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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
四章 悪魔と危険な遊び
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七次元

「残念。一幕は反則行為で我々の勝利となり、殺人鬼が負傷し二名になってしまった。深海のコロシアムが始まって以来、不服極まる」


 その演説中に声が上がった。

 つまらない、殺れと。

 赤い欄干奥の勢いが増し、しかし白服は「だが」と説き出す。

 二幕は私だと。

 二度の幸運は訪れなければ分かるか?と。


「未知の力じゃない、私はこの力を知っている、これは高い次元での生命活動たる本源だ」


 魔力を込めた拳。地面に打つける足場にクレーターができてこう言った。


「炎種、氷種、風種、雷種。各属性を創り人智を超えた能力を得るこの総称は魔力。そして裏世界のNo.一に上り詰めた私が」


 魔術側の類いで、その示威で鎮圧し「つまりは青髪の子が使ったそれだ。分かるだろう、さきの事実は無能力が魔力に負けたのだと、最も。人を打ちのめす為に使い続けて来た魔力使いの私が、ヒーロー気取りの思想で欺ける余地なし」と風を纏って操り。「さあ」と不気味な視線を受ける。


「来たまえ…いたぶってしんぜよう」


 翔の治療が終わる。神経に悪寒が這う風に仰がれ「世界を震撼させた悪魔が復活する瞬間だ!」と嬉々たる殺人鬼へ、歩む俺より先に意外な人物が佇んでいた。


「誰が悪魔って…おじさん」


 既に居る舞台上のメイミア。

 接触した魔力同士が反発、緋色い滝の様に犇めいている。

 殺人鬼は眼鏡を外し振り返ると、鼻で笑う。


「ノロい移動だ」

「それで私の背後を取ったつもりか?」

「そのスピードじゃ話にならない…それに。君よりもあの子をいたぶりたいんだよ」


 三重に聞こえる。

 まるで残像の二体が映るや否や、曇ったレンズを拭き、気だるげに仕舞い。首を捻らせ集点の揺れた目で俺を見ていると、視点が変わった。


「………クスっ、そりゃ遅いでしょう。魔力使ってないんだから」


「ナニ?」


「ふふ。私も質問させて? な・ん・で・魔力使わないといけないの?」


 咲う。殺人鬼から激震かの魔力が支配し出す。


「余りある失言だが自ら挑もうとする度胸は賞賛してやろう。次なる試合では完膚なきまでズタズタにしてやる…去れ‼︎」


 唸り声で一喝し、マイクが拾う大音量が響いている饗宴神楽は──静寂を起こし──平伏の威厳に──悦びの喉が響く。


 ゴクン。


 銀の瞳に幾何学紋様が刻まれる。

 片や風が弱まりつつあり、奥歯を噛む殺人鬼から、客間の垂れ幕を裂く暴風の対立に幾何学紋様が消える。


「ん?」


 嗤笑した殺人鬼は全身を見下ろす首元を上げ、一瞥した顔を逸らして告げる。


「……生意気な小娘よ。その透き通った肌をズタズタに斬り裂くのも面白い…クックック」


「クックック」


「「クックック…」」


 殺人鬼と悪魔が共鳴する舞台を、翔の元で拝み続けていた笑いが収まった。


「ここは深海。天から最も離れ、自在に魔力を使いこなせるこの場所で私を揶揄するとは愚かでしかないが、お陰で興味が持てそうだ」


 満悦に、鐘が鳴る。

 舞台は殺人鬼の飽和領域となった。


「「「紅蓮ぐれん 二の舞い(トゥ)」」」


 言霊が三重に響く。

 舞台は燃えて殺人鬼が霞み三体となり散開。

 火力は螺旋状に上がり、火の粉が吹く火炎に飲まれるメイミア。


「「「イディオム」」」


 火炎の舞台に剣を所持し飽和領域。

 正直見惚れる身のこなしだった。

 魔術の風で火力を上げる。

 炎は言霊に作用している。

 また魔法陣の発現がないのは魔術側の方角、殺人鬼は黒魔術を操る。

 戦術としてこの上ない才能を掛け合わせていた、その炎を手の甲で一振りするメイミア。


「揶揄は君だよ、死紋しもんの二文字を通り名扱いする」


 触れた炎を消失し、三体同時に襲われる中、背中に翳される鋒が砕ける。

 首に降り掛かる刃が止まり、前方の刃身を握りながら続いていく。


泡沫うたかたの君達は奥ゆかしい爽籟そうらいで、私に挑む罰当たりの戯言は、君のいう裏の世界と大して変わらず、で償うんだけれど……精々、坊主のいう魔力使いにしろ悪魔にしろ、堕天の領域に赤子の解放で踏み入れる愚かさを、悪戯する腕から納めて貰うよ」


 冷心の姿に、温度が低下し火炎が消えかけていた。

 それぞれは微動だにせず、殺人鬼に白い手が触れる、刹那──歯冠を噛み締める。


三の舞い(トゥリ)


 空気の球体が現れ爆破し白い手を仰いで弾く。

 その風から濃く鮮やかな火を灯し始める、ひと時に雷が誘発する。雷は拡大しており翔とベールに包まれ、観客が避難や絶叫に追い込まれていた。


「どうだ…ポーカーフェイスも尽きる頃合いだ、お前の血を見せてみろ」


 一体が消えた殺人鬼。残り二体が舞台はじ両端に距離を取り計らい、手で剣を研ぎ出す。

 光の反射が増し、魔力を蹴り上げる殺人鬼にたいが飛ぶ。

 身体能力が極端に上がっており、魔力で足場を作り更に蹴り上げ加速した頃。

 ──左右の空気が揺れ出し──爆速の鋒が刺し切れず──悪魔が咲っていた。


「器用だけど、二人になっていつになったらズタズタになるのかな」


 突発の雷に影掛かる殺人鬼。

 影が骨格を強調した。


「達者な物言いだ」

「一人に収まったらその痩せ我慢は後悔する、少なからず」

「「反撃できない分際で私を笑うか‼︎」」


 空気を斬る爆炎で自身を巻き込み、立ちくらむ所へ魔力が漂い出す。


「畏怖に対する作法は素晴らしいよ。でも悪魔を名乗る以上心の理解が必要だし…もう一度言う、そんなふざけた解放で憤りを求めるアホならば」


 肝に伝う狂気こえ。舞台を飲む紫の魔力が底なし沼となり。


「地獄へ送る。史上の人類あく達の元で中傷、差別、虐殺、五感全てを武器にした餌になれ」


 沼から渦が巻き、飲まれていく殺人鬼は退ける。

 和らいでいる場所に脱した二体は薄まって、姿が合わさった。

 一人でに体を確かめ、額に柄を当て喝采している。


「っハ…ハハハ。震える。足も握る手さえも……ハッ。もう血などどうでもいい、よく聞け悪人風情が、これが私の口上だ」


 気魄し膨大な魔力が流れ、蒸気へ変容する。

 舞台は霧で包まれていき殺人鬼は唱えた。


 〝口上こうじょう 紅蓮ノ地獄(はっけのじごく)

 なかれとらわれほうむ蘇生そせい網羅もうら精緻せいちたましいつみころくす鬼門きもん言霊えいしょう啓蒙けいもう冥利みょうりさずびととなる 第六魔法陣シク 紅蓮はっけの〟


(ゆいじめ)


 口上が魔力に作用し、天井のライトは真赤に溶け、溶岩を吸うかの灼熱や海水が降ってくる霧の風景は、この人の最終言霊だと悟った。


「いい顔だ」


「ふっ。この力を開花してどれほどの苦労に苛まれたか…小娘が理解できるか」


「この魔法陣を介入しない口上は純粋な人が開花する紳士の魔法。貴方は悪魔や殺人鬼って強い言葉に誘われ、過去の傷を隠したくて、悪名を轟かせる過程に振り回されていると」


「何が言いたい」


「善はギフトなんだよ。振り切ってしまえば上手くいく。ただ裁く側が独立しなければ致命的。貴方は裏魔法に黒魔術を駆使する器用な人であり、一つの特化を恐れてる。本来磨くべきは裏魔法であって黒魔術じゃないのは、何処かで自分を否定し成し得ようとしている支配の証。まあどんな世界もあるのが自然だしそれを悪とするのもまた自然。なのに貴方は中立でもなければ互いに依存し合い心を痛め続けた。三人の人格を生み出すまでに。結果何者かを忘れ自らを支配しなければ自尊心を保てない殺人鬼に達した。それを善とするならば、私たちの様な対立関係と出会した際、貴方が勝てるか。それって愚かだよ」


「だから何だ。心を読んで欲求を満たしてるのはお前だろう、偽善者ズラすんじゃねえ。お前は‼︎」


 それを最後に一人は倒れ、残る一人は舞台を下りていった。


「貴方は私をノロいと言ったけど、私は貴方の映し鏡。心眼で覗いた時点で読んでいたし結末も視ていた。よって貴方が話したり優越に浸っていた戦いは未来じゃなく過去。七次元越えを相手にするなら覚えておいて損ないよ」


 霧が薄まり、姿が映る。


「あっついね」


「…熱かったね」


「そう、かも…帰ろう」


 服をバタバタと仰ぎ、無傷。

 そんなメイミアから少し嬉しそうに見える。


「帰ったら、用事手伝う」


 無人と化した地表は所々に海水が溜まっており、時間の問題で海に飲まれるこの場から翔を肩に歩いていた。


「もう済んでるけど、急にどうしたの?」


「急って、終わってたの? いつ……?」


 その時、ふわふわした頭が疑問に変わって、それが目の前にあった。

 壁が歪み、扉が不自然に捻じ曲がっている。

 物理的でも無ければ魔力とも思えない謎の。


「逃がしませんわよ、妾の下僕けいかくを悉く葬った少年よ」


 その声に振り向くはずが思うように動かない。

 重い鎖で体が縛られた様に。

 抗って、やっと振り返れば細い光が飛んでくる。

 不意に貫かれていたら膝を付いた音に視線がいく。


「メイミア…?」


 細い光は幻の様に無く、ただ気には止めず、息を切らす体調を伺った。


「ちょっと具合悪くて。熱が上がっちゃったかな…。少し休みたい。翔君は任せて」


 壁に凭れるメイミア。

 俺は隣へ翔を寝かせ、ほんの一瞬、心配する自分を疑った。

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