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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第一章 殺人鬼
3/14

episode2

ショウはレンに再会すると馬車に乗り、王城を後にした。ボーっと市場を眺めていると国を出る前よりも明らかに活気があった。


「この国も俺が出て行く前よりも変わってる」

「そりゃあねえ。アストレア君が国外追放されてから色々と改革もされたしね。ただ、最近の首都では何者かによる殺人が横行しているらしいけどね」

「恐ろしいな。」


ショウは早く解決しないといけないなと考えながらそのままボーっと外の様子を眺めていると、やがて学園近くの市場まで馬車がやって来た。


「これからすぐに入学手続きをするんだろ?」

「そうだね。すぐに行こう」


ショウ達はそのまま道沿いに向かっていると


「おい、止まれ!」

「ど、どうしたの?」


馬車を止めるとショウは店と店の間の薄暗い場所に足早に駆け寄る。


「ショウ、どうしたの?」

「お前達は何をしている!」


レンがショウに追いついたときにはショウ達の目の前に二人の少女がいた。歳は自分と同じくらいだろうか。そして、彼女たちの足元には痩せこけて今にも死にそうな女の子が転がっていた。


「その子はお前達がその子にそうしたのか?」

「ち、違うわよ!私達はたまたまここを通ったとき見つけただけで……」

「そ、そうです。信用してください」


顔だけならレンと負けず劣らずの顔だった。ただ、如何せん今のショウには疑わしいことこの上なかった。


「君たちは……大公家のリリア・アルトリアさんと侯爵家のフィオネ・グライスさんかい?」

「え、ええ……そうですけど、あなた達は?」

「僕はレン・ユークリウッド。こっちの彼はショウ・アストレア。いちよ平民かな?」

「お前が疑問符を打ってどうする」


二人の少女はどうやら貴族だったようだ。


「あのユークリウッド辺境伯ですか?」

「そうだよ」


本当にたまたま見つけただけのようだった。というか隣のコイツって辺境伯だったんだ。


「すまない。俺の勘違いだったみたいだ。許してくれると助かる」

「まあ、勘違いしても仕方ないし」

「そうだね」

「それで君達は、その子をどうするつもり?」

「私達はその治療をしていたんですけど、上手くいかなくて。だから、治療院に連れていこうと思って……」


リリアという少女が自分に怯えながらも答える。その隣で従者のくせになんか生意気……とフィオネという子が話しているが無視する。よりにもよって治療院か……

治療院、大公アルトリアが傷付いた奴隷達の保護のために作った無料の治療施設の名前だ。


「そういうことよ。私達はただこの子を救うだけ。安心してくれるかしら」


フィオネという少女は、正義は我にありという勝ち誇った様子で女の子を背負う。


「その子を救おうとしてくれたのは良いことだと思う。だが、治療院に連れていくということを聞いた以上、放っておくことはできない。治療院に向かう前に彼女を俺に預けてもらいたい」


フィオネやリリアも何を言っているのという顔をショウに向けるが、ショウは臆せず彼女達の元に近づいていく。


「その子を治療院に連れていっても、俺の望む結果にならない。その子が仮に治療院に行ったとしても治療院は手の施しようがないといって見捨てるのがオチだよ」


実際、その通りなのだ。多くの奴隷は運び込まれても治る見込みがないためそのまま死んでいるという。それに治療院ではどのような治療が行われているかもよく分わからない。


「だからって見ず知らずのあなたに預けるのは……」

「俺はこうみえて治療魔法にも精通している。俺に預けてくれれば確実に治せる」

「そうなのですか?」


二人は半信半疑の様子でレンを見る。


「確かにアストレア君は医療魔法も得意だよ……ただ、アストレア君いくらなんでも」

「なんでお前が俺の治癒魔法のことを知っているのかは聞かないが、続きはなんだ?放っておけというならそれは俺には無理だ。レン、俺について知っているなら分かるだろ」


レンは答えを聞くとため息をつく。


「彼女、どうみても奴隷商から逃げてきた可能性が高いよ。確実に厄介事になるかもしれない」

「レンに迷惑をかけることは絶体ない。だがもし何か問題が起これば、俺がきちんと処理をしておくさ。」


ショウのこの言葉でレンはやれやれと首を振ると、どうぞご勝手にとショウに示す。


「アストレア君はこういう訳で僕が言って止まるような人間じゃない。それに治療院よりも確実に良い結果を出すからどうか僕たちに預けてもらえないだろうか?」

「それならせめてここで見せてもらえませんか?信用していないわけじゃなくて……その、不安というか」

「そうね、やっぱりできなくて治療院に連れていきましたじゃ、私達が納得しないわ」

「どうするんだい?」

「別に気にするようなことじゃない。車の中で治療するから付いてきてくれ」


4人はレンの馬車まで奴隷の少女を連れてくると長椅子に横たえる。

ショウは他の3人にお湯とタオルを買ってくるように頼むと解析魔法で解析を始める。


「これは随分と酷いな。打撲や傷だけじゃなくて、複数の感染症が併発しているな。だが、気になるのは肩にあるこの深い爪痕だな。魔物に襲われたのかそれともどこぞの変態が付けた傷か分からないが……全くこの国は相変わらず腐っているな」

「こんな小さい子に……暴力なんて」

「私も治そうとしたんですが、肩の血を止めるだけで精いっぱいで……治るんですか?」

「まぁな。複数の治癒魔法を組み合わせれば、全ての傷は癒せる。ただ、傷だけだが……」


精神的な傷はさすがにショウにも専門外だった。精神を落ち着かせる魔法なんかもあるが、ショウはその手の魔法は会得していなかった。

とりあえず、傷を塞ぐ『ヒール』、変な方向に骨折や性的暴行などによって受けた性器の完全修復などを正常状態まで戻す『リスタート』、病気を治す『キュア』の3つの合成魔法を最大魔力まで引き上げて放つ。

魔法には1つの魔法を使う単発魔法、2つを同時に使う合体魔法、3つを同時に使う合成魔法、そして4つ以上の魔法を同時に使う合唱魔法が存在する。


「凄い……こんな魔術行使初めて見た」

「これって合成魔法よね…ここまでの魔法を組み合わせるのに必要な魔力量は相当なものよ。ねぇ、この人いったい何者?」


リリアは思わず目の前で起こる奇跡に目を輝かせ、フィオネはレンに尋ねていた。

やがて放っていた魔力による光がだんだんと消えていき、さっきまで苦しそうだった奴隷の少女は確実に顔色が良くなっていた。


「とりあえず及第点かな。初回はこんなもんで良いだろ」

「3つの魔法の同時使用による合成魔法なんてこの国でもカテゴリー5の魔術師でないとできないものよ」

「本当に凄い……なんか見せていただきありがとうございます」

「別に礼を言われるようなことじゃない。それよりも寝ているうちにさっさと終わらせよう」


タオルを取って、少女の体を拭こうとすると


「そ、それは私達がやりますから」

「そうそう。女の子の体を気安く見るんじゃないわ」

「さぁ、僕らは外で待ってようか」


三人に言われ仕方なく車の外に出てボーッと通行人を眺める。


「けど、どうするんだい?彼女がもし奴隷なら恐らく今ごろ探しているよ」

「もしそうなら今日中に潰しておくから問題ない。証拠は残さず、確実に消し去ろう」

「……頼むから無茶と失敗はしないでくれよ。君の命は―」

「もう大丈夫ですよって……すみません。お話の邪魔をして」


レンが言いかけたところで、リリアが車から顔を出す。


「いいや、ただのつまらない雑談だから気にしないでくれ」

「そうだよ」


そう全くもってつまらない話だ。この国のクズを消すだけの話なんだから。


「それより君たち、『繚明館魔術学園』の生徒だよね。時間は、間に合う?」


レンの言葉でフィオネ達は時間のことを思い出した。


「そういえばそうだった!」

「どうしよう…このままじゃ間に合わないかも」

「なら、僕たちと一緒に行かないかい?僕たちも実は『繚明館魔術学園』に向かう予定なんだ。」

「え、本当ですか?なら、ぜひお願いします!今日はユリ殿下の入学式だし、ぜひ見たいんです」

「分かりました。馬車を全速力でお願いします」


レンの指示で馬車は勢いよく出発した。この速度なら入学式には間に合うだろう。


「お二人はなんのようで学園に?」

「僕たちは編入生なんだ。だから、その手続きに行くんだよ」

「編入生ですか?」

「そう」


二人の視線はなぜかショウに向けられる。


「失礼ですが、そっちの彼はどうみても学園で学ぶ必要がないくらい実力があると思いますが…」

「私もそう思う」

「アストレア君ちょっと特別でね、こうみても学歴が一切ないんだよ。だから、学歴とカテゴリーを付けてもらうためにも学園を卒業しないといけないんだ」

「まあな。昔、ちょっと色々と事情があって学校を中退してな」


ショウがユリ皇女殿下の護衛というのはあくまでも秘密にしなければならない。そのため、もしもショウのことを聞かれた際はこのように話を合わせておくことにしてある。

なお、カテゴリーというのは魔術師の世界共通のレベルのことで、最高はカテゴリー7。通常、初等科を卒業すればカテゴリー1、中等科でカテゴリー2、高等科でカテゴリー3となる。その後は活躍よって世界の魔法学会によってカテゴリーが更新される。

ショウの面倒くさそうな顔を見て、二人は納得した。たしかに少し前までカテゴリーという概念はなかったが、今では魔術師を管理するうえでカテゴリー分けは必要とされ、それがなければ魔術としては就職もできない。


「アストレアさんはいくつなんでしょうか?私たちと同じくらいなのに凄い魔法を使えるので…」

「今年で…20だと思う。あんまり年を気にしたことはないけど」

「まあ、アストレア君はあんまりそういうの気にしないしね。因みに僕は今年17でショウも僕も高等科2年に編入するんだ。君たちはいくつかな?」

「そうなんですか!?アストレアさんは私達より年上だったんですね。私たちも今年17歳です。ただ学年的にはお二方とは同級生ですね。ね、フィオネちゃん」

「う、うん。そうね…」


リリアは喜んでいるようだが、フィオネはとても悔しい思いをしていた。フィオネはこうみえて学園でも上位の成績に確実に入るくらい魔法が使えた。教師からも将来を期待されていて、正直自分より魔法が得意な者なんていないんじゃないかと思っていたくらいだ。それなのに今目の前にいる者が自分とあまり変わらない年齢で自分よりも格段に上だと見せつけられると今までの自分に対する評価がまるで薄っぺらいものに感じてしまっていた。

その後も4人で話しているとあっという間に学園に到着した。すると……


「うっ」

「どうやら目が覚めたようだね。具合はどうだ?」


ショウが軽く声をかけると、女の子は辺りを確認する。


「ひいい」

「だ、大丈夫だよ。もう―」

「いや…、来ないで……いやああああああああ!」


フィオネが声をかけるが、その前に女の子は絶叫する。

するとショウはすばやく少女を胸に抱くと背中を何度もさすりながらあやした。


「大丈夫だ。もう安心していい…ここには君を傷つける奴はいない」

「いやああああああああ!放して!いやああああああああ!」


女の子はショウから離れようと暴れるが、決して放さなかった。

しばらくすると女の子は


「うっ、ううっ。うわあああああああん」


大声を上げてショウの胸元で泣き始めた。


「安心して。君は俺が守ってやる。もう誰にも君を傷つけさせるようなことはしないから、今は思う存分泣いていい。レン、先に行っててくれ。とりあえず、落ち着かせてから向かう。俺も後から行くから」


「分かったよ」

「わ、私も残り―」

「こういう奴らの相手は慣れてる。俺に任せてくれ」

「アルトリアさん、グライスさん。ここはアストレア君に任せた方が良いと思うよ」

「でも―」

「俺からも頼む。それにもうじき式も始まるし、ユリ殿下の姿見たいんじゃないのか?」

「分かったわ」

「よ、よろしくお願いします」

「ああ」


二人は後ろ髪が引かれる思いがあったが、女の子をあやすショウの姿を見ながら、彼に任せて式に向かった。

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