記憶の供給
道なき道を行く夜景から閃光が奔ってからというもの。
前夜の鬱憤が晴れて、いつしか日の出が昇る。
帰って来た俺らはリビングで余韻を楽しむ早朝六時、俺は有意義だったが翔は蒼白していた。
それはTVという、ニュース速報として取り上げられてる〝深夜に幾何学模様から爆破、犯人は少女と少年〟まるで創作上の魔法を監視カメラが抑える、そう大々的なタイトルで報道しているという。
「人生、終わった…」
そんな翔や起床したメイミアがクッションに座り、暗くなる目元でTVを見るなり〝銀行を襲った犯人は以前行方不明であり、近隣捜索に徹底している〟と、音がここで途絶え画面に視線が反射していた。
「二人で何してたの、主にシオン」
通常以上の笑みになるメイミアは目だけ笑っていない。
パジャマ姿がどす黒い靄で品を下げている幾分上等な魔術師の尋問の方が、マシな雰囲気になっており「知らない」と呟くが翔の溜息やメイミアの吐息に埋もれ。
「私としたことが、風邪治さないと…」
手の甲を額に当て寝室へ戻っていった節目に、ゆらゆらと立ち上がるゾンビみたいな翔と入れ替わり、襟首を掴まれ、今までに脳が感じたこともない上下運動を繰り返す。
「なんでだよ、腹減ってんなら言えばいいだろ。わざわざATM破壊してまでやるこっちゃねえだろしかも、硬貨一枚。たかが五百円で最大犯罪かよ!」
「まさか、この世界がそれ程の罪になるなんて、ごめ…うぷっ…」
その後二時間に渡り意識が遠のいていった。
◇◇◇
細長い木の枝や小花の道を歩き、あれから復帰を果たして家までの送迎中、歩行者の眼差しを受けていた俺は背中に衝突された。
「前見ないと危ないよ」
「後ろが怖えんだよ! つーかなんで平気な顔していられんだよ!」
平気、というか追い掛け回されずSNSという翔のスマートフォンにはパワースポットとして現場を記念撮影しているという謎の人気を獲得していた。
「これで、今日で夏休みなんだっけ。帰りは迎えに来るから挙動不審にならない様に、じゃあね」
「おい待て、午前授業だからな? すぐ終わるんだぞ、ちゃんと覚えてるよな…!」
覚えてるが、振り向いて応える視界に白衣を着飾る三人の大人に意識を奪われた。
翔の背後に立つ視線と合い「お初に御機嫌よう、唐突だけど君たちに話があります。来て、くれますよね」と涙袋が印象的な女性が短髪の男性二人を引き連れている。
俗にいう魔術師でいう所の警察官ではなさそうで。
「嫌です、知らない大人に付いていくなって誰かさんに言われたし友達も忙しいですから」
「そうですか、深夜の事件は…君たちだと踏んで来たんですが。そうですか、なら仕方がないですね。こちら側は警察に情報を提供することとしましょうか、在学の学校名は双葉第七中の」
「あああああああああああああああああああ」
気持ち片耳くらいの感覚で聞いていた話に、発狂した翔をいい顔で眺める女性と男性二人の黙祷に「話…だけなら…」と、魂が抜けそうな俺を満足そうに頷く女性から「では」と名刺を受けて、男性二人は翔に名刺を渡していた。
三人の背に付いていく中「名刺…見たか?」との囁きに「何を?」と聞くと崩れ文字の学校名を指し「ここ国内最難関校だよ。偏差値を公表しないけど、在学の頭脳指数が測定不能って言われてる秀峰のところ」と翔。
「なにそれ、頭脳指数…」
「IQ、いや。そこはよくて、実際は存在しないと言われて」
「ここです」
気が付けばシルバー柄のワゴン車に着いて後部座席に乗る。
男性二人は助手席と運転席にそれぞれ乗り込む形で「お疲れ様でした。車内は独自のセキュリティを施していて、各々の通信機器が一時的にシャットアウト致します。あくまでも情報保護の名目、電子機器に一切の不具合はありませんのでご心配なさらずようお席にお掛けください」と女性。
対面するその説明に翔は生き生きしており「ご安心を。私たちの技術を駆使した上で、水城君の登校時間に間に合うよう努めます。お二方ともリラックスしてから」とノートパソコン片手に小粒の正方形基盤を四つ取り出し「額はじ両端につけて記憶を供給します」と女性。
つけ終わる俺らは黒い棒が進行する%に注目していた、短い時間その画面に機械音と比例して出力される指数が99%になり注意事項が滝の様にずらずら流れる。
女性はキーボードを押す。
翔は「最新の技術凄! シオンって…そういうの興味無いのか」と疑心暗鬼な様子。
ただ何も起こらない俺は「何が?」と基盤に手をつけると女性は「取らないで」と再び画面を向けてくる。
沢山あるウィンドウを拡大させ、座標軸から伸び縮みを繰り返し真っ赤になっている事を「記憶置換に伸びしろがありますが、グラフからアルゴリズムを生成しています。最も安全な心身を予想し君の脳に合う情報の受け渡しの模索段階で自発的に取ってしまうと、深層心理にリンクしているプログラムが身体に影響を及ぼす恐れや現段階は脳の分析を行っているため今外されると脳細胞が壊死もしくは機能を失う、はたまた植物状態になる可能性が」と解説され「は⁉︎ そんな大事な話が今かよ! てか」と言ってる俺は「感情の振り幅が大きくなっています、申し訳ございませんが落ち着いて頂けますか? 維持されるとリンク中のプログラムを異物と判断され君の脳がシャットアウトしてしまう危惧と、水城君は取り外して結構ですよ」と翔から基盤を受け取る女性を睨んでいたらドアが開く、外に出る様子に目がいくと手を振られる。
「じゃあ後でな!」
──置いて行かれんのかい‼︎
「行ってらっしゃい」
女性に送り出されて行くように、爽快に歩く光景が自動のドアに遮断された。




