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ある追憶の戦術使い  作者: 神崎蒼葉
アグノスワールド
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追憶の時

 愚冴へ「我らを受け入れてくれてありがとう。姐様はるんるんで会ってくるって言うもので、本当はもっと大勢で迎える予定だった」とヴァイシュラヴァナ。


「ええ」


「男雛様の事はみんな知ってる。身内でゼウスの雷霆止めたって持ち切りだ」


「あの時は偶然…でした」


「そうか。偶然で最高神の雷霆止めるなんて凄えや! 俺の事は好きに呼んで欲しいが、叔父貴って言ってくれて構わないぞ?」


「叔父貴。極道みたいだ」


 愚冴は笑って「さっきは」と紡ぐ。


「ん?」


「救われた」


 命をと伝えるはずが理性のないルシフェルの大刀に吹っ飛ぶヴァイシュラヴァナ。

 しかし『救われた』と聞くヴァイシュラヴァナにはしっかり伝わっていた。


「ヌシがいようがいまいが刺し下ろして終いじゃ」


 問答無用な顕現に宙を回り「できれば愛が…いや殺意以外なら何でもよかったが、活動時間内に捉えられるはずない、だろ…」とうつ伏せから立ち上がる視界は白黒の世界を映していた。

 ショックの影響によるもの、でなくルシフェルから血色い冷気が吹き抜ける。

 

「我はまだ堕天しておらぬ故、ヴァイシュラヴァナ…ヌシのためなら本望じゃ、死ね」


「…叛逆って本来最上級の大罪なんですが」


「我はそういうのに興味なし」


「ま、待ってくれ。もう一度だけ」


「なんじゃ」


「俺と結婚して欲しい」


「嫌じゃ」


 不吉に歪め咲うルシフェル。

 片や「ヴァイシュラヴァナ居ないと不味くない。天使と戦える力ないよ私」とシグラ。

 ブラバンは「さっき言ったわ!」と荒げフィリップがのほほーんと催促した。


「ヴァイシュラヴァナ早く戻って来てよ?」


「そうしたいが白魔術界アルタイルの消滅すら死活問題だ」


「どうして?」


「領域文明の住人が居る」


「愚冴を迎えるなら多少の事は許可済みでしょ?」


「それは天使達の事だ。白魔術界はダメだ…」


「姐様も居てダメなの?」


「凛界とレリアスの戦争あったろ。レリアスの王者敵に回すのはヤバすぎんだろ…」


「でも親父戦ってたじゃん」


「親父自体知らなかったんだ。定例報告で言ってたし機密として下された」


 そう言う事でとブラバンが「ラファエルを討つ。姐様。宜しいでしょうか?」と尊厳に達した。

 輪廻浄土を無力化する狙いや彼女の地位は姉。シグラ、フィリップ、ラスカリナの生存率を元にラプラスへ呈した。


「ここで死にやり残す事は?」


「ヴァルデの後継者でしょうか」


「まだ若い。生き残る方角を勧める」


「御意」


 尊厳を収めるブラバン。今後にどう響くかは想定されず愚冴へ赤らめた。


「ご令兄様れいけいさま


「…」


「歓迎します。本当は親密な関係を築けたらと考えておりました。ただ現状は芳しくなく、叔父貴は元来別の部隊に所属しており、私達をまとめていた姉にあたりますヴァルデは病の治療に専念する様、務めておられです。またこの通り出来の不十分な妹達は他の部隊に適する力を付けておらず、私達は衰退を辿っています。ですが今宵まで、親父からご令兄様の存在を知り、配属の話を付けて参りました。どうか、私達の兄上になってくれませんか?」


「兄に?」


「はい。図々しいのは重々承知しています、私達を救ってはくれないでしょうか…」


「…あなた達を…救う…」


「はい」


「…悪い。そんな力は持ち合わせていない」


「ご令兄様は雷霆を止められる強者なのです」


「それはまぐれなんだ。俺はディア様の加護や死神の契約で奇跡が起きた」


「まぐれではないんです。ご令兄様はディア様の加護や死神の契約でなく、親父の淵源が引き起こされ雷霆を受け止めたのです」


「…」


「私の記憶には」


「妹なのか」


「え?」


「俺は尊厳とか分からない。メイミアを救いたくて、それが偶然持てた力で今は何も残っちゃいない。けど叔父貴に救われる直前、俺は家族を欲していた。現れたのは妹でいいのか?」


「はい」


「俺は妹が思ってる程強くない。いいのかそれで」


「まだ、尊厳に達していないが正しいと思います」


 愚冴は自分を敬うブラバンに不安し、またこの様に弱い自分を敬うのは、彼女達の生存において同様に心配していた。

 現に見る目があるのか無いのか、肩書きに着目するのはいい。

 ただ弟の前で力を振るえなかった、身内のために救えなかった人を敬っている。

 致命的ではないか、肩書きに隠れる失敗の数々を見落としてはいないだろうかと。

 ラプラスは見据えていた。

 弟の前で暴力という影響を受けて欲しくなかった決断を、ラプラスは「ラム」と零す。


「なんだい?」


「愚冴はやらない。代わりにアレイオンをやる」


 もしこの場で聞いていたら俺は物じゃねえと怒りそうだが、本人はくしゃみした。

 ラムは用心深く努力した。

 無になろうと真剣に「あたしはゼウス様以外に命令されたくないんだ…」と上空にブラックホールの顕現。もはやラファエル以外に平常心を持つ指導者が居ない所かブラックホールにより輪廻浄土の持続時間が減る。


「ラム。私はゼウスの様に善は持たない。神々の最盛期を生き抜いてきた私に、最古の天使が叛くって事は、ここで消滅を齎すが覚悟あるのか?」


「…あぁ」


 吐息が漏れる。天使達の死を確約するラプラスの言葉に。

 落胆した。

 ラムはレリアスの戦争後、アレイオンの行いをゼウスから知った。

 二強だったという全盛期時代に、ラプラスを知った。

 それは若かったゼウスが老けた暗黙の黙認。

 そこでアレイオンと共に歩んだラプラスはとても若い。

 ゼウスにそう聞いて魅力的に感じていたラムは甘かったと痛感した。


「そんな捻くれるなよ?」


「ん…」


「私の尊厳は振り幅がデカい。通常は遊びみたいなもんだ。それでいいなら…な?」


 ラプラスは脅しでなければ落ち込まれるつもりなく、身内は望んでいないが、つい先程愚冴が罵った際ヴァイシュラヴァナやブラバン達は度肝を抜かれた。


「遠慮するよ。天使達が可哀想だと気づけたんだ。でもいいのかい?」


「…」


「上が」

 

 上空にヴァイシュラヴァナとルシフェルが、その天に「ならば全員もれなくここでひっ捕えよう」とゼウス、アレス、アルテミスが顕現した。


「骨が残るといいなシヴァの末裔」


「あらあらお可愛い男…」


 十二柱の神々である。ゼウスの横に立つはアレス、アルテミスは領域文明の女王。

 実しやかに軍神の尊厳は戦争を謳歌するアレス、狩猟の女神を率いるは殲滅条約の同盟。

 追憶の時を遡るは三兆年前、九次元の創造主達がその統治をふるった戦術の幕開けである。


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