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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第一章 殺人鬼
7/14

episode6

「それでは上級生の諸君、下級生達の面倒をしっかりと見るように」

「「「はい」」」


上級生の多くが下級生達を指導しつつ学園の規則や学生間の守るべきルールなどを教える。エルの様子を見てみると、平民階級っぽい子達と楽しそうに話していた。ショウと目線が合うと手を小さく振ってアピールをしてくる。どうやら同い年の子達と仲良くなれたようで良かった。

この学園は貴族だけじゃなく、平民にも多く門戸を開いている。そして、身分に問わずきちんと評価しているため、平民階級の子の方が多い。また、グレンの政策のため魔族や獣人、亜人、小人族などの子供たちも多くみられる。


「エルちゃん、楽しそうで良かった」

「ああ、気の合う友達は大切だからな。大事にして欲しい」

「良いこというわね。グレン様も言っていたけど、本当に友達は大切よ」


フィオネやリリアがショウの元までやって来る。


「アストレア君の友達ってやっぱりユークリウッド君?」


リリアは女に囲まれているレンを横目で見る。


「すっごいモテているわね」

「そうだね」

「レンは友達じゃない。レンは国外追放の俺を探し出してきただけで、そんなに関係があるわけじゃない」

「そうなんだ…ていうか国外追放って…何したのよ」

「もう忘れたよ。それくらいどうでもいいことをしてそうなったんだよ」


フィオネの質問はショウにとっては耳が痛い話だった。だから、はぐらかすしか答えはない。


「まあ、言いたくないなら無理に聞き出すつもりはないわ。悪い人ではないというのは今までのことで信用しているし」

「ああ、そうしてくれると助かるよ。」

「えっとアストレア君ってやっぱりその……」


リリアは何やら聞きづらいように悩んでいる。


「なんだ?」

「アストレア君って昔この国にいたってことは『戦士隊』か何かに所属していたの?」


戦士隊。グレン戦士長が認める者しか加わることが許されない部隊。200人ほどの部隊だがその実力は師団1つと同じと言え、グレン自らが訓練を施す精鋭部隊のことだ。

魔術はもちろんのこと剣術もできなければ、すぐに除隊処分となるが、その実力のため作った戦績は数知れず、志願する者は多い。因みにうちの学園でも未だ卒業生の数人しか戦士隊に残れていない。


「違うぞ。」

「ち、違うんですか?てっきりあれだけ凄い魔法も使えたし、もともとこの国いたのならもしかしてと思って。」


確かに普通、そこら辺にもいる自分たちとさして違わない実力を持っていればおかしいと考えるのは当然だ。


「俺はこの国で昔傭兵をしていたんだ。グレンは俺の雇主だったから奴からも時々指南を受けていた。」

「そうなんですか……」

「傭兵ってあれよね?お金があればどこの国にも雇われるっていう。」

「まあな。まあ、グレンに雇われている間に傭兵団は解散することになったから他の国についたことはないけど」

「今もアストレア君は傭兵を?」

「やっているよ。俺にはそれしかできない。今回も傭兵として箔が付けばさらに高値で雇ってくれる奴がいるんじゃないかと思ってレンの伝手でどうにかこの学園に入学したってわけ。」


女王からの依頼は伏せつつそれっぽく話を作る。

二人はなんだか釈然としない様子で見ていた。


「いい加減にしてください!」


すると突然一年生から大きな声が上がった。


「何度でも申します。わたくしにいい加減関わらないでください!わたくしはあなた方の媚びを受けるためにこの学園に来たわけではありません!」

「ユ、ユリ殿下、どうかお怒りをお沈め下さい」

「そしてわたくしが怒るとそうやってまた媚びて……だから、あなた方は嫌いです!」

「少しはヒステリーを我慢して下さい。他の同級生が驚いているでしょう」

「あいたっ」


ショウはユリの頭に手刀叩き込む。


「き、貴様、ユリ殿下になんという無礼を!」

「何、暴力を振るっているのよ!」


案の定、他の貴族達がショウを非難し始める。

そしてユリにあからさまにあなたを守もりますアピールが凄い……。

リリアとフィオネはショウたちの様子を見て顔を青くしていた。


「痛いです……誰ですか!」

「全く国を出た後どうなったのかと思えば、ヒステリーは相変わらず治っていないようでございますね」


やれやれと呆れてしまった。

昔からユリは怒ると癇癪を起していたが、そのたびに何度もショウが叱っていた。

いなくなってから少しは良くなったのかと思えば、さらに悪化していた。


「なっ、ど、どうしてあなたがここに!国外追放の処分を受けたと聞いていましたが……」

「残念ですが、学問のために特別に入国を許可されています。また、ヒステリーを起こすなら容赦なく叱ってやるのでお忘れなく。あの時と違って今は雇われている訳じゃないから前よりも口煩くなることを覚悟しておいてください」

「あ、ああ……ああ…」


ユリは口をパクパクと開閉させ、驚きを隠せていなかった。

周りも自分に向かって厳しい視線を送っていた。


「い、生きていたのですね♥」


ユリはそう言うと嬉しそうに抱きつくと同時にそれを見ていたエルが何故かムッとした表情をする。


「おい……なんだこれは?」

「ずっと……どうなったのか気になっておりました。王城の兵士たちは皆ショウ様のことを尋ねても国外追放で死んだということばかり。」

「ユリ殿下は…俺のことを嫌っていたと記憶していたのですが…。これはいったい?」


ユリはがっしりとショウを離さないというくらい強く抱きしめていた。何度記憶を辿ってもいつもユリはショウに対して反発していて、悪さをするなと何度注意しても繰り返していた気がする。


「確かに昔のわたしはいつもショウ様に反発していましたわ。けど…それはショウ様が悪いんですのよ」

「申し訳ありませんが何がどうなっているのか分かりかねるんですが」

「いつもいつも傭兵団の女性とばかり一緒にいて悔しかったのですわ」


ユリはショウがいつも王城で他の傭兵の人と話しているのが嫌だった。ユリはもともとグレンや女王が忙しいのもあって人恋しく、いつもワガママばかりを周りに言って気を引こうとしていた。

だが、ショウだけはそれを気にも止めず親身になって叱ってくれた。中にはそれを女王やグレンに告げ口する者もいたが、『ショウがやるなら仕方ない』と言って誰も止めなかった。


「そのうち、わたくしの中ではショウの存在が両親と同じくらい大きくなりましたわ。それなのにショウ様はわたくしのことをいつも子供扱い。同じ傭兵団の女性のことは女として認識していたのに!」

「は、はあ……?」

「つまりユリ殿下はツンデレだった…という事でしょうか?」


簡潔にレンがまとめるが、正直ショウは未だによく分からなかった。なんで傭兵団仲間と話すとユリが嫉妬することに繋がるのか……ああ、あれか。俺の事もグレンや女王みたいに親のように慕っていてくれたからもっとよく面倒を見て欲しかったってことか。


「ユリ殿下は―」

「ユリ殿下って呼ばないで!昔みたいにユリって呼んで。」

「それは無理でございます。今の俺は国外追放を受けた身です。殿下のことを昔みたいにいう事は―」

「それなら…勅命である!私のことはユリと呼びなさい!」

「殿下……そういう無茶を言うんじゃないって何回言えば…」

「良いから言って!お願い!」


このままじゃ堂々巡りになると考え、話題を変えた。


「杖の方はどうですか?調子は良いですか?」

「うん!この杖、本当に凄いや!本当にもらって良いの?」

「ダメなら最初から渡さないです。今でも魔法はやっているんでしょう?」

「うん!ちゃんと言う通りに頑張っているよ!」

「さすがでございます」


頭を撫でるとユリは嬉しそうに目を細める。顔も何故か赤い。周りの貴族達はポカンと口を開けて固まっている。


「だけど、さっきの言い方はやめなさい。こんな成りでもいちようは貴族や有力な商人達の子供です。うまく立ち回るのも少しは学ぶのがよろしいと思います」

「だって……口を開けば女王陛下は?グレン殿は?って私の知らないことばっかり聞いてくるんだもん!」


だもんとユリが言うと周りの貴族達を含め全員が唖然とする。

いつの間にか口調も子供っぽいものに変わっている。


「それでも適当にあしらうことを学んだ方が良いと思います。そうですね、あそこにいるリリア・アルトリアさんやフィオネ・グライスさんならそういうことが上手いと思います。彼女たちに学ぶのが良いと思います。」


そう言うとフィオネ達を指すと彼女たちは全力で首を横に振る。いや、教えてやれよ。


「ねえ、ショウ様?あの人たちは違うよね?」

「違うってなにがですか?」


ユリはしばらくフィオネ達を睨むとため息をつく。


「そうだった……ショウ様っていつもこうだったことを思い出しました」

「ユリ殿下が何を思ったのか知りませんが、皆さんもユリ殿下にあまり構わないであげて欲しい。女王陛下はここでユリ殿下に友達を作って欲しいんであって、君たちとコネを作るためにいるんじゃないんだから」


ユリを急かして近くにいた同級生の元に行かせようとするが、ユリはショウに抱きついて全く離れない。


「ねぇ、一緒に回ろうよ!」

「ダメです。俺のさっきの言葉の意味分かっていますよね。」

「でも―なぁあ!」


そこに今まで黙っていたエルがショウとユリを引き放す。


「ちょっと何すんのよ!」

「ショウ様が困っているんで、助けたまでです!」

「ショウ様って……あんた、昨日部屋にいたルームメイトじゃない!どこ行って……まさか!?」

「ふふん、そのまさかですよ。しかし、驚きました。まさかあのルームメイトがユリ殿下だったなんてね。」

「なーんか、嫌な予感がしたと思ったけど、私の恋路を邪魔して!そこを退きなさい!」

「いいえ!ショウ様が困っています!いくら殿下とはいえ、ショウ様に迷惑をかける方は何人たりとも通しません!」


「ショウ様、ショウ様って私のマネするんじゃないわよ!」

「マネているのはどっちですか!まぁ、そうでもしないとユリ殿下はショウ様の気を引けないんですものね」

「なんですって!」

「なんですか!」


ユリとエルが盛大な口喧嘩を始めてしまったので、ショウはゆっくりとその場から遠ざかっていく。


「なんか、凄いことになってきたね。どうするの?」

「あれに関われと?かえって面倒なことになるし、あんなに感情むき出しで怒るユリも久しぶりに見る。放っておいていいと思う」

「き、君、ユリ殿下にー」

「あんたは黙っていなさい!」

「そうです!黙っていて下さい!」


何人かの貴族がユリを擁護しようとするが、エルだけでなくユリにも怒鳴られる。


「あなた……本当に何者よ……ただの傭兵がどうして……」

「そんなことよりも後でユリ殿下に処世術教えてやってくれよ」

「わ、私たちにはちょっと……荷が重いよ」

「そう言わずに頼むよ。ユリ殿下には誰かが教えなくちゃいけないし、フィオネやリリアならきっと上手に教えられると思う」

「こういうふうに面倒を見たから…かしら?」

「そうかも…だからユリ殿下は好きになっちゃったのかも」

「ユリ殿下が俺に向けるのは好意じゃなくて、単純に親に対する寂しさだろ?」

「えっ!」

「は?あなた本気で言っているの?」


何故か二人からおかしな目で見られる。いやいや、ユリが好意を向けるはずがないだろ。ショウはかつて王族に反旗を起こして国外追放になった罪人だぞ。いわばユリにとっては敵なんだから。


「ユリ殿下も大変ね……こんな鈍感を好きになるなんて」

「うん……絶食系の意味分かったかも」


二人はショウを信じられないものを見るように見つめた。

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