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死の運命

《時間軸》

【Break the Fate】

【Darkness Eagle】

「三嶋、仕事だ」


そう言ってオフィスに入ってきたのは三島の上司、葛城誠司。

葛城は、40代前半特有の彫りの深い顔から長年の経験と知識を思わせるほどのベテラン。

彼は鋭い双眸を三嶋に向け、書類を手渡す。

三嶋は手渡された書類に軽く目を通すと、


「なるほど、彼女が今回の護衛対象……というわけですか」


「そういうことだ、早速だが明日から配置についてくれ」


「了解です」


手短に言葉を交わして、三嶋は支度に取り掛かった。



彼の名は三嶋啓二。

職業は警察本部にある警護課のSPで、護衛対象となる人物を護るのが仕事である。

その護衛対象となる人物は、大抵は政治家や社長などの大物だが、稀に一般人が護衛対象となることもある。


その中で彼は、今までも多数の護衛任務を請け負ってきた。

だが、残念ながら全ての命を救えてきたわけではない。

幸か不幸か、彼には人の死が”視えて”しまうという、生まれ持った異質な能力がある。

その能力のせいで、三嶋は護衛対象を見たその時に、

その人物の行き着く先―― つまり生死がわかってしまう。

タイミングが悪いのか、死に行く運命を背負った人間を多数護衛してきた彼は、同僚や彼を疎ましく思う者から”烏”という不名誉な渾名で呼ばれている。黒髪短髪に黒のジャケットを好んで愛用するその姿を皮肉っているという話もあるが。


そんな彼が今日向かった場所は、とある一件の豪邸。

門をくぐればその目の前に広がる、いかにも富豪を思わせる家立ちは、見るものに嫌でも荘厳なイメージを抱かせる。この家の主人が、今回の護衛対象。資料によると女性らしいがビジネスの腕は一流らしく、一代で富を築いたらしい。

玄関に備え付けられたチャイムを鳴らすと、しばらく経ってからドアが開き、一人の女性が姿を現した。三嶋が一目みた印象では、富豪のイメージとはかけ離れた、至極質素な女性。

彼女は銀縁の眼鏡をかけ直して三嶋を見ると、


「護衛の方ですね、お待ちしておりました」


丁寧な言葉と会釈で三嶋を迎え入れた。


三嶋は荷物を適当な所に置くと、彼女に家の中を案内してくれるよう頼んだ。護衛する上でその位置関係を知っておくのは重要な上、これだけ広い家ということで、自分が迷っていては元も子もない。

彼女は三嶋のその要請に対してむしろ喜んでといったばかりの対応で、熱心に家の中を案内し始めた。

と、しばらく家の案内に夢中になっていた彼女だが、突然何かを思い出したように、


「そういえば、自己紹介がまだでした。私は――」


名前を名乗ろうとした彼女を、三嶋は制する。


「……結構だ、護衛対象の名前ぐらいは頭に入っている」


とは言ったものの、三嶋の中では名前など何の意味も持たなかった。

むしろ、今回限りの付き合いである上、生死さえ不明な護衛対象の名前を覚えることで、下手に感情移入してしまっては任務に支障が出るとさえ考えていた。

そんな三嶋に対して再び会釈した彼女は、今度は右手を差し出してきた。


「そうですか……。

では、お願いしますね。私を護ってくれる”烏さん”」


三嶋は突然の事で面食らった。この女性、自分の渾名を知っているというのか。


「情報戦はビジネスの基礎ですよ」


そう言う彼女はにっこり笑うと、三嶋に握手を促すように右手をぐいぐい突き動かす。流石に一代で富を築くだけあると思い、改めてこの女性に対する見解を見直した。


「ああ、よろしく頼む」


そして握手を交わす二人。改めて彼女の顔を正面から見たその時、視界がまるでテレビの砂嵐のように乱れ――


「くぅっ……」


三嶋が急にうめき声を上げその場にくず折れる。

それを見た彼女は慌てて三嶋を介抱し、


「どうされました?」


心配そうに顔を覗き込んでくる。

その言葉に対ししばらく無言でいた三嶋だったが、


「いや、なんでもない」


すぐに立ち上がると、何事も無かったように家の案内の続きを促した。

三嶋にはついさっき彼女を改めてみたその瞬間、何者かによって心臓を撃ち抜かれ絶命する彼女の最期が見えた。

そう、それは今まで何者にも変える事ができなかった死の宣告。


「視えて、しまったか……」


誰にも聞こえない声で三嶋は呟いた。

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