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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第一章 殺人鬼
9/14

episode8

「どういうことなんだ」

「どういうこととはなんですか?」

「あれは、いや、今回の殺人鬼はどうみても人間の技じゃない。あのバケモノはいったいなんだ?」


報告を受けた後、女王に連絡を取るとすぐに王城にやって来た。


「女王、俺はお前に殺人鬼の調査を任されていた。それは良い。だが、あのバケモノなんだ?『水神』でケロッとしているなんて聞いていない。今回はなぜかあのバケモノが逃げてくれたから全員生き残れた。だが、もし逃げなかった場合、どうなっていたかお前なら分かるだろ?」


最悪俺の持つ切り札を使わなくちゃ勝てない可能性もあった。だが、その場合もうユリを守ることはできなくなる可能性がある。それほどの切り札だ。


「女王は殺人鬼がバケモノと知っていたのか?」

「……可能性の1つとして認識していました。ただ、確証はありませんでした。」

「今…、この国では何が起きている?」

「今、エルフが我が国の貴族派と結託しているという噂があります」

「エルフだと?彼らは自民族以外決して受け入れない存在だろう。どうして貴族派なんかと?」

「確かに本来エルフという民族は自民族のことしか考えていません。しかし、彼らの目的を考えれば納得できます。彼らの目的はエルフによる世界支配です。」

「世界支配か……」

「はい。彼らは『自分たちは本来この世界の統べる種だ。それにも関わらず、同胞共攫い、その純潔を汚す。そのためには今一度エルフは高潔な種族だと世界に知らしめる必要がある』そういって多くのマジックアイテムや魔術師を集めています」

「エルフたちは過去にその考えをもって世界侵略をしたから、恨みを買ったっていうのにどうして歴史を繰り返すんだ」

「それだけ過去の栄光にすがっているんでしょう。彼らはその中でもどうしても手に入れたい力があります」

「魔王の力か」

「そうです」


魔王は今から30年前に消えた。その理由は魔王が人に恋をし、人と共に生きることを決めたためだ。そして、魔王は勇者と戦わずにいなくなってしまった。その時、魔王の力と共に多くの宝具を持ち出していなくなってしまった。


「勇者の力は魔王がいなくなると同時に無くなってしまいました。そのため、エルフたちは魔王の力を見つけ出し、その力をもって世界侵略をしたいと考えているんです」

「魔族が持っているから、魔王っていうのにその崇高なエルフ様もずいぶんと落ちたもんだ」

「それだけ切羽詰まっているんでしょう。そして、魔王が消えた我が国で調査するうえで、我が国の貴族派を利用しているのでしょう」

「それと今回のバケモノなんの関係があるんだ?」

「分かりませんか?エルフはどうやってでも魔王の力を手に入れたい。しかし、どうやっても奪うことができない。ならば、魔王の力を作り出せばいい」

「おい…それって…」

「私たちはエルフが魔王を作り出そうとしているのでは考えています」

「バカなのか!?よりにもよって作るだと!?エルフ共は本当に何を考えている!」

「仕方ないでしょう……崇高なエルフはもう死んだのです。今彼らにあるのは自らの欲望を満たす。それしかありません。」

「つまりあのバケモノはエルフが作り出した魔王と考えていいのか?」

「いや、どちらかと言えばエルフの協力を得た貴族派が作り出したと考えています。」


頭が痛くなってきた。エルフが愚かなのか貴族派が愚かなのか、それともエルフを追い込んでしまった世界が愚かなのか。どちらにせよその生み出された物を早急に片づけないといけない。これ以上、被害を拡大させないためにも。


「改めて女王として正式に依頼をします。ショウ・アストレア、あなたにバケモノ退治を依頼します。もちろん、報酬はしっかりと出します。そうですね……女王の名の下にあなたにどんな望みでも一つだけ叶えるのを約束しましょう」

「望みはないけど、もらっておく。どんな手段を以てしても確実にバケモノを排除するが、生死は問わないんだよな?」

「ええ。それに懸賞金も賭けて冒険者や賞金稼ぎにも動いてもらいます。これならショウさんの動きも読み取られにくくなるでしょう。」

「助かる。捜索はどうする?俺一人じゃとてもじゃないが見つけられない」

「アルトリア家が手伝ってくれるそうです。あの家もそれを分かっていたから生け捕りにしようとしたのかもしれません。生け捕りにすれば、そこから芋ずる式に貴族派の人間を炙り出せますから」

「分かった。」


しかし、俺はまた殺すのか…何度も悔いたというのに。

相手がバケモノで仕方ないことは分かっている。

だが、それでも俺の中には昔の…傭兵をしていた時に殺しまくっていた記憶がある。

それが時折甦り、吐き気を催し続けているのは今に始まったことじゃない。

できるうることなら生け捕りにしたい。

そう思いながら大広間から立ち去った。





翌日、教室に来ると大勢の生徒がなぜかショウを出迎えていた。


「えっと何?俺、なんかした?」

「アストレア君、助けてくれて本当にありがとう!」


目の前のイケメンは確かバケモノの攻撃を受けた一人だった気がする。それで確か他の同級生と治癒魔法をかけていた気がする。


「た、退院できていたんだ。病院で精密検査をするんじゃなかった?」

「それがここまで完璧な治癒魔法は見たことないって病院の先生たちも言っていてね。入院もする必要がないだろうってすぐに返してくれたよ。それと、これ僕の実家からお礼にって」


なんか滅茶苦茶高価そうな腕輪を目の前のイケメンは渡してくる。


「残念だけど、それは受け取れない。俺はそれが欲しくて治したわけじゃない。もし何かを受け取ってほしいならいずれ君が困っている人を見つけた時にでもそれをあげてくれ」


すると周りの人たちもなぜか感動して泣き始める者までいる。ちょっと数日前までと変わり過ぎて怖いんだけど。


「アストレア君、数日前までの僕らの非礼を許して欲しい。僕らは君がてっきり浪人してまで学園に入学した落ちこぼれと思ってバカにしていたんだ。それで愚かにも卑劣な行為に出てしまった。それ加えて、あの時の君の指示も無視したのに、治癒魔法で治してくれるなんて…」

「わ、分かったから、もういいから。せめてまともに話くらいはしてくれればいいから」

「もちろんさ!君は僕らの命の恩人!そして君の実力は僕らがしっかりと見た。君は浪人生なんかじゃない。僕らにして欲しいことがあったらなんでも言ってくれ」


正直、面倒になった。あの時、見殺しにしていれば楽だったのかもと本格的に考える。まぁ、そんなことはしないけど。


「これでショウ様の素晴らしさを皆さんも分かってくれたようで良かったです」

「はい!本当に良いことです!」

「なんでエルとユリがここにいる?ここは高等科だぞ」

「分かっています」

「分かってるよ」

「なら、帰ろうな」

「嫌です」

「嫌だよ」


こいつら…あんまりふざけていると本格的に窓から追い出そうかと考える。

するとユリが話しかけてきた。


「ショウ様は昨日の夜はどこに?」

「傭兵として仕事を頼まれた。仕事内容は『バケモノ』の捜索と討伐だ」

「そうですか…やはり。今日の新聞でお母様が殺人鬼の正体が魔物であると分かり、アルトリア大公を筆頭にその魔物を早急に討伐すると書いてあったので」


どうしてこうも王家の奴ら情報に関してガバガバなんだ。いや少しは考えてバケモノを魔物と称しているだけまだマシか。だが、女王が前面に立った以上、貴族派も動き出すだろう。自分たちにつながる情報の流出を防ぐためにもどちらが先に討伐するか早い者勝ちになるな。


「あのバケモノに対してはどんな手段を講じてもいいということで、生死は問わない。俺以外にも国内の冒険者や賞金稼ぎが参加している。捜索はアルトリア家が手伝ってくれるようだ」


おおぉ~という感嘆と安堵の声と共に皆の視線がリリアに向く。


「え、えっと……、うん。そうみたいだよ。分かったら冒険者さんやアストレア君に教えてあげることになっているよ」

「ショウ、勝算はありそう?」

「無かったら受けないだろう。それに今度仕留められなければ、被害も大きくなる。被害がさらに大きくなる前に防がないと」

「確かにね。今でも殺人が起きているし、これ以上拡大しないとも言えないね」

「そう、だよね。ね、フィオネちゃんもそう思うよ…ね?」


フィオネはなぜかさっきから思いつめたような表情をしている。


「フィ、フィオネちゃん?」

「え、ええ。そうね、確実に倒しなさいよ!」

「あ、ああ…」

「フィオネちゃん大丈夫?体調悪そうだけど」

「だ、大丈夫よ。で、でも、ちょっと気持ち悪いから保健室行ってくるわ」

「あ、フィオネちゃん!」


フィオネは逃げるように教室から飛び出すと保健室に向かって行った。


「ショウ、あれは何かあるよ」

「分かってる」


レンの小さな声に俺も静かに返答した。

「それでどうして俺をここに呼んだのか教えて欲しい」

「……アストレア君に頼みがあるわ」


ショウはその日の夜に男子寮を訪れたフィオネを呼び出された。二人きりで話がしたいというのにレンが付いてくるという事でレンは腹に突きを入れて気絶させた後、学園の屋上にやって来た。


「なんだ?」

「バケモノの討伐に私も連れて行って欲しい」

「どうしてだ?」

「それは……」


なぜか言いよどむ。いつもならズバズバと物を言うのにらしくなかった。


「あのバケモノのこと知っているんだろう?」


もしかしたらフィオネは貴族派の人間なのかもしれない。そうなれば、今ここでフィオネを拷問でもすれば吐くかもしれない。そう考えて生け捕りにするため水魔法の『眠りの霧』を使おうと魔法を構築し始める。


「あの…バケモノは…になの…」

「ん?今なんて言った?」

「あれは兄さんなの」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。お前の兄さんはバケモノなのか?」

「そんなわけないでしょ!」


フィオネが言うには兄はグライス家の長男であったが、魔法があまり得意ではなかったため不遇な扱いをされていたらしい。しかし、王家はその兄の雑務の管理能力を重宝し、国の役職を与えていた。その結果として兄は熱狂的な王家支持派であったということだ。

ただ、グライス家は元々あまり王家とつながりたがらない家だったらしく兄のことを疎ましく思っていた。しかし、ある時その兄が消えてしまったらしい。フィオネは王家が殺したと両親から説明されていたらしいが、フィオネ自身がこういう性格のためだったのが良かったのか分からないが、あれだけ兄を重宝していた王家が兄を殺すわけないし兄自身もいつも王家のことを称賛していた。それなのに王家が兄を殺したというのが信じられなかったらしい。


「兄は行方不明になる前も王家のことを称賛していたわ。王家のためなら命だって差し出せる。そう言うくらい王家を称賛していたわ。それに何よりどうして兄さんが死んだなんて……私には分かる。あのバケモノは兄さんだって」


おそらく貴族派が王家に対して仕組んだものと捉えるのが正しいだろうな。グライス家自体は貴族派なのにそれを継ぐフィオネの兄は王家派に傾倒していた。だから、邪魔になったから同じ貴族派に売って魔王を作り出す実験台にされた可能性があるかもしれない。


「兄に会いたい。だから、付いていきたいってことか」

「ええ!兄さんに会ってどうして助けたいの」

「フィオネ、君がいても―」

「役に立つわ。私なら今どこに兄さんがいるか知っているもの」

「なんだと?」


邪魔なだけと言おうとしたが、フィオネはそれを感じ取って先に言う。


「私なら兄さんがどこにいるか知っている。そして、アストレア君の手伝いができる。私だって実はカテゴリー4なのよ!」

「カテゴリー4なのか。しかもまだ在学中で…」


在学中にカテゴリーが3以上になることは余程の才能がないと不可能なことだ。俺と比較して力を足りないと嘆いていたが、一般生徒から見たらフィオネの実力は桁が違う。


「お願い。私は兄さんを助けたいの!もし……ダメなら私が兄さんを殺す。兄さんにこれ以上罪を重ねて欲しくない」

「分かった…俺もできる限りフォローする。こっちとしてもフィオネの兄は何か情報を持っているかもしれない。助けられるなら助けた方が良い。だが、フィオネ。自分が言ったその言葉絶対に忘れるなよ」

「分かっている」

「それでその兄はどこにいるんだ?今から行くのか?」

「それは明日の昼にしましょう。夜は暗いし、この前みたいに逃げられたら追えなくなるわ。」


確かにその通りだ。ショウも同意するように深く頷いた。


「しかし、兄か…前にも少し聞いたけどずいぶんと王家に心酔していたんだな」

「兄さん、滅茶苦茶性格酷かったけど、王家の話をしている時だけはかっこよかったわ」

「ん?えっとフィオネの兄って『目を曇らせてしまうと本当に大切なことまで隠してしまう。だから、常に視野を広げ、本当に正しいことを見極めろ』とかいって正しいことをしていたんじゃないのか?」

「ああ、ちょっと言葉足らずだったわ。ええ、していたわよ。仕事の時は。仕事中兄さんは私の誇りよ。それ以外はクズで最悪なクソ兄貴だったけど。プライベートではいつも私にちょっかいを出していたわ。」


そうなのか……どこの家でも兄ってそんな感じなのか。


「そう…だよな。いつもいつもかっこいいこと言って感心させるくせに次の日にはクズみたいなことを平然とやる。兄ってそういう奴だよ」

「そうよ!そうなのよ!ちょっかいかけてくるくせに私が無視すると縋ってきて。本当に何がしたいのか意味わからないわ!」

「だよなぁ!しかも、なにか重要な事があるときは一緒にやろうぜとか言って」

「ああ、あるある!」


その後しばらくフィオネと兄ウザイけど、妙にかっこいい談議が始まった。同じ兄被害者の仲間としても意外とフィオネとは相性が良いのかもしれない。


「アストレア君もお兄さんがいるの?」

「いたかな…昔。死んだけど」

「そ、そう…ごめんなさい」

「気にしなくていい。俺も兄もお互い割り切っていたから」

「そうなんだ。さて……あ、もう、こんな時間。そろそろ寮の門限だわ」

「マジか……じゃあ、明日。フィオネの兄を救うぞ」

「ええ、よろしくね。ショウ君」


別れ際、フィオネと握手してから別れた。そういえばフィオネとこんなにくだけて話したのも初めてだった。帰ってから仕事の用意もし終わるとレンが起きだして聞き出そうとしてきたのでまた気絶させて寝させてやった。


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