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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第二章 殺戮の使者
13/14

戦士隊

「はあ~、かったりー」

「リーダー、そう言わずに早く被害届の書類作ってください」

「ロスト、面倒だからお前作ってくれ。俺の判子は貸してやるから」

「なにふざけたこと言っているですか。そんなことして女王陛下にバレたら俺の首が飛びますよ」


グレンはそう言いながらめんどくさそうに仕事を始める。途中で偵察に出していた部隊が襲撃を受けて逃げ帰ってきた報国を戦士隊第一部隊隊長、ロスト・ウィンガードにされつつ書類を作っていく。


「おとうしゃまー」

「およ?どうしたんだい、こはく?」

「おしょとでね、こんな石みつけたのー」

「おお!綺麗な石だね。そうだ、今からお父さんと一緒にもっと綺麗な石を取りに行かないかい?」

「ほんとー!いきたい!」

「よし、行こう!そう言うわけでロスト、後は頼んだ」

「ちょ、どこに行くんでー」


ロストが言いかける前にグレンと第二皇女殿下のコハク・グリーンウッドは窓から飛び出して行ってしまった。




「あれは本当に直して欲しい……」

「大丈夫ですか?」

「またリーダーが仕事を放置して消えた。」

「またですか……」


あの後、ロストは必死になって関係各所に回って平謝りし、兵舎に戻ってきた。


「で、で、でも、あれでもぼ、ぼくらのり、リーダーだし」

「そんなのはイルスに言われなくても分かっているわよ。」

「ご、ごめん……ミナ」

「それでロストがわざわざ僕らを呼んだのには何か訳でも?」


三番隊隊長、ラルクが話を戻し、ロストは本題に入った。

ここは王国の最北端に位置する駐屯地で、現在グレン率いる戦士隊はここで敵国の砦を落とす手はずになっているのだが、向かい合ってからはや3ヶ月未だに落とせていない。

そのため、戦士隊の第一から第四部隊の隊長が集まり作戦会議を始めていた。


「俺の部隊にもだいぶ不満が高まり始めていてな。早急にかたをつけないと問題になる。そっちはどうだ?」

「こちらも同様です」

「同じく」

「う、うん、ぼ、ぼくの方も」


どうやら状況は同じのようだった。

ロスト達のような戦士隊結成時のメンバー200人達なら戦場でよくあることと我慢はできるが、今の戦士隊は1000人を越えている。新参者にとっては国から離れ、こんな辺鄙な場所にずっといてはストレスが溜まるのだろう。

さらに言ってしまえば今の戦士隊には反グレン派の貴族の息子など入り込まれている。


「それに加えてリーダーのあの様子では……部下に示しがつかない。」

「もう2年もあの状態ですからね……」

「よほどあの仮面の男が気に入っていたんだろう。」


2年前、傭兵団を率いていたリーダーの仮面の男をグレンは目にかけていた。

その男が戦勝会の最中、暴れだしそのままグレンと交戦。自分達は何もできないまま戦いは終わり、グレンが勝利したが帰ってきたグレンはショックを受けていたのが誰の目にも分かっていた。

その後、仮面の男は国外追放となり、傭兵団も解散となったが、グレン自体も無気力の塊となってしまった。


「どうにか元に戻って欲しいんだが……」


ロストの望みはただそれだけだった。

グレンが王国の兵士になったときからの付き合いだが、自分はあの男の強さに惹かれていた。

何者をも退け、どんな強敵もまるで足元にも及ばない。あの時の衝撃は未だに色褪せないほどだった。

クーデターを引き起こしたときも隣にいたが、その強さは万人を超越していた。

ここにいる隊長達はみなグレンに憧れ、理解され、つき従っている。

ゆえに彼が現在仕事を放棄し、だらけていることがどうしても受け入れられなかった。


「どうにか元に戻ってもらう方法はないのか……」

「それは俺達もずっと考えている」


その日はため息が絶えない作戦会議だった。






「リーダー、王都から報国です。女王陛下が半年ほど前にユリ第一皇女殿下の護衛に傭兵を雇ったようです」

「ふーん」

「ただ、貴族達や近衛兵達からは傭兵を雇うことに不満があるようで、グレン戦士長からも進言して欲しいとのことです。」

「別に良いんじゃない?俺は国のことはカリナに任せているし、とやかく言うことじゃないね。ロスト、お前はどう思う?」

「私は傭兵を信用してはいません。2年前何があったか覚えているでしょう。」

「……そう、だったな。とりあえずその傭兵のことをもう少し知っておくべきだろう。名は?」

「ショウ・アストレアという者だそうです。調べたところ年齢は20歳前後、学歴と言ったこれまでの経歴は一切不明です。これまでどこでどのように暮らしていたのかも分からないそうです。」

「ショウ・アストレアねぇー、アストレアなんて名前知らないなぁ~」


そう言うとグレンは机の前にある鉛筆でペン回しを始めていた。

だが、突然電気が走ったかのように飛び上がると自分に掴みかかってきた。


「待て、ショウと言ったか?」

「は、はい。言いましたが。」

「ショウ……ショウ……しゃ、写真はあるか?」

「はあ、ありますが」


取り出した写真を奪い取ると食い入るように写真に写る男を見ていた。


「ふ、ふふっ。フハハハハハハ!」

「ど、どうしました?」

「そうかそうか。ショウ・アストレアか!ようし、会いに行くぞ!」

「だ、ダメですよ!今は動くことはできません!敵国が目の前にいるんですよ!」

「なら、攻め落とそう!皆を呼べ!祭りだ!」

「へ?」

「どうしたロスト?久しぶり過ぎてなまったか?敵国さんに俺らの力を見せてやろうと言っているんだ。さっさと準備をしろ!」

「は、はい!」


グレンはそう言うと魔法で『炎剣』を生み出す。

『炎剣』、グレンが2年ぶりに出すその剣にロストは不思議と頬が緩んでいた。


「何があったかは分からないが、復活だ!」


廊下を走りながら誰に言うわけでもなくロストは叫んだ。






しばらくすると戦士隊全員が集められた。


「これからリーダーが話をする!新参者の貴様らは特によく聞いておけ!」

「遅れてすまんなロスト。ごちゃごちゃ言うのもなんだから簡潔に言おう。これから一時間後、我ら戦士隊は砦に突撃をする。隊を編成し直し、新規の君達800人には先発隊となってイルス隊長のもと攻めてもらう。残りの200人はロストの指揮のもとミナ、ラルクが後続として攻め立てる。以上」


グレンがそう言うと戦士隊の新参者達には多くの動揺が起こる。


「どうした貴様ら!返事はどうした!」


するといかにも大貴族の息子らしい高そうな服を着た者が挙手をした。


「グ、グレン戦士長様、し、質問が」

「なんだ?」

「わ、我々はまだ実戦を積んだことが……」

「ならこれが初の実践だ。喜べ」

「し、しかし、突撃なんて……砦には結界も張ってありますし、砦の兵士は一万人ほどいます。と、とても勝ち目が……」

「貴様、リーダーに向かって何て言う口の聞き方をー」

「ロストいい。黙ってろ」

「ハッ!申し訳ありません!」


ロストが勢いよく頭を垂れる様子に他の兵士たちはようやくこの状況が異様なことに気が付いた。

普段寡黙で兵士の多くに優しく接する初老をもう少しで迎えるであろう男の様子がまるで違った。


「砦の結界は俺の初撃で消し去るから問題ない。それに敵兵のことで良いことを教えてやろう。一人10人殺せば、戦士隊の勝利だ。簡単だろ?」

「そ、そんなの……」

「無理だと?なら、貴様は戦士隊には要らん。ここで死ね。」


グレンがそう言うと腕を横に一閃すると先程まで立っていた男の胴体から上が消えた。

その直後、大きく悲鳴をあげようとしたところにロストが黙れ!と声を張り上げた。


「戦士隊の基本理念、それは己の死すら恐れず王国に捧げることができる者のみが加入条件だ。奴はそれに相応しくなく残念ながらこの度の戦闘で上半身を失った。そうだな、ロスト。」

「はい。全くもってその通りです。残念なことです。」

「だな、ミナ」

「弱いから死ぬ。それだけです」

「ラルク」

「ええ、残念です」

「以上だ」


そのやり取りの後、新規の800人余りの戦士達は恐怖で震え始めるものもいた。


「さて諸君達に朗報だ。君達はまだ実戦をしたことがないそうだ。確かにいきなり10人を殺せはつらい。だから、君達のノルマは一人3人殺すのが上等だろう。ぜひ頑張ってくれたまえ。代わりにイルスお前に任せよう」

「い、いい、の?」

「ああ。頼りない800人のために頑張ってくれ。」

「ヒャッハアアアアアアアアアアアア!最高だぜリーダー!ブッコロシテヤルー!」

「また始まったよ……」


隣でミナが呆れて頭を押さえている。

確かにイルスの発狂は久しぶりに見る。

この男、元々王都を騒がす殺人者だったのをグレンが率きいれた過去がある。


「イルス、お前に任せる800人達がしっかり殺すのも確認しろよ。できなければ後はお前の好きにして良い。」

「リョーカイだぜリーダー!ブッコロシテイインダロ!?」

「できなければどうとでも」

「「「「!?」」」」


これはこれはいい感じに怯えていて……ロストは新参者の兵士たちがどこまで動けるのかを見ながら緩みっぱなしの頬をさらに緩ませる。

多くの国民が口を揃えて言う。

戦士隊に行けばエリートになれる。活躍できる。すごく良いところだと。

戦士隊が良いところ?

そんなのは世論が勝手に作っただけの幻想だ。

少なくともロストはここほどの地獄の場所を見たことがない。

それでもロストやミナ、ラルク、そしてイルスなどが残り続けている理由それは……


「さぁ、2年ぶりの血祭り≪祭り≫の時間だ!皆の者、こぞってその力を殺戮に費やそうではないか!」

グレンが大きく声を張り上げる。

「ここほど人を殺せる場所は無いからですよ……フフッ」


設立メンバー200人が歓声をあげるなか800人の者たちは顔を青ざめていた。






その日、砦の城門はたった一撃で結界ごと破壊された。

その後の戦士隊の突撃を受け、交戦を開始。

その日のうちに勝敗は決着、戦士隊は400名越えの死者を出したが無事砦を制圧。

被害数 敵国の死者一万。

戦士隊死者400~500人。





「イルス、よくやった。」

「あ、あ、ありがとうございます。」

「さて国に帰るぞ!」

「「「おおー!」」」

「駄目です。まだ戦後処理が残っていますし、大本から援軍が来るので」

「よし、なら即行で終わらせるぞ!お前ら、やるぞー!」

「「「ええー」」」

「グダグダ言ってんな!俺は早く帰りたいんだから!」


グレンはそう言うと後片付けのため敵兵の死体を無造作にコンテナに突っ込んでいく。

するとロストの元にラルクがやって来た。


「復活しましたね。何をしたんですか?」

「何も。ただ、定時連絡をしたらああなった。例の傭兵のことだ」

「それは少し気になりますね。しかし、もしかしてですが……」

「お前の察する通りの可能性がある。その男が2年前の騒ぎの元凶なら警戒しなければならない。」

「我らが遅れを取るなんて初めてでしたからね」

「ああ……」

「しかし、どちらにせよ良かったです。我らのような殺戮者にはあの方がいないと困りますから」

「そうだな。しかし……軟弱な奴らだ」


ロストが隣に固まって座っている集団に目を向ける。


「たかが数人殺したくらいで心が折れかけるなんて」


そこには新規の戦士隊の兵士達が頭を抱えたり震えながらうずくまっていた。


「しかし、これでようやく『戦士隊』になりましたね」

「ああ。もうコイツらは俺たちと同じ人殺しの汚名を背負っているわけだしな」

「戦士隊内部の不穏分子も今回の戦いで洗浄できて良かったです。イルスには感謝します」

「そうだな」


ロストとラルクは互いに笑みを浮かべながら敵兵の死体をコンテナに詰め込んでいった。 イルスのおかげで戦闘中として掃除ができた。

ロストはその不気味な笑顔のまま死体をコンテナに積み上げた。

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