読むスープ
■ 01
銀貨を握りしめて泉へと走る。指先に挟んだ銀貨を水面にそっと挿し入れるとゆるりと溶けた。やがて底から昇ってくる泡が華のように咲く。「今だ!」マグカップで素早くすくうスープの中にトマトが浮かんでいた。「今日は当たりだな」 #読むスープ 【トマトのスープ】
※ RT @kaorun6: トマトのスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlBq34JCAAA0q3D.jpg
■ 02
こんな眩しい朝靄の日には猫大王がやって来る。しゃんしゃんしゃんとたくさんの鈴の音と共に。運良く出遭えたならば猫大王の鈴をつまんで御覧なさい。鈴は掌の中で芽キャベツへと変わるから。お陽様の香りがする芽キャベツに。 #読むスープ 【芽キャベツのスープ】
※ RT @kaorun6: 芽キャベツのスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlBsL2TCEAAvsuI.jpg
■ 03
「どうしたの?」テーブルの上の小さな草は僕に問いかける。「振られたんだよっ」ついぶつけた怒りに返ってきた答えは「申し訳ありません。“振られたんだよっ”を理解できません」だった。僕は黙って草を引っこ抜き細かく刻んでスープにした。 #読むスープ 【せりのスープ】
※ RT @kaorun6: せりのスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlBs9C6CAAAl_D_.jpg
■ 04
僕は小さなキリンを飼っている。月のない夜にこいつの尻尾をぐるぐる回すとその首はぐんぐん伸びて空へと届き、夜をむしゃむしゃと食べ始めるんだ。齧られた夜はキリンの首の中をころんころんと落ちてきて、それが僕の朝ごはんになるってわけ。 #読むスープ 【えんどうまめのスープ】
※ RT @kaorun6: 新しいお題を今朝もひとつ、ふたつ。えんどうまめのスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlDpA0BCYAAdDzl.jpg
■ 05
「おい、お前の機はまだ緑だぞ」友軍機からの通信に慌てて擬態バリアの調整を行うと、乳白色の港に浮かぶ友軍機同様、機体の色が緑から白へと変化する。「緊張し過ぎだバカ野郎」教官の口癖をあえて声に出して繰り返す。もう出発だ。 #読むスープ 【ホワイトアスパラのポタージュ】
※ RT @kaorun6: ホワイトアスパラのポタージュ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlDpOT1CMAA92Xv.jpg
■ 06
白熱灯の下、白く伸びた肢体が絡まりあう。青い匂い。陽の当たらぬ深窓に育った彼女にとってそれは初めての冒険だった。二人は次第に熱を帯び、絡まり、また解け、愛の中へ溺れていったフフフ……妻が何かを煮ながら呟いている。僕は聞こえないフリをした。 #読むスープ 【うどと長ねぎのスープ】
※ RT @kaorun6: うどと長ねぎのスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlG-yS0CEAAUCPk.jpg
■ 07
かつて加美良と呼ばれた野菜を束ねて手箒を作る。「大蒜の次に臭いそれで何するつもり?」彼女は怯えた声を出す。「同じ名前なんだ。仲良くしろ」そう言っただけで涙目になる吸血鬼が可愛すぎて僕はまた意地悪い笑みを浮かべた。 #読むスープ 【にらのスープ】
※ RT @kaorun6: にらのスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlG_FNyCEAA2FvX.jpg
■ 08
掘り出した筍を天にかざすと陽に透けた穂先が金色に輝く。緑になる前のこの色が旨いんだ。さっそく七厘に炭火を熾して炙る。焼きたてに心躍らせながら皮を剥くと親指くらいの少女がぐったりしていた。助けようとしたのに。水をかけたら溶けるなんて。 #読むスープ 【焼きたけのこのスープ】
※ RT @kaorun6: お醤油の焦げた香りとたけのこの組み合わせ、最強。焼きたけのこのポタージュ。あ、こちらは今朝のスープです。でも #読むスープ に料理してくださる方がいれば、もちろんどうぞ http://pbs.twimg.com/media/BlIwe0OCQAA6JmV.jpg
■ 09
「アスパガラス?」「アスパラガス」「アスガパラス?」「アスパラガス!」「アスガラパス?」もう。スープ冷めちゃうと言いたいのをぐっと堪える。明日出発の彼企画ミステリーツアーの行先を偶然知っちゃったけど、ここはとぼけて付き合うべきよね。「アスガラパゴス!」……あ。 #読むスープ
【アスパラガスとトマトのスープ】
※ RT @kaorun6: さて、今朝のお題。アスパラガスとトマトのスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlJOqO1CIAAj5Vp.jpg
■ 10
田舎道に沿って延々と広がる菜の花畑に見とれていたら急に自転車が一回転してね、頭から畑の中に落ちたんだ。そんな父さんを最初に見つけて引っ張り出してくれたのが母さんなんだよ……結婚記念日の定番メニューにそんな秘密が。食事前だけど「ごちそうさま」 #読むスープ 【菜花のポタージュ】
※ RT @kaorun6: 菜花のポタージュ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlJOwzuCQAAOEPZ.jpg
■ 11
テーブルに着くとスープ皿の代わりにサイコロが一つ。「なにこれ?」「振ってみてよ」「4が出たよ」「じゃあこれね」息子が運んできたポタージュにはふきが四切れ。「何したいのよ」笑いながらすくったスプーンの上に……「アンタ、何勝手にっ!」 #読むスープ 【ふきとじゃがいものポタージュ】
※ RT @kaorun6: 今晩はひとつだけスープ写真をアップしよう。ふきとじゃがいものポタージュ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlL3bgzCcAEF-Fr.jpg
■ 12
じゃがいもで作ったポタージュの鍋がくつくつと火にかけられている。そこにそっとふきを置くと、じわりじわりと沈んでゆく。「あいるびーばっく」懐かしい映画を思い出してそんな台詞をつい口に。するとふきがぐっと浮かんで茶柱のように立った。 #読むスープ 【ふきとじゃがいものポタージュ】2
■ 13
カブをしゅくしゅくとすりおろすと甘みのある匂いがじわりと鼻を刺激する。そこへまた別の甘い匂い。牧場から直送してもらった新鮮なミルク。そこへまた別の甘い……って待ちなさい。いい?ホワイトチョコは入れちゃダメ。娘はむっとして子供部屋へと戻った。 #読むスープ 【かぶ入りミルクスープ】
※ RT @kaorun6: 今朝は、かぶのすりおろしをたっぷり入れたミルクスープ。やさしくなめらかなスープの底にハムのみじん切りが沈んでいます #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlN8tQPCYAA0cQN.jpg
■ 14
「私に構わず先に行け!」「俺もダメだ……託したぜ」「僕たちの分まで!」そんな言葉を背負いながら必死に登るキャベツの斜面はつるつると滑る。だが一族の威信にかけてあの頂に登ると約束したのだ。わ、バカ、箸でつまむな!自分の力で登りたいんだっ! #読むスープ 【キャベツと桜海老のスープ】
※ RT @kaorun6: キャベツと桜海老のスープは、気むずかしやの桜海老のご機嫌をどうとるかが課題 #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlO6aRgCIAAN5mX.jpg
■ 15
姉がニヤニヤしながらスープ皿を出してきた。黄色の中に○と□。「ふやける前に早く!」急かされて慌てて口に入れると、カボチャをゆうに超える甘さが広がった。○はプチシューで□はカステラ……を焼いたやつ?「△はないの?」と言ったらスープの中に黒糖蒸しパンを入れられた。 #読むスープ
※ RT @kaorun6: スープ会議の議題はかぼちゃに何を合わせるか。カレーやナッツ、お餅をこんがり焼いたクルトンなどなど。今日はココア #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlO4QnOCYAAujsL.jpg
■ 16
スープのケーキ。幼い頃の僕が誕生日に必ず作ってもらったハンガリア風スープの二日目を勝手にそう呼んでいた。鶏モモが何枚も入っていたせいか冷蔵庫にしまったスープの残りは翌朝ぷるんと固まっている。僕だけの秘密のケーキはカレーの二日目なんかよりずっと美味しかったのだ。 #読むスープ #チキンのハンガリア風スープ
[レシピ]
チキンとパプリカをサラダ油で炒めた後いったん取り出し、そこにバターと大量の玉ねぎとを追加。玉ねぎが透明になるまで炒めたら小麦粉を加え、すぐさま牛乳も追加。チキンとパプリカも戻し入れたら粉末のパプリカスパイス。塩で味を調える。 #読むスープ #レシピ #シチューとして教えてもらったのだけど
■ 17
帰路を彩る空が南の島で見た珊瑚礁のように鮮やかだったから行きつけの喫茶店へダッシュした。やはり既に満席。「ごめんね。今日は夕焼けの日だから」「外で待つよ。もうちょっと空を見ていたいし」「これ飲んで待っててよ」マスターは僕にコーヒーカップを手渡した。(続く) #読むスープ
(続き)中身は夕焼けみたいなオレンジ色のスープ。「ナポリタン?」「サンキュ」扉が閉まる。夕焼け色のスープは日が暮れるにつれ冷えてゆく。スープと空がつながっているみたいでなんだか嬉しかった。 #読むスープ #夕焼けの日は夕焼け色メニュー半額 【にんじん、あんず、オレンジのスープ】
※RT @kaorun6: スープの超短編を集めた #読むスープ のツイートにインスピレーションを受けて作った、おひさまスープ。元になったのは @ringo_1977 さんの作品です。使ったのはにんじん、あんず、オレンジ。 http://pbs.twimg.com/media/BlTC-aaCMAEFNET.jpg
■ 18
星の中を漂っている夢を見た。僕は大きな鉄板に貼りついて居て、遠くに太陽が見える。それから何度か同じ夢を見てあるとき気付いた。太陽に近づいていると。ある夜、太陽に近づき過ぎて視界が真っ赤になった。目覚めると朝食はまるごとトマトのスープだった。僕は舌を火傷した。 #読むスープ
※RT @kaorun6: 今朝も少しお題のスープを。トマトのまるごとスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlTFAXWCEAAwz3P.jpg
■ 19
土手で拾った古いランプを磨いてみたら小さな妖精が現れた。窓からランプを投げたら僕を幸せにすると言う。僕は「ふーん」と放り投げてみた。翌朝、ちょっと冷え込んだのでサラダ野菜をスープにした。食卓に着いてからスープの上に四葉のクローバーを発見した。……これ? #読むスープ
※ RT @kaorun6: サラダ野菜のスープ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlTFfLRCUAARJSt.jpg
■ 20
TVを観ながらの食事中、スプーンの先が何か固いものにあたった。え?と思ってスプーンの先を見ると、真っ白いスープの中から潜望鏡がにゅっと飛び出してキョロキョロしていた。おそるおそるスプーンの先でもう一度突っつくと潜望鏡はスッと引っ込んだ。 #読むスープ 【かぶのポタージュ】
※ RT @kaorun6: お題のスープ、ずいぶん出したけど、これは既出だっけ?かぶのポタージュ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlWBYCdCYAAgNfc.jpg
■ 21
「やったアナーキーじゃん!」何にかぶれたのか息子はいつからか蓮根のことを「アナーキー」と呼ぶようになった。「穴空き」が語源らしい。「菜花はグリーン……カード?」無政府状態にアメリカ永住権。平和な味噌汁が随分と危険な香りを漂わせること。 #読むスープ 【菜花とれんこんの白味噌汁】
※ RT @kaorun6: 菜花とれんこんの白味噌汁 #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlWCzMHCYAE4Ajh.jpg
■ 22
冷蔵庫の中にいつのものだかわからない小さなゴマダレパックを見つけた。多分、去年の夏の冷やし中華の余ったタレ。スープ皿にタレをあけると、そこにパスタの茹で汁を注いだ。パセリを散らして……ふふふ。気付くまい。気付くまい。 #読むスープ 【余った冷やし中華のゴマダレのスープ】
■ 23
あるところにかぶといんげんと新たまねぎがおったそうな。ある日かぶは他の二人を風呂へと誘ったのじゃ。風呂釜に直接触れると熱いから昆布を敷くのだとかぶが言う。他の二人が昆布の上に乗ろうとやっきになっている間にかぶは白い丸い尻尾を切り離して逃げたのじゃ。どっとはらい。 #読むスープ
※ RT @kaorun6: かぶと、いんげんと、新たまねぎの和風スープ。昆布だしで野菜をさっと煮てシンプルに食べる。 #読むスープ もおかげさまで活況を呈しております http://pbs.twimg.com/media/BlYSDMxCMAEoWII.jpg
■ 24
カチッカチッ。筆についたダイヤルをRの2に合わせる。それからその筆をスッとスープの中に差し込んだ。何もないスープの中で習字のように力をこめて筆を引くとオレンジが現れる。スッスッスッハックション。あ、最後の大きいやつ、マンゴーになった。 #読むスープ 【あたたかいオレンジのスープ】
※ RT @kaorun6: 今晩の #読むスープ のお題は何にしようかな。たまには果物のスープもよいかも。あたたかいオレンジのスープ。くず粉でとろみをつけました。 http://pbs.twimg.com/media/BlbO-QgCEAEqvia.jpg
■ 25
気がつくと僕は行列に並んでいた。辺りは真っ暗。なんだか不安になって前の人に話しかけた。振り返ったその人の顔が大きな苺だった。思わず後退ると後ろに並んでいる人にぶつかった。謝ろうと後ろを見るとその人の顔はスプーンだった。スプーンに映る僕の顔は…… #読むスープ 【いちごのスープ】
※ RT @kaorun6: もう一点は…どっちにしようか迷って、そろそろおしまいの時期に近づく苺を。いちごのスープ。 #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BlbPrGrCAAEgloV.jpg
■ 26
私の将来の夢は料理人になることです。だからピアノを毎日頑張っています。そんな幼少時代の夢の通り私は味覚演奏家になった。波長によって味を変える科学のスープ。「もう少し甘くしてくださる?」食べているお客様のリクエストに合わせ私は演奏のキーを上げた。 #読むスープ 【未来のスープ】
■ 27
台所には珍しく夫の姿。後で片付けやんなきゃだわ。ため息の私に「出来たよ。読むスープ」そう言って夫が運んできたのは冷たい皿。ゲル状の何かの中にマカロニで「I LOVE YOU」と描いてあった。「お湯かけるよ?」と笑顔の夫を制しスープよりも先に写メったのは片付いた台所! #読むスープ
■ 28
「最近の魔法瓶って小さくて細いんだね」「いつの時代の人ですかっ」笑いながら百均のワイングラスに注ぐのは塩漬け桜と蕎麦湯のスープ。「いいね。桜にも酒にも合うよこのスープ」上司の詠んだ一句に応えるように風が吹き、桜吹雪のひとひらがスープの上にそっと乗った。 #読むスープ #詠むスープ
■ 29
「第37回野菜会議を始める」長老玉ねぎが言った。「カリフラワーさんは欠席か」大根が不安そうに周囲を見渡す。「大丈夫。甘み担当は春キャベツさんもいるからね」との人参の声にトマトが肯く。「他の皆もわかっているね? では各自、いつもの目標に向けて補い合うように。解散」 #読むスープ
※ RT @kaorun6: たっぷり野菜のミネストローネ。入る野菜が違っても、いつも同じ味に感じるのはなぜだろう。 #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BldZdQ3CUAIcAfW.jpg
■ 30
冷凍庫の奥にいつのものだかわからない焼売を見つけた。多分、去年の秋に大阪出張で買ってきたお土産551の残り。解凍してキャベツにくるんでコンソメスープの中に入れて……ふふふ。気付くまい。気付くまい。 #読むスープ 【小さなロールキャベツ】
※ RT @kaorun6: 昨晩のお題が甘いスープふたつだったので、今朝はお食事スープをもうひとつ。小さなロールキャベツ #読むスープ http://pbs.twimg.com/media/BldggelCUAEZJ8y.jpg
■ 31
私のアパートは台所の前が狭い路地。だけど人通りが多いので窓はずっと閉めたままだ。そこを通る人々の中に一人だけ怪しい人が居る。通り過ぎる時、私が日替わりで作っているスープの具をぽつりとつぶやくのだ。しかも合っている。気持ち悪かった。と同時に、すごく悔しかった。(続く) #読むスープ
(続き)私はスープのレパートリーをどんどん広げた。しかし必ず当ててくる。私の中の何かに火が点いた。日々、工夫を重ねていく私と、毎日当ててゆく謎の声。だがあるとき「今日はわかりません」と、とうとう待ち望んだ言葉が、私の耳に入ってきた(続く2) #読むスープ
(続き2)私は思わず台所の窓を開けてしまった。この偉大なるライバルの表情を見たかったから。そして、マスクをして熱っぽい表情の……宇宙人? 私の記憶はそこで途切れている。次に気がついた時には4時間ほど経過していて、そしてスープの鍋が空になっていた。 #読むスープ
■ 32
'80sの洋楽は耳の近くを通り過ぎただけでじわりと僕の中に沁み込んでくる。そうして心に想い出が満ち潤って初めて、僕は乾いていたんだな、なんて気付けたりする。音にはたくさんのものが溶け込んでいる。まるで魂のスープだな、なんて青臭い台詞が浮かぶのもきっとあの頃のせい。 #読むスープ
■ 33
死体の傍らにはコーンポタージュの皿。しかもケチャップで「φ」と描かれている。ダイイングメッセージの可能性も考慮し、こじつけに近いレベルまで捜査の手が広げられた。二週間後、中野に住む中田という男が逮捕された。ケチャップ瓶についた指紋が決め手だった。偶然って怖い。 #読むスープ
■ 34
びゅうと吹いた風に乗って緑色のシャボン玉が舞う。「そっち行った!そっち!」ゆらりと近づいてくるシャボン玉をスープ皿でそっと受け止めると、パチンと弾けて一食のスープが皿の中に現れた。まだ暖かく、そら豆の香りが立ち上る。これで狙った皿に飛ばすことさえ出来ればなぁ…… #読むスープ
■ 35
愛情レンゲなるものが発売された。これですくって食べると懐かしい味になるという。どういう仕組みかわからないが確かにインスタントの味噌汁がお袋のによく似た味になる。ロシア人に勧めてみたら豆のスープをすくって一言「ハラショー!」万国共通だと?全くどういう仕組みなのだか。 #読むスープ
■ 36
月曜日、母の作るスープが辛かった。さては昨晩父とケンカしたのだろう。火曜日、父が謝ったらしくスープの味が優しくなった。水曜日、またスープが辛かったから父にこっそり尋ねた。「昨日の夜、また泣かせたの?」「いや、泣ける映画を観てたよ」火星生まれの母の涙はやけに辛い。 #読むスープ
■ 37
夜釣りの帰り道、浜辺の防風林の陰から「置いてけ~」という声が聞こえた。せっかく釣れた魚を置き去りにするのも芸がない。ガスバーナーとクッカーで魚の味噌汁を作り「一緒に食おう」と闇に向かって声をかけた。すると突風が吹き、直後に「熱っ!」と悲鳴。悪いことをしたな……。 #読むスープ
■ 38
僕が彼女に告白すると彼女は首を静かに横に振り、僕を台所へと連れて行く。そこには彼女が故郷から取り寄せた芋と果実とがあった。彼女の村では男がスープを作り女がそれを食べないとプロポーズは成立しない。彼女の父が水瓶にスープを隠し入れていた話を聞きながら僕は鍋に水を張った。 #読むスープ
■ 39
温室の天井に取りつけられたガラスの雨樋がティクティクと高い音を鳴らす。雨が降ってきたのだ。やがて点から線へ形を変えた雨たちはウォータースライダーのような雨樋を通って温室の中の小さなスープ皿の中に溢れる。僕のマンドラゴラはそれをすくって美味しそうに呑むと小さく踊った。 #読むスープ
■ 40
結婚式前夜、男手一つで今まで育ててくれた父に感謝のスープを作った。私の記憶の中で最古にして最多のそのスープを食べた父は涙した。「母さんの味だ」私が幼少の頃に他界した母の定番料理だったと言う。父の味でも母の味でもない、このスープは家族の味だったのだ。 #読むスープ
■ 41
今一番売れているスープの制作者が記者会見を開いた。「私は母に感謝したい。幼い頃母の日に作ったスープを母は一口も食べなかった。好き嫌いが原因です。私は母の嫌いなものばかり集めて工夫し、この復讐のスープを作りました。母は騙され美味いと言ったのです!」会場は静まり返った。 #読むスープ
■ 42
「ねぇ、なんか今日の男子ちょっと爽やかじゃない?」「あ、あたしも思った。クドくないっていうか」「そうそう!クセがないよね!」「なんかセロリ君とピーマン君二人でお湯に入ったらしいよ」「二人で?」「二人っきりで!」「きゃー♪」 #読むスープ 【初夏のコンソメ】
※ RT @kaorun6: すっきり綺麗なチキンスープに千切り野菜を合わせた初夏のコンソメ。にんじん、セロリ、ピーマンと癖のある野菜は一度湯通しして、苦味や匂いを抑えます。爽やかな一日を。 http://pbs.twimg.com/media/Bowh-icIUAAM-pv.jpg
■ 43
熱にうかされて伸ばした手に冷たい金属製のマグカップが触れた。目を閉じたままその辺りを指先でなぞると指のひらに滴が溜まる。ああこいつも汗をかいているんだなと思ったらなんだか親近感がわいた。そして僕はカップの中の冷たいスープを……飲み干せた。どうやら峠を越えたみたいだ。 #読むスープ
■ 44
お茶を煎れてから湯呑みをまだ洗ってないことに気付く。水切りかごにたまたまお気に入りのスープ皿があったのでそれに注いだら茶柱が立った。ああ、これは幸せのスープだ、とニヤつきながら飲んだら舌を火傷した。 #読むスープ
■ 45
母から届いた小包を開けている途中、その母から電話がきた。「早いって!」僕が小包に入っていたチューブを電話機にセットする前に電話機のスープモードが作動する。ピーヒョロロという音と共にスープの素がブレンドされ、セットしてあるカップに落ちた。案の定、味噌味が足りなかった。 #読むスープ
■ 46
日曜の朝は憂鬱。それは家族スープのせい。えーと……私は今までの全具リストを見ながら今週はどうしようか思案する。パパと弟はきっと変なものを探してくるからせめて私だけでも……。遺言になっちゃったママの「毎週新しいスープ」って真意はそういうことじゃないと思うんだけどな。 #読むスープ
■ 47
就職して実家を出て行く姉の荷物に「ありがとう」のスープ缶を隠しておいた。その晩、姉から電話で、予想を裏切る大爆笑。「だってね、『ありがとう』なんて聞こえないんだよ。『あーでぃがと』ってなまってんの!」缶を半分あけてお湯を注ぐと音が鳴るスープ……発売前に試したのか? #読むスープ
■ 48
父が突然大量に竹を刈ってきた。流しそうめんをやりたいのだとか。だが熱しやすく冷めやすい父はほんのちょっと作ってやめてしまった。それを活用して鍋から皿へ流しスープなんてやっちゃう母は父といいコンビだと思う。だが母よ、もっとさらさらしたスープにしないともったいないぞ。 #読むスープ
■ 49
「いくつ入れる?」「いくつって」彼女がつかんでいるのは角砂糖ではなく固形スープの素。「一つに決まってるだろ」「彼女も一人のはずよね」とぽんとぽんとぽん。「それ飲んだら許してあげる」となりの席のカップルのやりとりも気になったが三倍濃いスープの味も気になって仕方ない。 #読むスープ
■ 50
「お、芽キャベツじゃん」「安かったのよ」「なぁ、芽キャベツの収穫前って見たことある?ブドウみたいに鈴なりになるんだぜ」「知ってる」「おい、なにニヤニヤしてるんだよ」「猫大王って知らないでしょ」「猫……大王?なにそれ」「秘密ー! 見た事ある人にしかわからないもん」 #読むスープ
■ 51
煩いくらいの蝉の声。いやこれはもう声ではなく暴力だ。そう感じるのは窓から入ってくる白熱の陽射しのせい。このままでは焼かれてしまう。熱に占領されてゆく部屋を抜け出し階下へと逃れた。真っ先に開けた冷蔵庫の中に緑色のスープ。俺はそれを温めずに食べた。 #読むスープ 【夏のポタージュ】
※ RT @kaorun6: 出盛りの枝豆で作る、夏のポタージュ。青じその香りをほんのり添えて、豆乳でさらりとのばす。軽くトーストしたカンパーニュ添えて、つけパンしよっと。 http://pbs.twimg.com/media/BtLxRnxCYAAFMR0.jpg
■ 52
つぷりと沈めたスプーンの縁をこえて少しとろみのあるスープがじわりとくぼみに乗り込んできた。スプーンの内側は簡単に征服される。フフフ、しかしそれは罠なのだよ。どうだ!食べてやる!「どうだじゃないわよ」夫が最近食事中になんか変な物語を語り出す。何から影響受けたんだか。 #読むスープ
■ 53
死んでもトマトとピーマンだけは食べないと言い張る娘のためにこっそり作ったスープ。桃とブルーベリー、レモンまで加えてみたら大好評。子どもだなと裏で笑っていたら友達と行ったはずの旅行が彼氏とだったと発覚。甘く見ていたのはこちらだったかと冷やり。 #読むスープ 【夏のガスパチョ】
※ RT @kaorun6: 桃とフレッシュブルーベリー、トマトとパプリカを合わせた、フルーツ・ガスパチョ。塩レモンで酸味と塩味を加えます。お菓子のように甘いだけではない、キリッとした夏スープになりました。 http://pbs.twimg.com/media/BuEl_SeCcAAM9nk.jpg
■ 54
元気がないときの君は決まって黄色いものを食べたがる。だから一昨日、風邪を引いた君へのお見舞いはプリンにした。でも君は黄色いところだけ食べてカラメル部分を僕に突っ返したね。君の風邪が治ったのは黄色のおかげじゃな……僕の口を突然塞いだ黄色いポタージュはやけに甘かった。 #読むスープ
※ RT @kaorun6 生でも美味しいとうもろこしを、そのまま食べるようなポタージュに。軸も一緒にゆっくり蒸し煮してピュレにしてから、生クリームで仕上げます。とうもろこしの甘みがぎゅっと詰まった濃いポタージュに。 http://pbs.twimg.com/media/BvrY8FLCMAAFkO4.jpg
■ 55
張り詰めた空気。隊長の合図を待つ。配置につくのが遅い隊員が居るせいだ。早くしてくれ。ロープを握る手が緊張で強張りそうになる。「よし!全員降下開始ッ!」来た!遅れじと急いで崖を飛び降りる。あっ、ロープが千切れた!どうやら号令を待つ間にアルデンテのロープが伸びて…… #読むスープ
※ RT @kaorun6: 少しゆるめたトマトソースでブロッコリーとコロコロ切ったソーセージを煮込んで、ミルクを加えたトマトクリームスープ。くたっと気味のブロッコリーもたまにはいいな。このスープにスパゲティ入れて食べたい。 http://pbs.twimg.com/media/BvbwanCCEAA7qPL.jpg
■ 56
「おめでとう。今回は主役だよ」「本当に?」「もちろん。スープ名に君の名前もつく」「でも何で酢?」「ああこれはゲストのね」「ゲスト?」「大丈夫。脇役として存在感を薄めるために細切りにだね」「嫌ァッ!」こうして春菊は今日も苦くなるのであった。 #読むスープ 【春菊と牛肉のスープ】
※ RT @kaorun6: 鍋だと脇役になってしまう春菊を、牛肉の細切りと合わせてたっぷり食べるスープ。酢をちょっぴり使って、肉入りでもさっぱりと食べられます。#スープ #soup http://pbs.twimg.com/media/B3e-wo6CYAAAfxd.jpg
■ 57
「アナ、君にもう会えないなんて」「大丈夫よ。長老様に聞いたことあるの。私達、天国で一緒になれるって……きゃっ!」「アアアッ、アナーッ!」数分後。「ここは……?温かい……僕たち?私達?まさか天国?」そこは程よい温もりのスープの中。 #読むスープ 【レンコンのすりおろしスープ】
※ RT @kaorun6: れんこんを目の荒い鬼おろしですったものをお味噌汁に。見た目は地味だけれど、ぽってりとろみがついて、あったまる。れんこんのシャキシャキ感も味わえます。#soup #スープ http://pbs.twimg.com/media/B4SgXZaCIAIzROD.jpg
■ 58
「ダメだ!ここも大地が崩れてる!」「こっちだ!早く方舟へ!」「兄さん!でもその船……玉ねぎも溶けて……」「我々は取り残されたのではない。外海へと漕ぎ出し、そして果てるのならば意味もあると言うもの」「兄さんは行って。僕は残るよ。ハム王国最後の王族としてここに」 #読むスープ
※ RT @kaorun6: そして今朝のスープはじゃがいものミルク煮スープ。ほろほろに崩れるまで、じゃがいもを牛乳で炊くイメージで。たまねぎと、小さな角切りのハムで味を出します。 #スープ #soup http://pbs.twimg.com/media/B6ikL1rCEAAKSf8.jpg
■ 59
父は窓に張っていた「ネット」を静かに外した。2日分の夕陽のかけらを絡め取ったというその「ネット」を湯にくぐらせると優しく美味しそうな香りが部屋の中に漂った。その域にはまだ達さぬ自分の未熟さが悔しくなる匂い。そんな父でも三日分の夕陽を集めた祖父にはまだ敵わぬと言う。 #読むスープ
※ RT @kaorun6: くし切りキャベツ、トマト、たまねぎ、豚肉。シンプルな具材を煮込んだシチューの2日目です。トマト味のスープを吸ったキャベツがクタクタになってよい感じ。 #soup #スープ http://pbs.twimg.com/media/B6nxGIJCcAI1nAw.jpg
■ 60
私の彼は特異体質で左手の指がチーズだったりする。親指はフレッシュタイプのモッツァレラで小指はハードなミモレット。ウォッシュ好きな私は薬指のゴルゴンゾーラを狙っているのだが食べさせてくれない。指輪はめられなくなるから、ってまた生えてくるクセに。だから今日も威嚇スープ。 #読むスープ
※ RT @kaorun6: じゃがいものポタージュにゴルゴンゾーラ。プレーンなポテトポタージュの上にチーズを混ぜたポタージュを二層に重ねます。朝から白ワインが飲みたくなるスープに(笑)薄く切ってカリッと焼いたバゲット欲しかった!#soup #スープ http://pbs.twimg.com/media/B7RBI0WCUAA7L9M.jpg
■ 61
職人の朝は早い。まだ誰も起きてこないうちに庭から最高のズッキーニを選んでくる。新しく越してきた妖精仲間の家に使う建材にするのだ。水分を多く含みこれからの季節にはちょうどい……ヤバい。人間が起きてきた!カンナがけの途中なのに!「……あら、誰かしらこの下ごしらえ」 #読むスープ
※ RT @kaorun6: 週末に生協パルシステム生活情報アプリ、タベソダの連載更新してました。ズッキーニの、いつもとちょっと違う顔。 http://pbs.twimg.com/media/CHk8NbuWwAEPdWN.jpg
■ 62
「ふぅ……そこそこしんどくなってきたな」「そいつはもうさっきから意識ないぜ」「それに気づかねぇなんてお前もそろそろか?」「ば、バカいえ」「残ってるのは?」「私を入れて5粒ってとこか」「俺も居るぜ!ってそろそろ限界近いけどな」「……ああ、血の池地獄なんかにっ!」 #読むスープ
※ RT @kaorun6: リゾーニ入りトマトスープ。リゾーニはお米の形のパスタ。リゾーネ、リーゾなんかとも呼ぶようです。見た目リゾットのようですが、つるんとした食感。シンプルなトマトのスープで煮こんで、粉チーズかけました。#soup #スープ http://pbs.twimg.com/media/CHvMH0YUwAAgvhr.jpg
■ 63
そのスープは今まで食べたことのない味なのにとても懐かしい味だった。シェフに材料をしつこく尋ねたが教えてくれない。どこか温もりのある味なんだよな……悩みながらトイレに向かった僕は壁に刻まれていた化石が削られていることに気づいた。まさか絶滅したご先祖様……ニンゲンの味? #読むスープ