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違う

作者: 薄桜

「空想科学祭2011」RED部門 参加作品です

金曜から土曜に変わる頃、突然携帯が鳴った。

「誰だよこんな時間に・・・。」

素早く狩り中の仲間に『ゴメン電話』と、断って携帯に手を伸ばしたが、知らない番号だった。・・・本当に誰だよ?

まさか会社関係で何かトラブって呼び出しとか? 俺は帰ったけど、今晩0時からリリースだから、その関係・・・でなければいいんだがなぁ。

「はい、もしもし?」

少し、緊張して電話に出た。

「あ、松澤?」

しかし、聞こえてくるのは単調なリズムの賑やかな音楽と、男の馬鹿デカイ声。驚いて思わず少し耳から離し、こちらもデカイ声で返してやった。

「違います! 人違いですよ。」

「あっ、あれ?・・・スミマセン。」

電話の相手は結局誰だか分からなかったが、あっさりと非を認めて電話は切れた。

・・・何だよ、間違い電話かよ。

些か気の抜けた気分で携帯を布団に投げて、『ただいま。間違い電話だった』と入れて、再び狩りに参加した。


今思えば、これがすべての始まりだったのかもしれない。


翌日、せっかくの休みをロビーからのチャイムで起こされた。

眠い。まったく、昨日俺が何時に寝たと思ってるんだよ?

「はい?」

欠伸をかみ殺しながらインターホンに出ると、

「イルカ急送でーす。」

と、荷物を抱えた制服姿の男がモニターに映っている。

何も注文した思えも無く、実家から何か送るという話も聞いていない。何だろうかと訝りながらも、返事をして入り口のドアを開けるボタンを押した。

のだが・・・いくら待ってもイルカ急送は来ない。さすがに単身者用賃貸アパートで30分もウロウロしてるって事は無いだろう。

何だよそれ? 鳴らす家を間違えでもしたのか!?

起こされた事に不満はあるが、今からもう一度寝てしまうと、おそらく起きると夕方だ。それはそれで一日を無駄にするようなものだよなと、とりあえずパソコンの電源を入れた。

起動までに冷蔵庫のコーヒーをカップに注いで戻り、新着のメールを落とすと、違うアドレス宛てのメールがいくつか混ざっていて、思わずコーヒーを吹きそうになった。

おいおい、いいのかこれ? メールサーバの不具合か? こういうのは信用問題だろう? 他人宛のメールはタイトルからは重要そうには見えなくて、その点では安心したものの、人のが来てるって事は俺宛てのメールもどこかに行っているのかもしれない。

だから俺は、事象の報告に少しの非難を混ぜたメールをレンタルメルアドサービスの事務局に送ってから、ゲームの世界の住人になった。


昼近くになり、朝食も抜いた身でさすがに腹が空いたなと、クリアファイルに纏めたデリバリーのチラシの束から無作為に1枚抜いた。なるほどピザか、まぁ、いいだろう。

表に大々的な写真を載せた新製品のピザを、ポテトとチキンのセットを付けて頼んでみた。

のだが・・・来なかった。

電話で「30分お時間頂きます」とは言われたものの、更に30分待っても一向に音沙汰はなく、再び苦情の電話をかける羽目になった。


タダになったピザを食べてると、今度は玄関口のチャイムが鳴った。

トマトソースの付いた手をティッシュで拭い、インターホンに出ると、

「宅急便でーす。」

・・・今か? あれから4時間は過ぎている。

狐につままれたような心地で玄関扉を開けると、そこにいたのはイルカ急送ではなく、ラクダ便だった。

おまけに、「サインをお願いします」と言われて受け取った紙には、部屋番号の違う別人の名が記されており、立て続けに起こる間違いに眉根が寄るのを意識した。

「・・・あの、これ違いますよ?」

紙を返しながら外に記された部屋の番号を指さすと、ラクダ便の男は何度か見直し、

「あー、スイマセン、失礼しました。」

と、照れ臭そうに笑って誤魔化し、逃げるように去って行った。

・・・今日は何だか変な日だ。


しかし、妙な間違いはこれだけでは終わらない。

夕方、弁当を買いにコンビニに向かうと、途中で警察に止められた。

別におかしな格好もしてないのに、職務質問か? と、嫌な気分でいると、

「ちょっとこっちに・・・分かるよね?」

と分からない事を言われて、『逮捕状』と書かれた一枚の紙を見せられた。

「大河原隆久、午後6時56分、強盗罪、ならびに殺人罪の容疑で逮捕・・・」

・・・状況は本気で分からないが、俺じゃないのは確かだ!!

「違うっ! 俺は別人だ!!」

危うく逮捕されそうになって、必死に違うと主張して、ようやく人違いだと理解してもらえた。・・・あぁ、免許書持ってて良かった!!

「何だよまったく、人違いかよ。」

と、警官が去り際に呟いて舌打ちしたが、それは俺のセリフだ。

本当に今日は何て日なんだ!?

最後は人違い刺されて死亡とか? ・・・そんなオチじゃなきゃいいんだがな。

冗談半分にそう考えてみたものの、今日を振り返るとゾッとして、どうにも笑えず、そんなトラブルに巻き込まれる前に、今日はもうさっさと帰る事にした。

弁当は買ってないが、確かカップ麺があったはずだから、夕飯はもうそれでいい。


それから3日、この間違いはひたすら続いた。

会社で受けた電話が、どこかのお客様相談室にかけたつもりの相手で、いきなり怒鳴られたり。パソコンに貼ってあったメモの付箋紙が、隣の席のヤツ宛てだったり。自販機でブラックコーヒーを押したのに、カフェオレが出てきたり。牛丼の並みを頼んだのに豚丼の並みが来たり。と、そんな些細な間違いが延々続いた

不可解ながらも自分に非がある訳でなし、あの時みたいに逮捕されそうになる事も、ましてや刺されるような事もなく、「すみません」と毎回困った顔を見せられるくらいのもので、さすがに『またか・・・』くらいにしか思わなくなった。

あぁそうだ、あれは参ったな。

相手先からの帰りに、急にコサージュの付いたスーツの女に掴まって、

「先生、何してるんですか、早く来て下さい!」

って、有無を言わさず同じビル内にあるホールの壇上に引っ張り上げられて、客席から割れんばかりの拍手をされた時には、窮地に立たされた。

「すみません、人違いなんです。」

って、さすがに俺が言って謝った。


でもそれも、今の状況に比べたらかわいいものだった。

本当に、俺の身には一体何が起こってるんだ?

一体何でこんな事になったんだ!? 俺・・・これからどうしたらいんだ?


仕事帰りに、晩飯兼ねて一杯やろうと馴染みの居酒屋の暖簾を潜り、いつもの席でとりあえずのビールと、揚げ出し豆腐、タコの唐揚げを頼み、突き出しの枝豆でビールをやりながら、知り合いの客と談笑しながら残りを待っていた。そこまでは普段通りだ。

しかし、バイトの女の子がタコの唐揚げを運んで来た時、何を言っているのか分からなかった。

そこからはもう、何を聞いてもさっぱりだ。

今まで話してた客が「どうした?」と口を動かしているのは何となく解るものの、耳に聞こえる言葉は理解できない。

マジか!? 俺、言葉がさっぱり解らない!!

英語だフランス語だってレベルじゃ無くて、もちろん広東語だハングルだって事でも無くて、たぶんこれ言葉として認識できないのだ。

「何だよこれ!?」

俺は自分でそう言ったつもりなのだが、残念ながら自分の耳に聞こえた声はまったく意味が分からなかった。

その事に激しく動揺し途方にくれかけたが、ふと目にしたメニューで文字の読み書きに支障が無い事に気付き、その夜は筆談で何とかやり過ごした。

皆の反応は半信半疑か驚くかだが、誰より俺が一番ショックを受けている。


翌朝は会社を休むという旨のメールを送って、大きな病院に行った。

さてしかし、こういう場合どこに掛かればいいんだろう?

母親くらいの年と思われる案内係の女性に、持参のノートに筆談で相談してみると、脳神経外科を紹介された。

結局そのまま彼女の世話になり、色々と状況を伝えてくれて、何度も同じ事を繰り返す事無く何とか受診まで漕ぎ着ける事ができた。ラッキーだ。

彼女に感謝して受診室のカーテンを潜り、驚いている医者と延々と筆談をして状況を伝えた。

その後色々と検査をした結果、シナプスの情報伝達機能に異常をきたしたのではないかという事だった。

つまり、言葉を聞いた時に働く筈の部分が機能せず、代わりに違う部分が反応するので、俺はさっぱり言葉が理解できないらしい。イメージの図解を書かれ、そう説明された。

・・・で、一番知りたい問題の解決方法なんだが、そこは医者に誤魔化された。

『何故、何がきっかけで起きたのかは分かりません。まだ脳には謎が多く、あなたの件も特殊な症例です。過去にあったケースで、シナプスが新たなルートを接続させたという事もあるので、できるだけ言葉を聞くようにして下さい。』


医者の書いた字を、何度も何度も目で追って、俺は今度こそ途方にくれた。


・・・何なんだよこれ! 何でこんなに間違いが続くんだ?

誰か、何故俺がこんな事になったのか説明してくれ!!

俺は一体これからどうすればいいんだ!? なぁ!?

読んでいただき、ありがとうございました。

感想・批評待ってます。


明日からの「高いアンテナ」もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなり引き込まれて読みきってしまいました。起こりえる問題が不可解すぎてグイグイひきつけられました。 ただオチがよくわからなかったです。脳のシナプス異常で言葉が話せなくなるのはわかるのですが、…
2011/08/01 14:51 退会済み
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