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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
二章 秘書編
11/109

約束

 ぼーっと魔王の膝で思った。

 自分の課題を重ねていると。

 ただ、他者とは無関係と整理した頃だった。

 道中は土で整備され自然と一体の大地を踏んでいた魔王と共に「シンク様シオン殿!」とシュタラさん。

 何だろう。視界一杯に白い光が眩しく…?

 ああ…。


 魔力の斬撃。それはシュタラさんの斬撃で軌道が変わり、大地を削っている。

 至近に映る人物が右手を上げていた。


「よう魔王!」


 挨拶かの男。

 太陽を集める白装束の鎧。

 輝きのある白銀の大刀が聖剣の印象を駆り立てており、難色を示す魔王から魔王軍を壊滅状態に追い込んだ男、ラルフ シュファン、勇者筆頭との説明に「悪者みたいな言い方はよしてくれ…ところで。そこの青髮は誰だ?」とこちらに大刀を向けている。魔物に見えないが魔王と共にいる、それがどういう事か分からないと勇者は言った。

 俺は「二番」と応えると勇者は興奮気味に「地に堕ちたか」と呟く。

 ともなって天には魔王の魔法陣が発現しており、掌を合わせ「第六魔法陣セクス 永宴凍結(モータル)」と空の彼方に魔力が広がる。

 解き放たれる桁違いの魔力量が魔法陣と共鳴した。

 空にばら撒かれるそれらは数千個、鋭い氷となって勇者に飛ばされる。

 全包囲の集中砲火によって勇者を無防備にむ団塊となった。


「シュタラ、今の内に魔王城へ」


 魔王の指示が下る。


「城はこの俺が必ず。どうか、ご武運を」


 息を吐く様に魔王城に戻るシュタラさん。

 団塊から「もういいか?」と氷が弾け首を鳴らす勇者。

 足場に波紋を刻み瞬間的な速度で魔王の前に現れる。


「もう大魔法をさせるつもりはないぞ」


 速度をつけた大刀を振り降ろす。

 魔王は一寸前に唱えていた。


「イディオム」


 紫紺色しこんいろの剣が創られ、間一髪受け流す剣捌けんさばきに大刀が埋まる。

 勇者は驚いて引き抜く、そこを魔王は狙う。

 首の動脈へ蒼い瞳孔が捉え、懸命に振るう魔王に勇者は言った。


「岩」


 焦りが籠った声。

 勝利の瞬間だった。

 それが剣の軌道が逸れて鎧へ掠める。

 火花を散らす勇者は大刀を引き抜いた。

 魔王の手から剣が離れ、大地に振動音が奔る間に攻撃の再来。

 魔王は肩を押さえ、体術で致命傷を避け、大刀に傷を負い、首に鋒を突き付けるまで強運を繰り広げる勇者が沈んだ顔で宣言した。


「決着だ魔王」


 戦いの幕引き。余韻に溶け込む静けさ。この一瞬を待っていた。

 俺は紫紺色の剣で勇者を突きに行く。

 勇者は俊敏にかわし目を広げた。


「マジか少年」


 岩だぞ、岩だぞと驚かれた。

 ただ岩みたいに重たい剣を振えるのは魔力で向上させた魔術師の本源。

 消耗していくごく僅かな魔力が底をつくまでそう時間は持たない。


「ところで躱わした時の表情は偉く嬉しそうだったね」


「なに?」


「戦う?」


「いいや我に子供を手に掛けようとしている所が重要だ」


「他の世界の事情は知らない。ただ言えるのは、知能とか、富とか、何かしらの競い合いで必然的に弱者が死ぬ。俺がいた所は支配の世界だった」


「なら青髪よ。我は正義に支配されてるか?」


「違う」


「どう見える?」


「アンタは正義という立場を活用し力の矛先を手にしたい。何故なら本領を発揮出来ない現実はアンタに取って退屈でくだらないから」


「ならば魔王の討伐後、我を後ろから突こうとした悪行を覚えておくといい」


 勇者は魔王へ歩む。

 道中に白い羽根が浮いており、勇者を一周する白い羽根。

 見失う勇者の暗い背後にメイミアが言った。


「初めまして勇者さん」


「あああああああああああああああああああ」


 お化けを見る様な勇者にメイミアは続けた。


「いい反応だ。大衆に利用され権力を振り翳す、自己中さん」


「…は?」


 勇者から理性のない声が漏れた。

 俺はこの隙に魔王を抱え連れ去る。

 依然としてメイミアと勇者の関係は険悪だった。


「君が勢い余ってシオンと対峙して。勝機あるの?」


 微笑むメイミア。

 一方で額に血管が走る。


「勇者の筆頭である我が子供に敗北すると煽るか、小娘」


 回らない頭でまとめあげたとばかりに血走ってるが、メイミアは「気に入らない?」と顔を突き上げる。

 口を糸で引っ張った様な笑みに声が震え大刀へ手を掛ける勇者。


「ああ…しかしこの力を持ってまだ。本気でやれる相手に出会っていないのもまた事実。貴様に怒りが湧いてくるのも何かの縁、いっそ証明してくれないか」


「いいよ、名もない勇者さん…」


「ほ…ざ……けッ‼︎」


 メイミアの頭上に風の渦が発現。

 大刀は風の渦と衝突し、会話が途切れる。

 更に充分な距離間まで走り続けていたら。


「助けてくれてありがとう、でも大丈夫。勇者から離れる訳にはいきません」


 森の中魔王を降ろす。太ももに血が流れ、一輪の花を見つめていた。


「その体で戦うのは無茶です、休んで下さい」


 恐らくは斬撃によるもの、体力はまだしも魔力に活気が感じない。

 無謀な選択をして欲しくない。

 それが、悲痛に宥める表情が示唆しているかの様、負傷した肩を力強く握っていた。


「必要ありません、それに…あの勇者が現れてから魔王軍は壊滅状態になっていった。戦い、戦い、ゆく度に倒された同胞を抱えるのもここまで。私は魔王ですからね、葬ってみせますよ」


 紳士に振る舞われた。

 あるものを光に潜めているみたいな、健気さから隠されてるが、俺は確信的に聞いた。


「知ってます。道連れにするんですね」


「そう…代々魔王に継ぐ…禁断魔法で…」


「はい。変だとは思ってたんですよ。シンクさんから離れているといいますか、保護されてるといいますか。であの先生のどこに惚れたんですか?」


 俺はメイミアから密かに渡された手紙を開いて言った。


「どうして…それを…」


「ある人から渡されました」


 遺言である。

 宛名はヒビキ先生だった。


「言っときますけどあの先生は横柄の癖にちょっと悪戯してると直ぐに沸いて出てくるストーカーですストーカー」


 そう言って説明すると感嘆の声が上がった。


「羨ましい」


「あと大切に拉致らちしてるので返して欲しければ魔王城までお越し下さいって部分はどういう心境ですか」


 睨んで言った。

 もしこの場に居なければ呑気のんきに魔王城で茶菓子を食べてる所に先生見参になる地獄だった。


「その。ごめんなさい」


「ええ没収でかんべんひまつから…ゴクン。それで」


「ちょ⁉︎ それ私の最後の手紙なんですってそれどころでなく」


 速足で戻る魔王。

 反射でその手を握っていたら奮い立つ魔力に体が圧迫される。

 畏怖いふ哀秋あいしゅう怒気どき

 俺はそれら集大成にベールで弾いた。


「そうならない様に距離取りました」


 勇者から離れる上で魔力を惜しまず使えたのはこうやって支配するためである。

 覇気が蘇る魔王はゆっくり緩んでいた。


「いえ、ここで生き残っても家族の犠牲に変わりありませんから」


「はい、食事会の忠実な光景を見て、シンクさんに付いて来たみんなも残されて生きるんだと思います」


 そう言って起こるべき想定を覚悟していたが、恐れ、不安が魔力や眼差しから伝わってくる。

 何で俺に?

 ──ん。

 魔術師だから護衛だったのか?

 そうか、誤解してたのは俺だけじゃなかったんだ。

 そうは言ってもアルタイルには二つあるって説明は長いし、人は似通ったものに引き寄せられるってなんていうんだっけ?

 …いいや。

 俺は慎んで言った。


「きっとヒビキ先生から知らされている、そう思っていました。もし手紙の俺に惹かれていたら、勇者の殲滅を願うなら、禁断の魔法を遣う魔力を俺に与えてくれませんか」


「魔術師の話は知ってるつもりです。でもやはり正義側の相手と討伐は違います。何よりこの魔力は先祖の死で生成されるいんの魔力。一度体内に取り入れれば心を侵食され死に達する。それが私の役目なんです」


「はい、貴女の言う通り魔術師は正義です。何より貴女の敵である勇者の実力は測りしれませんが、同時に存在する黒魔術の方角を敵は知りません。本当にその役目かどうか、見てくれませんか」


 俺はそれ以上を控えた。

 俺が魔術師と戦う過去は敵対であり、魔力が回復しない体質は知っている。

 どれだけが伝わったか分からないが、これ以上は意志までそむいてしまう。

 また考えられる時間はメイミアが作っているが、簡単に決められるものでは無い事を承知で、待っている頃には、碧眼から雫が溢れていった。


「日々の手紙に語る少年を想像して、自身の境遇と照らしていました。私に物語の結末を見せてくれますか?」


 足場に十mの魔法陣が発現し、黒い魔力が紋様に走っている。

 生命の引き換えになる発動条件、そう聞いている紋様が分裂し、黒い魔力が宙に彷徨さまよい出す。


「長生きします」


 そう言って俺の元に与えられた。

 移動中にメイミアの安否を聞かれたけれど、心配はなかった。

 到着すると紛争地かの砂埃が舞っており、一望してると余程荒れていたのが明らかになる声が合った。


「同志よ…何故悪の味方をする…」


 倒れている勇者の姿が見つかった。


「悪人だと一括りにした考えにムカついた」


 そして言い合うミグサを、メイミアがニヤニヤと覗いている、そんな光景が少し安心した。


◇◇◇


 魔王城は総括軍隊長の緊急指令を受けて、兵を率いた魔物達が列席し廊下中に宴が広がっていた。


「美味しいー!」


 樽俎そんそにメイミアの声が紛れたのは、ミグサと三席並びで座っており、最前に立つ魔王へ魔物達から讃えられる式辞があった。

 ずっと眺めていた俺はその締めと共に、皿の山を建設していたメイミアが肉の切口を見せてくる。


「これ凄い美味しいんだよ、何のお肉だろう?」

 

 何だっけ、近くに座るアメジストは手付かずのミグサに料理をすすめていて忙しそうだが、ちょうどこちらに視線が向いた。


「ところでそこのお嬢さん。結構な魔物っぷりとお見受けするが、何者だ?」


「私はね? ふふーん。それは秘密だな!」


「何だ気になるじゃないか! シオン…知ってるんだろ? コッソリ教えてくれ」


 その興味津々のアメジストに、両頬に溜め喋りにくい中の〝悪魔〟と囁く以外には、たわいもない談話からあっという間の夜になり。

 魔王軍に見送られている魔王城の出口で。


「寝室なら御用意していますのに、本当に泊まっていかれなくてよいのですか?」


「はい。明日に学校がありますから」


「私はシオンに取り憑く役目がありますから!」


 俺は魔王城を見上げ、満足感と未練が入り混じっている隣にアメジストが片膝を付いてメイミアをあがたてまつる姿勢でいる。


「分かりました。ではこれを」


 魔王の合図に皮袋を持つ魔物達が俺らへ配った。


「魔王城をぶっ壊したしチャラでいい。お前が持ってろ」


 金銀宝石が入る皮袋をアメジストに押し付けるミグサ。


「ば、馬鹿野郎! 受け取れる訳ないだろうが」


 次に受け取ったメイミアは中身をジトーっと見つめていた。


「わぁーい! ありがとう。じゃあ寄付するからご飯またご馳走ちそうして貰おっと」


 笑顔で返すメイミアに魔物は困りますと両手で拒否。

 互いに手こずっている間。


「今日の事は忘れませんから、約束です。長生きして下さいね」


◇◇◇


 見慣れた景色や道中で分かれ道に差し掛かる。


「サボるなよ?」


 別れるミグサを見送っていたら「ねえ皮袋持ってないけど、どこにやったの?」とメイミア。


「ん、秘密」


 桃を齧りアルタイルの空を仰いで歩いてゆく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 中世風の世界にやって来たと思ったら、 まさかの魔王さまの護衛という驚きの展開。 葛藤しながら奮闘するシオンが勇者との戦いに挑む姿にドキドキしながら読み進めると、ミグサとメイミアが登場。 …
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