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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
四章 悪魔と危険な遊び
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開幕

 扉を越えて呼ばれた気がしたが閉まっており、暗がりの周囲は赤い欄干で敷居を繕い、観客なのか、着物の女性や幾つもあるそれら眼が白服の男が立つ舞台へ賛美が上がる。


「今宵の最大風物詩。大富豪であられる指折りの権力者、この世で裁けない権力も熟知している事でしょう」


 静まり暗がる。

 真っ暗となり白服の声が続く。


「安らぎを奪われ、生きるは恐怖へ変わる。付け入れられたら最後、傷痍しょういに侵される首魁しゅかいの存在を」


 それは畏怖を言霊に現す、幕開け。

 霧に晒される感覚や耳の近くにある語り声。

 恐怖とは何か、そう訴える独特の囁きが懐を捉えるかの如く。

 悪の尊厳は、万福の抑止となり。

 死すれば血縁者に被ると揺さぶる。

 骨の髄まで吸い尽くされるその者共の悪辣は共存の形で。

 如何なる時も潜め、蝕み、腐った所を喰らう。

 痛みが総じて奪い続ける。

 目を通し感受性に光など受け入れられない所に堕ちていく。

 這い上がれないと。どん底に底はないのだと。悟り。

 怪しい風が吹き出す中で「失礼」と繋げて喋り出す。


「悪人には悪人を」


 冷厳な口調で「時に」と紡いでいく。

 薄笑いを無かった様に「殺人鬼」と。

 食事より睡眠より勝り、衝動に駆られるのだそうで。


「その人らは血を浴びなければ平常心を保てない」


 道徳心に揺らぐものが多く。

 恐ろしさを語り綴らえた内容には生まれながらに基づく殺戮を糧に「見境なく」と断言して。


「観戦側の身が危なくなってしまう、あなた方に頼れる戦士を紹介しましょう」


 バンと立てる照明が俺らを照らす。


「未知の力を持つこの戦士、裏世界の首魁の御息子。翔様とその他が貴方達堅気の身代わりです」


 大々的な歓声。観客に強い念を感じる。

 今までの演説から首魁という人に翔をなぞっている事や見世物にして稼ぐ算段らしい。

 舞台には大柄の男が上がった。


「殺戮を糧にする凶徒と共に、権力などファミリーには通用しない、そういう所だ青髪の子よ。大方甘い蜜でも吸わされ懐いていたんだろうが、裏の世界に踏み入って天寿を全うする者はそういない。まあ精々、残り少ない寿命で思い出にでも浸ってろ」


 満悦に吐き捨てる白服は、大柄の男と入れ替わり舞台を降りる。

 片や迷彩っぽい上着を捲る大柄の男は、分厚い腕が露出し、黒みのある皮膚に血管が浮く、その皮膚には赤い傷があり、野獣の様な顔が仰いでいる。

 うつつを抜かす、そういう風に天井を見ている様な、左手を広げ右手を内服に入れ、観客の注目を浴びていた。

 それが、著しい筋肉の動きが起こり、弾丸が俺の足元に痕跡を残す。


「誰でもいい…銀髪か…倅か…それとも青髪か……早く来い‼︎ そこで射殺されたいか」


 張り上がった顔で喚き、起伏の激しい性格が根強い。

 しかし「説明」と言い一対一のバトル形式と付け加える一面には理性を感じる。

 ただ表上は声質や声量の振り幅を伴って野獣のまなこが現れる。


「俺が」


 名乗る翔。

 俺は思わず止めた。

 相手の懐に入るというのは、それは囮であって不利な戦い。


「シオン。彼奴は兄貴の仇なんだ、そして弟の仇でもある。だから戦わないといけない、じゃないと兄弟に産まれた意味がないんだ。それと会ったばかりで安心させられたよ。ありがとな!」


 笑顔。綺麗な歯や笑窪の残像が舞台へ上がるまで消えない。

 心で『なんかあったら会わす顔ねえっつうの…』と零れる。

 血の味がする。

 唇が切れたし言い残したのは遺言だ。


「そうだ…血だ…血を」


 弾丸が奔る。

 腕から血が滲んでいく翔。

 その負傷に喜悦な笑みで大柄の男。


「キャッハッハ」


 とはいえ心臓を狙った軌道に対応していた翔は、活性化した脚力に思える。

 大柄の男は欲情を乗せるざらざらの声、好奇心に溺れる表情が歪み、睨み、はしゃぐ気性が映る。

 だが、惚けた顔となって五体を研ぎ澄ます大柄の男が銃を構えた瞬時。

 速い瞬発力で移動した翔が拳を振る。

 鼻先にいく拳は見事に当たり、重心が反り返った対象に連撃を繰り出す。


「この日までテメェを思い出さない時は無かった。皮肉みてえにこの力が呼び起こされてから、呪いみてえに囁いてきやがる、許すなっつう殺意に洗脳されそうなんだ」


 炸裂する打撃に銃を持つ腕が伸びただれる。

 そして、冷徹な魔力を漂わす翔は息切れに達し、通常のよう立ち尽くす男が発した。


「だから?」


 効いていないという顔振りで肩を回す頑丈さ。

 常人の域を超えていた、束の間。

 不乱な翔。その魔力に目を疑う。

 不安定で淡い陰に属する魔力が殺人鬼の一言で、確実に固めた。


「ああ…この感じ。確か祭りだったか。依頼があってよ、刺したんだ。アレは良血だったぜもっと教えてやろうか」


 高揚を現した男に、蹴り込む翔。体格差のある巨体を吹き飛ばし。


「ふざけんな‼︎ 外道に教わることは何も」


 放心の翔。言葉は武力に塞がれ足を抑える体勢に二度目の銃声が響き渡る。


「あぁたまらねえ。俺はコイツがなけりゃダメなんだとつくづく感じるが……さっきの威勢は何処行った?」


 大量の出血。人体の構造や撃ち抜く技術の前で、姿勢を直そうにも、身体が立ち上がれず。

 下一点を見つめている所に距離が詰められる。


「この引き金でキマっちまうとは。期待より脆かったか、ボスに比べれば綺麗に逝ける。言い残すことはあるか?」


 脳天に銃口を当てる男。共に魔力が薄まり、表情は和らいでいく。


「この力すら邪魔でしかなかった。使い切ったら息も出来ねえや……やっ…と終わりだ」


 重心が前によれていく姿を、宥める男は指に力を入れた。

 弾丸を射出し佇んでいる。

 空気という距離間、撃つ瞬間、どれも結果を見る前にある祝福の面影。

 それは背中に被弾しても変わらない。


「翔。お疲れ様」


 俺は最も丁寧に、翔を抱き抱えた時間を持ってして傷に触れないよう歩く。


「ここは勝者以外降りる権限は無いッ‼︎」


 豹変する男に回り込まれ銃口を突き付けられる。

 俺はバレルを潰し、何でミグサが負けたか知らないけど、賢い人が選択したんだと奥歯を鳴らす横を通った。

 湧いてくる黒い魔力を利き手に集め、払った俺は、ただ形相とする男に振り掛かり。

 客室を破壊して男が吹っ飛ぶ中「魔力を渡したい」と翔を寝かせる。

 自然治癒では不可能の域。人体を把握した上での射撃を殺人鬼は行っていた。

 俺はメイミアの元で、ティバイで知り得た方法を縋る様に聞いていた。

 実際間接的な魔力は送れるが、それでは息絶える。

 少量の魔力では人体の損傷に追い付かず、あの意志を尊重できなければ翔はずっと苦しんでいた。


「私の魔力じゃ悪化しちゃうからね」


 メイミアは翔の心臓位置に手を翳した。

 魔力を込めれば渡せると説明を受ける。


「まさか魔力を宿していたなんて、生命系統から分かったよ。この子はミグサの血縁だ。気付けなくてごめんよ。翔君」


 メイミアから翔へ魔力が渡り、舞台に白服が上がる。

 演説が始まり。満悦な顔で治療を覗く白服は確かに殺人鬼にふさわしい。

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