6. 松葉杖とギプス
「お世話になりました」
あれから定期テストも終わって、ゴミ捨て場を通ったときにふとあの時のことを思い出す。
だいぶ心に余裕ができてきたここ数日、空から落ちてきた謎の少年は再び百合の前に現れた。
少年は救急車に運ばれたあと、足の骨にヒビが入っていることが発覚し、ギプスをはめることになったらしい。
「お弁当のことといい、救急車のことといい本当にありがとうございました」
少年は深く頭を下げた。だが、脇の位置が松葉杖で固定されているためバランスを崩しそうになり、慌てて腰の位置をもとに戻す。
少し照れたように、はにかみ、
「僕、記憶喪失っていうですかね。それみたいなんです。」
と、衝撃の言葉を口にした。
「結構高いところから落ちちゃったみたいで、脳にショックがかかったのが原因らしくて、救急車を呼んでくださる前に、何か変なこと言ってたらすみません」
むしろ、そんな状態で正常に会話ができるはずもないのだが、実際、少年と百合との会話はかみあっていたとは言いにくい。
「全然大丈夫だよ。お弁当だってたいしたことでもないし」
少年は、もう一度頭を下げて
「生活が落ち着きましたら、またお礼します」
と言い残し、くるりと背を向け行ってしまった。そのときに、またバランスを崩したのは言うまでもない。