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#2

 博久は意外にも冷静であった、というよりは平静を装う事が偶然にも可能だったと言うべきかもしれない。この状況に見覚えがあったからだ。


「どうやら私は読んでいた小説の異世界に来てしまったらしい。」


 博久は大の異世界小説ヲタである。スライムが無双するのも、スマホで無双するのも、盾で無双するのも全て彼の頭の中では自分の経験の如く、異世界移動のテンプレは個人の記憶として完璧に網羅されていたのだ。


 ならば、である。異世界とはすなわちチート、主人公つえーーが定石だ。私には何か特別な力が備わっているのかもしれないと考えてしまう。少しの羞恥と特大の期待を胸に、温めておいた自作の呪文を唱えた。


「硬煌玄斎沙猛庵霊舞光線(ニホニウムこうせん)!!!」


 何も起こらない。虚しくも発せられた声が空振る。

 動作が肝心なのかも知れないとあらゆる体勢を試したがこれもまた駄目であった。

 博久は只今出来たばかりの黒歴史を打ち消す様にして咳を込んだ。


「神は私に何をどうしろというのだ、私如きが異世界に来たところで無益な屍を一つ多く積み上げる事になるのが関の山ではないのか?」


 いや、屍すら残らないかも知れない。そしてそれは同様に確からしい。


「騒がしい人間じゃのう。」


 今のは博久の声ではない。その背後から発せられた声である。

 恐る恐るかつ慎重に振り向けば、そこにはツノが生えている以外は普通の、10代程の幼気(いたいけ)な人間の少女が困り顔で佇んでいた。


「お嬢ちゃん、いつからそこに?」


「ヒホヒウムコウセェェーーン!!!」


 それでは、最初からではないか、お恥ずかしい限りであった博久の顔は若干赤らむ。


「盗み見とはタチがお悪い。」


 かけていた眼鏡をクイっと上げる。


「お主が気づかずに変なポーズをとりながら奇声を発しとっただけじゃろうが。」


「ぐっ!」


 ぐうの音も出ない。後悔先に立たずである。

 それにしてもこの少女は何者なのか、博久の頭の中では数々の憶測が飛び交うが、その結論が今でた。


「ところでお嬢ちゃんは何者か?さては少女の化けの皮を被ったロリババアではあるまいな?」


 単刀直入な質問に顔をしかめるロリババア、もとい少女。


「人間如きが大きく出たのう、まあ……、よい。確かに儂は齢100は超えておるが、竜族からすればまだ若い方じゃ。

 対してお主は人間で言うところの成人の匂いがするのう。これで大人とは底が知れる、所詮弱小種よ!」


 ババアは笑う。

 博久と竜少女の読みはほぼ当たっていたが一つの間違いを指摘する必要があった。


「舐めないで頂こう。私は人間の大人の中でも底辺レベルの(あくた)である!私を当てにしても人間の程度は測れないと思って頂きたい!!」


 誇りも糞もない堂々とした物言いに、竜少女の表情筋が更に強張った。同情すら虚しい程である。


「悲しい奴じゃのう、その卑屈さに免じてお主は儂のペットとして飼ってやろうぞ。生きたくばついてこい。」


「有り難き幸せ!!」


 即答したのには秀逸な理由がある。見知らぬ異世界での生活が保証されること、合法ロリと共に行動できること、ロリと触れあえること、ロリに命を握られることである。……末期である。


 竜少女は身震いを要する形容しがたい恐怖を感じた。その後ろの変態が原因である事に気付いてはいない。


ボッチの豆知識


本当のボッチは自分の事をボッチとは言わない

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