03 テオバルト・ミュラー・ハーゼは街を目指す。
予約掲載設定で上手くいっていなかったので連投します。
モミモミモミモミ。
テオはにやけながらモミモミし続けていた。現在墜落地点より街との間にある森を突き抜けて矢印に従って歩き続けた。街に向かい始めて今日で丸2日歩き続けていることになる。
「街にはしばらく着かないか。武器よりも服の調達の方が必要になるとは思わなかった。」
オーガとの戦闘のあった日の夕方に身長2メートル近い豚の顔をした人型の化け物のオークとの戦闘があった。オーガとは比較にならないほど弱かったが数が比較にならないほど多かった。
全部で鉱魔石が83個だから83匹は居たわけだ。良かったことといえばオーガよりも肉の味は良かった。オークの肉を切り分けてオーガの靄をモミモミしながらおやつ感覚で食べていた。便利な首飾りには足を向けて寝られんわ。
翌日には8匹の犬の顔をしたコボルト、29匹の彫りの深い顔の皮膚が緑のゴブリンとの戦闘になった。コボルトとゴブリンの肉は癖が強く好き嫌いが分かれるかもしれないなと贅沢なことを考えつつ食べた。
こういった化け物からは鉱魔石が取れる。基本的に色は黒で靄が出ていた。靄を引き抜くと綺麗な白になるが形が親指なので愛でたいと思えない。
靄については同じ種類の化け物から抜いたものは混ぜることが出来て練り込んでいくとある程度モミモミしやすい大きさまで小さくなる。ゴブリン・コボルト・オーク・オーガと4種類の靄の塊を持っているが、並び順に弾力が良くなっていく。ゴブリンは柔らかすぎてもんでいる感じがしないので首飾りの中に入れっぱなしになっている。コボルトも同様。オークはオークに近いが多少柔らかいので未だに未使用だが枕として使用することにした。オーガは反発緑芽強くて触り心地がいい。暇になるとモミモミしている。
戦闘経験皆無だったが現在では片手剣と短剣の扱いについては上達したと思う。オーガ以来1度も折っていないからな。両手剣と槍とハルバートは在庫切れで弓は出番になるほど遭遇した敵が少数じゃないので未使用。こうやって考えると最初にオーガと戦ったのは幸運なのか不運なのか微妙になる。
服は数々の戦闘を乗り越えて原型を維持できていない上半身は無傷のリュックのみ装着し、下半身は着ていた服の大きめの切れ端をまとめて腰に巻いている状態だ。実際のところ俺の持つ武器が棍棒でオーガと並んだら家族のように見えるかもしれないな。戦闘中に受けた傷はもう治ってしまっている。テオバルトが生活している時代の人間は病気もしなければ四肢を失わない限り傷くらいすぐに治る。そうでないなら人口が減って食糧事情も良くなっていただろう。
「服を手に入れるためには街に行かないといけないな。このままだと全裸になってしまう。化け物でも何か着ていたというのに」
オーガ以外の化け物はオークは金属製の鎧から革の鎧、コボルトはズボンを履いていたがとゴブリンは動きやすそうな服を着ていた。コボルトのズボンは小さく血まみれになっていたのでそのまま放置、ゴブリンは血液が緑だったので触りたくないという理由でアウト。オークは服が必要になってからは遭遇していない。
「船の事故から独り言が増えた気がするな。精神的にテンパっていたのかもしれないな。でもゴキブリよりも上手いものが多いし量も多い。これだけで幸せを感じられるんだから単純だな」
数日に1回飯にありつけていた過去のことがどうしようもないほど悲惨だったということをここまで実感すると感慨深いものがあるな。まだ異世界の第1異世界人にも会ってないというのに現状で幸せを満喫している。
でも田舎だとしても道がないのはどういうことなんだろうか。化け物の数もそこまで多くないし未開拓というなら墜落地点は僻地だったわけか?
「いきなり人口密集地に墜落するよりは配慮されているんだろうな」
そんなことを一切考えていなかった女神が笑っていたがテオバルトは知る術がない。
「歩くから駄目なわけで走れば良いのかもしれんな」
体力勝負になるのはこれまでの経験で分かっているので体力作りは必須かとオーガスタイルで走り出す。
テオバルトは知らないことだがいろいろある。
テオバルトはまがりなりにも宇宙飛行士である。宇宙飛行士になるためには強靱な肉体と、もしものことを考えて肉体同様精神面でも異常なまでのタフさを求められる。宇宙空間で一人漂流することも十分に考えられ救助を待つ間に自分を保てなくなるのであれば助かっても死ぬこととあまり変わらない。当然そういう緊急事態の訓練を受けている。
座学の方でも必要なことはすべてきちんと修めてある。船体修理技能なども必須だったために溶接や金属加工も習得してある。
事故の時に救難要請していれば貴重な人材を失うことを恐れて急いで救助隊が駆けつけただろう。命の価値が安くなっていても現場で指揮が出来るほどの人材は優遇される。
テオバルトと5人のクルーは宇宙空間での活動においては人類では上から数えた方が早いと言うか一番上の1級品。エリートだった。
評価はエリートだった自称ゴミ人間のテオバルトは腰蓑スタイルで2時間近く走り続けていた。走る速度はそれなりだったが全力でもないし、生まれ持った資質によるものとこちらに来てからの戦闘で体力の上限が上がっているために息が上がることもない。
最短距離のはずなんだが進行方向には今までの森が林と思えるような深い森がある。
「この世界で始めてみる生物が化け物なのは納得するとして、初めて会った人間が死体というのはどういうことなんだろうか?」
目の前にはまだかすかに温かい人間の死体とその死体が持っていただろう武器が多数転がっていた。もちろん死体を作ったのはテオバルトではない。死体の様子から食いちぎられたところがあるのでスラムの人間か化け物かの2択となる。こっちも食い扶持に困った挙げく同種を食う習慣があるのかと思うと気が重くなってくる。
「とりあえず助かる見込みがなさそうだから服だけ頂くか」
気が重くなったが死ぬのは自分の弱さに起因すると地球で学んでいるので死にかけの人物や死人に対して思うところはない。
「生暖かいが他の手段もないし原始人スタイルとは比較にならんか」
鎧を引きはがして洋服一式と転がっている武器を手に入れてからさらに矢印に従い進んでいく。この先では物音がしているので第1異世界人との遭遇に期待が高まる。
「すげえな、おいっ」
つい最近、倒すのに苦労したオーガと同等の体格の全身鎧がタイマンしている光景に出くわした。おそらく戦力的には互角なんだろうと観察しながらオークの肉をスナック菓子感覚で摘まんでしばらく観戦していた。
全身鎧は3メートルくらいの剣を振り回しておりオークの棍棒と互角に打ち合いを繰り広げている。地球出身なら誰もが異世界だと納得できる光景だろうな。
しかし先の死体のことを思うとこいつらがやったのは間違いないと思う。ということは悲しいことだが第1異世界人ではいのだろうな。この全身鎧も俺の敵か。
戦力が拮抗している場合、その拮抗が崩れるのも一瞬というのが常識だろう。振り下ろした剣がオーガから逸れた時点でその拮抗は崩れた。全身鎧の頭部にフルスイングしたオーガの棍棒が直撃して頭部が耐えきれずに破片になって吹き飛ぶ。吹き飛んだが吹き飛んだ物は石塊と元は兜だった金属片だけだった。破片達は散弾となって木々に食い込んでいく。全身鎧が倒されたのでオーガからまた靄を回収できるかもと思っていたが全身鎧はまだオーガと戦っていた。
「なんだかなぁ」
オーガの靄を期待していただけに拍子抜けして立ち去ることにしようと矢印に向かって進もうと踏み出す。
「そこのお前、見ていないで助けろ」
切羽詰まった声がするので振り返るが全身鎧とオークしかいない。再度矢印の方向に進もうとして、
「見捨てるなっ!」
テオバルトは振り返って自分を指さしてみる。
「そうだ、お前だ。こんな状態を見て見捨てようとするな」
どうやら全身鎧の方から声が聞こえる。助けを必要としているようだが、知らない誰かに優しくする必要を感じないし大きさがかなり違う。将来的に仲良くなって友人になったとしてもサイズの違いから友人付き合いが大変だとも思うが、第1異世界人なので交流を持つのも悪くないだろうと考え直して両手に一振りずつ片手剣を握りオーガの足下へ全力で駆け出した。オーガのまたの間を走り抜けたところで振り返り様にアキレス腱に向かって両手に持った片手剣を振り抜く。もう剣の扱いには慣れているので弾かれることもなく折れることもなく振り抜いた。
オーガが前屈みに倒れる様子を後方に向かって飛んで距離を取りると間髪入れずに全身鎧が手にしていた剣を頭に叩き付けとどめを刺した。倒したオーガの肉の行方が非常に気になるが全身鎧に話しかける方が先だろうな。それに気になることもある。
「頭がないが大丈夫なのか?」
「助かったよ、助太刀感謝する。これについては気にしなくても良いぞ」
そう言って全身鎧の胸が開いて俺よりも小柄な年配の男が笑顔で出てきた。全身鎧はパワードスーツみたいな扱いなのか。パワードスーツなら人型にする必要ないと思うが拘りとかあるのかもしれない。
パワードスーツは地球にもあったが人型のものは無い。人型だと限界があるというのは一般常識で、作業内容と汎用性の双方を求める場合だが人型では役に立つことが限定されてしまう。多脚型や複数のアームを持つ方が何をするにしても効率が良い。
「俺はベイセル・レーンクヴィスト、この先のマイアタルの防衛を任されている。お前さんはマイアタルで見た覚えがないが?」
「俺はテオバルト・ミュラー・ハーゼという。一言で言うなら迷子だな」
「迷子ならこの森に入るな、心得があるようだが危険度が高すぎる」
ベイセル・レーンクヴィストは白髪でがりがりに痩せていた。年齢を聞いたら43歳と返された。この森を抜けたところにあるマイアタルという街で化け物からの防衛を任されているらしい。街の防衛責任者で先ほど俺が見かけた死体は部下とのことだ。部下の全てをオーガによって失ってしまったので、責任問題になりそうだと顔を青くしてプルプルしているが俺はオーガの死体が気になるので2人でオーガを解体を仕様と提案し作業に没頭する。ベイセルも作業していて精神状態が落ち着いたようだ。
「迷子なら一緒に行くか?それにお互いに1人だと危ないしな」
「それは助かる」
幸運かどうか判断に困るがベイセルと合流してから2人行動となった。全身鎧は魔力切れで破棄するしかないと、ベイセルはさらに気を落としかけていたので気分転換にと、この辺のことを聞きながらマイアタルという街を目指す。ベイセルは嘘を言っている様子はなく進行方向は矢印と合致するのでおそらく本当のことを言っていると思う。ベイセルに対して、初めてあった怪しい男に対してもう少し警戒してもいいと俺は思うが、ベイセル本人は特に気にしていないようだ。
ここはアテアルバという国の国土から微妙だが出ており、ここから最寄りの大きい街はマイアタルという名前で地方都市としてはアテアルバでは大きい部類に入るとのこと。この森はアテアルバの端(隣?)に位置しており俺が来た方角には国が存在していないらしい。アテアルバの領土にしてもいいと思うのだが化け物の出現状況により領土とするにも問題があるそうだ。
アテアルバは小国であるが隣接している国は1つだけでその他は化け物が出現する森や平原が占めているらしい。戦争でもしているのかと思って聞いてみるとここ100年は他国からの侵攻がないらしい。理由はこの国を攻め落として支配下にしても化け物を相手にする必要に迫られるためうま味がないらしい。この点においては隣国とアテアルバの意見は完全に一致している。この大陸には他にいくつか国があり戦争をしている国もあるらしいのであの頭の軽そうな女神の采配には多少感謝しなければならないらしいようだ。
ベイセルに案内されること1時間、俺はアテアルバというこの世界で始めて人の住む場所にに辿り着いた。