浴衣
風景や見知らぬものとすれ違いあの本で読んだ文化と似てる。
スーパーという店で日用品を巡り、お線香やライターと食材?をレジに通していた。
「袋はお付けしますか?」
「はい、お願いします」
メイミアの愛想のよい一面を見て、軽く会釈して受け取った。
◇◇◇
なだらかな坂や石段、橋を渡る。
びっしょりの衣服で進む木漏れ日の細道で、表札をぼーっと読み上げていった。
「…如月さん」
メイミアは一軒家の玄関に赴き鍵を開ける。
「どうぞ!」
敷居を跨ぐとリビングに行き、窓を開け「猛暑だね、適当に寛いでね」と家の事を始めているので袋はテーブルに置いた。
風鈴が響いたリビングでクッションに座る俺は、髪を結いて掃除する様子に何となく、窓際に移り夕暮れになる。
沸騰が聴こえるうたた寝中、そうめん茹でたから食べよと呼び声が掛かって、氷の入ったつゆのグラスや白い糸の束が並ぶ。
俺は美味しいと伝えていた。
涼しい気分になる不思議なひとときに「よかった」と囁くメイミアは今日お祭りやってるんだよって俯いた。
「ミグサが言ってた娯楽?」
「うん、この後行こうよ…」
いいよと言うはずが、そうめんを摘む箸が止まっていて気になる。
俺はいいけど?って、そう言ってると「準備してくる!」と声が響いたリビングで一人になった。
食器を洗いクッションを枕にしていた俺はハイ!と浴衣姿が映る。
かんざしの羽が揺れるメイミアから衣服を受け、着替えた。
夜道を進み太鼓の響きに連なって、賑やかな人集りがあった。
お祭り──。水風船で遊ぶメイミアと紺桔梗の空を眺め「次何しようか、っあ! 金魚すくい…輪投げか…射的とか」と聞き、赤っぽく橙っぽい提灯が垂れる風景と花火が彩る。
メイミアとバシャンと鳴らす冷たい水にポイを沈め、泳ぐ群れを狙いバシャバシャと輝く反応が聞こえた。
「おおっ‼︎ 上手いなお嬢ちゃん」
「えっ待ってズルくない? そんなのあり? 破けないじゃん!」
破けたポイを持つメイミア。
俺は薄い紙をベールで包み数の勝負で勝った。
器を店主に渡すと、おじちゃんもう一回…と俺らより先に居た男の子の地面に紙の残骸があった。店主は金魚を袋に移しよしときなよと口ずさむ。
男の子が見つめている器は水で一杯。
「でも…」
呟いた言葉は袋を貰う距離にも届かない程小さい。
俺は袋で泳ぐ金魚を見つめる。
花火の音、太鼓の音より「金魚が欲しい」という言葉を、ずっと続けていたのか。
俺は袋を男の子に差し出す。
真剣に挑む姿勢にお節介かもしれないが、男の子は無邪気に走っていった。
ありがとうって言われた。
遅れておじちゃんもう一回‼︎と耳を貫いた。
「このお嬢ちゃんは群れをすくう天才だよ」
「私に負けの二字はないから早くそのポイ大量に持ってきて‼︎」
「お、おう」
その白熱を見て、癒された心が穢れていく。




