではの言葉は嘆息に変わる。
「ところでこれは何だ」
「喧嘩だろ」
「何故こうなってる?」
「観たままがいいんだろ」
「そうなんだが誰が止めるんだ…」
光景は斬撃で崩壊する病院や「悪いのはシオン様でしょ‼︎」と嘆く状態。
シイナは空気を振動させていた。
俺が着地する凡ゆる所が暴風の様に作用しており、思えば深海で見た空気の壁、よりも高度な現象を実感する。
◆本当に何こいつ◆
思い返す。
出会ってからのやり取りに弱点を、振り返る程腑が煮え繰り返る。
「ぶっ殺す」
着地すると体が吹き飛ぶが感覚は掴んでいた。
利用してやる。
伸ばす腕から剣がシイナに届く距離の測定。
体が吹き飛ぶなら振る必要なし。
着地し狙った。
腕を伸ばした剣が確実に捉えていく軌道。
なのに空気の壁を創るシイナは完封し赤らめる。
「ああっ良いです、もっと! 殺したい気持ちをぶつけるシオン様最高です!」
「ムカつくんだよクソが‼︎」
軟禁、拷問など全ての知恵を用いて息の根を止めてやる。
そう思えば痛み屈辱が反骨心へ変わる。兎に角絶対殺す‼︎‼︎
また「メイミアさんがいる、俺が呼ぶ」と遠い目の翔に「私も嫌…」と、既にメイミアと和樹が隣で眺めていたが和樹は代表者を引き取っていた。
メイミアへ「どうする?」と相談するミグサは「脱いで」と言われる。
「ぬッ?」
「黒魔術の後遺症治さないとああなるよ? 傷は心身を蝕むし法則崩れと渡り合うなら治癒術が必須だよ」
ミグサは囮に使われるんだと思ったらしく、上半身を晒し「頼む」と続けた。
「治癒ならアユラって事か」
その治療は白い光に包まれ抉れた肉を再生する。
翔は目の色を変えその事へ問い質すが知らなくていいと貫くミグサ。
ただ、終わらない言い合いは部長が姿を出す事で静まっていった。
「姉を知っている人、ですよね。貴方は何者なんです…か」
上目遣いから声が小さくなる。
ミグサは「すまない」と伝えるが窮地に追いやったかの静寂が訪れた。
大勢は居なくなっていたし、俺が剣を刺す寸前に「私は! 姉の行方を知りたくて、探す手掛かりは潰えてしまいました。でも確かに見たんです、空間の歪みが…ワームホールっていう所まで。そして姉の最後の目撃情報はここです、でも覚悟がなかったんです」と大声が支配していた。
しかし枯れた様に地を仰いでいると、メイミアとミグサは顔を合わせ、末に口を開けた。
「新堂奏なら知ってる、その人なら弟の面倒を見てくれているよ」
そう言って治療は終わる。
服を着ていくミグサに「今奏は、幸せでしょうか」と仏の様な眼差しがあった。
「それは本人しか、でもシオンと喫茶店にいる時は楽しそうだった、な?」
唐突に振られた。
けど意識して聞いていた俺は「楽しかったよ。てか仕草っていうのかな、部長と似てるなーって、そうそうこの前日本刀くれて助かったんだ!」と色々話した。
学校が一緒で同じ組、お姉さんから話し掛けてくれた事や行事関連も結構一緒だった。
よくイジられていたが、賭けや喫茶店で遊んだ仲だし怒られた事も、あと隣の席だったとか他にもあればいいのだが、一年から一緒だったし、途中から入学したから意味合いが違う気がして悩む。
一年の魔力順位が一位なのは、話が長くなりそうで、この世界と共通する成績が二位だった話題とか、でも間違って俺が聞かれたらビリだし困る。
この際思い出すものを一人でに喋っていたら、部長は腰を落とした。
「よかった」と聞こえる。
「会った時伝えるよ。名前は?」
「秋名です、新堂秋名」
俺は覚えた。
けど記憶に定着はさせはしない。
こういうのは忘れない体質である。
片や木々が揺れ出す風は銀の髪を靡かせていた。
突っ伏す人に目をやり過ごして。
──何のつもり──
口の動きがそう言ってる様に思えて、儚げな視界にミグサが入る。
「話をしたいんだ。ついて来てくれないか?」
いいよと応えた。
メイミア達を横目に森林の奥へ行き着く。
「シオンには興味ないかもしれないが、アルタイルの事で知っておいて欲しい事がある」
俺はやや不安を抱いた。
そのらしくない前置きが紡がれるまで。
「実はシオン達が休学してから魔術師達、特に大隊長の隊位達が次々負傷し、内半数が瀕死に追いやられている」
知らぬ間の災害。
白魔術界の秩序が危機に追い込まれているそうで、不安とはかけ離れていた。
「新しい革命家?」
軽く受け返した。
というのも珍しい事ではなかった。
多分犯罪者の主導、大犯罪者の発生源を備える側として。
抑止の失敗。
敵の上等奇術にし数奇な末路の行く末は革命となる。
そんな成功例は一つのみ、最もその成功を遂げたのが魔術師で、昔は魔人と詠う者がアルタイルを仕切っていたのは有名で。
ただ主導権が変わるのは珍しくなく。
例えば王を討ち取り、国の仕組みは維持され在り方や支配権が変わるなんて黒魔術界じゃ平々凡々良くあると聞く。
そんな風に考えていた俺は次の発言に逆転された。
「まだ公表はしていない、だが問題はそこじゃない。半数を瀕死に追いやったのはただ〝一人〟の行動らしく」
〝異界の者〟
それは魔術学校まで認知しているらしく、一般の公表は半数の負傷と明かし「目的不明。だが無差別でも無く戦力の高い者を徹底的に殺傷している。そこで新たな案が施策された」と、余程の覚悟か姿勢を正し「今夜零時、魔術師は新たな適任を設け、魔術師大隊とし俺が選ばれる。それで一つ、副隊を選ぶ権利を獲得したんだが。魔術師の称号を保持するシオンになって欲しい」と頭を下げるミグサ。
しかしヴァレン、ユキ君の衝動で魔術師の称号が剥奪しているのは明白であり。
「嫌、故郷がどうなろうがどうでもいい」
「ああ、そういうと思ってた。悪い、予期はしていたが、こういう言い方しか出来なくて」
非情に発した俺に伏せ続け、俺は顔を見て屈んだ。
「大隊長ってさ、確か強かった覚えがある」
「戦った事あるのか⁉︎」
「ある。あ…大隊長下の隊員と渡り合う事が、魔術師の称号を得る条件だったか…」
「ああ…それは知ってるが。大隊長は力の格差が違う筈じゃ」
暗然の空気に誘ってしまった。
やっぱりその場凌ぎの思い付きじゃ軽率で、それでも「現大隊長が瀕死になる、それを聞いてミグサに魔術師大隊になって欲しくないのは…信じて欲しい」と紡いだ自分が心底、臆病者だと痛感した。




