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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第一章 殺人鬼
12/14

episode11

「という事があって、フィオネたちに俺のことがバレた。エルフ共はどうする?殺すのか?」


フィオネの兄を連れてきてから女王に事のあらすじを伝える。もちろん、その間に軽くこれまでのことをレン達にも伝えておいたが。


「いえ…それはできればやめておきましょう。それではトカゲのしっぽ切りをされるだけで問題の解決にはならないですから。しかし、フィオネさんでしたね。ずいぶんと辛い思いをさせましたね」

「いえ…それよりも我が父と母の非道な行い。大変申し訳ありません。この責任は私が―」

「そんなことしなくていいですよ。もし、そう思うなら今後はお兄さんの意思をくみ、私達を支えてください」

「ありがたきお言葉恐悦至極にございます。この身をすべて王家に捧げることを誓います」


フィオネは深く女王に首を垂れる。

今のフィオネに王家派と貴族派の争いを伝えると、フィオネは貴族派への復讐に燃えてくれた。実の兄があんなことになったんだ。当然だろう。


「ショウさん、前から考えていたのですがどうでしょう?ここにいる者たちにショウさんの加護を与えるのは?」

「おい、それはいくら何でも…」

「「「加護?」」」

「はい。皆さんは疑問に思いませんでしたか?なぜショウさんのような一介の者が王家と関わりを持っているのか?」

「それは……」

「まぁ」


「女王、話すのか?十中八九面倒なことになるぞ」

「ここにいる者たちなら問題ないでしょう。フィオネさんは問題ないとして、アルトリア家は私の兄の家ですし、リリアさんは兄の娘。問題ありません。それにユークリウッド家もかねてからの王族派の者ですし、私はレンを信用しています。それにこれ以上隠し立てするより、ショウさんに協力してもらった方がきっと良くなります」


「だが、エルやユリは…」

「二人とも問題ないですよ。それよりも仲間外れにされる方が嫌ですよね?」

「はい!」

「そうです!私の身はすべてショウ様の物なのですから」

「そういうわけです」


納得はいかないが、女王がそういうなら我慢しよう。

今の俺は雇われているだけだし、文句を言う立場にはいない。


「分かった。」

「では、話の続きを。ショウさんは話の通り個有魔法を使えます。それは『魔王の眷属』だったためです。」

「魔王の眷属ってことは魔王はいるってことですか?」

「はい。いますよ。ただ、今は魔族の王ではないので、魔王とは言えませんが」


クスクスと女王は扇で口を隠して笑う。


「だ、誰なんですか?」

「グレンですよ」






「「「「「ええええええええええ!」」」」」






しばしの沈黙後、俺と女王を除く者たちは盛大に驚く。

まあ、驚くわな。


「そ、それは本当なんですか?お、お母様?」

「ええ。本当ですよ。ユリにはまだ話していませんし、仕方ありません。グレンは先代魔王と人との間に産まれたハーフ魔族です。そして現在は魔王としてすべてのスキル、能力を持っています」

「そのため、あれだけ強いってことだ。俺は奴の眷属だから、王家とも知り合いとなったというわけだ」

「な、なんか…頭がおかしくなりそうなんだけど…」


フィオネも含めてその場で皆頭を抱える。


「じゃ、じゃあ、私は魔王の子ってこと?」

「ユリ、何度も言うが、今、この世界に魔王はいない。魔王は死んだんだ。とっくの昔に。今のグレンは王国の戦士であって魔王ではない。それをよく覚えとけ」

「う…うん」

「そういうわけでショウさんはグレンの眷属としていくつか利点がありまして。その一つにショウさんの加護、つまりは眷属の支配下に入ることでその者には魔王の眷属と同等のステータスアップやスキル、魔法の強化などがありまして」

「とは言っても所詮は眷属の加護だ。グレンの加護と比べたら微々たるものしかないが、少しはステータスの上昇が見込める。それで女王は皆に勧めているってわけ」


正直、個人的にはあまり乗らない。

俺の加護は本来使役している使い魔に使う物。本来はかつての魔王の配下の四天王と呼ばれた存在達が自分の魔物の強化に使っていたものだからな。


「それってなにか弊害はあるんですか?」

「何も。加護を受けたからって自由が束縛されることはない。かつては加護を受けた者が裏切って逆に与えた者を殺したことだってあるくらいだ。」


過去の文献では何度もあった。


「ショウ君、私は強くなりたい!兄さんを追い込んだ貴族派を絶対許さない。だから、強くなる手段があるなら欲しい」

「ショウさん、お願いします。今は戦力が必要な時です。貴族派がそのようなものを作ろうとしている今、どうしても必要です。」

「……分かった。雇い主からの頼みじゃ、断れないしな」

「なら僕も欲しいかな。王族派筆頭の貴族としては貴族派とも今後ぶつかることも多いと思うし、自分の守りは固めておきたいな」

「な、なら、私もその……えっと貰えるものなら貰おうかな……お父様にはどう説明を……」

「私から兄には説明しておきます。グレンのことは兄も知っているのですぐに納得するでしょう」


そうしてフィオネ、レン、リリア、エルに加護を。ユリには生まれたときからもともとグレンからの加護が備わっているため俺の加護はあっても意味がなかったんだが、なぜか受けることになった。


「なんで皇女殿下まで貰うんですか?必要ないでしょう」

「うっさいわね!あなたがショウ様から貰って私が貰えないなんて我慢できるわけないでしょ!」

「お前らうるさいから黙れ。それじゃあ、始めるから手を出せ」

「今から?」

「加護を与えるのは楽にできる。早めにしておく」


俺の言葉に合わせて皆恐る恐る手を出す。


「『我が新たなる眷属たちに祝福を』『福音アイス・コール』」

「これが眷属の加護?」

「ああ」


皆の手の甲には変わった形の幾何学的な模様が浮かび上がっていた。


「皆さん、何度も言いますが、ショウさんが魔王の加護を受けた者であることはショウさんを除けば私とグレン、アルトリア大公。そして今ここにいるフィオネさんたちしか知りません。決して口外しないように」

「分かっております」

「しかし…困りましたね。例のことを知る者はここにいる者だけですが、それは逆に殺せば隠し通せるという事。下手をすれば皆さんの命が狙われるかもしれません」

「それは問題ない。フィオネは俺が守るとフィオネの兄に約束した。確実に守り切って見せる。」

「ち…違うでしょ!い、一生って言ったじゃない!兄さんも聞いて、嬉しそうに笑ったじゃない」


そう言うとフィオネは恥ずかしそうに下を向く。


「ショウ様、どういうことでしょう?」

「ショウ様、そんなこと初耳ですわ」

「ユリとエルはそう言いながら、俺の腕の裾を引っ張るな。伸びるだろ」

「まあ!公認ですか!」

「お前も意味の分からんことを言うな」


女王はやけに嬉しそうに笑う。なんだよ公認って。隣のフィオネもなぜか顔が赤いし、こっちをチラチラと見てくる。


「俺がフィオネの卒業まで守っていれば、残りはグレンに任せられる。それに俺の正体を知って、奴の庇護下ならそこいらの魔術師やエルフ共に負けはしない。それに俺自身が学園生活中に徹底的に魔術を仕込めば問題ない」

「ちょ、ちょっと待ってよ!一生守るって…」

「残念だが、俺はこの国にいつまでもいるつもりはない。卒業まではいるが、そこから先はすぐにこの国を出て行くのが今回の俺と女王との契約内容だ。だから、その間に俺が一生守ってやるだけと同じ価値のあるものを授けてやるから安心していい」


フィオネは今後王国でも活躍する機会が多くなるだろう。

そんな彼女の未来を俺程度が邪魔してはいけない。

すると女王はあからさま残念そうな顔をする。隣のフィオネやエル達もなぜか絶句したような表情をしている。


「ショウさん…彼女は侯爵家ですよ?兄、公認の仲ですよ。」

「フィオネが侯爵家なのは知ってる。それがどうしたんだ?」

「フィオネさんは女性の私から見ても可愛いですよ?」

「可愛いことは認めるが、それが?」


可愛いとショウが言うとフィオネは顔を赤くして俯いている。


「フィオネさん。頑張って下さい。ショウさんを合法的にこの国留めるにはあなたの力が必要です」

「頑張って見せます」

「襲っちゃってできちゃった婚も可です」

「え、…いや、それは…嫌ではないですが…その…」

「お母様!それは本当ですか!」

「抜け駆けはさせませんよ!」

「女王、セクハラはやめろ。ユリやエルの教育に悪い。それにフィオネには俺よりもずっと良い相手がいるに決まっているだろ。ふざけたことを抜かして冷やかすのはやめろ。」

「頑張ります」


なぜに!?

女王のフィオネへのセクハラを止めさせたっていうのにかえってフィオネはやる気を見せて目が座っている気がする。

女王のセクハラ、好んでいたのか?

フィオネって以外とそう言うのが好きだったのか……?

二人の間ではなぜか固い結束が結ばれていた。

ショウはどうしてこんなに急に仲良くなったのか気になりつつ、頭をひねっていた。








皆と別れた後、俺は再び女王と城の地下室で合流した。


「それでどうして『時の氷棺≪アイス・カプセル≫』に閉じ込めたのです?」

「可能性は低いが、この男から流れるのはやはり魔王の力だ。なら、魔王の加護を受けた俺なら何とか治せるかもしれない。」

「フィオネさんの話では死んでいるのでは?」


「そうそう、魔王の力を持つ者が死ぬわけないだろ。俺を見てみろ。グレンに切られたってなんとか生きていたんだから。ただ、回復させた途端、暴れられては困るから、『時の氷棺』に閉じ込めた。この中の時間は凍結してあるから暴れられることもない。まぁ、他の連中には『氷の棺』って言って騙しているがな」


「ふふっ、相変わらずお優しいですね」

「違う。この男は優秀なんだろ?ここで王家派の駒が減っては困る」

「そういうことにしておきましょう。」

「なんだか含みがある言い方だな。それよりもなぜ行動しない?」

「それは先程も言った通り」

「違う。女王として動けなくても『勇者』として行動しない?」


女王は俺の言葉を聞くと扇を懐にしまう。


「簡単言えば、あのエルフどもこっちの動きを妙に詳しく知っているのよ。だからぶっ殺そうとしても動いた時にはまた雲隠れってわけ。しかも、アイツらの結界は相当厄介なもので壊すにも時間がかかるから余計に手間がかかる。」

「内部にかなり入られていると見ていいか?」

「その認識で相違ないわ」


この女王の家系は『勇者』の末裔。特に女王の血は40年前の勇者パーティーの勇者の血が入っており、その実力は俺を上回るなんて常識で過去最強の勇者とも言われる。本気の実力なら、グレンにも匹敵するほどだ。


「はあ、何度も思うがなんで勇者の一族が魔王の息子に恋なんてすんだよ。そんなにグレンが良かったか?」

「ええ。そこいらの男なんて皆ザコばかりでつまらなかったわ」


ため息が出る。


「先代魔王が死んで、魔王のスキルはグレンに引き継がれた。それだから、グレンの強さは異常となった。」

「ええ。さらに私が引く勇者の血、そこから現れる勇者固有のステータス特典と秘技。その2つの力を引き継ぐユリちゃんはハイブリッドね!」


「正直、グレンの眷属である俺すらあと数年もしないうちに抜かれるぞ。杖だってあいつの中の力をドラゴンの力で相殺するのが目的だったっていうのに。エルもなんやかんやそれなりの才能があるし、俺程度簡単に殺されそうだな。俺が守る意味本当にあるのか?俺が秘密裏にエルフどもを駆除しても良いと思っているだが」

「あくまで数年後でしょ?ならまだ動かないで確実に潰せるまで待てばいいわ。それにすでに向こう側、ショウ君のことをだいぶ掴んでいるわ。ショウ君が動いた時点でまた逃げられるわ」

「俺のことまで漏れてるのか。どこまで?」

「精々、表層部分で済んでいるわ。けど、結構厄介な上奴ら私達に敵対するため異世界から勇者を召喚したとも聴いているわ」

「ほんと、なんでもありだな」


「ええ。けど、私達を本気で相手にしたところで、エルフどもに万にひとつも勝利はないのだから今のところは放っておくつもり。それに私達に敵対しているのはエルフだけじゃなくて反グレン派の他の民族も多いわ。同盟関係にはあるけど、神霊族の自称神どもも何人か協力しているみたいだし、全体が掴めるまでは放っておくつもり。」

「そうか……」

「それにあなたに任せても殺さないでしょ?」

「………どうしてお前らはすぐに殺そうとする?少しは猶予を与えてやれ」

「甘いわね。現役時代はあれだけ殺しまくったっていうのに」

「それは……すまない。俺が言える身分じゃなかったな」


女王は扇を再び取り出すとさっきとうって代わって物ごし柔らかそうに話始める。


「なかなか上手く事が運べませんが、どうかよろしくお願いします。」

「ほんと、未だにあんたのその対応の激変には慣れないよ。だが、俺がいる限り、余分な殺しは絶対させないからな」

「ええ、ぜひとも頑張って下さい。私もグレンもあなたの行動にとやかく言うつもりはありませんから」


そう言うと女王は去っていった。


「相変わらず恐ろしい女だ。」


初めて会った時にボコボコにされてから未だにあの女には忌避感しか感じない。

そう思いながら目の前の男に浄化魔法をかけ始めた。


「確かに昔の俺なら殺していたよ。けど…アイツとの約束なんだ。俺はもう二度と殺しはしない」


昔のことに思いをはせながらその日はゆっくりと過ぎて行った。










「ショウ・アストレアという人物が王族派に入りました。」

「よりにもよってあの男が生きていただと……これでは計画の大幅な見直しをしなければならないではないか」


「ーーー様、そこまで警戒する必要があるんでしょうか?」


「貴様はあの男のことを何も知らんから言えるのだ。あの男ほど厄介な相手はいない。ヤツが現役時代、どれだけの人間が殺されたと思っている。それに加えてヤツは暗殺、偵察、情報収集のプロだ。今後は時間がかかるが、ゆっくりと進めざる終えん。ーーー、お前には今後とも王族派の情報とその男の監視を命じる」

「分かりました。」

「全くあの時死んでいてくれていればどれだけ良かったか……」

これで一章完結です。

ブックマークもしてくれた方もいて、本当に感謝します。

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