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外伝③ 天空のソンブラ

 「カンッ! カンッ! カンッ!」


 鍛冶場は今日も活気にあふれていた。ここはシャムス王国で最も大きな鍛冶場である。王国のほぼ中央に位置し交通の便も良く、王国で採取される鉄鉱石で質の高いものは必ずここに運ばれていた。

 シャムス王国では武具を打つ鍛冶屋は身分が高い。特に鉄を豆腐のように切ると言われる武器を打つといわれるこの鍛冶場の棟梁は、気さくで温厚な人柄も合わせて国中の尊敬を集めていた。この棟梁が打った武具は、国内で高い功績のあった者に対する褒美の品として扱われるほどであった。


 鍛冶場の万年見習いであるソンブラは、そんな腕利きの職人の中にあってなまくらばかり打ち続けていた。その一風変わった風貌や、時々発する奇声から鍛冶場の仲間や町の人から変人扱いされていたが、棟梁に憧れ、いつか棟梁のような剣を打てることを夢見て真面目に働いていた。

 

 ある日ソンブラは、棟梁から呼び出された。

「棟梁、何か御用でしょうか?」

 尊敬する棟梁の前であるため、ソンブラは緊張気味に尋ねた。

「来たか、今日打ったもんを見してみな」

 恐る恐る差し出された剣を棟梁は角度を変えながらじっくり観察する。「はぁ」と大きくため息をついてこう言った。

「おめえ、ここに来て何年だっけ?」

「10年になります」

「そうか・・・悪いがこれ以上お前をここで使う事は出来ねえ」

 嫌な予感はあったものの、棟梁のような武器鍛冶になりたかったソンブラにとってはあまりにもつらい一言であった。何も言えずにいると棟梁が続けた。

「おめえが一流の鍛冶屋を目指してまじめにやってるのは知ってるよ。でもなあ人って奴には才ってものがあってなあ、おめえは鍛冶の才はねえ」

 そう言うと、棟梁はソンブラの打った剣を近くに飾ってある鎧に叩きつけた。すると、剣はあっさりと根元から折れてしまった。

 ソンブラが真っ青になり絶句していると棟梁がさらに続けた。

「おめえの親父さんに頼まれて今まで使ってやったけど、これ以上は無理だな。これは餞別代りにとっときな」

 そういって棟梁は一振りの剣をソンブラに手渡した。棟梁の作品としてはそれ程上等なものではなかったが、それでもソンブラは一生働いても買えない代物だ。王国で売れば一生暮らしていける金になるだろう。生活に困らないようにとの棟梁の配慮であった。


 落胆しながら帰路に着くと、近所の子供二人とすれ違った。

「ギュネ、ソンブラだ。変人にあっちまった。いや今日は何となく顔が青いから宇宙人かな」

「ちょっと、やめなって」

 ギュネと呼ばれた子供と、もう一人の口の悪い子供はそう言うと去っていった。

 しかしとんでもない言われようだ、変人扱いをされていることは知っていたが、ついに宇宙人呼ばわりとは、俺が宇宙人なら、俺から見ればお前らが宇宙人だろうと訳の分からない事を思いながら家に向かった。


 家に着くと妻が寝ていた。

 ソンブラに気付くと、面倒くさそうに顔を向けて話しかけた。

「早かったのね、まさかクビになった訳じゃないわよね?」

 ギクッとしながらも、必死に取り繕う

「そんな訳ないだろう、ほら、今日は棟梁からこの剣をいただいたんだ、俺が信頼されている証拠だろ」

 剣をみせると、妻が一転目を輝かせた

「へ~高く売れそうね」

「だめだよ、これは棟梁からいただいた大切なものなんだ。売る訳にはいかないよ」

「あ~そう」

 つまらなそうにそう言うと、そっぽを向いてもうソンブラの方を見ようともしなかった。


 翌朝、ソンブラが目を覚ますと妻がまだ寝ていたので、ほっとして出かける準備をした。

 とにかく働く先を見つけなければならない。かといって当てもないので、もう一度雇ってもらうことが出来ないかと、とりあえず鍛冶場に行ってみることにした。


 鍛冶場に着くとみなギョっとした表情でソンブラを見る。驚いているというより怯えているようにも見える。ソンブラは「クビになった来ちゃ悪いのか? 何か感じが悪いな」と思いながらも棟梁の部屋に向かった。

 棟梁はソンブラを見ると開口一番

「お・・・おめぇ、な・・・何者だ!?」

「何言ってんですか棟梁?ソンブラですよ。昨日の今日なのに忘れたんですか?」

「ソンブラだって!?じゃあおめえその顔はどうしたんだよ?」

「顔?」

 ソンブラは、慌てて近くにあった剣を鏡代わりに自分の顔を覗き込み衝撃を受けた。皮膚は緑掛かっており、頭の真ん中がくぼんだようなっていて左右がこぶのように膨らんでおり、髪の毛も極端に短くなっている。一言で言うと化け物じみていた。

「な・・・なんだこれ?」

 ソンブラは慌てて鍛冶場を飛び出すと、とにかく妻や他の人に見つかる訳には行かないので、近くの森に隠れるようにした。そして、夜、妻が寝静まったころ、見つからないようにこっそり家に帰った。


 翌朝、ソンブラは棟梁から貰った剣で自分の顔を覗き込み愕然とする。

 剣を握り締めたまま動けなくなった。緑がかった皮膚は完全に緑色になっており、髪は完全になくなっている。そして頭の左右のこぶのような所から触覚のようなものが二本、10センチ程伸びていた。もはや完全に化け物である。


 ソンブラが固まっていると、扉が乱暴に開けられ憲兵が数人飛び足してきた。

「いた! 化け物だ、通報通りだぞ!」

「剣をもっているぞ、襲ってくるかもしれないから気を付けろ!」

「皆でかかれ、一気に取り押さえろ!」

 かわるがわるそう叫ぶと、ソンブラは抵抗する間も弁解する間もなく取り押さえられ、両手両足を拘束され、城の牢に連れて行かれた。


 ソンブラの処刑はすぐに決まった。ソンブラも必死に弁解したものの、この見た目である。異形のものを生かしておくと、後に国に災いをもたらすかもしれないと、追放でなく処刑することになったのであった。


 処刑の日、城の広間にギロチンが設置された。ソンブラは両手を拘束され、足に鉄球付きの足かせを着け、憲兵に引きずられるようにそこに向かう。変わったことと言えば触覚が30センチぐらいに伸びた事だろうか、異形の者を市民に見せるわけに行かないと公開されず、城の重鎮しか見学していなかったことがソンブラにとって唯一の救いだった。


 ギロチンの元にたどり着くと、刃を見てはっとなる。この綺麗な直刃、紛れもなく棟梁が打った刃だった。

(棟梁の刃で人生を終われるなら、それはそれでありなのかもな・・・)

 棟梁の刃を見たとき、そもそも行き場を失っていた為、そんな風に納得出来そうだった。

 だが、その直後ある疑問が浮かんでくる。

(そもそも何で化け物になったことを憲兵がしってたんだ?棟梁しか知らないはずなのに・・・)

 ある疑惑が浮かんで、はっとして見上げると、王様の隣で客人として扱われている棟梁の姿を見つけた。その瞬間、すべてを悟り激しい怒りがこみ上げてきた。


「キエィエエエエエエエエエエエエエエエエエエエィッ!!」


 奇妙な叫び声を上げると、ソンブラの体に力が漲ってきた。頭の触覚は1メートルぐらいに伸び、バチバチと電気のようなものが触覚の回りに走りはじめた。そしてソンブラの身体はすこしづづ中に浮かんでいく。城の重鎮たちは、両手を広げで浮かんでいるソンブラを唖然としながら眺めていた。


「キョアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 ソンブラはさらに奇妙な叫び声を上げると、城中に電気が走り、その電気を浴びた人は犬や猫、うさぎやねずみ、象、キリン、カエルなどさまざまな動物に変わっていった。

 城中恐怖の悲鳴と動物の鳴き声がこだまする中、ソンブラはいつの間にか剣を手にしていた。そう、それはさっきまで尊敬していた人間からいただいた剣だった。ソンブラが何事か唱えるとその剣はその作り主に向かって真っ直ぐ飛んでいった。


「我はきっと帰って来るぞ」


 そう言うとソンブラは、いつの間にか迎えに来ていた巨大な円盤に乗り込むと、どこかに消えた。



 このソンブラの歪んだ感情が、後にシャムス王国に悲劇をもたらす事になる。

 悲劇は長く続いた、右手に剣、左手に太陽を持ったカエルを咥えた犬の旗が城に掲げられるその日まで・・・・・




(完)

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