表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

02 テオバルト・ミュラー・ハーゼは落下する

予約掲載設定は私には使いこなせないということが分かりました。

 目が覚めると一面に大地が広がっている。豊かな森に山々が連なり湖が豊かな水面をたたえている。海も広がっており俺の知る地球とは何もかもが違っていた。異なる世界なのだと否応にも理解できた。見たものを信じられないやつは生きていけない。俺の育った環境では見たものだけが現実だった。


 暑い。


 この一言が俺、テオバルト・ミュラー・ハーゼの感情の全てだ。


 おそらくあの女神が言っていた世界は見えている惑星なんだろう。この惑星には大気があることは確実だ。俺の宇宙服が燃えているのがその証拠だ。大気摩擦で発火したわけだな。加熱のピークは越えているので次は着地が問題だ。燃えかすになった宇宙服がどんどん剥がれていく。久々に感じた大気は僅かながら俺に感動を与えた。感動は良いのだが地面に着地した段階で俺はミンチになる運命にある。


 先ほどから身体を大の字に開いて減速を試みているが俺が選べる墜落地点はあの湖しかない。初めてみるので知識は無いが水深が深いことを祈る。可能な限り深い部分を探して湖を注視していると視界にじゃまなものが浮かんでくる。手を振っても消せないようだ。仕方なくそれを視界に入れると湖の3面図が映っている。


 これはあの女神のオマケなんだろうと予想は付くが普通にと頼んだのにこれでは異常だろうが。今度話しかけてきたら文句を言わないといけない。ただ、この情報のおかげで俺は命を繋ぐことが出来そうだ。水面に当たった瞬間にミンチにならなければだが。


 しかしどうやったらこの情報は消えるんだろう。半透明で視界が完全に失われることはないが透過率が悪すぎる。手で操作はできないのは先ほど学んだ。視線を向けるとさらに詳細を表示してしまう機能らしい。消す方法が一向に見当たらない。


 試行錯誤していた俺はあっけなく無限に広がっている緑豊かなこの星の大地に大の字の状態で墜落した。


「おーい。おーい。」


 苛つくトーンの声がする。


「おお、テオ君死んじゃったの?」


 女神の声だった。


「誰がテオ君だ!生きているが前がまともに見えない。なんだこの情報の羅列は」


「衛星軌道上から落下したとは思えないほど元気だね。元気だからいいか。その情報は消えろと思えば消えるよ。あと若干透けてるでしょ。思えば透過率も変わるから便利だね。やったぜ」


 消えろと思ったら本当に消えた。こんな単純に消えると逆に困る。


「これは普通じゃないだろうが!あと何で俺は地面に激突しなければなんのだ!」


 女神の姿を探したが見当たらない。どうやら声だけが聞こえてくるようだ。何でもありだな。


「お助け機能だからね。君はこの世界の常識なんて無いでしょう?それのためのお助け機能。あと君は宇宙空間にいたんだよね?だったら宇宙からこの星に向かうということは落下すると言うことだよ。墜落とも言うけどね」


「早速話しかけてきた用件はなんだ?連絡してくるにも早いだろう」


「最初に必要なアイテムを渡そうと思ったんだけど摩擦で焼けたら意味が無いじゃない?だから地表に付いた後で渡そうと思ってね。繰り返すけど無くしたりしないように」


「特殊なものか?」


「一般的なものだよ。君は普通が良いんでしょう?中には身分証明書も入っているからね。あと街はあっちね。」


「あっちと言われても分からないだろうがって便利だな矢印が出るのか」


 俺の視界の右上に俺を中心としてソナーのような表示が現れる。矢印が出ており一方の方向を示し続けている。ここからだと森を示しているような気がするんだが森の中に街があるんだろうか?


「で問題はこれ(矢印表示)が普通なのか?」


「拘るよね。私から言うと土地勘がないのは普通じゃ無いと思うよ。違う世界からの客人も普通じゃないね。こっちには君の知っている物語に出てくる魔法もあるけど君は使えないから普通じゃない。で普通に近づくためのサポートは要らないのかな?」


 普通に拘るが異物だということを嫌と言うほど押してくるなこの女神は。邪神に近いんじゃないか?言葉巧みに誘導してくるから悪魔の方が近いのかもしれないが。性格が捻くれる前に女神に会っていれば友人になれただろうなと意味の無いことを考えてしまう。それほど残念な女神だ。


「有難く受け取っておく。異物としては街に行くのがいいのか?」


「君も捻くれてるね。まず矢印の方向に森があるでしょう?弱い人に敵対する生き物の住処になっているんだよ。チュートリアルとしては良い感じだと思うけど行ってみる?」


「この世界の初心者としては従う以外無いという感じだが、仮にも女神なら他にも選択肢を用意しておくもののような気がするんだがどうだろうか」


「じゃあ渡した袋の中に入っているものを一通り確認してから森に向かってね。こっちも忙しいからそんなに頻繁に話しかけられないんだよ」


「助言には感謝する。あとは自分で乗り越えていくことにするよ。忘れていたがあのままだと死ぬはずだったのに、こうやって生きていられるんだからそれだけでも感謝しなければいけないんだよな。ありがとうな」


「デレたね!ふぉ~~!! じゃあまたね。死にたくなるほど楽しくて残酷なほど奥深い世界へようこそテオバルト・ミュラー・ハーゼ君」


 いきなり叫びだしたと思ったら神様っぽいことを言って声がしなくなった。忙しいと言っていたから女神にも仕事というものがあるんだろうな。


 そんなことを考えながら女神から貰った袋というよりも外見的にはリュックなんだが、袋を開けてみると首から提げられる程度のペンダントが入っている。というかペンダントだけ入っていた。


「これが必要なものなのか?リュックとペンダントだろう」


 リュックは役に立つかもしれない。荷物を運ぶ際には必要だろう。ペンダントは身分証明書ということか?ペンダントを疑わしくジトッと見ていると例の半透明の説明が出てくる。


 名称:虚空の首飾り+S

 希少価値:5/10

 空間拡張用のアイテム。荷物の収納に用いられる。性能と容量は持ち主との親和性に依存する。身につけていると使用することが出来る。収納する場合は触れる必要があり出現させるには半径1メートル以内の任意の場所に出現させることが出来る。


「リュックの存在意義はなんなんだ?」


 リュックに向かい視線を向けると、


 名称:リュックサック

 希少価値:無し

 リュックサックである。


「であるじゃねえよ。でも手持ちの資源だからな」


 とりあえず納得する必要がある。納得しないと墜落現場から移動できない。ペンダントは意識すると内容物のリストが頭に思い浮かぶ。リストはダガー・短剣・片手剣・両手剣・槍・ハルバート・弓・弓矢・身分証だった。武器は各種10個ずつセットになっているようだ。


「武器と身分証だな。虫とかはないのか?というか虫なら森にいるか」


 リュックを背負い、ペンダントをシャツの内側に入れて両手剣を片手で振りながら森に近づいていく。本来、気が付かなければならなかったんだろうな。<衛星軌道上から落下してきたのに特に怪我をしていない>ということをさ。ただ、指摘してくれるような面倒見の良い仲間がいないんだからそのまま忘れ去られるわけだ。


「さて初心者用の森と言うことだったが戦闘があるんだろうな。武器だけをくれるくらいだし。それにしても嫌な感じがするな、虫もいないし」


 森に入ってからザワザワする。この感覚は孤児院やスラムで感じた嫌な感じだ。つまり見られているということになる。右上の矢印の近くには赤い光点がいくつか表示されている。光点の数は全部で4つ察するに敵の位置なんだろう。リアルタイムで場所が反映されないところが本当にソナーだな。


「デビュー戦と言って良いのかな?まあ、食えるような相手だと良いんだが。」


「オォォォォォォォ! オォォォォォォォ!」


「ん?」


 正面には足が見える。見上げると腰蓑、腹に胸板、サメのような牙の生えた口に小ぶりな豚鼻。真っ赤な両目に禿げ上がった頭。こいつは両手にシミの付いた2メートルを超える棍棒を持っている。光点が3つに減っているので減った1つの血液なんだろうと観察していると俺とやつの目が合うのが分かった。表示の通りならこいつはオーガというらしい。平均身長5メートルと鬼に相応しい体格と武器を持っている。このオーガは武器を持っているんだから知性があるんだろう。


「俺はテオバルト・ミュラー・ハーゼという。お前は敵か?」


 馬鹿なことをしている感じがするが確認しないと確信が持てない。オーガは片手を上げて振り下ろした。念のために構えておいて正解だった。振り下ろされたオーガの棍棒と両手で切り上げた両手剣が交差し両手剣があっけなく折れた。


「本当に普通の両手剣か!」


 折れた両手剣に呆気にとられているとオーガは両手を振り上げていた。そして両手で時間差に振り下ろされる直撃を必死に避けながら棍棒が地面を叩き付けたときの石やはじけ飛んだ木の断片が容赦なく襲ってくる。力押しかと思ったら意外にもテンポ良く連撃を仕掛けてきた。首飾りから新たに右手に片手剣、左手に短剣を装備してオーガの棍棒を受け流そうとして武器が折れていく。折れた武器はその都度オーガに現力で投げつけているが突き刺さってもとどめが刺せないようだ。オーガの身体には20を超える折れてた、砕けてしまった武器が刺さっている。同じような数の刺さらなかった武器も辺りに散らばっている。投げてもそうそう上手く刺さるはずがないからだ。本当に初心者用の敵なんだろうか?気合いを入れないと生き残れんな。


 オーガと戦闘を始めて1時間くらい経過してオーガの動きを観察していると俺が切りつけた部分から靄がでているのに気が付いた。破損した武器が刺さっているところからも靄が出ている。出血した後もあるから靄が血液や体液の代わりとは思えない。靄を注視しても説明が出てくる気配がないことから一般的ではないんだろう。オーガが棍棒を横凪にしたタイミングで滑り込み靄に切りつけてみるが手応えがない。感触だけはあるんだが攻撃しても意味が無いようだ。ついでにオーガのアキレス腱を切りつけてみるが刃物を扱うことについては素人なのだから刃を合わせることも出来ない。おれが持つ刃物は切りつけられる可能性を持つ鈍器と大して変わりが無いのだろう。はじかれた片手剣を突きで太ももに刺しておく。多少は動きにくくなるだろうと期待を込めて。


 オーガの動きについてはもう目で追える程度には把握できている。オーガ自身の持っている力に依存しているので攻撃のスピードは早いが単調なのだ。最初はオーバーに回避していたがなれてくると息切れもしなくなりこちらの攻撃する回数が増えたがとどめが刺せない。刃物で攻撃することが今までなかったのでその分攻撃力が足りていない。千日手まで行かないがそれに近い状態だ。オーガが出血死してくれることを祈りたいが俺の予測ではもう死んでいなければおかしいほど出血しているはずだった。幾度も攻撃を繰り返しオーガに切りつけていくが倒せる感触がない。


 そんなときに折れた武器の握りを踏み抜いてしまった。体勢を崩すと棍棒を避けられない。まずいと摑めるものを探すが周囲に生えていた木々はオーガに薙ぎ倒されており摑めるものが無い。藻搔くように左手を伸ばして摑めたのはオーガの傷口から出ている靄だった。崩れた体勢を立て直す必要があったのだ。全力で引っ張ることになり靄はオーガの身体から引きずり出されつつも結局俺は転んでしまう。右手に首飾りから最後の両手剣を装備して棍棒による追撃を防ごうと前を向くとオーガが倒れていた。


「よく分からんがとどめを刺さないとな。」


 右手には最後の両手剣、左手にはオーガから引きずり出した靄を摑んだまま呆気にとられつつもオーガの首を切り落とすことに成功するが両手剣は折れた。ソナーを見ると残りの光点は消えていたがおそらく逃げたんだろうな。こんな巨人が絶えず動き回っていれば正常な判断が出来れば逃げるだろう。


「食べますか?放置しますか?って奴だな、当然食べるわ」


 黒い靄を首飾りにしまい込んでオーガに向かって飛びかかりダガーで解体していく。解体し収納しを繰り返しながら本当に食べられるのか疑問に思った、しかしいくら血なまぐさい感じがしても食欲に負けた。オーガの肉は虫よりも美味と言うことが分かった。異世界にやってきて一番最初に食べた物はオーガの生肉だった。


 無心に食べ続けていると堅すぎてかめないものがあった。それは俺の親指くらいのひょろ長い金属だった。

<オーガの鉱魔石>となっていた。骨などはリュックに入らないので首飾りに、鉱魔石と爪や歯はリュックにしまった。武器の在庫がマズイ状態で同じような敵との戦闘は避けたい。


「よし、街に行こう」


 武器を調達しないことには話にならん。首飾りから靄を出して小さく揉み込みながら暇つぶしにモミモミしながら街を目指す。



 ***



「普通になりたいといいながら普通じゃないのよね。それに気が付かないのも普通じゃないわ。1人でオーガを普通に倒すんだもの」


 すでに世界を生んでいるし自分より神格が酷く落ちるが多数同類も生み出している。するべき仕事はもう無いというのが正しい。女神はテオバルト・ミュラー・ハーゼを送り出してからずっとテオバルトを見ていた。


「上級の戦士でも1人じゃ倒せないはずなんだけど倒しちゃったわね。最低でも術士は必要になるはずなんだけどな。誰かいるかしら?」


「なんでしょうか?」


 最上級の神が呼べばそれ以下の神は何があっても馳せ参じなければらならい。


「あの子は何をしているのかしら?」


「オーガから抜き出した魔力をもんでいるのかと思います」


「良い物なのかしらね」


「試したことがありませんので分かりかねます」


 女神は魔力の塊を生み出して適度な大きさにしてからもみ始めた。この感じが女性の胸を触っているときの感覚と近いということに気が付きつつも女神は笑っていた。


「これはなかなかいい感触よ。あなた方も暇なときは試してみると良いわね。それにしても男女が隔離されている状態で育ちながらも感触だけでも求めようとするのは本能なのかしらね」


 この言葉により神格に関係なく神様は暇なときに魔力をもむ習慣が出来る。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ