表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/9

4 愛弟子の脅し


 「・・・・なんでこんな夜遅い時間にキリアン卿と会っていたんですか?まさか逢瀬だなんて言いませんよね?」



 「は?い・いきなり何?!私はキリアンに怒っているの!」



 「~~~~だからなんでキリアン卿と会っていたのかって言ってるんですよ!」



 「そんなのどうでもよいことでしょ!」



 「いいえ!良くないです!隠しごとですか?俺というものがいながら浮気ですか?!」



 「はぁ?!ちょ・・勝手に変な事言わないで!」



 「いいえ!変な事じゃないです!当然の事でしょう!私たちは結婚を約束したんですから!!」



 「してないわよ?!勝手な事言うんじゃない!!」



 「な?!・・・お・・俺が無事に戦争から戻って功績を上げたら結婚する約束したじゃないですか!!」



 「そ・それはあの時は突然の事だったし・・私はするとは言ってない!」



 突然怒りだしたネイサンに圧倒されて、先ほどまで怒っていたアレクサンドラは何故か怒られる側に立たされていた。


 確かにネイサンが戦争に旅立つ前に、アレクサンドラはそれとなく「求婚」されたのをあたかも了承したかのように胡麻化した。

 

 胡麻化せたからネイサンは意気揚々と戦争に旅立ったのだ。しかし、まさか大きな功績を上げて帰ってくるだなんて思いもしなかった。

 生きて帰ってきてくれさえすればそれでいい。―――そう思っていたのだ。



 ネイサンは明らかに約束は互いに結んだものだと信じて疑っていない。アレクサンドラの言い分など、ただの言い訳でしかないのだ。

 ネイサンが旅立つ時に、自分がしっかり約束の件を話しておかなかったことに今更後悔するがもう遅い。

 ネイサンは約束を履行すべきだという頑なな意思でアレクサンドラを見つめ鋭い眼光で追い詰める。



 「そ・・その・・ネイサンは功績を立てたのでしょう?一体どんな功績を上げたの?」



 ひとまず話を少しでも逸らそうと必死に話題を逸らしてみる。



 「・・・俺は勘が良かったみたいで、アレクサンドラ様に教わった剣術スキルと合わせて敵の隙を作ることに何度も成功したんです。

 おかげで特攻を任された際、隙をついて何人か隊長クラスを制圧したんです。それで気づいたら軍の中で傭兵にも拘わらず隊長クラス以上の功績を認められました」



 「―――すごいじゃない!並大抵の努力では、特攻で隊長クラスの所まで行きつくなんて至難だ。

 本能的にその時の状況に臨機応変に対応して、敵の隙を狙えたんだろうね!」



 「数には圧倒されましたが、どの敵もアレクサンドラ様を相手にするよりずっと楽でしたからね。隊長クラスですら貴女の足元にも及びませんでしたよ」



 「それは言い過ぎだろう?確かに近衛騎士団長の母上と同じ位の実力はあると自負はしているが、流石に戦争に出たことがないから私は大した力は発揮できないはずだよ」



 「いいえ、アレクサンドラ様の強さは間違いないです!さっきだって素早い身のこなしで態勢を立て直し、臨戦態勢に入った動きは凄かったです」



 「何?褒めてくれるの?正直今のネイサンを前にして勝てる気はしないけど・・本当に敵の隊長クラスより私の方が強いか確認してみる?」



 「・・手合わせしてくれるんですか?」



 「今日は早く戻ってこれたしこの時間なら一回くらいなら構わないよ。ただ残念ながら今は短剣しか装備してないんだ。仕事柄戦闘するような仕事じゃないものでね」



 「・・・・色々と聞きたいことはありますが、折角の機会を逃すわけないです。私は剣ですがいいですか?」


 

 「構わないよ。帰ってきた愛弟子の強くなった姿を拝ませてもらうよ!」



 ずさっと素早くネイサンから距離を取り、すぐに戦闘態勢に入るとネイサンもすぐに応じて立ち上がり、剣を抜き構えた。


 大きな功績を上げただけある。動きは間違いなくアレクサンドラの方が早いが、剣を構えるネイサンに隙は一切なかった。

 もしもこれが本当の戦闘であれば一旦様子を見る所だが、これはあくまで手合わせ。ぶつかっていくのみ。


 短剣を構えアレクサンドラはネイサンに向かって飛び掛かる。

 瞬間、一閃がアレクサンドラに放たれるが、わずかなネイサンの踏み込みで動きを見極め寸でのところで華麗に躱す。

 いつ見ても美しい身のこなしに、ネイサンの心は粟立った。


 幾度となくアレクサンドラには剣筋を読まれ躱され続けたが、その躱される一瞬一瞬は本当に見惚れる程の美しさだった。

 まるで舞を一番近くで観ている気分にすらなるのだ。

 

 こんな高揚感は戦場で一度も感じなかった。ほんの一瞬で読まれてしまう剣筋、無駄のない華麗な動き、素早い剣裁き。

 短剣一本というハンデなど一切感じさせないアレクサンドラの動きは、戦争に参加すればきっと戦場の華となるだろう。

 圧倒的な強さと、畏怖させるのではなく魅了してしまう華麗な舞のような動き。


 『アレクサンドラが戦場に立たなくて良かった』などと手合わせ中にも拘わらず想像してしまう。



 「――おいおい!気がそぞろすぎやしないかい?」



 挑発的な言葉に笑みを添えて、不敵に笑うアレクサンドラ。刹那、短剣の刃先は背中に突き立てられていた。



 「ま・・参りました・・」



 心を浮つかせたネイサンは、その心の動揺をしっかりとアレクサンドラに察知され、華麗に後ろを取られてしまったのだった。



 「ふふ・・戦闘なんて随分していなかったけど、意外と私の腕も鈍っていないようだね。

 ―――だけど、随分気が散っていたようだ。ネイサンの強さはそんなもんじゃないんだろ?やるならちゃんと命がけでやりな!」



 「―――ご指導、ありがとうございます!」



 確かにアレクサンドラの美しさに目が奪われていたのは間違いない。しかし、それも強さの一つでもある。それに、もし長剣を持ちいつもの両手持ちのスタイルで手合わせしていれば間違いなく負けただろう。

 それほどにアレクサンドラの両手持ちでの戦いは優れていた。


 左手に短剣を構え、攻撃を受け流しながら右手の長剣で切りつける姿はまさに美しい鬼神だ。たとえ馬力が弱く剣の重みが足りなかろうと、それを増す手札となる攻撃センスと技は並ではない。

 だからこそ王国一と言っても過言ではないラウレシア様と肩を並べる程の強さなのだ。


 「よくやったよ。遅くなったけど、無事に帰ってきてくれて本当にうれしく思う。

 おかえり、ネイサン」


 アレクサンドラは顔を綻ばせ、剣を鞘におさめると優しくぽんぽんとネイサンの方に手をのせて、無事の帰還を喜び労った。



 「―――アレクサンドラ様・・」



 感極まったネイサンはすっとアレクサンドラの前で跪く。



 「俺は貴女に相応しい見合う男になる為に戦場で功績を残しました!アレクサンドラ様にとっては冗談のように思われたかもしれません。―――でも俺はこの戦争に自分の命を懸けたのです。

 どうか―――俺と結婚してください!!」



 「―――!!・・・・ネイサン・・」



 ネイサンの真剣な眼差しは冗談で返してよいような軽いものではなかった。

 実際に帰ってきたネイサンと手合わせをして、どれだけ強くなったのかよくわかった。

 気もそぞろなはずなのに、本人の言った通り勘がとにかく良いのだ。


 どんなに剣を躱して反撃しても、見事に受け止められてしまった。

 恐らく真剣勝負ならば本気で負けていたのではないかと本能で感じたほどに、ネイサンの成長は歴然だった。


 一人の武人として、これほど魅力的な男性は滅多にお目にかかれないだろう。そもそも自分と並ぶような腕前の剣の使い手にアレクサンドラは出会ったことがない。

 そう考えると見目麗しく、素晴らしい体躯で剣術も自分と同格かそれ以上。これ以上ない花婿候補だろう。



 ―――でも、それは侯爵家が没落する前だったらの話よ・・


 

 ネイサンの求婚に応えられないのは、単に好きとか嫌いという話ではないのだ。


 優れた功績を上げたネイサンであれば、恐らく爵位を得ることも可能だろうとアレクサンドラは感じた。

 そうなれば、没落令嬢の自分は明らかに身の丈に合わない身分なのだ。それに、今は兄の手伝いの他に裏ギルドにまで携わっている。


 貴族の妻がギルド員だなど笑いの種にしかならない。


 バレなければよい話ではあるが、自分の愛弟子には幸せになってほしいのだ。

 きっと貴族然な理想的な淑女な花嫁を迎えることはネイサンであれば可能だろう。



 「―――ネイサン、気持ちは凄く嬉しいよ。でも私じゃお前に相応しくないんだよ」


 

 「いいえ!あなた以外私には目にも映らない。相応しくないなどと言わないでください!

 今回の功績で、伯爵位を賜ることがおおよそ決まっているのです!だから―――」



 「―――だからだよ。

 リットルン侯爵家はすでに没落寸前なんだ。今立て直している最中だけれど、見通しは正直薄い。

 父は事業の失敗で臥せりがちだし、兄は商会の後を継ぐために頑張ってはいるが、これといってよい兆しは見えていない。

 母もこの駅団長を任されてはいるが、もういつ退職してもおかしくない年齢だ。

 私は淑女教育など4年前にはやめてしまったし、稼ぐために裏ギルドにも在籍している。

 今日だってその仕事でこんな時間まで女のみで外を飛び歩いていたんだ。

 とてもじゃないが、王国に期待されるネイサンの側に寄り添う女として、私程不釣り合いな者はいない!」



 「そんなことありません!

 それに、伯爵位を俺が得たら釣り合わないというなら、伯爵位の褒賞は断ります!」



 「―――馬鹿なことを言うんじゃない!

 王国の誉れである褒賞を蹴ったりなどすれば、ネイサンの将来に傷が付くじゃないか!」



 「そんなの関係ありません。もし俺の将来に傷を付けたくないなら結婚してください!」



 「何言ってるの!駄々を捏ねないでよ・・」



 「いやです!俺はアレクサンドラ様と結婚できないなら生きている価値など見いだせない。たとえ貴女が平民になろうと俺は絶対諦めない!」



 「~~~~わ・・私の気持ちは無視なのか?!」



 「・・・・この国は未だ政略結婚を勧めているじゃないですか!俺は貴女と約束をした!

 貴女にとってはただの口約束だったとしても、これは十分政略結婚と変わらない!

 俺と結婚すれば十分侯爵家に援助もできます!侯爵家が復興したら、今度は俺を助けてくれたらいい!

だから―――俺と結婚してください!」



 「・・・嫌だ・・お前に苦労させたくないんだ・・援助なんて・・」



 「・・・・わかりました!なら報酬としましょう!」



 「―――報酬?」



 「そうです!俺と結婚してください!貴女を雇うので俺の下で働いてくもらい、援助に見合うだけの報酬をお渡しします!」



 「―――ネイサンっ!・・・そんなこと―――」



 「まだ嫌だ嫌だと言うんですか?―――それなら仕方ないですね・・アレクサンドラ様が結婚して俺に雇われてくれないなら・・・・・ラウレシア様にギルドで働いている事バラします」



 「―――はぁぁああ?!!」



 終わりの見えない応酬に飽きたネイサンは、あっさりと求婚から脅しに切り替えてしまった。



 それまで対等な関係、否、師弟関係だった関係は、一気に脅し脅される関係に変わったのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ