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01 テオバルト・ミュラー・ハーゼは凍りつく

初投稿です。

 目の前のディスプレイは赤かった。

 唯一生き残っているこのディスプレイには大量のエラーの表示と破損報告に酸素と電力残量のカウントダウンが延々と表示されている。


「残り時間は4時間か、参ったね。これはどうにも出来ないわ」


 そんな事をぼやきながら船外作業服と残っている酸素ボンベにバッテリーや飲食物をかき集める作業に入る。



 ***



 船内の酸素残量が0になる前に船外作業服に着替え必要な物資をひとまとめにした状態で船外に退避し緊急避難用の直系5メートルほどの球体に入る。酸素の限りがある状態では愚痴やぼやきは出てこない。言葉を発することは酸素の無駄遣いだからだ。最低限の酸素消費量にするために体温も生存に必要な最低限まで下げている。所謂、<眠いよ、でも寝たら死ぬ>状態の一歩手前だ。


 こんな状況でやることは1つだろう。自分の人生を振り返ることだ。死ぬ事への未練があるかどうかの確認作業。生きる事への執着が無いのであれば良い人生だったと終わることが出来る。悔いがあれば抗って生きてきた甲斐があったと死ぬことが出来るだろう。だから覚えている最も古い記憶へ想いを馳せる。



 ***



 どんな世界にも歴史が変わる瞬間というものがある。

 戦争だったり国家の崩壊であったりと、なにか要因があって歴史の転換点として歴史に刻まれる。


 この世界の人間が知る限りだが、いくつかの転換点があった。

 1世紀から20世紀の間の変化といえば移動手段の飛躍的な向上と人の命の価値が天井知らずに上がったことだろう。


 それ以外は些細な変化でしかない。


 21世紀初頭に大規模な戦争行為がなくなり、人が国家に守られる義務と、生きていくのに必要な金銭を稼ぐために働く権利を強制的に与えられるようになった。


 これも些細な事柄で転換点とは言い難い。これ以降が転換点と用いられる部分になる。


 国家間の戦争がなくなった辺りから生物工学の分野で細胞や遺伝子を細工する技術に注目が集まり始める。一般大衆は倫理観というあやふやな観点から生物への遺伝子レベルでの加工技術を否定する。人体実験は同時の社会性に否定されなければならなかったから。人の命の尊さを利用しなければ法律すら維持できないほど国家や人類の倫理観が脆弱になっていたから。自分がモルモットになりたくなかったから。

 理由を挙げようとすれば幾らでも上げられるだろう。

 <人を殺してはいけない>と法律で定めている国は多い。

 では、<なぜ人を殺してはいけないのか?>

 数多ある回答から1つを選んで答えるなら自分が他人によって殺されたくない。ということだと思う。

 <人を殺してはいけない>と法律の中心にあるのは命の尊さではなく保身。この法律を作った当時の人達は命の尊さについて本当にそう思っていたのかもしれない。現在は違うというだけの話だ。


 話が逸れたが、21世紀後半に人間には感染しない疫病が世界中で蔓延した。人間には感染しないが人間以外の全ての生物に感染する疫病だった。疫病が蔓延した結果、大規模な食糧難に陥る。

 食糧難は保存してある食料、感染したが新鮮なまま保存された生物の遺骸などで遣り繰りし大半の国家は危機を脱した。もちろん人類の総人口の6割という少なくない人命が失われたことは言うまでも無い。6割の死者は国家運営に必要ない順に量産されたと言い換えてもいい。そのほとんどの死因が殺人で有りそれ以外は餓死である。端的に言うと他者を食料に変えてでも生き延びることを選んだ人間もいたということだ。


 食糧危機の後、絶対に必要となる食料対策として食料源となる経済動物には各国家毎に遺伝子レベルでの加工が行われた。疫病に対して有効なワクチンの生成が作れなかったからだ。着手から数年で繁殖能力・成長速度・寿命・肉質・産卵数・体格など強化された新たな経済動物が食糧危機を救ってくれた。これらの生物を食しても悪影響は全くなかった。人類は繁栄しなければならないと産めや増やせで全盛期の人口を取り戻そうとした。


 26世紀に入る頃には地球圏の総人口は21世紀の約7倍の500億人まで増えた。衛星である月をはじめ、太陽系の惑星である水星・金星・火星の大規模なテラフォーミングが成功し木星を構成するガスを取り尽くすほど科学技術が異常な速度で発展したことよりも人口の増加の方が問題だった。子供はキャベツ畑で発見されたりやコウノトリが運んでくるなんてことは絵本の中の話で、実際には性行為が必要になる。21世紀には不妊治療などがあるほど妊娠の確率は低かったが、このときは妊娠率が100%で双子以上の子供の確率が80%だった。


 食糧危機による遺伝子操作の影響が人間には妊娠という形をとって露見した最悪の結果への始まりであった。もちろん食料問題は再燃し捨て子が多発した。国家は男女を隔離するなど政策を試したが徹底できるはずもなく地球上で1つの例外もなく財政破綻を起こして国の枠組みが消滅した。最初は餓死する子供が多かったが、遺伝子操作の影響が世代を超える毎により顕著になっていった。


 幸いだったのが暴力による統治がされなかったことだろう。総人口の6割が参加した共食いという事実がストッパーの役割を担っていた。共食いは禁忌とされていたにも関わらず生きていくために実際に怒ったのだから。共食いの被害は宗教に大きなダメージも与えた。どの宗教でも信じていれば救われるというのは共通することで共食いが怒っても己の神を信じていたが暴徒の数には勝てるわけがなく宗教という言葉はこの時代をもって終りを告げることとなった。


 少ない食料生存できるように適応し、従来の半分ほどの期間で成人の体格まで成長し、年々寿命が延長され、20世紀時代のアスリートを鼻で笑えるより酷いくらいに高い身体能力を獲得した。獲得したが繁殖能力も持続しているので地球は普通にパンクした。定員を超えた地球からテラフォーミングに成功した星への移住が行われ、地球以外では人間の異常な繁殖能力が全く機能しなかった。食糧危機前の一般的と言われえる妊娠率になったが重力の問題によって身体の機能に異変が起こり始める。健康な子供が生まれなくなっていた。


 俺の生まれた時代に至るまでのことは大体このくらいだ。


 惑星単位のテラフォーミングがや惑星間航行が可能になったほどの科学力を持ってしても遺伝子操作された影響下にある人類という生命には危機が迫っているという生きている人間にとってはあまりに些細な出来事だった。個人ではどうにも出来ない、国の枠組みを失って地球という単位の統治機構が生まれたが、一時期絶滅の危機があったにも関わらず利権問題で代表たちは有効な対策を取れない。人間はこの程度の危機では変わらないということを示したわけだ。


 かつては尊かったはずの命は一口サイズの食料以下になってしまっている。大安売りですら表現しきれないほどの暴落具合だ。


 俺は宇宙船と言えば聞こえは良いが惑星間での荷物運びをしている。職種は公務員になり役職は船長だ。キャプテンと言ってもいい。部下というかクルーは5人だけだが。クルーは俺を含め全員孤児で構成されている。事故があっても問題ないと思われているんだろう。失敗すれば責任を取らせても問題ないしな。現在も大量にいる孤児の中で一番なりたくない職業が俺の職業だ。むかしは宇宙飛行士は憧れの職業だったはずなんだが人名と同じでこの職業の人気も暴落中だ。


 セドティア号船長テオバルト・ミュラー・ハーゼが俺の名前だ。長ったらしい名前だがハーゼは俺が育った旧日本領にある孤児院の名称で、ミュラーはその孤児院の優等生が貰える称号のようなものだ。残ったテオバルトだけが俺だけを表す記号になる。番号じゃないだけまだマシだ。個体の性能が低いとなまえではなく番号になるからな。番号には人権を与えられないし、食料は1日ハエが1匹だけだ。優等生になるとゴキブリ2匹が付いてくる。ゴキブリ目当てに頑張ったわけだ。


 虫以上の食料はさらに上級職に就かない限り見ることも出来ないが、食べたこともない味を想像できるやつはいない。だからかうらやましいと思ったこともない。この考え方が結局孤児の限界だったのかもしれない。だからこんな職に就く以外の選択肢がなかったんだろう。15歳にして天国に一番近い職業なのだから。


 惑星間での荷運びがなぜ天国に一番近いのか?それは死ぬ確率が一番高いからに決まってるだろう。木星の構成成分であるガスを燃料に使えるようになってから宇宙進出は加速した。取り尽くしてしまって今のターゲットは土星なんだがこれはどうでもいい。あるべきものがないとバランスを崩すのは当たり前だ。木星がなくなり重力バランスが崩れたのか木星の衛星が粉々に砕け散った。


 砕けた破片は人類にとって資源よりもデブリという扱いになる。デブリの説明は面倒だからすごい速さで飛ぶ宇宙のゴミだと思ってくれ。デブリが大量に生まれてから宇宙船の事故が頻繁に起こり始めてデブリが量産されてこっちは迷惑極まりない。


 そして俺の乗るセドティア号の全部で4基あるスラスターの1つの付け根に命中。大きさは1センチ以下だろうが飛んできた速さと石というよりも金属という表現が正しい強度のせいでスラスターが機能停止。


 セドティア号は俺の船だが政府の船だ。破損させた時点で俺の頭の隅には死刑という現実がやたらといい笑顔でこっちに向かって手を振ってやがる。きっとクルー全員が同じようなものを感じただろう。クルーの一致した意見はこのまま遭難した方が良いんじゃないか?ってことだったが、マニュアルに従い破損部位を修理させるためクルーに船外作業を指示する。俺は船長の仕事である計器やシステムチェックをしなくちゃならん。救助を待てば良い?救助なんてくるなら天国に一番近いなんて表現される職業にはならん。救難信号を出した時点で船員全て死亡認定されて終りだ。


 ディスプレイは全部死んでる。館内の照明は予備電源に切り替わって予備電源での生命維持装置の稼働残り時間は1時間と。ちらっと疑問に思ったのは予備電源に変わると照明がオレンジや赤に変わるが必要なのか?本当にどうでもいいな。指令・操舵ブロック問題なし。居住ブロック問題なし。船体の空気漏れはなし。機関ブロックにデブリによるの破損有りと。マニュアルのフローチャートに沿って現状確認と対応策を出していく作業は非常に面倒だ。対応フローチャートによって導き出された解決策はシステムの再起動だった。というよりもフローチャートの最後が半分くらいシステムの再起動を指示する内容だった。手順やパターンが異なるだけで再起動はいつの時代でも基本らしい。


 後のことはざっくり説明するとデブリでクルーが全滅していたり、再起動した途端に4基のスラスターが燃焼を開始して制御不能になって燃料切れ、さらで船体にもデブリが食い込む食い込む。きっと外から見たらプレスされた鉄くずに5つのミンチが引っ張られてるイメージだったろうな。


 船体のねじ切れ方から見てどこかでスイングバイでもしたんだろうさ。現在位置不明、緊急脱出用の退避ドーム1つで太陽系外へいざ出発って感じで説明を終わりたいんだがどう思う?


「その結果が酸素を使い果たして凍り付いてそんな様というわけかえ?」


 俺の15年間の人生をそんな一言でまとめられると正直苛つくが俺の見下ろした先には見覚えのある凍死体があるので何とも言い返せない。


 ここには凍死体と俺にもう一人存在感の薄そうな女がいる。実際に女を見るのが初めてなのでおそらく女だろう。胸があるからな。女は存在感が薄そうではあるが碧がかった黒色の髪が印象的だった。


「で俺の凍死体を食うつもりなのか?」


「何故そういう考えになるのかえ?」


 俺の知っている知識が間違っているんだろうか?男女の隔離を目的に政府が流したデマだが俺は知るはずもない。


「女は男を嬲った挙げ句、全身余すところなく食らい尽くすっていうのが俺の知っている常識なんだが?あと話し方が苛つくから普通に話せないか?特に語尾が苛つく」


「演出としてはいいかと思ったのだけど、壮大な感じで神々しさをアピールしてみてるつもりなんだけどね。ずいぶん酷い世界からようこそってところかしら」


 やっぱり自作自演か糞がっ。それに動くたびに胸元が揺れる。なぜか目を引き寄せられる。


「自己紹介をしましょうか、私は女神なわけよ。女性型の神様ね。でここでのんびりと作った世界を眺めているとボールが飛んできたわけね。後頭部に当たってイライラしながら振り返ったら大きなボールがあるわけよ。何かなと思ったから開けてみると凍死体が入ってるじゃない。偶然かもしれないけど凍死体に見えて暖めると生き返るのよねコレ。でも真空状態だと死にそうだから意識だけ引っ張り出した訳ね。ここまでいいかしら?」


「嘘を言われても俺にはどうしようもないな。目の前に俺の凍死体があるから信じるしかないだろう。疑ったところで現状が変わるとも思えない。」


 死にたいと思わないが、死ぬのは仕方ない状況を体験した。それにこの状態は俺にはどうにも出来ない。


「別に用事があるわけじゃないのよね。あなたは私の管轄下にあるものじゃないし。と言うよりもあなたの言っている地球ってないのよこの世界にそんなものはね。」


「滅んだのか?」


 言ってから気がついたが悲しみを感じてるわけじゃなく単純に気になったから聞いただけなんだなと思ってちょっと凹んだ。


「この世界にあるものであれば私が知らないはず無いのよ。生物に関わらず石ころ1つ元素1つ私に認識できないものは無いのよね。私が作ったものなら私の管理下に置かれるのよ。でもあなたは視界に入れないと認識できなかった。結論としては私の世界にどこからか迷い込んだのでしょうね」


「だったら俺は今後冷凍保存されたまま彷徨うということでいいのか?異物だから排除するでも構わないが」


 達観しているわけじゃないが駄目なものは駄目だろ。現実を見ないとな。


「そうはいかないわね!神様してるとアクシデントとか無いのよ。全て予定調和なんて酷いと思わない?暇で狂いそうなのよ。」


 そんなことを俺に言われてもどうしようもないだろう。それが分からないほど愚かにも見えない。ってことは何かあるわけだ。


「まどろっこしいな。俺に対する要求は?」


 多少は隠せよ。ニヤニヤするな。


「ずばり私の世界の住人にならない?あなたは私の世界では異物なのよ。イレギュラーな存在な訳ね。イレギュラーを排除しようなんて馬鹿な考えは低脳な生命体の考えでイレギュラーを抱き込むくらいじゃないと神様なんてなれないのよ。イレギュラーは私の楽しみでもあるしね。逆境であればこそ楽しまなければ存在を維持する必要も無いでしょう?生きているのであれば逆境こそが生きている証になるわけよね。」


「逆境を楽しむことには同意する。生きている意味を見い出すのであれば困難が必要ということも理解できる。平和や平凡は毒でしかないからな。俺の故郷もそうやって衰退していったんだろう」


「なら決まりね。でもいきなり私の世界の断りに介入するには絶望的ね。あなたの居た世界とは根幹からして異なるもの。多少加護を与えてあげないとね」


「俺の故郷にもそんな物語が溢れていたよ。偉い学者によるとただの現実逃避らしいが人気はあったな。かなりの数の物語が禁書になっていたので偏りはあるだろうが」


 実際に禁書になった物語は星の数ほどあったと言われている。特に女が登場する物語は全て禁書になり焼き払われた。女は害悪であると教えられているわけだ。20世紀ぐらいの物語は存続できるはずもない。俺の世代は女という生き物は根本的に男を喰らう化け物という印象しか持っていないわけだ。


「おきまりのパターンだもの。そこに乗らない手はないでしょうね。強力な力が欲しい?全てを理解する知識?勇者や魔王にだってしてあげられるわ。不老不死や王様も有りね。私の要望で移住して貰うんだもの奮発するわよ。」


 たしかにそういった娯楽の中で<法外な力>を手に入れてというジャンルは多かった。強力な力を得て仲間と大金に身分を手に入れ、様々な種類の者達と信頼関係を築き上げてハッピーエンドな訳だ。ハッピーエンドの後に主人公は仲間に囲まれてその命を全うすることになるんだが。


「普通が良いな。普通がいい。」


 考えなくそう答えていた。


「普通って難しい注文というか、生き抜くための力や知識はいらないの?私の世界では化け物が人間を襲っているわよ」


「多分くれと言ったらくれるんだろうな。俺自身ゴミの中では上等な部類にいるんだろうが、まっとうな奴から見たらそれは誤差でしかない。ゴミはゴミだ。ならゴミじゃなく普通になりたいと思うのはいけないことか?」


「英雄に憧れるならまだしも普通の人に憧れるのね。面白いわね。普通ね。じゃあ普通にしてあげるわ。とびきりな普通に。それと困ったときのお助け機能も付けてあげるわ。使う使わないの判断はあなたに一任するから好きにして」


「交渉成立という訳か。化け物退治で金を稼げたりするのか?」


「それはお約束だもの。きちんと完備してあるわよ。生きるための努力を失うことは死ぬことと同意よ。ではあなたに私からの祝福と加護を」


 そういって女が手を上げた瞬間に俺の体中に痛みが走る。俺の凍り付いた身体と今の俺は繋がっているんだろうことが確認できた。確認出来たからこそ凍り付いている俺の全身に幾何学模様の入れ墨が入っていることに気がついてしまった。理解できてしまった。


「これは普通なのか?」


 聞いてみるが声がこわばっているのが自分でも分かる。


「これは魂の状態のあなたに見えるだけよ。身体に戻れば自分の目でも見えないわ。他の誰にも見えたりしないから安心して。これは今のあなたにしか見えないわよ。他に聞きたいことがある?」


 やることは終わったみたいだし最終確認か。


「俺の故郷に戻れる可能性は?」


「皆無ね。存在自体を感じないわ」


「お前の世界に人間と定義できる生き物はいるんだな?」


「ええ、多種多様な人間種が存在するわ言語は”普通”に通じるから大丈夫よ。」


「俺とは共存可能か?」


「お互いがお互いを思い遣ることが出来ればば可能ね」


「お前からの俺への干渉は可能なのか?」


 確認しなければならない重要なことだ。俺が俺でいられないのであれば意味が無い。


「希望するなら干渉してもいいけれどお世辞にもいい趣味とは言えないわね。たまに話しかけるかもしれない位よ。暇な女神様へのサービスだと思ってちょうだい」


 背中に鳥肌が立つほどの笑顔を見せられた。嫌悪感ではないが長時間直視するとマズいような気がする。


「なら後は自分で切り開くしかないな。笑って死ねるような人生を送れるならそれでいいさ」


「じゃあ、”普通”に必要なアイテムも付けてあげる。丸腰じゃ生きていけない世界だから無くしたら駄目よ。あっけなく死んでしまって終りじゃ面白くないわ」


 至れり尽くせりだな。


「ご期待に添えるように努力することだけは約束するよ」


「じゃあね。楽しみにしてるわ」


 これが俺と女神と話した最初の出来事の顛末だ。女神とはこの後もいろいろあるのだが最初はこんな感じだった。



 ***



 テオバルト・ミュラー・ハーゼが消えた後女神はただひたすらに笑顔だった。


「これで良かったのですか?」


 女神の足下に跪いた状態で声の主が姿を現す。決して顔を上げたりはしない。最上位の存在に対して顔を向けることは許されない。


「お前の世界から弾き出されたあの子は面白いわね。私に対して顔を合わせて話せたのだから」


「お許し頂ければ今からでも消し去ってお詫びと致したいところですが、いかがでしょうか?」


「満足に1つの世界も管理できないお前が?単独種を自滅に追いやったお前が私の世界に干渉できる権利があると思っているんですか?そんな力自体無いでしょうに」


「しかしあなた様に対しての無礼はどうなさるおつもりで?」


「気がつきませんか、お前では気がつきませんね。あの子は普通でしょうね。とびきり普通からかけ離れた普通です。これだけはお前を誉めてあげなくてはなりませんね」


 女神は笑顔で跪いたままの神を存在毎消滅させた。


「あんな歪な普通がいたらたまらないわね。普通っていうのはあり得ないのにそれを望んだのはあなただし楽しくなりそうね」


 異性であれ同姓であれ誰をも魅了する笑顔は真空の宇宙の中で誰にも見られることはなく振りまかれ続けた。

誤字などは見直しているつもりですが潜んでいる場合もあります。

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