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死亡フラグが立ってます  作者: 水上かなみ
はじめてのともだち
8/18

 そのまま、階段に座ってお昼を三人で一緒に食べた。今は竹本さんと上田君の仲を進展させる作戦会議中といったところ。

 こんな風に誰かとお昼を食べるなんて私は初めてだったので、最初はちょっとだけ緊張していたけれど、気付いたらいつの間にかそんな気持ちは無くなっていた。

 女の子なら、誰だって恋バナは大好物だし。


「やっぱりね、キッカケが必要だと思うわけよ。私は」

 佐々木さんは自分の膝を叩きながらそう力説する。

「うんうん。私もそう思うよ」

 と、私もその意見に同意した。

 竹本さんの恋が上手くいくためには、きっと何かフラグが成長するような出来事があるはずだ。

「えー、でもキッカケって言ってもどうすればいいのよ?」

「だから、何でもいいから上田君に声かけなさいってば。とにかく行動あるのみ!」

「そんな、用も無いのに話しかけるなんて……」

「用ならあるじゃない。一緒にお昼食べようって誘うんでしょ?」

「うぅ……その通りです……」

 竹本さんはそう言って、真っ赤な顔で俯いてしまった。


 いつもはとても元気な竹本さんがこんな表情をするなんてことも、私は今まで知らなかった。

 竹本さんは明るくて活発だけど、実は女の子らしくて可愛い子。佐々木さんは一見言葉は厳しいけど、それは友達思いの裏返し。

 本当に仲が良さそうで、そんな二人の会話を眺めていると、ついつい口元がほころんでしまう。


「なっ、何笑ってるのよ?」

 竹本さんが私の視線に気付いてたじろいだ。ジロジロ見ていたみたいになってしまって、私は慌てて言い繕う。

「え、えっと……仲いいなぁって思って。二人は昔からの知り合いなの?」

「ううん。二年の時一緒のクラスになってからだから、まだ一年ちょっとくらいだね」

「そうそう。二年の時の最初の席替えで前後ろになってさ」

 佐々木さんは続けて、でも由香の第一印象は最悪だったけどねと言って、からかうように笑っている。

「えー! なんでよ!!」

「だって由香、私と全然喋らなかったし、話しかけても睨んでくるし。無愛想な子って思ってたよ」

「ち、違うってば。私が人見知りなの知ってるでしょ? 最初のときは、ただ緊張してただけなのっ!」

「はいはい。そうでしたねー」


 ちなみに由香というのは竹本さんのことだ。竹本由香。

 佐々木さんの名前は、確か……綾乃だったっけ?

 二人はじゃれ合うみたいに言い合いを続けている。

 佐々木さんが竹本さんをいじめるようなことを言って、それに竹本さんが大げさに反応するというのが二人のいつものパターンらしい。

 その様子がやっぱりおかしくて、私は我慢しきれずに笑い声をあげる。


「やっぱり仲が良いんだね。息ぴったりだよ」

 私の笑い声に、二人は恥ずかしそうに目を見合わせる。

「……なんか照れるなぁ」

「でも、すごく仲が良いから、もっと昔からの関係なのかと思ったんだけど、一年でこんなに仲良くなるなんてすごいね」

「まっ、友情に時間の長さは関係ないってことだよ」

 竹本さんは胸を反らしながら、ちょっと誇らしげだ。それを聞いて佐々木さんがニヤニヤ笑いながら意地悪に返す。

「恋愛にも、時間は関係ない?」

 途端にしまった! という顔をする竹本さん。

 そういえば竹本さんの恋の話をしてたんだった。すっかり話が逸れてしまっていた。

「そ、そうだけどっ……も、もういいじゃん! その話は」

「いいわけ無いでしょー。なんのためにここに集まってると思ってるのよ」

 ここぞとばかりに竹本さんを問い詰める佐々木さん。

 追い詰められた竹本さんはすっかりしどろもどろだ。

「ううぅ……そ、そうだ! 川澄さんは好きな人とかいないの?」

「えっ? 私っ!?」

 竹本さんはやぶから棒にそんなことを言った。必死に話題を逸らそうとしているのが微笑ましいけれど、話せるような話題は持っていない。

 助けを求めて佐々木さんの方を見てみると、佐々木さんはいきなり私の方に振り向いて、満面の笑みを向けてきた。

「それ、私も聞きたいかも!」

「ええっ!?」

 期待していた助けは来なかった。私はがっくりと肩を落とす。

 反対に、矛先が私に向いたことで、竹本さんはホッとした顔をしている。

 くそー! 覚えとけよ……。

 ていうか、佐々木さんも話に乗ってくるなんて、一体なんのためにここに集まってると思っているんだっ!

 二方向から挟み撃ちされてしまって、私は仕方ないかと諦めた。


「そうだなぁ……今は特に好きな人はいないかな。というか今はそれどころじゃないっていうか……」

「それどころじゃないって?」

「えっと……」

 言ってしまってから後悔した。死亡フラグのことを言うわけにもいかないし、どうしよう。口ごもっていると、佐々木さんは私の顔を覗き込んで言った。

「何か悩み事でもあるの? 相談のるよ」

「そうそう、こっちも恋愛相談にのってもらってるからねー」

 そう言ってくれるのはありがたいけど、やっぱり話せない。仕方ないので別の悩みを相談することにした。

「うーん、最近妹が私にだけ冷たい事とかかなぁ」

 死亡フラグのことを除けば、今の私の一番の悩みはやっぱり家族の事だし、嘘はついていないはずだよね。

「あっ、川澄さん妹いるんだ? どんな子?」

「えっと、最近はすっかり生意気になっちゃってあんまり会話もないんたけど、でも根は素直な良い子なんだよ」

「うんうん」

 佐々木さんも竹本さんも、興味津々といった感じで身を乗り出してくる。二人とも一人っ子なのかなと、なんとなくだけどそう思った。

 一人っ子だったら良かったのにと思ったこともあるけれど、それ以上に妹が居て良かったと思うことの方がずっと多い。

 うん。やっぱり私は家族のことが大好きなんだ。もちろん妹の事だって、どれだけ冷たくされたって嫌いになんてなれない。

 こんな私、報われなさ過ぎるかな?


「私と違って、明るくて運動神経も良いし、自慢の妹だよ。そうそう、今年から中学生なんだけど、制服姿が初々しくて可愛いんだ。あ、そうだ! 前に撮った写メあるけど見る?」

 佐々木さんは大きなため息をついた。

「はぁ……川澄さんは彼氏より家族って感じだね……」

 私は苦笑いを返しながら、構わずに竹本さんに写メを見せた。

「へぇー、これが川澄さんの妹さんかぁ。可愛いじゃん」

「でしょでしょー? ほら、佐々木さんも見てよ」

 大好きな家族を褒められて悪い気はしない。私はいつになく上機嫌だったけれど、佐々木さんは呆れているみたいだった。

「はいはい。見ますよー。……あれ? この子って——」

 と、佐々木さんは希の写メを見て何かを考え込んでしまった。

「ん? 佐々木さん、どうかしたの?」

「えっと……、勘違いかもしれないんだけど」

「なになにー? 綾乃どうしたの?」

 竹本さんにせっつかれて、佐々木さんは言いづらそうにしながらも言葉を続けた。

「あのね、この間この子を街で見かけたんだけど……」

「うんうん」

「そのときにね、サラリーマンっぽい男の人と一緒に歩いてたの。なんか凄い嬉しそうにしててさ」

「えっ!?」

「それってまさか、エンコー?」

「バカッ! 由香は黙ってて!」

 竹本さんの余計な一言を遮って、佐々木さんは慌てて弁解を続ける。

「い、いや、ごめん。私の見間違いかもしれないし、わかんないけど」


 けれどもちろん、竹本さんの言葉は私の耳にも入ってきていた。一瞬で頭が真っ白になって、金縛りにあったみたいに身体が動かなくなってしまった。

「ちょっと、川澄さん!? 大丈夫!?」

「川澄さーん!」

「……うそっ!? 希が……」

「もう!! 由香が変なこと言うからでしょバカ!!」

 佐々木さんが竹本さんの頭を叩く。竹本さんが、うぅーと子犬みたいに唸りながら乱れた髪を直すのを、私はぼんやりと見ていた。


 希が……、援助交際?

 そんなバカな、希がそんなことするわけ無い。そう否定したい気持ちと、中学生になってから急にすれてしまった希を考えると否定しきれないという気持ちとが頭の中でグルグル回っていた。

 希のこと、信じたい。けど……。

 そんなことを考えていると、ガクガクと肩を揺すられる感覚で現実に引き戻された。気がつくと二人が心配そうに私を覗き込んでいる。私の肩を掴んでいるのは竹本さんだ。あの……痛いんですけど。

「おーい、川澄さーん、戻ってきてー!!」

「……あっ、ごめん……ボーっとしてた」

「いやいや、由香のせいだから」

「ひっどーい! 思ったこと言っただけじゃん!」

 竹本さんはそう言って頬を膨らませる。

「それがダメだって言ってんの!!」

 佐々木さんは視線で竹本さんを黙らせると、私の方に向き直る。

「さっきも言ったけど、私の見間違いかもしれないんだから、あんまり深刻に考えすぎちゃダメだよ! とにかくさ、一回妹さんとちゃんと話してみたほうがいいよ」

「……うん、ありがと。今日帰ったらそうしてみる」

「ゴメンね、変なこと言って。そろそろお昼休み終わりだし、教室戻ろ?」

 佐々木さんはパンッと小気味良い音で手を叩くと立ち上がる。それでこの話は終わりになったみたいだ。差し出された手を握ると、それを引いて立ち上がらせてくれた。竹本さんも遅れて、ぴょんと飛び跳ねるように立ち上がった。


 私たちは連れ立って教室まで戻った。その道中も、二人は飽きることなくずっと話を続けていた。

 色々とうやむやになったせいで、結局竹本さんの恋の話はあまりできていない。けれど今の私はそれどころでは無かった。

 竹本さんは折を見て私にも話を振ってくれていたけれど、私は曖昧に返事を返すだけだった。

 竹本さんが言った通り、まだはっきりと決まったわけじゃない……。そう思いたいのに、それでも一度悪い想像をしてしまったら、それを打ち消すのはやっぱり大変だった。

 教室に戻って自習をしていても、授業を受けていても、その日一日は全く勉強に身が入らなかった。


 中学校に上がって、悪い友達との付き合いでもできてしまったのだろうか。

 反抗期だと言ってしまうのは簡単だけど、希が良くない事をしてるなら、私がちゃんと叱ってあげなくちゃだもんね。私はそう強く決意する。

 とにかく、家に帰ったら、ちゃんと希と話をしてみよう。

 悶々とそんなことを考えているうちに、あっという間に全ての授業が終了していた。帰りのホームルームが終わると、私は普段より三割り増しの速度で家に飛んで帰ったのだった。


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