7. 眠れない夜に
百合のお母さんが登場します。
むしかえるような暑さ。
深夜の0時、百合は布団から這い出した。
昼が暑いのは当たり前なのだが、動かずじっとしている分体温がこもってしまい暑さが鬱陶しく感じる。
しかし、百合が起きだしたのは、暑さのせいだけではない。キッチンにおいてあるスマートフォンに電話がかかってきたからである。
こんな時間に誰が...?
ホームボタンを押してロックを解除すると、見慣れたアイコンが目に入り、ため息が出る。
「もしもし...」
「あ!!もしもし!百合?ちょっとお母ちゃん聞きたいことがあってさ!
というか、声に元気がないよ。ちゃんとご飯食べてる?」
電話の相手は百合の母 春美である。
離れて暮らしているため、結構な比率で夜中に電話がかかってきて、その度に起こされる百合はいい迷惑なのだ。
声に元気がないのは、あんたがこんな時間に電話してくるからだろ。と叫びたい気持ちをぐっとこらえて、震えながら百合は答える。
「ち、ちゃんとご飯食べてるよぉ。それより、聞きたいことって?」
「んーとね。『すかいぷ』っていうアプリ使いたいんだけどね、お母ちゃん設定とかよく分かんないから。百合こういうの得意でしょ?」
確かに百合は、現役女子高生である。高校入学と同時に買ってもらったスマートフォンはもう一年以上使用しているため、ある程度は使いこなせる。
「あー。『Skype』だったらメールアドレスとパスワードを入力すれば使えるよ」
「『めーるあどれす』も百合に設定してもらったからよく分かんないわ〜。そういえば、新しい『ぱそこん』買ったのよ。百合もうすぐ夏休みでしょ。夏休みの間だけでもこっちにいたら?百合にも新しい『ぱそこん』みてもらいたいし」
そうなのだ。明日学校にでればもう、その次の日から学校には行かなくてもいい。また、剣道部も大会で負けてしまったため、夏休みに部活はない。
それに、いつも自分でつくっていたご飯をつくらなくてもいいっていうのは魅力的だ。
「ん〜。じゃあ、そうしよっかな」
「分かった〜!お父ちゃん喜ぶと思うよ。『百合が顔を見せん!』とか言っていじけてたから」
「百合が顔を見せん」というところは、百合の父親に真似てか声を低くし、いつもの柔らかい声とのギャップに思わず百合も笑ってしまう。
「じゃあ、明後日には着くようにする」
「了解!そうだ!百合にsy...」
プツンと音がして、声が聞こえなくなり、スマートフォンの画面が真っ暗になる。
あ...充電切れた...
連絡以外はあまりスマートフォンに触らない百合は、基本充電という行為を行わない。そのため、どこかにあるはずであろう充電器の居場所を考えながら、とりあえず布団に入って目を閉じる。
充電は明日にするか...
暑さの中、久々にぐっすりと眠れた夜だった。