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魔王の眷属~氷結の魔術師~  作者: ちゃんまぐん
第一章 殺人鬼
10/14

episode9

「そろそろか…」

「そうね」


俺達は昼休みにこっそりと落ち会うと学園を抜け出した。


「フィオネ、少し待て」

「どうしたの?」

「合体魔法『無限回路』」


路地を通りながら風魔法の1つ相手を道に迷わせる『無限回路』を使う。


「どうしてこんなところで魔法を?」

「追われている」

「えっ!なんで?」

「今回の件には色々な奴がフィオネの兄を追っている。フィオネ、お前の兄は相当厄介な連中に関わっている。そして、そいつらによってお前の兄はバケモノにされた。フィオネ、今ならまだ引き返すのは間に合うぞ。今回の件は想像以上に根が深い、下手をすればフィオネにも危険が及ぶかもしれない。」

「それでも……私が兄さんを助けないと。」

「分かった。なら、手を繋げ」

「えっ?なんで」


フィオネはショウが差し出した手を見て動揺している。


「『無限回路』は術者以外のすべてを迷わす魔法だ。術者と接触していないと迷うんだ。効果時間も短い。早く行くぞ」

「わ、分かったわ…」


なんだろう…フィオネの顔が少し赤い気がする。


「こ、こっちよ。…………ううっ、私男の人と手なんて兄さんと父様以外……」

「なんだ?なんかよく聞き取れなかったんだが、なんて言った?」

「な、なんでもないわ。それより早く行きましょ」

「そうだな」


フィオネは顔を赤く染めながらショウを見ないようにずっと前を向いていた。

そしてしばらく走り、乗り合い馬車に乗っていくと大きな屋敷に着いた。


「ここは?」

「私の実家よ」

「えっと…俺はフィオネの両親に会わせるために連れて来られたのか?」

「ち、違うわよ!どうして私がショウ君と…いや、別に嫌っていうわけじゃ…」

フィオネはもじもじとしているが、ショウは屋敷から嫌な空気を感じ取った。

「何かいるな…」

「たぶん、ここに兄さんがいるの」

「どういうことだ?」

「兄さんが生きていたって家に連絡しても誰とも連絡が付かないの。メイドや召使いの誰一人出ないのよ。おかしいわ」


なるほど、だから兄がここに逃れてきたと考えたわけか。

となると中の人間は恐らく……

俺達はそっと庭に侵入して、扉を開けると屋敷の中に入った。


「うっ!」


屋敷には腐ったような匂いと嫌ってくらいの血の匂いがした。下に視線を向けるとおびただしいほどの血の跡があった。数々の死線を潜り抜けてきた自分でもこれはいささかショックだ。


「フィオネ、大丈夫か?」

「え、ええ……」


フィオネはあからさまショックで顔が青くなって怯えていた。フィオネの手を握りながら、頭を撫でた。


「大丈夫だ。お前は俺が守ってやる。お前は安心しろ」

「う…うん。あ、ありがと」


フィオネも若干顔が赤い気がするが、だいぶ落ち着いてくる。電気をつけると広い廊下には多くの死体が転がっていた。死後一週間と言ったところか。フィオネの推察通りここに逃れてきて殺しまくったというところだろう。

部屋を一つ一つ確認して最後に一番大きな部屋だけが残った。


「ここは…」

「知っているのか?」

「昔、兄さんに剣術を教わった時に使った道場よ。兄さん、魔法は不得意だったけど、剣術は国内でも一級品だったから」


今のご時世、剣術よりも魔法だからな…、個人的には剣術の方がかっこいいから好きなんだが…


「だから、いつも帯刀していたのか」

「そうね…これは兄さんが私が学園に入学したときに買ってくれた大切な物だから」


感知魔法で部屋を調べるととんでもなく強い魔力を感じ取る。おそらくここだろう。


「行くぞ!」

「ええ!」


部屋に突入するとやはりバケモノがそこにはいた。二人の死体の上に座り、だるそうにこちらにゆっくりと視線を向ける。


「あれは父さんと母さん!」

「フィオネ、それよりも早く兄を説得しろ!」

「わ、分かったわ。兄さん!私よ、フィオネよ!」


フィオネがそう言った瞬間、フィオネの兄は大きな爪でフィオネを襲う。


「合体魔法『チェイン』」


フィオネの兄の両手両足を風の鎖で拘束して、近くの柱に張り付ける。最大魔力を込めたっていうのに相当な馬力で風魔法の拘束を解こうとしてくる。


「フィオネ早くしろ。あんまり時間は稼げない」

「兄さん、どうしたの!なんで、兄さんはそんな姿になってしまったの!」

「ウウッ…ウガアアアアアアアアアア!」


クソ!フィオネの兄の奴、完全に理性を失っている。


「兄さん!」

「バカ!フィオネ、近づくな!」


フィオネは兄に近づいていく。その瞬間、フィオネの兄は腕の肉を裂いてまで片腕の拘束を解くとそのままフィオネめがけて爪を突き立てようとする。


「『強化×5』」


風魔法を止め、両手両足に強化魔法をかけるとフィオネより先にフィオネの兄の元へ向かって奴の腹に向けて全力の突きを加える。


「ぐっ!うおおおおおおおお!」


肩に強烈な痛みを伴うが、気にせずそのまま拳で打ち抜く。腕の骨が折れる音が聞こえたが、フィオネの兄は柱を突き抜け、壁まで吹っ飛ぶ。


「アストレア君、大丈夫!?」

「一旦引くぞ」

「え、きゃあ!」


フィオネを抱きかかえると部屋を抜けようとした瞬間


「があああああああ!」

「おいおい…『魔力砲』とか嘘だろ?」

『魔力砲』合唱魔法の1つで基本的には複数人で行う広範囲破壊魔法の1つ。それをこんなところでかまされたらひとたまりもない。

ここには大量の水もない、空気だって密室では少ない。ショウに『魔力砲』を防ぐ手段はあれしかなかった。だが、あれを使えば、頭の良いフィオネのことだ。確実に感づかれる。

一瞬、フィオネを見るが自分の兄が自分を本気で殺そうとしていることが理解できないようで固まってしまっている。

そして、ついにフィオネの兄は『魔力砲』を俺達に向けて放った。


「もう構っていられないか…個有魔法『アイシクル・プリズン』」


強烈な光に思わず目を背けてしまった。それと同時に轟音と共に大きく屋敷全体が揺れる。


「これは……氷?」


フィオネは思わず周りを確認した。自分たちを覆うように氷の壁が作られ、『魔力砲』を防ぎきっていた。しかも、氷の壁には傷一つなかった。

氷が砕けていき、外が見えるようになると部屋は大きく吹き飛び、外から丸見えだった。すでに屋敷の外では何事かと人が集まりだしていた。


「はあ、はあ、はあ」

「アア、アア、アア、アアアアアア」


ショウもフィオネの兄も息を切らしていた。


「兄さん…」


フィオネはまた兄に近づこうとした。


「『氷結柱』転移!」


ショウはフィオネの兄の手足を氷で拘束するとフィオネの腕を掴んでもしもの時に持っていた転移アイテムでその場から近くの部屋に離脱した。


「どうして!?今なら兄さんに」

「フィオネいい加減にしろ!」


ショウはも限界だった。ただでさえ、戦い始めた時から会話不能なだけならまだしも『魔力砲』なんていうものをかまされてはもう生け捕りなんか不可能だ。ましてや、フィオネの言葉で理性を取り戻してくれるかもなんていう甘い考えもあったが、現実は違う。


「アイツはもうお前のことなんか覚えちゃいない!これ以上はお前に付き合っていられない」

「まだ少ししか話していないわ!次ならきっと…」

「もうその次はないって言ってんだよ!」


フィオネはショウの勢いにビクッと体をこわばらせる。ショウ自身も肩の痛みで本当なら治療魔法をかけたいところだが、そんな余裕はなかった。


「フィオネ、お前は俺と約束したはずだ。もし、兄を元に戻せなかったらお前が殺すって。」

「それは…そうだけど、まだ…」

「もうこれ以上は無理なんだ。拘束魔法は力づくで破られる。俺の肉体強化魔法で応戦してもこの通り腕の骨を折ってもケロリとしている。そのうえ…お前を殺そうとしている」

「でも…兄さんならきっと目が覚めるわ。だ、だって兄さんは凄いのよ?確かに性格は悪いけど…そうよ、私を殺そうとしているのもきっといつものいじわるよ…ええ、そうに―」


ショウはフィオネの頬を折れていない手で思い切り引っ叩いた。そしてフィオネの頭に頭突きを食らわせる。


「いったああ~」

「いい加減、現実を見ろ!」

「なによ…兄さんを助けてくれるって言ったじゃない!」

「助けられるなら助けるって言ったんだ!それに俺達がやらなくても、お前の兄は確実に殺される」

「な、なんで…」

「分からないのか?すでに屋敷は吹き飛ばされ、大多数の人間に見られた。遅かれ早かれ冒険者達が大勢現れ、お前の兄は討たれる。」

「な、なら助けないと…」

「フィオネ、お前は今何をすべきか本当は分かっているんだろう?」


フィオネは顔を大きくゆがませる。フィオネ自身も分かっていた。もうあれは兄じゃない。けど、それでも見捨てることができない。


「フィオネ、悪いが俺はこれからアイツを殺しに行く。もう時期、『氷結柱』の効果が切れて動き出される。その前に仕留める」

「ま、待って!待ってよ!兄さんを殺さないで!」


フィオネは俺にすがるが、それを俺は振り払いフィオネの目をしっかりと見つめる。綺麗な青い瞳だが、今のその目には迷いの色しかなかった。


「お前の兄は『目を曇らせてしまうと本当に大切なことまで隠してしまう。だから、常に視野を広げ、本当に正しいことを見極めろ』というのが格言じゃなかったのか?」

「そ、それは…」

「お前の兄は平然と人を殺す人間なのか?」

「違う!兄さんはいつだって正しいことをしてきた!」


「なら、その正しい人間の妹のお前は何をやっている!」


フィオネの目は大きく開かれ動揺しているが、それを気にも止めず言い続ける。


「お前はこのまま兄に人殺しをさせ続けるのか?それが妹のお前が今することなのか?」

「……」

「俺にも兄がいる。だが、俺は兄が間違っているなら死ぬ気で止めてきた。決して今のお前のように兄の非道を見てみぬふりはしない。」

「わ、私は、ショウ君みたいに強くない…」

「いいや、お前は強い。少なくとも俺はお前に憧れていた」

「憧れていた?」


まだ会って数週間しか経っていないがフィオネにはなんというか自分にはない目標があって思わず見惚れていたこともあった。それに可愛いうえに人望もある。俺がクラスの連中に受け入れられるまで結構擁護してもらっていた。


「そうだ。皆、強いお前に憧れていたから人気だったんだぞ。俺だってお前のこと結構好きなんだぞ」

「な!?こ、こんな時にな、何言ってんのよ!その……好き……とか…………」


ん?どうした?顔真っ赤だけど、なんか怒らせるようなこと言ったか?変なことは言ってないと思うけど。個人的にフィオネのことは友人・・として好きなんだけど。


「ともかく、その強いお前がこんなところで立ち上がらなくてどうする。お前は他人に兄を殺させるのか?兄が殺されるのを黙って見てそこで殺した人間を非難して恨み続ける人生で良いのか?そんなことしかできない人間なのかお前は?」

「ち、違う…」

「お前の兄は正しいことをしていたくせに実際はただの人殺しだった。そうだよな?」

「違う!兄さんはいつも私の憧れだった!」


「だったら立て!お前の兄を救ってやれるのはお前しかいないんだ!フィオネ・グライス!」

「わ、分かったわ…。私が兄さんを救う。助けなくちゃいけないんだ…」

「ああ、そうだ。殺すことは必ずしも悪いことじゃない。殺すことで救われる人間もいる。それをよく考えろ。これからお前に作戦を伝える。俺もこのケガだ。次で確実に決めるぞ」

「ええ」

「俺が奴の動きを一瞬だけでもいい。止める。その間にフィオネはその腰の剣で奴の心臓を貫け」

「でも…刃が通るかしら?」

「問題ない。俺の『アシスト』で援護する」

「分かったわ」


それに最初に会った時は気づかなかったが、あの男やはり……ならば俺のアシストを使えば…。それにもしかしたら……。

フィオネにバケモノを倒す作戦を伝えると、元の部屋に向かった。

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