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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第一章 殺人鬼
8/14

episode7

その後、川についてバーベキューを始める。ゴブリンも時々現れる程度ですぐに撃退されるから一年生たちも安心して食事をしている。


「だいたいね!あんた生意気なのよ!」

「それは殿下じゃないのですか?そんなふうに正論を言われて怒るなんて、ショウ様が見たらなんて思うでしょうね?」

「う、うっさい!この中古!」

「ヒステリー!」

「なんですって!」

「誰が中古ですか!私は処女ですよ!」


遠くではユリとエルがお互いを聞くに堪えない非難しながらまだ言い合っている。かれこれ2時間くらい経つけど全く変わらない。もはや、貴族たちも黙って見守っている。


「ねえ、少し聞きたいことがあるんだけどいい?」

「どうした?改まって」


フィオネはリリアを含む数人のクラスメイトを連れてショウの元に来ていた。


「あなたに聞きたいことがるの。あなたは今の私たちが戦士隊に入りたいって言ったら入れると思う?」


フィオネがそう言うと周りが少し静かになった。


「いきなりどうした?」

「私たちは将来戦士隊に入るのを目指して日々魔法を頑張っていたわ。学園の先生からも将来は戦士隊に入れるかもしれないって言われたわ。けど―」

「けど?」

「アストレア君と会って無理なんじゃないかって思うようになった。アストレア君の魔術のレベルは私達よりもずっと上だった。少なくともアストレア君が言うように私がスキルや魔法を特定の系統の魔法に極振りしたってあなたよりも凄くならないのは分かっているわ。」


やっぱり気づかれていたか。ショウの魔術はちょっと特殊な要素があって、それを使って風と水の魔法をカンストさせるまで強くした。


「正直に言うわ。アストレア君、あなたにお願いがあります。私たちに魔術の指導をしてください」


そう言うとフィオネは頭を下げた。もちろんショウの答えは決まっている。


「無理」


ショウの即答に思わずフィオネ達は固まってしまった。


「な、なんで…?」

「そもそもどうしてフィオネ達が魔術をそこまで極めたいのか分からない。ただ、魔法へのフィオネ達の思いと俺の思いは全く違うものだと思うんだ」

「アストレア君の考えって何?」

「こうみえて俺は昔は凄く弱くてね、そのせいで色々と多くのものを奪われてきた。だからこそ、強くなり自分のような人間が二度と生まれないようにするため、弱い人たちを助けるために魔術を学んだ。そして今も昔も自分のその思いは変わらない。君たちはたぶん違うだろ。君たちは自分の出世のため、金のために魔法を習いたいんだろう。君たちみたいに俺に師事を乞う人達はこれまで腐るほど見てきたよ」


フィオネの周りの者たちの顔が歪んだのが分かった。フィオネ達にとって魔法は自分たちの価値を高めるためのものでしかない。俺はそんなもののために魔法を使う者たちとは決して相いれない。


「アストレア君だって王家の、ユリ殿下に近づいているじゃない。私たちと同じように自分の欲のためにお金をもらっているじゃない。違いなんてないわ」

「違います!あなたたちとショウ様を一緒にしないで!」

「殿下と同じ意見なのは非常に不服ですが、賛同します。フィオネさんだって私を助けてくれたショウ様を見ているはずです。ショウ様ほどの治癒魔法があれば、私なんか使うより貴族の方とかもっとお金のある人に使った方がお金をもらえることくらい奴隷だった私でも分かります」


いや、別に貴族相手にも使うことはあるよ。

それほど多くはないけど。

まぁ、ここは黙っているか。

フィオネも二人の言い分に言い返せなくなっているし。


「フィオネはエルを助けようとしたし、俺がトゥスクになじられている時も言い返してくれた優しい人で有ることは分かる。君なら俺が強くなった理由を教えても悪用はしないということも。だが、俺の魔法は弱い人たちを救うためのものであって君たちに出世のために教えるものじゃない。ましてや、戦士隊に入りたいから教えてくれなんていう願いのためなら受け入れられない」

「な、なんだよそれ!」

「そうよ!ケチ!」

「そうやって俺達を見下しているんだろう!」


断ると黙っていた外野が騒ぎ始める。ショウはため息をつきながら、バーベキューを食べ始める。

やっぱりいつもの奴らと同じで呆れる。

どうしてこうも自分勝手なんだろうか……この自分さえ良ければ何ていう考えのせいでどれだけの人達が被害を受けてきたのか考えたことはあるんだろうか?


「フィオネがなぜそんなにまで戦士隊に入りたいのかは知らないし、知る気もないが隠し事をしたまま教えることはまずない。」

「アストレア君にだって隠したいことの1つや2つあるでしょ!」

「その通りだフィオネ。俺にも隠したいことはたくさんある。それを隠したまま教えを乞いたいと思うのは良い。だが、それは信頼関係があって初めて生じる。」

「私は…アストレア君を信用している。あなたは優しい人だと思っている」

「残念だけど、俺は君が思っているほど優しくはないんだ。だから自分の魔法を教えることはできない」

「なんでよ…。私は、強くならないといけないのに…」


こうなることは分かっていた。俺と彼らの意見は決して合わない。俺は自分のルール、彼らは彼らのルールの元で行動しているのだから。ショウはもうこの話は終わったという事で、フィオネ達を無視してエルに顔を向ける。


「エル、俺はこういう男なんだ。今はエルに魔法を教えているが、いずれはエルが十分強くなったら必ず魔法を教えなくなると思う。すまないな。」

「いえ……ショウ様のような人だったから私は救われたんです。それに私はショウ様の信頼をもらえるように頑張りますから大丈夫です」

「そう言ってくれると助かるよ。」


エルのような物分りが良い子は本当に珍しいな。

もうこの手の話題には触れないようにしようと食事に手を伸ばしたその時ーーー


「!!」


背後で強烈な殺気を感じた。振り向くとフィオネの後ろにさっきまでいなかった黒い何かがいた。周りも突然のことで固まってしまっている。


「フィオネ!」


思わずフィオネを腕を思い切り引っ張る。


「きゃ!」


ヒュンと何かが通り過ぎる音が聞こえた。


「大丈夫か?」

「わ、私は大丈夫だけど、ケガが…」


腕を見ると少し切られて血が流れていた。


「い、いやあああああああああああ!」


突如、エルが絶叫を上げる。

その黒い何かはエルの方を向くとすごいスピードで近づいていく。

エルの隣にいたユリも全く反応できていない。くそっ!狙いはユリかそれともエルか…

間に合え!


「『強化×4』」


ショウは両足に強化魔法をかけ、ユリとエルを抱き抱えるとその場から二人を連れて離れる。その時、ザシュッという何かを割かれるような音がする。

ある程度、奴から離れると背中が燃えるように熱い…たぶん背中の肉を抉られたんだろう。


「全員、転移アイテムを使え!」

「えっ…でも」

「迷うな!アイツは相当なバケモノだ!早く1年生を連れて転移しろ!」


俺の指示に従って数人が数十名の一年生を連れて転移をする。もしもの時、上級生には転移アイテムが渡されており、それで学園まで転移する手はずなっている。


「いや、皆で応戦しろ!」

「おい!バカ、止めろ!」


俺の言葉を無視して何人かが魔法をその黒い何かに打つ。

さっきは良く見えなかったが、悪魔のような羽を持ち、真っ黒な長い髪が顔を覆っている。


「エル大丈夫か?」

「いや、いや、来ないで、来ないで…」


エルはパニック状態になっていて会話ができていない。


「ユリ、お前に俺の転移アイテムを渡す。今のうちに1年生を全員集めて転移しろ」

「分かりました。でも…」

「俺なら大丈夫だ。早くしろ」

「はい」


『ヒール』をかけながら、黒い奴を見ると奴は他の生徒たちから魔法攻撃を受けているというのにさっきから俺の方をじっと見ていた。


「あのバケモノ、俺が回復するのを待っているのか。最悪だ」

「皆を集めました。分かった。レン、リリア皆を頼む」

「任せて」

「はい」


二人に後輩たちを頼むと腕を引っ張ったフィオネの方を見る。


「フィオネも早…?」

「嘘…なんで……どうして……?」


フィオネは放心したような状態でそこに座ったまま動かない。


「リリア、フィオネを頼む」

「任せて」

「「転移」」


二人が皆を連れて逃げてくれた。これで大丈夫…ヒールで傷が塞がったと思った瞬間


「ウウウウウウウウウウウォオオオオオオオオオオオ!」


バケモノは俺に向かって突進していく。その時、目の前にいた数人の生徒を長い爪で切り裂いていく。


「「「「キャアアアアアアア!」」」」


他の連中はそれを見てパニックになって怪我人を置いて次々と転移していく。


「ここが川の近くだったのが助かった。合唱魔法『水神』」


『水神』は最上級魔法『水竜』の多合成魔法。水魔法最強クラスの攻撃魔法で大量の水がないと使えない魔法だが、これならいくらバケモノでもタダでは済まないだろう。川の水から大きな龍が作られる。


「行け!噛み殺せ!」

「す、すごい…」


水の龍がバケモノを噛み殺そうと襲う。その光景を見て何人かの生徒たちは転移しようとするのをやめていく。龍が上空までバケモノを持ち上げた時、突如として俺の龍が上空で消し飛ばされる。


「な、なんだと?」


バケモノは背中に生えた翼で飛んでいた。『水神』を食らったというのに体には微々たる傷しかついていなかった。


「なら、これで――えっ?」


さらに上となると風魔法の『風神』か水魔法最強の『海神』しかない。もしくは……。どれかを放とうとするが、バケモノは俺に襲い掛かるわけでもなく、姿を翻すと猛スピードで飛んで行ってしまった。


「なんだったんだ?あれは?」


俺はケガをした同級生たちの元に駆け寄る。


「少しじっとしていろ。回復魔法を施す」

「ううっ、あ゛り、がと」

「回復魔法もこんな凄いなんて……てっきり嘘だと思ってた」

「どうして逃げなかった?」


ショウは周りの生徒たちに詰問するように尋ねた。


「その…舐めていて。それに…アストレア君に負けたくなくて」


その答えはなんというか昔の自分を見ているようだった。

兄に劣等感を感じていたあの頃の自分に。


「俺だって……俺だって君たちに負けたくないんだ」

「えっ?」

「君たちは俺よりもずっと恵まれて羨ましいんだ。俺には家族がいない。皆、死んで俺の元から去って行って今の俺は一人だ。だから、家族がいて一緒にいることを喜んでくれる人がいる君たちが羨ましいんだ。そんな俺が魔術まで君たちに劣ったら、俺は何を糧にして生きて行けばいいと思う?」

「それは……」


我ながらなんでこんなことを言っているのか分からない。

こうなることを分かって望んだのは自分なのに。


「君たちには大切な家族がいるんだろ?今回は無事だったけど、次は無事じゃないかもしれない。自分が勝てないとかこっちの方が数が多いからって油断は絶対しちゃいけない。殺し合いでは一瞬の油断が命取りになるんだ」

「ごめん」


その後も俺は援護に来た教師が来るまで残った生徒たちと回復魔法をかけて、応急手当をした。そのおかげか死人は出なくて済んだ。





帰ってくると学園には生徒の保護者で溢れかえっていた。

俺もユリとエルの元に向かった。


「ショウ」

「お前たちは大丈夫だったか?」

「う、うん。でも、フィオネちゃんがちょっと…」


フィオネは暗い顔をしてぶつぶつと何かを言っている。


「ユリ殿下、エル大丈夫か?」

「わたしは大丈夫。でも…」


エルは小さくなってずっとユリにしがみついていた。肩まで震えている。


「エル」

「しょ、しょう…様?」

「ああ、ケガはなかった?」

「あ、あれ…です…」

「あれ?」

「そうです。あれ……あれです。あれが襲ってきたんです」


なにやら事情が飲み込めてきた。


「あのバケモノがエルのいた奴隷商館を襲ったっていうことで良いか?」


そう言うとエルは何度も頷き、ショウに抱きつく。

体はずいぶんと震え、今にも顔も青白くなっている。

ショウは脅かさないようにゆっくりとエルの体を抱きしめる。

ユリもこういう時だけは文句も言わずに黙って見ている。


「大丈夫だ。エルは俺が守ってやるから安心しろ」


エルの震えがなくなるまで抱きしめていた。

震えが収まった後、エルのことををユリに頼んで部屋まで連れていってもらった。

その後、エルの情報を女王と学園に伝えると、すぐに山は立ち入り禁止となった。

数日間の調査の結果、山のいくつかの場所に何者かが生活していたと考えられるところが見つかった。おそらく巷の殺人鬼はあの山をねぐらにしていたんだろう。

そこに俺らが侵入してきたのを襲ったと考えるのが正しい。

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