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運命を呪う

彼女が命を狙われるきっかけになったのは、ごくありふれた企業間の争いだった。

彼女はある大手企業のやり手幹部で、彼女の力のお陰で企業が成り立っているといっても過言ではないほどのキーパーソン。

そんな彼女を疎ましく思う対抗企業がどうやら暗躍しているようだ。

その事を察した彼女の側近がSPを依頼し、その要請により現れたのが三嶋ということになる。


そして、その三嶋が彼女の護衛を始めて二日目のこと。


「……退屈ではありませんか?」


黙ったまま資料に目を落としていた三嶋に、ふと彼女が問いかける。

別に退屈に感じていたわけではないが、部屋には二人きりだというのに妙に沈黙した空間が流れている。

なるほど、普通なら世間話などで時間を潰すところだろうが、


「生憎、お喋りは得意ではないのでね」


三嶋は目を通していた書類をかばんの中にしまうと、


「君の淹れる紅茶は実に美味い、これがあるだけで私は十分だ」


彼には似つかわしくない冗談なのか本気なのか分からないことを言う。

それに彼女は思わず噴き出してしまう。


「そんな洒落の効いたことも言われるんですね。

私はてっきりお堅いばかりの方だと思っていました」


それに対し三嶋は相変わらず無表情のまま、「事実だ」と短く返す。

その言葉に再び笑顔を見せた彼女は、そのままピアノの側へと歩み寄る。


「一曲奏でましょう。いい暇つぶしになると思いますよ」


そう言ってピアノのフタを開き、鍵盤に指を置く。

滑らかな指の動きから奏でられる音楽は、知らずにその心を安らげてくれる。それにしばらく耳を傾けていた三嶋。


「私は芸術に対してさして趣が無いほうだが…… いい曲だな」


「ありがとうございます。

これでも指先の器用さには自信がありますので」


なるほど、それでこの紅茶の味が出せるわけかと一人納得する三嶋。


「それにしても不思議だな、普通は命を狙われると知った人間は平常心を失うものだが」


そんな三嶋の言葉に、曲を奏でながら彼女は返事をする。


「流石の私も黙って殺されるつもりはありません。

しかし、今この時を恐怖に怯えてすごすのは非常にもったいないと思いません?」


肝が据わっているという表現が実にしっくりくる返事だ。

この女性は度胸も人一倍あるらしい。


「全く、本当に変わったやつだ」


三嶋が呟いたその時、


「あ……」


ピアノを奏でる指が止まる。

不思議に思った三嶋は彼女を見ると、


「今、僅かに笑いましたね?」


悪戯っぽい笑みを浮かべてそんなことを言ってきた。


「なんだ、そんなことか」


ため息混じりの三嶋に対して、


「でも、貴方がそういう風にいろんな顔を見せてくれると、

私を信頼してくれているようで少し安心します」


柔らかい笑顔で彼女はそんなことを言う。

言われてみれば、不思議と今回の護衛は義務感から来る『仕事』という感じではない。心の底から彼女を護りたいという感情さえ湧き上がってくる。


例えそれが、不可能だと分かっているとしても――

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