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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
アグノスワールド
106/109

本堂

 黒い架け橋が流れ星々が少ない。転移という移動中黒い架け橋が流れるのは珍しく、場所は九次元。真っ暗闇から「お嬢さん。このまま進めばいいか?」と聞こえる。


「はい。我々は細心を払っています。この方角には一紋いちもん(兄や姉)が住まう所で愚冴ぐさや姐様、今頃は親父も」


 そう言って案内を務めていたシグラ。体調は安定している。しかし寒い。ここはボイドと呼ばれ光の届かない環境にシグラは身震いした。ワルプルギスはいったんの移動を止め上着を脱ぐ。晒される両腕は熱を帯び、長身の容姿からは覇気のような存在感が顕著に表れ、その上着をシグラに着せて今一度抱っこするワルプルギスは高揚を宿していた。

 シグラの「温かい」との声に「そうか」と微笑み速度が上がる。強いを求めている由縁がいざこのように向かっていると血が沸き「お嬢さん。パパは強いか?」とエネルギーを放出した。


「身内では、最強という認識です」


「そうかそうかはっはっは! 腐敗の方角として破壊神という逸話いつわはどれも心が揺れるばかりだ」


「私は親父の過去を全然知らなくて」


「そうか。最盛期の神々が手に負えないと聞く」


「そうでしたか。私は足手まといで姉からは手に負えないとばかり、今回の行動も、似たのかもしれません」


「んん。アルテミスの抗いといい、それが解けた今は本来のエネルギーを取り戻すだろう。長い時をもって身の丈に合わない意志が今回を作り上げた。足手まといというなら、それだけ煩悩がでかいのよ。心から欲した証よ。だがもう叶っているかもしれぬな」


「優しいですね」


「いいや事実を考察したまでよ。ん」


 灯りが映る。視覚に光が届く星まであとわずか。

 シグラは「ご案内します」との声を置いて、二人の姿が流動体のように揺れ出す。

 シグラの移動法で目的の星にひとっ飛びした二人は大地に立つ。

 入り口に風神雷神の像があり巨大な寺へ向かうシグラにワルプルギスは観光目線で見渡す。

 独特かつ神聖、赤い廊下を進み本堂の戸を開ける。シグラはスーツを携える後ろ姿に「シオン殿に救われ帰還しました叔父貴おじき。こちらは」と口を止め、更に立つ四人の後ろ姿を伺う。

 彼らはたった今『迎え』に駆けつけた一紋いちもん。シグラにとって叔父貴五人の表情は目を疑うばかりに浮かべ、壁や天井、家具や装飾が木っ端微塵になっていく本堂に身動きが取れず、シグラやワルプルギスも本堂へ目を配る。

 若々しい肌へ追撃する愚冴ぐさの姿に「ははは」と笑うシヴァ。天井から飛ぶ愚冴ぐさはシヴァの顔目掛けて拳を振っていた。

 シヴァは体をそらすようにかわし、蹴りを空振る。空振った蹴りは竜巻かの風を生み壁を壊す。

 そんな光景はシヴァとの顔合わせで「テメェがじいちゃんを見殺しにしやがったクソ野郎か」との衝動で、自然な形で愚冴ひまごを迎えるという意志が最も不自然という結末。現状迎えに駆けつけた五人は眉間にしわが寄る。

 五人は文明の侵略、領土化するシヴァ家の一紋いちもん

 彼ら兄姉けいしはここから遠い場所で勤しんで、つい最近姐様が男雛様おびなさまを迎えに行くとの伝令で、急いで本堂に帰還という形でたった今着いた。

 愛称はアマテラス、ヴィシュヌ、タルタロス、ロキ、ツクヨミ。

 彼らが降り立てば嵐が吹いて更地と化す、我が家族を迎えて思うはそう。

 

「「「「「怖わ」」」」」


 だった。


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