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あの時の空は燃えていた

作者: 義政

文才などまだまだ勉強中で不快な表現等があるかと思います。また、人物、部隊など史実と異なるものがありますが、宜しくお願い致します。


青々と雲一つない大空で多くの若者が散っていったのを70年後の子供たちは覚えてくれているだろうか。


「本日1100沖縄北東に展開する米機動艦隊に・・・」

特攻命令を聞くのはこれが最後であろうか。開戦から3年以上がたった我が大日本帝国の現状を後世の人々はどう思うのであろうか。


1945年8月15日、まだ日も上がらぬ教室の一室。国民学校を借りた兵舎には元気で走り回る子供ではなく8名の若きサムライがこの身を鉄の棺桶に乗せ、出陣しようと決心を固めている。


彼らを指揮する安島少尉は兵学校を出たばかりの戦場も知らぬ、ヒヨっこである。実戦を知らない隊長に率いられるのも学徒兵、彼らと共に最後の出撃を迎える、かつては己の命を預けられる戦友と出撃していたのが、幻想のように思え、先に逝ったみんなに笑われるのではとおかしな発想をしている自分を下にみていた。


「以上、解散。ただちに飛行場に移動する。」

少尉からの命令を受領し終え、校庭に待機してあるトラックで飛行場に向かう寸前、教室のガラス付の扉が開いた。

「総員、待て」入ってきた飯田大尉であった。

「大尉殿、何か」安島少尉が問いただす。

「今、司令と会ってきた。安島と美堂一飛曹は俺と来てくれ」

ヒヨっこ隊員たちを残し、私は少尉と通信室に向かった。


通信室では学徒動員の通信兵1人がいたが、大尉が外すよう促し、我々と入れ違いで外に出て行った。

部屋に入り、大尉は窓の外を見ながらしばらく黙っていた。

顔は見えなくとも大尉は痛みを堪えているかのように見えた。

先に切り出したのは少尉であった。

「いったい司令とどんな話をされたのですか。我々はもう出撃するんですよ。」

突然のことに困惑した少尉の声に大尉は振りかえた。

唇を噛みしめ二人を凝視し、口を開いた。

「本日、1200に重大な発表がある。それは陛下からの発表だ。」

陛下と聞き、我らは直立不動になった。続けて聞いた話に耳を疑った。

「内容は・・・我が帝国が連合国のポツダム宣言受諾しこと、停戦についてだ。この意味がわかるな。」

私には、大尉の険しい表情の意味が理解できた。そして、いつしか同じ顔になっていた。

「敗けたんですか。」私は直立不動を崩さず、遠くを見るようにいった。

「ああ、美堂一飛曹。」

隣にいた安島少尉は全身の力が抜けたように膝から崩れ落ちた。

「そんな・・・」泣きながら目の前が真っ暗になってしまった

「しかし大尉、出撃命令が出ているなら、行くしか・・」

私は今さら敗けたから出撃しないわけにいかいのはわかっていた。

しかし、大尉から予想外の返答が返ってきた。

「いや、出撃はしない。大佐からも許可は得ている。」大尉は冷静であった。

飯田大尉は、攻撃256航空隊の偵察員で串良飛行場にいたが、なぜかこの笠之原の分遣飛行隊の指揮を任せられたのだ。噂ではフィリピンの第804飛行隊で問題を起こしたらいいが、人柄は物静かで、常に情報収集を欠かせない士官であった。


安島少尉は「行かせてください」と意見具申したが、大尉は首を横に振った。

私も硫黄島航空戦で多くの戦友を失い、自らも負傷し、やっと復帰して第三岡崎航空隊の特攻隊に入れたとたんの敗戦で、納得できようがないはずだった。

しかし、心の片隅では安心している自分が怖かった。


いつも周りに歩調を合わせてみんなと一緒なら戦えると言い聞かせてきた。それが自分自身守るためであることも気づいていた。けれど、負傷し本土に帰還する輸送機の窓越しから、笑顔で送ってくれた戦友たちの顔見た瞬間、偽ってばかりの己を責めた。その償いしたためか復帰を急いだが、いざ特攻にいく少尉の意見具申に賛同しなかった自分は未だ偽っていた。


出撃中止を決めた大尉は安島を説得し始めた。

「いいか、お前らには新たな任務がある。それはこの日本を立て直すことだ。」

大尉は少尉の目をとらえ、見線を外さずに肩に手をかけた。その手には力が入り、安島少尉が臆していまいかけていた。


「お前や美堂たちには生きる責任がある、俺には部下を生かす義務がある。」

大尉は顔を下向いて若干の沈黙の後

「俺たちは何も変えられない。だが、日本国民なら変えられる。」

最初、大尉の言葉を理解できなかったが、次の言葉ですべてわかった。

「俺たちはこの国を護りぬくことができなった。多くの国民、いや世界中の人を傷つけた。だが、日本人には這い上がる力がある。長く続いている歴史がまさに証明している。だから、お前たちは生きてここで起きたことを伝えろ。これは隊長として最後の命令だ。」


大尉の覚悟に安島少尉も私もそれ以上何も言えなった。


そして、昭和20年8月15日1200。「終戦」


玉音放送後の夕刻、濃緑色に塗られた機体にオレンジかかった夕日に照らされた零戦の前に立った。

「さらば、零戦。お前の分まで這いつくばって生き抜くからな。」

私の心は軽かった。戦争が終わったからではない。大尉の言葉で気づいたのだ。大きいことをする前に、自分に素直になれなければ、簡単に壁から逃げてしまう。逃げる自分を責めるのではなく、正直に生きることに喜び覚えよう。そう考えたら呪縛から抜け出せた気がした。


1か月後、飯田大尉はフィリピンの軍事法廷に立たされ、弁護も否定もできぬ裁判で銃殺刑を求刑され、すぐに刑は執行された。

「指差し裁判」だった。

飯田大尉だけではない。多くの英霊が否定もせず、黙って刑を受けた。

私は戦後の混乱を生き抜いた。大尉の命令を今でも遂行している。なぜならあの時の空が燃え続けているのだから。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 飯田大尉かっこいい! かっこいいからこそ東京裁判がやるせないですね。 自分の弱さと向き合う安島の心情描写が、読者の心と重なり共感できました。 [気になる点] 誤字脱字が読者の心に距離を作り…
[良い点] 戦争・特攻の話ということでその時代の思考や国内の動乱など難しかったと思いますが、よく書けてると思います(上から目線ですみません)。私も戦争小説や戦争記事などかなり読みましたが、あの時代の若…
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