08 テオバルト・ミュラー・ハーゼは女神?と再会する
両手開いて顔の高さで小刻みに振っている女神っぽい何かについては余り触れたくない。どうせ面倒事だろうし、女神と確定した訳ではない。ただ行動と言動が前にあった女神っぽい。あと俺以外の連中が跪いて頭を垂れているのは変な光景だ。
「さあ、見目麗しい偉大な女神の大切な啓示ですよ~」
自称女神としておくとして、自称であっても女神と仮定してもこれはないだろう。神としての威厳どころか体裁さえなしていない。ただの村人(女)だろう。見るには美しいと思えなくもないのだがやはり行動と言動がすべてを見た目のプラス要素を打ち消している。
「あ~、用件は?」
「だから啓示ですよ~」
啓示ね。というかこの場合だと指示だと思うんだけどどうしたものか。
「じゃあテオ君、森に移住しましょう!マイアタルで有志を募って墜落地点にレッツ移民!!」
実際に神がいる事を知っている文明があったとして、こういう啓示を受けた場合どうするんだろうな?
「で、移民はいいとしてなんでこいつらはこんな状態?」
中年2人はどうでも良いがルイーザまでが跪いているのがどうしても納得できない。ベイセルはノリで跪きそうだし、ここまでの生活でルイーザは信心深い訳でもないとしっているからだ。
「だって私は女神だしね。言い方を変えたらこの子達を創造した張本人が私なんだからそれはひれ伏すでしょ。私以外の神様でもひれ伏すんだからしかたないわよ。この身体は私の意思を伝える為に作ったものなのよ。でその人形に降りてきた訳なんだけど、能力的には私の1%にも満たないってレベルでもこの子達はこうなってしまうのよね。この人形だって1回使えば2回目は使えないのが大半だしね。神だからこその悩みよね。神の威光っていうのは伊達じゃないのよ。威張っても仕方ないのだけれど、でも鍛えていけば大分軽減されるのだろうけど現状のこの子達じゃ私の威光を受けて死なないだけでも人間としては才能があると思うわよ?私としては結果的に実際に死んでも問題ないのだけどね」
「降臨して即座に無差別虐殺とか神様じゃないから、あと俺に影響がないのは?」
「あなたはこれまでに結構な数の武器を折っているはずだけどそれについて心が痛む?武器の気持ちになって後を追って死にたくなるのかな?私からしたらそんな感じね。あなたが影響を受けないのはあなたの創造主が私じゃないからというのが理由の1つ。ちなみにあなたの世界の創造主はもう消えてるけどね。で、あなたが生物として根本から壊れているからと言うのが理由の2つ。私があなたに女神の加護を与えたのが最後の理由かしらね。最後はあまり関係ないのだけれど。どのみち今のテオ君じゃどうにもできないことだから気にしても仕方ないわね。ちゃんと答えてあげる私偉い!」
「ぶっちゃけると、気にしても仕方ないということか?そして問題にもならないと?」
そこについての気になる。問題にならないのであれば別に気にしなくてもいい。俺に対して問題を投げかけてくる環境についてはいろいろと話し合いたいと思う事もあるが俺にも対処できない事が多々ある。というか俺に対処できない事の方が圧倒的に多い。所詮は一山幾らの人間だからな。
「問題無いといえば無いわね。テオ君は好きにしたらいいと思うのよ。世界の停滞は私にとって良くない事だから、テオ君がかき回してくれるなら大歓迎ってところね。ということで森に移民という事よ」
「で今回伝えたい事ってのは森に行くがよいって事か?」
「そうそう、森というかテオ君が墜落したところが良いわね。自然豊かで湖に川までまで今なら付いてくるわよ。人間以外の動物の数も多いしね」
マイアタルの街でよくあった嫌は商法だな。「今ならこの焼き串を1つ買って貰えれば同じものをさらに同じものを4つ付けます」みないな。おまけを付けるくらいならもう少し価格を下げろよとかってやつだ。しかも今回は土地に河川だしさらに胡散臭さに拍車が掛かる。
「結局森に行けばいいんだろう?っていうかそんなに干渉してこられるとこっちとしても俺の意思なのかどうか悩むところなんだが、お前にとってはどう思うよ?」
「あなたの意思はあなたの意思でしょう?だから啓示を与えに来たのよ。テオ君の精神に直接干渉できるならここに来る必要ないじゃない?って言っても納得しないでしょうね。まったくテオ君は疑り深いのね~」
「そんな事を言われても確証がないのだから疑っても仕方ないだろう}
「その辺は追々話すとしてこの身体そろそろ崩壊し始めてるから今日はこの辺でお開きね。また会いましょう!ばいび~」
女神の姿が一瞬で泥人形に変わりそして崩れていく。泥で作られているとしてもそんなにすぐに崩れたりしないだろうが、土になるでもなく砂になるわけでもなく崩れた端から灰になって崩れていくのは幻想的に見えなくもない。
女神自身は幻想的ではなくても起こす現象は確実にファンタジーか。言動についてはこっちの責任もあるしな、最初に会った時に堅苦しい話し方をしていたのでクレーム出したのが今になって響いてくるのか。
「ってことで森に行く事になったんだがいつまで跪いてるんだ?」
「何となく立ち上がりにくいというか」
「屈辱的な事なんだが気分はすっきりしていてなぁ」
「女神に声をかけれるとは私の信仰が間違っていなかったという事だろう。私は間違っていなかった。テオお前と会えた事は女神の導きなのだろう。ああああああ!!」
ルイーザの言い分は何とか理解できるような気がする、ベイセルはおそらく何も考えてない。司教はうざかった。このときの司教の行動を言語化するなら、涙と鼻水、涎を滝のように流しながら俺に擦り寄って来ようとしており隙を見せれば下半身に抱こうとしていた。って感じだ。この世界に来てからの戦闘経験と鍛錬の賜物で捕まりはしなかったが、オーガと戦うよりも精神的に疲労したという事実は俺にとってさらなる疲労を与える事になった。
「ほれ、女神の勧め通りに森の奥地に行くぞ。有志を募ってって事だが」
「私がその役割を担っておこう」
顔面が18禁どころかモザイクを被せても通信網に乗せられない状態の司教が声を張り上げるので、周りの俺らはドン引きだが任せておく事にした。こんな顔をしている奴が教えを説いている事自体に最大級の不安を抱いているのは俺だけじゃないはずだ。このときのこの選択がおそらく間違いだったんだとすぐ後で気が付くが俺の知った事ではない。
次の日、前日に司教が熱烈に有志を募ったおかげなのか街の全人口の内2名が移民に参加する事になった。つまりは俺とルイーザだけだ。
「とりあえずテオバルトの話を聞くとこの森は4日あれば人の足で抜ける事が出来る。そしてさらに2~3週間かけて目的地到着を予定している。」
などと司教が移民参加者について説明会を行っているんだが、誰が未開の化け物共が跋扈するようなところに行きたがるというのだろうか?もう少し考えて貰いたい。あと俺の名前を出すな。
ちなみに、前日女神が現れたということで異世界からの来客という俺の素性がバレたのだが、3人とも語尾は違ったが「へぇ~そうなんだ」という感想を俺は頂きそれ以上何もなかった事をここに記しておこう。俺の立場からしたら懐が広すぎる世界だな~と、どうでも良い感想しかないのだが。俺以外にもこうやってこの世界に来た事がある奴がいるのかもしれないなと思ったり思わなかったり。
俺の最大の失敗は女神降臨から日が開けて最初に気が付いたのだが、俺が魔法を使えるようになるにはどうすれば良いかという事を女神に聞き忘れた事だろう。次点で、司教に移民について任せてしまったため話が大きくなりすぎたということだ。話だけ大きくなり結局ベイセルは守備隊といって良いだろうな。部下に拘束されて監禁状態になり不参加。現在絶好調で演説している司教前日巫女達の説得に失敗し拷問という名前の話し合いの結果参加を辞退する事になった。信用されていないのだろう理由は両足首を鎖に繋がれ、頬には幾重にも重なった紅葉マークがくっきりと残っている事から見て取れる。重なりすぎて青黒くなっている紅葉マークは一見して呪いのように見えるので司教として今後やっていけるのだろうか?あと司教を拷問する巫女という存在を巫女のままで維持していって良いのかは宗教問題にならないのか不安で仕方ない。
マイアタルの住民についてはおそらく移民に参加しないのが正解だ。現在の人口で兵を募って防衛しているが現状維持できるぎりぎりの数の人数しかいないように見える。作物や野生動物の肉などいろいろ食料があるので産めよ増やせよで人口増加を狙っている最中だろう。後数年はこんなものだろうし増えてきたら街の治安維持でさらに兵の必要数が増える事になりかねない。地球にあったファンタジー小説のように中世のような物語に出てくる文明の水準よりこの世界世界の方がおそらく低いだろう。魔法があるということがマイナス要素なのか科学が進歩しなさすぎる。風車や水車などが最先端の科学技術というのだから程度が知れる。組織体系も法治国家そのものだがこの街の危険度が高い為か犯罪行為がほぼ起こっていないのはそこまでの頭を持っていないということか、そんな事をしたら死んでしまうという事なのか判断がつかない。
なんてことを考えても俺の影響力じゃルイーザが感心して終りなんだがね。そのルイーザも「へぇ~」「はぁ~」「すごいですねぇ」とかしか言わないだろうし、
建築用の釘やら蝶番を大量に買い込んで、結局俺とルイーザの二人だけで街を出て翌日には俺の墜落現場に到着した。1週間近く掛かって到着したマイアタルの街で2ヶ月過ごしてここに帰ってきたって事になるんだろうな。俺のこの世界での成果はルイーザを巻き込んで振り出しに戻る。ルイーザは俺の背中で負ぶさりながら気絶している。気絶したのは全力で走り始めてから数秒後だったが心音が聞こえてきたので生きていることは確認していた。走り始めてからどうしたらもっと早く走れるのかを試している内に楽しくなってしまった為背中にいる人物の事を完全に忘れていたのだが、ルイーザを介抱しながらどう弁明しようか悩んでいた。
「とりあえず、木材はそこら辺に腐るほど生えてるからサクッと刈り取ってこようか」
「野宿だと死んじゃいますね。主に私が。さっきも死にかけましたけど・・・」
「あ~・・・・・・、守りますよ。はい、でも化け物は怖いからね」
「テオさん、出来れば要塞クラスの堅固なお家が良いんですけど駄目ですかね?」
「そういう気持ちになるのは分かるから・・・とりあえず木製の要塞を目指すかね」
弁明に失敗した俺はそんな会話をしながら小規模な林をそこにいた化け物と一緒に伐採し建材として確保しつつ伐採&建築の繰り返しとなる。有り余る体力のおかげで3時間後には高さ10メートル、幅5メートルの壁がテオバルト邸予定地の敷地をぐるっと囲んでいる。建設速度にルイーザは驚いたが、俺はこれほど大量の木材をこんな事に消費してしまったという事の方が衝撃的だった。一昔前の地球なら環境保護がどうのこうの言ってくる連中がいただろうな。