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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第一章 殺人鬼
11/14

episode10

扉を蹴破ると同時に『氷結柱』の効果が切れてバケモノを拘束していた氷は解けて消えてしまう。自由になった奴は俺に向かって突進してくる。


「『アイシクル・ミラージュ』」


ショウの頭はバケモノの爪の攻撃を受け、宙を舞う。


「ショウ君!」

「ガアアア!」


バケモノは雄叫びを上げ、フィオネに狙いを定める。爪を大きく掲げてフィオネの体を切り裂こうとする。


「油断したな」


バケモノ後ろに急速に成長した氷柱が現れるとそこから飛び出す。バケモノの体に飛びつくと両手両足を使って羽交い締めにする。

『アイシクル・ミラージュ』は氷の分身を作り出す魔法で本体は時間差でごく近くの任意の場所に現れることができる幻影魔法だ。奇襲が得意とする自分が多用する魔法の1つだ。

奴の最大の武器である爪が身動きできないように止めると


「『全身凍化』」


自分ごとバケモノの腕や足を凍らせる。


「フィオネ!今だ!個有魔法『アイシクル・アシスト』」


フィオネに個有支援魔法の『アイシクル・アシスト』をかけ、フィオネの身体能力を極限まで引き上げる。通常の『アシスト』の数十倍の威力を持つこれならフィオネでも倒せる。


「くっ!分かった。兄さん、お覚悟!」


腰に下げていた剣を抜くとバケモノの心臓に向かって思い切り突き立てる。その突きはとても綺麗な物だった。バケモノに突き刺さる直前にショウは離脱し、フィオネの剣は見事に心臓の位置を突き刺していた。


「う、ううっ、兄さん…」

「ふぃ、…おね…」

「兄さん!」


バケモノは、いやフィオネの兄は長い爪のある手でゆっくりとフィオネの頭を撫でる。


「いい…突き…だった、ぞ…」

「兄さん!ショウ君、早く兄さんを!」

「ああ!」


ショウが近寄って治癒魔法をかけようとするが


「いい…、いまの、わたしにそれをつかってしまえば…また、ふぃおねたちに…おそいかかってしまう」

「でも!」

「それ…よりも、伝えなければ…いけないことがある。」

「貴族派のことか?」

「そう……だ」


フィオネは貴族派?と聞いているがショウが後で教えると言うとフィオネの兄はゆっくりと語り始めた。


「わたしは…国の予算と実際の経費が違うことに気付いた。そして…がはっ。その、莫大な金が…出所不明な場所に、次込まれていることが分かった」

「それはいったいどこなんだ?」

「分からない…だが、私が場所を調べ始めた時捕まった。しかし…、分かったこともある。その金の一部は、我がグライス家が…故意に粉飾させていることも…」

「そんな……!」


フィオネにとってはショックだろう。家が悪事を働いていたんだから。


「私は…すぐに家を調べた。そして、その過程で…貴族派が行っている実験にたどり着いた…。そのところで父と母に捕まり、その場所に送られた。」

「その実験っていうのはなんだ?魔王の作り出す実験なのか?」

「ちがう…もっと酷いものだ。」

「兄さん、いったいなんなの?」

「魔王化の実験だ」

「魔王化…だと?魔王を作成の実験じゃなくて?」

「そうだ…彼らは消えた魔王の復活を企んでいるが…そのために…奴隷を含めたあらゆる者たちを…実験に使っていた。そして…魔王を幾人も作り出そうとしていた。時には…ガハッ…肉体の強制的な連結など…惨いことをし続けていた」

「クソがああああ!」


思わずキレてしまった。フィオネはその様子をおびえた様子で見ていた。


「あのクソエルフ共、どこまで落ちぶれれば気が済む!魔王の力をなんだと思ってやがる!」

「兄さん、誰がこんな酷いことを?」

「すま…ない。これ以上は分からなかった。だが…ふぃ、おね。女王、陛下と、グレン…様ならきっと、きっと彼らを止めてくれる。だから…忠誠を尽くせ。王家はきっと変えて…くれる」

「分かった。分かったよ兄さん!だからもうこれ以上はしゃべらないで!」


フィオネの兄は満足したように微笑むとショウに顔を向ける。


「昔から…変わっていないな…フィオネは。泣き虫のままだ」

「兄さん…」

「しょ、う…くん」

「なんだ?」

「ふぃおねを…まもってくれ」

「任せろ、一生守ってやる」


こんなことを聞いた以上、フィオネも貴族派に狙われるかもしれない。なら、せめて俺がいるときは守らなければ。フィオネは顔を真っ赤にすると下を向いてこちらをチラチラと見てくる。


「ふふっ……良い、男を捕まえたよう……だな……。あ、…りがと…う。妹を頼む」


そう言うとフィオネの兄は息絶える。


「いや、いやあああああああああああ!兄さああああああん!」


それからしばらくフィオネは兄に泣きついていた。





フィオネが泣き止んでからショウはフィオネの兄を転移させる準備に入っていた。俺は体を『氷棺』という魔法でフィオネの兄を凍らせておいた。貴族派に渡ればフィオネの兄の体は存在ごと消されるだろう。なら、せめて女王に渡せば少しはマシなものに変わるだろうと考えた。


「ショウ君…ありがとう」

「礼を言われる覚えはない」

「いいえ、あなたが私を励ましてくれたから私は兄さんに会えた。あなたには一生感謝するわ」

「なら…この後女王と会う時に伝えられることを黙っていてくれると助かる」

「やっぱり…女王陛下とも知り合いだったんだね」

「まあな」


会話が続かない。


「あの…魔法…」

「氷の魔法か?」

「そう。あれは個有魔法?」


魔法には火、水、雷、土、風の5大魔法しかない。それ以外は支援魔法や強化魔法しかなくそれ以外の系統は発見されていない。ある人物を除いて。


「そうだ…あれは個有魔法。魔王や魔王から加護を受けた者のみが使うことができる第6の魔法の1つだ」

「そう……なんとなくショウ君は違うって思っていたけど魔王関係だったんだ」

「ああ。正確には魔王の加護を受けただけどな」


ショウは魔王から加護を受けた身だ。そのため、通常では存在しない『氷結魔法』という魔法を使うことができる。『氷結魔法』はそのあらゆるものを凍らせ、時には火すら凍らせるという魔法だ。


「カンスト魔術の仕組みも単純に魔王の加護の影響で通常では到達できない領域まで風魔法と水魔法を強化できた。」

「なんかそれってずるいな…」


フィオネは弱弱しく笑う。転移の準備も整った。


「フィオネ、転移するから俺の手を」

「ええ…」


フィオネは素直に俺の手を握る。


「ショウ君…あなたは私の元から行かないで」

「………」


あえてその言葉を聞こえなかったふりをした。

なぜなら自分はこの国から出て行った身であり、ユリを守り切れば出て行くのは当然だったからだ。


「じゃあ、『て―』」

「「ショウ様あああああああ!」」


その声と共にユリとエルが部屋に突入してくると同時に後ろからレンやリリアも付いてきていた。


「……なぜ、お前らがここにいる?」

「「ショウ様を追ってきたの」」

「これは氷?」

「微かに魔力が感じられるということは魔法ということかな?」


ああ、もう!なんでフィオネだけかと思ったから口を閉ざしてもらえばなんとかなると思っていたのに!

頭が痛くなってきた。


「おい!レン、お前だな?何てことしてくれる。一発殴らせろ」

「な、なんのこと!?僕はなにもしてないよ!」

「どうせお前が要らぬことをユリとエルに吹き込んだんだろ?」

「あ、あはは~なんことか僕には分からないな~」


思いっきりぶん殴りたいけど、コイツを殴るとなんか色々なものを失いそう……見た目はただの美少女だからな。


「それよりなんでここが分かった?」

「それはフィオネちゃん達をつけていたから」

「あれはお前らだったのかよ……だが、『無限回路』で迷わせたはずなんだが」

「えっと…………」

「なんでそこで口ごもる?」

「ユリ殿下とエルちゃんがここから悪い女の気配がしますって連れてきて、『無限回路』も少し迷ったけど脱出できて……。わ、私はその……フィオネちゃんが心配だったからついてきちゃったんだ。その……ごめんなさい」

「謝る必要はないんだが……」


それより『無限回路』から自力で抜け出すなんて俺でもできないことを……俺はこの目の前で騒いでいる二人の今後が末恐ろしい。


「これが今回の犯人かい?」

「ああ。エルお前が襲われたのと合っているか?」

「は、はい……ショウ様、怖いので抱きしめてください」

「そこら辺のゴブリンにでもやってもらえば」

「ああん?この貧乳ヒステリー、喧嘩なら買いますよ?」

「ひ、貧乳じゃないし!それに貧乳なのはあんたも一緒じゃない!ゴブリンに抱かれたことがあるからそんなムキになるじゃないの?」

「あるわけないでしょ!」

「お前らうるさいから黙れ。ともかく『バケモノ』は討伐した。後で事情は説明する。俺らはこれから王城に行くんだから付いてーーー」

「「嫌です!」」


お前ら、そこだけなんでハモるんだよ。

お前ら本当は仲良いだろ?そうだろ?


「フィオネさんと一緒に行かれたら何をされるか分かりません」

「全くもってこの女と同意見なのは癪だけどそれはダメ!」

「べ、別に何もしない……わよ?」

「なんでそこで疑問系なんですか!」

「ううっ、どうしてこうも次から次にライバルが……」


ライバル?

確かに、フィオネほどの実力者をライバルにするのは学ぶ姿勢とすれば完璧だな。


「アストレア君は絶対別のこと考えているよね」

「それはもう周知の事実さ。この朴念仁はなにかと頭は回るのにその手の話には超絶鈍感なんだよ。」

「お前らが何を考えているか知らんが、なんかもうめんどくさいから一緒に連れていく。向こうで事情を説明するから。『転移』」


女王が一緒にいれば要らないことを言わずに済みそうだし、俺の氷結魔法を見られた以上、聡いレンやリリアはすぐに気付いただろうからな。

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