表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
三章 禁断とされる由縁につきましては
12/109

測定の日

 俺は墓地で酒瓶を持っていた。

 気配を感じながら飲もうとしていて、背後には男女がいる。

 女は男に姉さんと呼ばれ、女の体は黒い光になり、黒い光から真っ赤な目で俺を見ると、寝室にガラスが散らばる。


「ばっ‼︎」


「…夢か」


 勢いよく飛び起きるメイミアと朝を迎えた。


◇◇◇


 学校に登校する。

 席に着くとシオン君が、朝から来てる…と鞄を落としている銅色あかがねいろの瞳に深い茶髪、青碧せいへきの爪を彩った人と。


「殺してやる…」


 メイミアに挟まれたいつもの日常。

 それがあの体験した世界は夢だと実感していたら声が掛かった。

 今日は魔力測定をする事や最下位は補修だそうで、教室は賑やかだった。


「心配なさんでも俺が居んじゃん」


 そう言ったら決めつけるなよ?と席に座り、机に膝掛けるミグサは「何してんだ?」との流れで目をやる青模様のちっさい玉。それがメイミアの手元に浮かんでいた。


呪詛じゅそ


 俺である。

 背けたら銅色の瞳と目が合った。

 ニカってしてシオン君ってメイミアちゃんと付き合ってるの?と聞かれ、否定したら図星なんだ!とドヤ顔される。

 むかむかしていたらあ”ーもうどうして効かないの! この気持ちはどうすればいいのと騒いでおり、うつ伏せのメイミアをみんなが見てる中「って、言われてるけど?」と聞かれ、全員に注目される俺は首を絞められベールを張った。

 粉末状に輝いた小さい規模ベールにメイミアは距離を取り、首絞めに解放された間に、幾何学紋様が天井に発現してる。最速かの魔術を完成していた。

 無数の瞳が凄いと惹き込まれ、一方で鈍い音の様なものが発現しているが何、これ…。


「光の遊び」


 俺の心を読むメイミア。

 足して魔法陣から発現する光の刃が三つ風の様に軌道する。

 俺はその光に服が裂け、床をバサバサ刺し、飛沫を撒き散らし飛んでくる。

 俺は剣くれとミグサに頼み『剣の魔術』を習得していないとの応えに『魔法陣に書き換えなくていい』と補足した俺は『法則崩れ』という言葉がよぎる。

 ミグサはどういうことだよと聞く。

 罪悪感が募る上「鋭い魔力と放電の同時生成で固化するよ」とメイミアも促しており、正確な手順は個人の体質によって変わるが、ミグサは只事でない様子。


「つうか。もう辞めようぜ、みんなも怖がってるはずだ」


 その声掛けで壁に身を委ねる人たちは小刻みに頷き、魔術の操作を誤れば人を刎ねる事態でありながら、個人の意思は尊重され難いのがこの現状を作り上げていた。


「怖いもの見たさだし、遊びだよ。本当に怖かったら逃げるでしょ」


 メイミアに諭されるよう一帯を見渡すミグサはじっくりと、それでいて確かにと呟いた。

 動作は察知していたが個々の顔付きまで汲み取れてはいなかったと、高揚の瞳やこれに準ずるみんなの様子に囚われている。

 更に同時並行で魔術を操るメイミアにみなが才媛さいえんと感嘆した。

 例えば魔術は魔法陣の幾何学から魔力を通し発現する。

 内の一つ魔法陣は幾何学の演算が成り立って魔力と呼応する。

 魔術学校はこの幾何学の演算を一年で修得しなければ留年らしく、それ程魔術の学を欲するこの場でメイミアは模範のそれを上回っていた。

 魔力の質、準ずる量、通常は脳の処理が追い付かず魔術そのものが暴れるか消滅するはずが平気で刃が飛んでくる。

 そもそも過去に光を操る人はいたが学校の修得範囲に光なんてものはなく、魔術師も、一部圧倒的力を持つ個人はいるが常に理性や力を一丸にする側として、ミグサの言葉は理性的な提唱だった。

 片やメイミアの魅力に埋もれ、思考の『意欲』が減り、躱す『原動力』も。


「シオン、君」


 ポツリと呼ばれた。

 向くと剥き出しの刃がぐるぐる回って飛んで来た。

 慌てて上下に手を揺らし、


「これでいいかな…」


 剣を手にする。

 端麗な魔力を帯びる剣の魔術は隣席の彼女アユラだった。


「私黒魔術はムリだけど魔術の剣なら…」


 上擦った彼女。

 どこか期待を宿した闘志が映っていた。

 俺は剣を握ると柄の所に組紐で巻き締めてある感じや危篤な模様が刃にあり形がやや変わっていた。


「これは…」


 若干丸い形状だが太刀の部類なのか…?

 品のある重さと上質な部位達が融合しており、軽く振ったら床が裂けていく。

 握り直し魔法陣を切断した俺は空気を断切するかの残像が淡い魔力を帯びていて咲った。


「アユラ最高…」


「でしょ! うちの故郷の賜物よ!」


 彼女が跳ねて喜ぶ。

 意外な一面から「剣は必要ないでしょ」との声に「なんで?」と呟けば「ノウェム」と仏頂面のメイミア。

 メイミアは魔術という記憶より身体能力の高さや凡ゆる俊敏さに長けている。

 本人が遊びと言うのはここから来ているはずだし「つまらない…」と愁然しゅうぜんな響きや「トラ◯◯◯ト」と剣にヒビが入る。

 剣の破損前に奇妙な感覚で聴き取れず、改めて魔力の発現を感知する。


「今日のメイミア…どうかしてる」


 遅れて魔法陣が発現していた。

 やはり魔術でないものだと思うが今はもう、分厚い光の柱が魔法陣から放たれる光景に恐れを抱いた。

 本人はきっと加減してる。

 しかしその光は照らすものを焼失していた。


「ありがとう」


 メイミアの怨色えんしょくの様な顔が髪に掛かる。

 対して対抗策が見つからない。

 剣も、魔力も、攻撃も回避も速度も劣る現状にむりと漏れたら「なら次からは離れない?」と続いた。

 先生に負けたから入学した。それって私と居るよりマシって事だよねと。

 そう言って飽和領域かの空気に仕立てここ一番に不穏さがあった。


「私はさ、嘘が嫌い、光が嫌い、善はもっと嫌いだし私に執着させるためなら何だってするよ。約束して?」


 俺は息苦しさを抱いた。

 眼力に縛られ「…見返りは?」と聞けば抱き締めてあげると。

 思わずしゃがみ込む。若干楽になり剣を見入る。

 ヒビこそあるがいきつやが光る刃がうるわしく思えたら剣が焼失した。


「抱き締められる位ならこっちの方がマシとか言われるとむかつくよ」


「残念ながら俺より可愛い奴以外に抱かれたくないでした」


「自分の容姿は好みじゃないんでしょ」


「ぅ…」


「嘘下手」


「じゃ約束します。貴女様から離れません」


「靴舐めて」


「死ね…」


「大体シオンがどこにも行かないなんて約束守れる訳ない」


「じゃ何、嫌がらせ?」


「ヴァレンが泣くよ」


「ずる」


 空虚な風が吹き抜けるみたいに一帯の魔力が薄まる。

 教室に鐘が鳴り体調が安定した俺は立ち上がると足元に小さい穴があり、溶けた床から煙が炊いて頬から血が流れていた。


「まだ許してないよ」


 首を傾げるメイミア。

 一見して脱力してる様で、「で?」と顔を振ると水中の様な感触、息苦しさ、魔法陣の発光。

 その時、ドアが開かれ「貴様らは朝から何してる‼︎」と黒表紙を持つヒビキ先生が激昂した。

 みんなを迅速に端の方に誘導し、風の熱で魔法陣もろとも窓側の壁が校庭に被弾。

 転げ回って校庭に突っ伏す俺は何とか立って、教室で仁王立ちの先生が右手をくねくねしてる。


「シーオーンンン‼︎」


 メラメラ燃える瞳の中で俺を焼いてるし「クソなんで俺ばっか」と探したら魔法陣があった。

 俺の足元を紋様が覆い…こう、狙いを定めるみたいに読み込んでる(はっこうしてる)

 あと積乱雲が懸けてるのに直射日光を浴びてる…。


「とっておきだ。だが安心しろ。いつかはこうなると思っていた。大人しいのも辛いだろう。これでも暴れ足りないなら朝まで付き合ってくれる…」


 歯をガリガリ噛み込む先生。

 その上部。

 校舎を照らす巨大な炎の塊が鎮座していた。

 残滓が吸い寄せられ、コンクリートがジュンと燃える。

 コンクリートが!

 そんなものが飛んで来るし視界が熱で揺ら揺らするし。


「どいつもこいつも俺に対する執着重過ぎんだろバカぁぁぁあああ‼︎」


 そうして俺を飲むキノコ雲が上がった。

 もちろん言いたい事は山程あるし暴れたいとも思ってなければ頭は包帯ぐるぐるに巻かれた。

 保健室から戻ると教卓に立つヒビキ先生が見計らって「よーし点呼をとる! 元気良く挨拶するように」と名が呼ばれ出す。

 全員が戦がれる新鮮な朝だった。


「やや風通しがいいが今日中に直すから窓側の生徒は落ちない様にな」


 落ちたら俺みたいになる。こぞって窓側のみんなが内側へ寄せていると一人が挙手した。


「先生ノートが飛んでっちゃいました。取って来ていいですか?」


「構わんが黒板に書いた通り魔力測定する。遅れずにな」


「はい先生!」


 頭を抱える先生とスタスタ通り過ぎていく女子生徒。ドアがバタンと閉まるが姿勢は変わらず「それと」と続いた。


「気が付いてるだろうが今朝方に正門を改築工事した。木製から鉄に、だ。理由は何者かが放火した魔術の痕跡こんせきを確認した。しかも俺の教えた魔術で、だ…それを知った時は先生、悲しかったぞ」


 それはそれは悲しそうな体から魔力が湧いていた。


「俺はこの組でない事を信じてる。だが心当たりある生徒がいるなら……早めに名乗り出ることを勧める。以上だ」


 骨格が張りギラギラした眼で俺を捉えていたが、やっぱ思う…。

 勇者が炎の塊ぶん投げてくるはずない。

 夢だったとドアへ向かった。

 開けると小走りの女子がピタッて止まる。

 激しめの汗を流しており、ノートを取りに行った人だった。


「ごめん」


 とっさに口に出た。

 俺が揉めなければノートが飛ばされずに済んだ事を、彼女は不思議そうにしている。

 しかし愉快そうにいいよいいよ神様〜と、話が進んだ。

 彼女は生まれてから補助の中で育ったらしい。

 不自由な私がこうやって動けるのが毎日楽しいと、彼女はなお教えてくれた。


「私は魔力を得て走れる様になれたの。でもそれはつい最近。魔術学校は魔術師を目指す頭脳明晰達が学ぶ所で、アルタイルの未来を担う志より煩悩ぼんのうで入学した当時は罪悪感で死にたくなって。こんな私にメイミアちゃんが笑ったの。持ってる人を意識しなくていい、持っていない人が持つ瞬間を学べって。だから見て来た。メイミアちゃんは私にとって道導なの。そんな人に魔力なしで戦うってそれはもう神様なんだよ」


 彼女はくるんと一周して去っていった。


◇◇◇


 移動してると準備運動や会話に花を咲かせる校庭で。


「シオン君って本気で魔力測定やった事ある?」


「もちろん」


「本当にそう?」


「…うん」


「嘘だね」


「……。」


 アユラに尾行されている。

 魔力の事情に疑問を覚える、そういう顔に距離が縮まっていた。


「天才はビリにならないっしょ、隠してるの?」


「天才って思った事ないし全部本気だよ」


 けして隠していない、自分ですらよく分かっていないのだから。


「ふ〜ん…でも天才って自分じゃなくて周りが評価する言葉だと思う」


 言われて何も出ず、ひたすらに時間が過ぎるのを待っていた。


「始めるぞ! 四人ずつ測るから呼ばれたら前に出て測定器を付けるんだ」


 赤い運動服のヒビキ先生が器具を持って、授業の合図や名を呼び始め。


「平均いくつですか?」


「平均魔力量は学年で七十四だな」


 そんな会話で思い出す直近の魔力量はニや三だったような。


「では一分間だ。始め!」


 記憶を辿っていると、四人の生徒が一斉いっせいに魔力を放出し、測定器の針が揺れ示している。

 魔力を纏わした四人から風が発生し、肌を迫撃的はくげきてきな波のように触れる魔力が精神に安心や穏和を与える、が。


「五十六 六十六 九十三 四十二。良し次呼ぶぞ」


 途中で入学した際はえぐい注目の中恥ずかしいだけだった。

 当時も盛り上がっていた隣で確かそう。


「勝負しようよ!」


 追い討ちが来る…。


「いいけど、賭けは


「負けた方は放課後喫茶店の奢りで」


 はや。てか揉み消されたけど剣をくれた恩が過ぎっていたら次! メイミア ミグサ アユラ シオンだとの先生に手首に変な輪っかを装着されるわ、居ないはずのメイミアはしっかりいるし合図が掛かる。

 風が勢いを増し砂の舞っている場で放出しない俺は叱られる。

 正直憂鬱に近い時間が終わればそれでよかった。

 そう思っている残りの壮大なときを。二十秒ある。負けるなよ。自分にと、先生は言った。

 あの時アメジストも同じ言葉を。


「七十四 二百五十五 百八十八 二百九十……よし次呼ぶぞ」


 黒い視界に満足気な声。

 活気や熱量が蒼白や戸惑いの情景に変わっており、アユラが見開いていた。

 シオン君って黒魔術界くろまじゅつかいの方角?と。

 何か嬉しそうだが、違うか。

 思っている事が分かればあーはなっていないと、腰から着地し、雲の隙間を通す太陽が隠れていく、夢みたいな空だなーと。


 違う。


  これは魔王の。


   魔力。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ