episode1
「全くなんで私がこんなのと……」
「それはこっちのセリフです」
「お前らも半年経ってだいぶ仲も良くなって嬉しいぞ」
「「そんなわけないです!」」
「もうすぐ女王陛下がやって来るんだから、静かに。」
殺人鬼ことフィオネの兄を止めてから半年ほど過ぎた。
その間にも多くの課外実習や体育祭なども開かれたが、貴族派は動かなかった。
俺自身もどうにか情報を集めようと動いたが、これっぽっちも動きをつかめなかった。
そして今女王に呼ばれ、俺、ユリ、エル、フィオネが城にやって来ていた。
「お呼びして申し訳ありません。実はこの度報告したいことがありまして」
「なんだ?」
「実は『天上の会議≪ロスト・セブン≫』がこの度開かれることが決定しました。」
「「「ろすとせぶん?」」」
この三人は聞いたことないだろ。
『天上の会議≪ロスト・セブン≫』はたった5年前にただ一度だけ非公開で開かれただけだからな。
「はい。皆さんは知らないと思うのでお教えします。『天上の会議≪ロスト・セブン≫』とは世界魔術教会が認定するカテゴリー7である8人の魔術師達が集まる会議のことです。」
「そ、それって世界トップの最高峰の魔術師達が集まるってこと!?嘘!?」
「ユリが驚くのも無理ありません。この度、グレンが長年の敵国ヴァストルテ帝国の戦後処理に関して色々と話し合うことが起きたため、急遽開かれることになりました。」
「また、グレンかよ……」
アイツは何回問題を起こせば気が済むんだ。
「はい……。ヴァストルテ帝国が潰された際に兵士達が全員切り殺されたということに関して、魔術教会の定めた降伏者の保護に違反しているのではと……」
「そんな事グレン様がするとは思えないわ!」
「はい。お父様はいつも適当に過ごしている人ですけど、そんなことは……ショウ様?」
やりかねない。アイツならやりかねないよ。俺が顔を青くしていると、
「という建前で貴族派の洗いだしをします。」
「やはりか……」
「はい。ロスト・セブンにも貴族派と繋がっていないかを見定めるためにも今回はそのように行動します。」
女王のことだ。そういうことだろうと思った。
ロスト・セブンと呼ばれる8人の魔術師は女王、グレン、世界宗教であるユグドラシル教会教皇、魔術教会トップのボーイング、大国の1つトラケニア民主公国兵士キース、何でも屋ヴァルトハイム、アマゾネスの女帝ユースティア、そして『殺戮の使者』と呼ばれる暗殺者レイン・ウォーカーの計8人である。
「それでなぜ俺らを?」
「私の護衛役としてフィオネさん達にお願いしたくてここに呼びました。」
「そ、そんな大役私達にはあまりにも……」
フィオネ達は無理だというように何度も顔を横に振る。
「お願いしますフィオネさん。護衛は一人3人までなのでぜひフィオネさん達にお願いしたくて。レンやリリアさんには別の任務を頼んでいて手が足りないのです。」
「……わ、分かりました。そういうことなら……三人?」
フィオネ、エルが護衛メンバー、そしてエルを呼ぶということはユリの身柄を守るには女王の近くにいるべき。
この半年でエルは鍛え上げたために今では俺の代わりにユリの護衛になってもらっている。
ということは……
「俺に別件で何かあるんだな?」
「はい。ショウさん、もうすぐ学園で学園祭があるでしょう?」
「そういえばあったな。確か、国内の多くの学園が参加した合同学園祭だっけか?それがどうした?」
「ショウさん、あなたはその学園祭に顔を出してはいけません。このしばらくの間、あなたは姿を隠してください」
「なぜ?俺はユリの護衛役だろ?学園祭なんていう不特定多数が集まる場所なら余計に護衛が必要だろ。だったらー」
「かつての仲間達も現在は学生として生活している者もいます。そして当然学園祭にも参加するでしょう。」
「…………そうか、あいつらがいるのか」
「はい。不要な心配かもしれませんが、最悪殺しにくる可能性もあります」
「かつてお前らに反旗をあげたために元仲間が困窮したのは知っている。彼らから恨まれているのも知っている。」
「でしたら今回はできる限り静かにしていて-」
「だが、それは俺が招いたのが原因だ。ならば、それから逃げてはいけない。」
女王はしばし俺を見つめていた。
「分かりました。ならば、十分に気を付けてください。」
「ああ、分かっているさ」
その後、城をあとにするとフィオネ達が話しかけてきた。
「ショウ君、さっきの話」
「大丈夫。問題ないさ。それにもし彼らがいるというなら、これは運命かもしれない。俺が彼らに対してわびることができるかもしれないのだから」
そうさ、これはチャンスだ。
この機会に彼らに謝罪できなければ自分が次にいつこの国に来られるのか分からないのだから。
それにもし協力してもらえるなら彼らの力を借りたい。
彼らは最も長く俺の加護を受けてきたのもあって、索敵や感知がこの俺よりも極めて優れている。
もし可能なら王国のために、力を借りたい。
「そういえばフィオネ、この後時間あるか?」
「どうしたの?時間ならあるけど……」
俺は目の前で口げんかを始めたユリ達を見ながらフィオネにこっそりと話しかけた。
「そうだな……なんというか、その、あれだ。」
「なに?本当にどうしたの?」
「デートしないか?」
「……………………う」
「う?」
「うえええええええええええ!!!!!」
フィオネの絶叫が辺りに響き、前を歩いていたユリ達も驚いてこちらを向き直っていた。
「それでそれは本当のこと?」
「はい」
「本当に隊長は生きているのね?」
「はい。現在は王国の第一皇女ユリ殿下の護衛役を務めています」
「私たちを謀っているならどうなるのか分かっているのよね?」
「もちろんです。我々はあなた方の味方です。あなた方の憎き存在に恨みを果たせるようー」
「恨みなんかあるわけないでしょ。私たちは恨みを果たしたいからあんたたちに協力するんじゃないの。私たちはあくまで隊長にまた会わせてくれるっていうからあんたたちに協力するだけ。そこを勘違いしないでくれる?」
「ええ、分かっていますとも」
目の前のフードを深くかぶっている者は私たちに小さな紙を渡す。
「この指定の口座に前金の金貨2000枚を振り込んであります。ではこちらの要望もきちんと果たしてくださいね」
「あっそ」
「しかし、振った女の恨みは怖いですね」
「ち、違うわ!そんなんじゃなくて…私たちは別に…」
私の周りにいたかつての仲間も頷く。
「ともかく文化祭当日にショウ・アストレアの足止めをお願いしますね。元傭兵団副団長ルティア・ルージュ様方」
「あんたたちが何を計画しているのか知らないけど、もし隊長に手を出すようなら覚悟しなさい」
「ええ、あの方にもそう伝えておきましょう。」
「上手くいったか?」
「はい。手筈通りショウ・アストレアの妨害準備も整い始めています。」
「そうか……それで例の協力者はどうだ?」
「正直に言うとこちらも知り得ないような情報まで持ってきていて正直恐ろしいです」
「あの忌ま忌ましい女ギツネから相当信頼を寄せられている人物なのは分かるが……お前は引き続き王族派の警戒と監視にあたれ。それと『協力者』の動向も琢一私に報告するように」
「はい。分かっております。お父様。それでは失礼します。」
「ああ」
見送ってから彼は大きく息を吐き出す。
正直、ここのところ彼にはうれしい誤算が続いていて困っている。
「ショウ・アストレアのかつての仲間が見つかったうえ、女王の側近がこちらの手にある。計画も若干遅れはしたが、誤差の範囲だ。それに加え、この半年でショウ・アストレアについても十分調査できた。」
かつてのショウ・アストレアという名の人物は正直グレンほどではないが、十分恐ろしいほどの強さを持っていた。
そして何より恐ろしいのは彼はグレンのためならば、自らの命すら平然と投げ捨てるだけの覚悟があり、そのためなら力ずくでこちらを潰しにきていた。
それも地位や名声、金など平然と捨てて。
しかし、それが今では全盛期の半分程度くらいしか強さが出せていない。
恐らくグレンとの戦いの影響と考えられるが、この程度の強さなら恐れる必要もない。
最悪、自分が戦えば討つことくらいは容易だろう。
そしてグレンと女王さえ動けないようにしてしまえば、こちらの勝利だ。
「あの女とグレンにはこちらの手のひらで踊っていてもらえば後はこちらの上手く誘導してしまえば問題ない。」
彼は口もとを緩めながら、この後の行動を考え始める。
すでにロスト・セブンの内、何名かはこちら側で戦力も十分。
「ふ、ふふ、ふははははは!これで、これで世界は私だけのものだ!」