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3 愛弟子との再会2


 飄々と言い放つネイサンと名乗る男は、ゆっくりとアレクサンドラの側へと歩みよる。



 「――寄るな!私は師匠じゃない!」



 凍てつくような声音で告げるアレクサンドラに、こちらに歩み寄っていたネイサンの足がぴたりと止まる。



 「・・・・俺を疑っているんですか?」



 「違う!勘違いだ!去れ!」



 顔は暗がりで良く見えないが、首を傾け何故そのようなことを言うのか理解できないようなそぶりをするネイサンに、アレクサンドラはただ短く返す。



 「勘違いなわけない。貴女はどう考えても俺の大好きなアレクサンドラ様です」



 冗談など一切入れずにしっかりと今度は名指しされた。



 ―――なんで私がアレクサンドラだとわかるの?!・・今は男の格好をしているのに!



 今は暗がりの中、どう見ても男にしか見えない出で立ちのアレクサンドラをどうやって見抜いたのか、より一層ネイサンへの警戒心が増していく。



 「アレクサンドラなど知らない!」



 「いいえ、貴女はアレクサンドラ様だ。何故嘘をつくのです?」



 アレクサンドラだと信じて疑わないネイサンは全く揺らがない。



 ―――本当にネイサンなの?!・・・でも・・良く見えないし背格好も違いすぎる・・



 当時のネイサンは、「俺」などと自分のことを言わなかったし、凛とした話し方でもなかった。

 追いかけ慕ってくる当時15歳だった彼は、まだ声変わりしたばかりで戸惑う話し方の可愛い少年だったのだ。

 背丈も自分とさほど変わりなく、体格も筋肉はつきつつもまだひょろっとした感じに見えたのに、目の前のネイサンは筋骨隆々とは言わないが、明らかに良い筋肉が育った凛々しい風貌だ。

 暗がりでもその逞しさは確認できる。



 「・・・・どうしたら信じてもらえるんですか?何か俺しか知り得ないアレクサンドラ様のことでも話しましょうか?」



 「・・・・聞いて判断しよう」



 本当に自分の事を知るネイサンであれば、確かに今の自分がアレクサンドラであると納得できるよな証拠を言えるのかもしれない。だが、暗がりで殆ど互いが見えていないというのに、一体何を見てアレクサンドラだと断言するのだろうか。

 不思議で堪らない。



 「さっき驚いた時右手の小指がピクリと動いていました。アレクサンドラ様はいつも驚くと右手小指がすぐ震えるんです」



 「―――嘘だ!!」



 いきなり自分でも知り得なかった話をされて思わずびくりと肩を振るわてしまう。



 「ほら、やっぱり震えた!」



 にやりと笑みを浮かべたネイサンは、指さし今も震えていたと示す。



 ―――私にそんな癖があったの?!・・・・知らなかった・・



 驚愕するアレクサンドラに、さらにネイサンは続ける。



 「アレクサンドラ様は、警戒が強まる程返事が短くなるんですよね。相手に少しでも情報を与えたくないって言ってましたからね」


 

 「―――!!!」



 確かにネイサンに指導している時、敵と対峙した時には「敵に情報を与えないよう多くを語るな!」と指導した記憶がある。しかも、それを自ら実践していると語った覚えもあった。


 ―――ま・・まさか本当にネイサンなのか?!



 それでもまだ信じ切れないアレクサンドラに、ネイサンは更にとどめを刺すかのようにアレクサンドラの癖を言いきる。



 「まだ信じがたいですか?どう考えてもこの2つで信じてもらえると思ったのですが・・。あと、気が緩むとぺたんとしゃがみ込む癖も変わっていませんね。

 いつも休憩になると、脱力して地面にしゃがみ込む姿はとても可愛らしかったが、今も変わりなくて嬉しいです。それに、貴女の声を俺が忘れるわけがない。

 ずっとアレクサンドラ様の声だけに耳を傾け、眠る時も起きている時もどんな時も貴女の声を思い出し寂しさを凌いでいたんですから・・」



 「―――ネイサン・・・本当に・・ネイサンなの?」



 「だからそう言っているじゃないですか、アレクサンドラ様は相変わらず警戒心が強すぎます。

 折角の再会がなんだか殺伐としてしまったじゃないですか・・」



 「それはこんな夜中に声をかけるからでしょうっ!」



 気の緩んだアレクサンドラは、ネイサンへ愚痴を叫ぶとぺたんと地面にしゃがみ込んだ。



 「はは・・相変わらず可愛い人ですね」



 久々の再会で、暗がりで碌に顔も見えていないというのに、平然と『可愛い人』などと言うネイサンに、戸惑いが隠せない。



 「一体いつからそんな軽いノリで可愛いとか言うようになってしまったの?可愛かったネイサンが恋しいわ・・」



 ぼそりとふてくされる様に呟くアレクサンドラの横へ歩み寄ると、同じようにしゃがみ込み苦笑する。



 「アレクサンドラ様に会えない間、ずっと貴女の面影を想い起こしては想いに浸っていましたからね。再会できたから想いが溢れてしまうんですよ」



 苦笑しつつも「だから我慢して気聞いれて下さい」と言うネイサンに、どれだけ戦場で孤独であったのか彼の言葉を聞くとアレクサンドラの胸を抉るような痛みが幾度となく走った。



 「―――いつ・・王都へ戻ってきたの?」



 「夕刻頃ですね。夜の8時頃侯爵邸へ貴女を訪ねていきましたが、もうお休みになっていると門前払いを受けました・・」



 「それはすまなかったね。・・・私にも用事があったんだ」



 侯爵邸には今は使用人は最低限度しかいない。夕食後は自分の時間だからたとえ来訪があっても呼ぶ必要はないし、部屋へは来るなと告げてある。

 見た目が傭兵のようなネイサンであれば、邸の者が門前払いするのは頷けた。



 「別に構いません。何度でも会えるまで会いに行くつもりでしたから」



 真剣な声音にドキリと胸がたかなった。


 隣にしゃがみこむネイサンは、肩が触れるような近さではなくとも先程よりもしっかりと顔が見える。

 凛とした切れ長な瞳、すっと通った鼻筋に薄い唇。

 暗がりで髪色や瞳の色はわからないが、ぼさぼさの髪型であっても端正な顔立ちだとよくわかる美丈夫だ。


 昔から整った顔立ちであったと記憶にはあるが、美丈夫というより美少年という方が似合っていた。


 世の令嬢を虜にするのではないか?と感じてしまうような男ではなかった。


 見知らに男性と対面しているようで、顔に熱が集まるのを感じていたたまれない。



 「よ・夜の8時頃邸に来たなら、何故こんなところにいるの?」



 「―――少しでもアレクサンドラ様を感じたかったから・・」



 「え?」



 「一度は案内されたサウレンツ公爵家の別邸に戻ったんです。・・・・でもなかなか寝付けなくて。

 眠れないなら少しでもアレクサンドラ様を感じられる場所にいたくてここにきたんです」



 「サウレンツ公爵家?!―――今サウレンツ公爵家にいるの?!」


 

 「え?・・えぇ、普通の宿屋に功績を立てた者を泊めるわけにはいかないと、国王陛下が気遣ってくれたらしいです。

 それで、王宮の宿泊できる部屋が整うまでの間、サウレンツ公爵家の別邸に3日程世話になることになってます」



 「~~~~聞いていない!・・・私は聞いてないぞキリアンっ!!」



 隠されていたことにアレクサンドラの心は荒ぶる。恨みの籠ったような声音がつい溢れてしまう。



 「キリアン卿がどうかしたんですか?」



 「どうもなにも・・・さっきまで会っていたからね!~~~あの人・・戦争が終わったことしか教えてくれなかったんだよ・・なんて酷い人だ!」



 本気で憎むわけはないが、それでも長年の付き合いの彼がアレクサンドラに隠し事をしていたことが異様に腹が立って仕方なかった。




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