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6 愛弟子は誘惑する


 「何を言ってるんですか!だからギルドは辞めて欲しいと―――」



 「―――ギルドにいるのはお金を稼ぐためだけじゃないのよ」



 「―――?!」



 空気がピリッと変わった事をネイサンは察した。


 先ほどまでの穏やかな空気とは全く違う。アレクサンドラの真剣な眼差しは、聞き流して良い話でも茶化しても良い話でもないということだ。



 「私はリットルン侯爵家の再興を真剣に考えているの」



 「・・・・はい」



 「何故、私がギルド員でなければならないのか、ネイサンが私と婚約するなら話を聞いてほしい」


 

 「―――わかりました。聞きます」



  ネイサンの言葉にふっと表情を緩め、少し悲しげな眼差しで視線を逸らせながらアレクサンドラは思い返すように話し始めた。


 

 ネイサンが戦争に赴いた後、4年程前にリットルン侯爵家が新たに購入した大型のキャラック船が、多量のオウリ鉱石を積んだまま行方不明になってしまった事件の話。



 海軍とリットルン侯爵家だけでなく、サウレンツ公爵家も手伝い探したが見つけられなかった。

 私掠船に襲われたのではないかという懸念もあり、調べたがそのような争った状況は周辺の調べでもわからなかった。


 確かに貿易船が海賊に襲われるということは度々あった。しかし、ルクサント王国からの航路で海賊船が現れることは少なかったのだ。

 ルクサント王国が争いを好まない国で、防衛に特化していた為海の領域すらも滅多に荒れることはなかった。

 だからこそ、大型のキャラック船が行方不明になるなどあり得なかったのだ。



 最初は襲われた路線でずっと探していた。しかし、ある時ギルドマスターとしてキリアンに呼ばれたアレクサンドラは『もしかしたら船長が裏切り、航路を変えたのではないか』と、とんでもないことを口にしたのだ。


 水夫たちは皆リットルンの志を共にした仲間たちだ。

 アレクサンドラも、キャラック船に乗る水夫たちに万が一の時の身の守り方だけでも知っておいた方が良いという理由で、全員に護身術を指南した。だからこそ彼らがどいう者達かよくわかっていた。

 真面目で努力家ばかりだった彼らが裏切るなど考えられない。―――しかし、キリアンが目を付けたのは水夫ではなかった。


 『船長』と『航海士』だったのだ。


 新しいキャラック船には、新しい船長と航海士が選ばれた。実際に有能かどうか確認もした上での判断だったらしい。

 しかし、彼らはそもそもアレクサンドラの父・ケインズが探して来た者たちではない。

 キャラック船購入の際に、商人から勧められた者たちだったのだ。


 ケインズは船を売ったルクサントの商人を探したが、キャラック船が出航した直後から行方がわからなくなったらしい。

 キリアンは状況的に、そのルクサントの商人『クロスト伯爵』を疑っている。

 


 キリアンはサウレンツ公爵の指示でキャラック船が停泊していたルクサント王国のロトス公爵のマリーシャ領の港を調べたが、なかなか行方を掴めるような情報が手に入らず、捜査の撤退を命じられた。―――しかし、キリアンは独自に自分の裏ギルド・アークを使って情報を得るためにうごいた。


 そこで丁度アークと契約したのが当事者の家門のアレクサンドラだったのだ。

 


 キリアンは自身がギルドマスターであることをリックと名を偽り隠していたが、アレクサンドラは数週間もせずに暴いてしまった。

 それ以降行方不明のキャラック船や、何とか再びオウリ鉱石の取引が出来るようにルクサントへ交渉しているキリアンと手を組み、アレクサンドラもお金を稼ぎながら事件の真相とキャラック船を探している。



 「―――話は分かりました。事件の謎をときたいのと、行方不明のキャラック船を探したいんですね?

 ・・・それには積極的に動いているキリアン卿と手を組んでいたいと・・」



 「――まぁ、そういうことよ」



 「なら、手を組むのは俺がキリアン卿と手を組みます!アレクサンドラ様は引いてください!」



 「なんでよ!私も動くわ!リットルン侯爵家の事だもの!」



 「危険だからやめてください!それに、キリアン卿とこれ以上長く一緒にいて欲しくないんです!」



 「私は嫌よ!自分の家のことなの!ほんとならキリアンに頼むのだって心苦しい位なのよ!――けれど、キリアンの生家のサウレンツ公爵家は、ルクサントのロトス公爵と現時点で唯一親交のある家門なの。

 キリアンがいなければロトス公爵と繋がれないのよ。

 私は今投資して、キリアンに小さなフェザー商会を運営してもらっているわ。

 今年になって、サウレンツ公爵の勧めるフェザー商会ならオウリ鉱石を再びジスべニアへ卸しても良いと色よい返事を貰えている所なの!

 私はリットルン侯爵家が再興した際に、オウリ鉱石の交易を再開させたい!

 フェザー商会はアークのギルド員が携わってくれているから、私は絶対に離れたくないのよ!」



 「・・・・どうしても・・事件に直接関わるんですか?」



 「そうよ!私は絶対に真相を明らかにして、再びロトス公爵と取引するの!――オウリ鉱石を!

 だから、こればかりはたとえ脅されたって私は譲らないわ!!」



 ネイサンは知っている。

 アレクサンドラがどれだけの無茶をしているのか。



 アレクサンドラの母、ラウレシアは、今では珍しい『女は夫の一歩後ろに下がり、淑女らしく振舞う』というのが女の幸せだと固く信じている。


 なぜ『淑女』とは真逆なラウレシアが娘に自分と違うものを求めるのかはわからなかったが、その母親の強い意思を感じ取ったアレクサンドラは、幼少期からそれはそれは物わかりの良い少女だったらしい。


 教育は厳しかったが、子供たちを愛していたラウレシアはアレクサンドラをとても大切にしていた。

 だからこそ、淑女教育をしっかりしているなら、気晴らしに構わない。と、アレクサンドラの強い希望を叶え剣術の指南もしたのだそうだ。


 アレクサンドラは口にはしないが、自分がしたいことは余程の事がない限り叶えるだけの賢さがある。

 母親の想いを傷つけず、父や兄にでしゃばらず、淑女らしく振舞いながら自分のやりたいことを影で叶えてきた人だ。


 いくらリットルン侯爵家が没落寸前とはいえ、ラウレシアはアレクサンドラが淑女から外れることを良しとはしないはず。

 それでもアレクサンドラは影でリットルン侯爵家を支えるために奮闘しているのだ。


 ネイサンが夫になる自分の気持ちを汲んでくれ。と、言った所で聞いてはもらえないのだろう。



 「~~~~そのフェザー商会にはどのくらい関わりたいんですか?」



 「!!―――週に2回くらい顔を出せればある程度は何とかなるわ!」



 「―――ギルドの仕事は、俺と一緒に参加なら妥協します・・キリアン卿に会う時も、俺と一緒の時だけにすると約束してください・・・どうですか?」



 「常にネイサンと行動できるなら構わないわ。けれど、恐らくいつもとはいかないでしょう。だから止む得ない場合もあることを許してちょうだい」



 「―――それなら都度相談・・・で良いですか?」 



 「ありがとう!とても助かるわ!私もその分ネイサンの指導を頑張るわね!」



 「・・・・指導も良いですけど、今から俺たちは恋人ですよね?」



 「そうよ?」



 「それなら受け入れてください。―――俺が貴方に近づいても、抱きしめても・・・それ以上の事をしても・・・」



 向かい合って腰かけて話をしていたネイサンは、話しながらアレクサンドラの横に腰かけた。



 「俺はアレクサンドラ様を愛してる。―――貴女にも俺の想いを知ってほしい・・」



 囁くように告げながら、長く美しい銀の髪を掬い上げアレクサンドラを見つめてからそっと口づけた。



 「―――っな・・そ・そんなこと・・・どこで覚えたの!!」



 色恋に無縁で生きてきたアレクサンドラは、24歳にして初めて愛弟子から「誘惑」された。



 あまりにも蕩けそうな甘い空気と、絡めとられそうに熱の籠った眼差しで見つめられ、アレクサンドラは初めて『顔が熱い』と思う程の赤面になりながら胸を高鳴らせたのだった。




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