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気のせいではない、それはそこにいる。  作者: 甲子園のソクラテス
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遭遇

 ちかちかといたり消えたりを繰り返している頼りない外灯が並ぶ路地を、俺は一人自宅に向かって歩いている。自宅といっても安いぼろアパートだ。高校卒業後、進学願望も就職願望もなかった俺は取りあえず上京してぼろアパートの一室を借り、コンビニバイトをしながら何とか食いつないでいる。俗にいうフリーターというやつだ。今日もそのコンビニバイトの帰りで、深夜の0時までシフトが入っていたためかなり帰りが遅くなってしまった。0時までバイトをしていたと思うとバイト中ため込んでいた眠気に急に襲われた。早く帰って寝よう。そう思い自宅へと向かう足を速めた。その瞬間視界の隅に何かが映った。反射的に何かが映った方向へと顔を向ける。そこには真っ赤なワンピースを着た長髪の女が倒れていた。


「大丈夫ですか?」


 俺はその女に声をかけた。同じ状況になったら10人中9人が同じ行動をとると思われる普通の行動だ。だが俺はその普通の行動をしたことに対してやってしまったという感情が湧き出てきた。なぜなら女は雨なんか降っていないのにびしょびしょに濡れていて、それでいてあまりにも肌が白すぎた。いや白すぎたというよりかはなんというか紫に近い色をしていた。とてもじゃないが生きている人間とは思えなかった。体中に寒気が走った。関わってはダメだ、今ならまだ間に合う。そして俺は女から顔をそらした。確かに俺は今、女から顔をそらしたはずだ。本来ならば俺の後ろに女がいるはずだ。しかし女は俺の目の前に立ち尽くしていた。前髪が長すぎるため目は見えないが、俺を見ているということはなんとなくわかった。鳥肌がいっきにたつ。だが俺は恐怖の念を押し殺して、女と反対方向に走って行ってこの場から何とか逃れようとした。だが女に背を向けた瞬間また目の前に女が立っていた。どうしようもなくなった俺は一か八かで女の横を通り抜けようとした。


「どうにかなれ!。」


 この作戦は成功した。女は俺が横を通り抜けるのを邪魔してこなかった。だが女の横を通った瞬間なぜかガソリンのような匂いがした。そして俺はそのままアパートまで全力疾走した。


 アパートの自分の部屋に入ると、自分の部屋にあの女がいないことを確認してから鍵を閉めた。汗でびしょびしょになっていたが、そんなこと気にも留めずにベッドの上で布団にくるまり、なんとか早く寝ようとした。眠気なんてとっくの通り覚めていた。だけど寝ないでこのままいるよりは、太陽が昇ってくるまで意識を飛ばしておきたかった。


 30分くらいたっただろうか。ようやくうとうとしてきた。もう女のことなんてほとんど忘れていて、このあとのバイトのことを考えていた。その時だった。


ピンポーン


 急にチャイムが鳴った。俺はベッドから起き上がる。冷や汗をかきながらおそるおそる受話器を取る。


「はい?」


「毎朝新聞のものですが朝刊をお届にまいりましたー!」


「あ、わかりました今行きます。」


 元気そうな男の人の声だった。なんだ新聞の人か。肩の荷がすっかり降りた気分の俺はホッとして玄関へと向かって行った。そして靴に履き替えてドアを開けようとした。


ドンドンドンドンドンドンドンドン


「すいませーん、まだですかー?」


 新聞の人が催促してきた。ここでふと冷静になったのか俺はおかしなことに気付いた。新聞の人って届けるときわざわざピンポンしたっけ?そもそも俺新聞なんかとってたっけ?。そのことに気付いた瞬間一気に寒気が走った。まさかまたあの女なのか。もうやめてくれと俺は半泣きになっていた。


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


「すいませーん?すいませーん?。」


 そんな俺の気も知らずドアをたたきながら、開けるように促してくる。決して開けるものかと思いながら声を押し殺した。そして俺は自分の息の音が聞こえるぐらい耳をすませた。


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン


「スイマセーン?スイマセーン?アケテモラッテモイイデスカ?。」


 だんだんとしゃがれた女の声になってきた。やはりあの女だ。俺はすり足で玄関から離れて行った。そして泣きながらベッドの上で布団にくるまっていた。しばらくずっとドアをたたく音が聞こえていたが、10分くらいしたらなにも聞こえなくなった。ホットしたら急に尿意が襲ってきたので俺はトイレに向かった。そしてトイレで小便をして部屋に戻ると部屋が燃えていた。まさかこれもあの女のせいか?。あわてて消火しようと思い、蛇口をひねったがなぜか水が出なかった。


「ちくしょー!。」


 俺はどうしようもなくなって部屋から出た。部屋から出ると案の定あの女がいた。前髪で顔は隠れているがケタケタ笑っているのはなんとなくわかった。自分の体が震えているのがわかった。だがなぜか俺はこの時女に対する恐怖よりも部屋を燃やされた怒りの方が大きかった。


「何笑ってんだよこのやろー!!。」


 俺は強気な声で言った。そしたら女は急に黙った。急に黙った女を見てまた恐怖が蘇ってきた。

 

「な、なんだよお前、何がしたいんだよ!!。」


 俺は震えた声でやけくそに叫んだ。すると女は突然自分の顔にかかっている前髪を両手でつかんで唐突にぶち抜いた。俺は恐怖のあまり声にもならないようなか細い悲鳴を上げた。そして前髪がなくなったことにより見えるようになった女の顔を見てさらに悲鳴を上げた。女には目がなかった。本来眼球があるべき場所にはぽっかりと穴があいていた。


「目・・・、チョウダイ・・・。」


 女が俺の目にむかってしわしわの手を伸ばしてきた。


「や、やめろ!!。」


 俺は必死の抵抗を試みようとした。だが体が動かない。それでも必死に俺は逃げようとした。女の手はどんどん近付いてくる。もう駄目だと思い目をつむった。ここで俺の意識は途切れた。


 気がついたら俺はベッドの上で寝ていた。真っ白な天井に白いカーテンに囲まれたこのベッド。ここが病院だということはすぐにわかった。あの女は?と思いあたりを見回したが女どころか人の気配すらしなかった。俺は女がいなかったことにとりあえず胸をなでおろした。それにしてもぼやけて見えるな。実はさっきからなぜか視界がぼやけて見えている。寝起きのせいかと思っていたが何度目をこすっても一向いっこうに良くならない。弱ったな。あとでメガネでもつくりにいくか。あ、そういえば俺の部屋どうなったんだろ。全焼したのかな。普通だったらパニックになるような状況だと思うが、この時の俺は女がいないというだけで妙な余裕があった。とりあえずこの病院の医者かナースでも探すか。そして俺はベッドから降りようとした。


ガチャッ


 扉が開く音がした。誰かが部屋に入ってきた。普通に考えれば医者やナースが入ってきた思うのが普通だが、女にさんざんな目に遭わせられた俺の思考は疑心暗鬼になっているのかとっさにベッドの下に隠れた。コツコツとした足音が部屋の中を響き渡る。なにやってんだろと思いながら耳をすましてじっと足音を聞いてみた。どうやらその足音は俺の方へとまっ直ぐ向かってきているらしい。その足音が近づいてくるにつれ、なぜだかわからいが背中に寒気が走った。足音がとまった。唾をごくりと飲み込み、自分の息の音さえ押し殺そうとした。そいつは俺が隠れているベッドの周りにあるカーテンを開いて入ってきた。俺はそいつに見つからないようにおそるおそるベッドの下からそいつを見た。そいつの姿を見た時とっさにベッドの下に隠れたのは正解だったと思い知らされた。また同時にまだ終わっていないということを実感させられた。














































































怪異は連続する。



 

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