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SPIRITS TIMES ARMS  作者: 西順


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敗けず嫌いか凝り性か

「大体の楽器を超絶技巧で弾けて、それに感情まで乗せられるんですか!?」


 エムエム君まで引いている。解せぬ。


「私の演奏なんて、インシグニア嬢のエラトに比べれば、容易いものですよ」


 俺がそう口にすれば、うちの派閥やジュウベエ君たちも『ああ』と納得する。八弦のエラトを五指の爪で弾くとか、インシグニア嬢も大概人間やめていると思う。


「いえ、私はほぼリソースをエラトに注いでいるので、他の楽器はあまり得意とは言えないですね」


 謙遜するインシグニア嬢。


「いや、それで良いと思いますよ。私が何でもかんでも手を出したのは、ウェルソンを見返す為でしたから」


「見返す、ですか?」


 これにエムエム君は首を傾げる。


「ウェルソンは確かに天才です。千年先にも名を残すだろう大天才と呼んでも差し支えない。が、それ故に驕りがあるんですよ。自分こそが至高であると、自分以上の歌奏を披露出来る人間などこの世にいないと。神官になった癖に」


「は、はあ」


 困惑顔のエムエム君。天才の逸話なんてものは、大体がその偉業を讃えるものだ。故にその天才の人間性に焦点を当てた逸話は時代の陰に追いやられる傾向にある。が、俺からしたら時代の寵児もご近所さんの意地悪な神官だ。


「そんな奴、鼻っ柱をブチ折ってやりたくなるじゃないですか」


「え? は、はあ」


「でも相手は母上に同行して周遊旅団として一年の半分は領都にはいません。だから、見返す為にウェルソンが領都にいる間は、朝から聖堂に乗り込んで、あいつがいない間に練習した曲を披露して、駄目出しくらったら、夜に寝ずの練習して、次の日の朝までに完璧に仕上げて、あいつを見返してやるんです」


「え? え?」


 訳が分からない。とばかりにエムエム君がグーシーたちの方へ顔を向ける。これに肩を竦ませるグーシー。


「フェイルーラ様も、これでヴァストドラゴン家の血筋ですから、根が武闘派なんです。敗けっぱなしを良しとしないので、意識的にしろ、無意識的にしろ、上から目線の相手には、噛み付く方なのです」


「な、成程? それがマエストロ・ウェルソンの弟子になるのに必要な素養と言う訳ですか」


 グーシーの説明に、何とももやっているのが分かるが、エムエム君は一応は納得したらしい。が、


「どうなんでしょうねえ。私は三、四歳の頃からウェルソンとはそんな関係だったので、私の派閥の面々が口にしたように、それが異常だったとは思っていなかったので。まあ、多分、凝り性なんでしょうね」


「え? 三、四歳の頃から、徹夜で練習していたんですか?」


 これには流石にインシグニア嬢も驚いている。


「はい。指先や唇の皮が練習でベロベロになるのを、それを不味いポーションで回復させながら練習に明け暮れ、ウェルソンから合格が出ないなら、次の日も徹夜して、それでも合格がでなければ更に、って感じで、兎に角、気絶するまで練習を続けていましたね」


 静まり返るホール。エムエム君やインシグニア嬢だけでなく、耳を側立ていた他の受験生たちも引いているのが分かる。


「……凄い、敗けず嫌いだね」


 これに応えたのはフィルフィン君だ。だがその表情は引き攣っている。


「いえ、凝り性なだけです。まあ、周囲から、エスペーシに魔力と全ての才能を奪われて生まれてきた。と言われていたので、才能がないなら、他の人間が出来る事が出来ないなら、出来るまで頑張るしかなかった。ってだけですよ」


「普通は途中で折れるんですよ」


 これにアーネスシスがツッコミを入れてきた。が、事実なのだ。自分は特に敗けず嫌いではない。


「多分、ウェルソンが他人を煽るのが上手い奴だったんだと思います。前述の通り、魔力も才能も双子の片割れであるエスペーシの方が遥かに優れていたので、他では基本的にそれなりを貫いてきたので」


「いや、フェイルーラの派閥って、皆優秀だろ?」


 今度はジュウベエ君がツッコミを入れてきた。


「それとこれとは話は別だよ。私的には、私の能力の限界を理解しているので、私が馬鹿にされるのは別にどうでも良いんだ。でも、ここにいる皆は、魔力も才能も私よりも優れた面々だ。それなのに私を神輿として選び、私の派閥に入ってくれた。なら私は、彼ら彼女らが私の派閥に入った事で、周囲から不当な対応をされないように務めなければならない。派閥のボスとして、当然の事をしただけだよ」


 これに頷いてくれたのはインシグニア嬢だけだった。フィルフィン君も思うところがあるような顔だが、ジュウベエ君もエムエム君も目を丸くしている。いや、グーシーたちも自慢げだ。


「派閥の首領ってのは、そこまで考えないといけないのか」


 ジュウベエ君は腕組みしながら唸っている。そうだね、特にジュウベエ君は軽挙妄動は控えるべきだと思うよ?


 などと思っていると、ホールにアナウンスが流れる。


『次の試験の準備が整いました。受験生の皆さんは、指定の受験教室に入室して下さい』


 もうそんな時間か。長話し過ぎたな。俺のせいじゃないけど。


「次って最後だっけ?」


「はい」


 俺の問いにグーシーたちが首肯する。


「まあ、ここまできて『頑張れ』とは言うまい。ただ気を抜かず、きっちり合格を勝ち取ってこい」


『はい!』


 うん。うちの派閥の面々はいつも元気だねえ。


 そうしてグーシーたちが教室に向かうのを見送ろうとしたところで、


「あれ? そっちだったっけ?」


 とジュウベエ君が声を掛けてきた。ジュウベエ君の配下と、俺、インシグニア嬢の配下、エムエム君たちムジカット共和国勢が向かう方向が違うからだ。


「ああ、ジュウベエ君の配下は戦闘試験だから、私やインシグニア嬢のところとは受験教室が違うんだろう」


「成程なあ。…………ん?」


「ん?」


 何か変かな?


「フェイルーラのところは、戦闘試験を受けないのか?」


「受けたら当然合格するものを受験しても、力試しにならないじゃないか」


「ん?」


「ん?」


 いや、何その反応?


「そう言うものなのか?」


 ジュウベエ君がインシグニア嬢やフィルフィン君たちへ視線を巡らせるも、全員首を横に振っている。これを見て、また首を傾げるジュウベエ君。


「何か、普通ではないようだぞ?」


「そう言われてもねえ。騎士貴族であるなら武力はあって当然だろ? 私だって多少は闘える。武力によって順位付けがされるなら兎も角、一定以上の武力があれば合格になるだけの試験を受けても、個人の本質的な資質を問う事は出来ない。と言うのが私の考え方だからね。うちの派閥の者たちには、戦闘以外の、論文や一芸一能を披露する一芸試験を受けて貰い、ここに至るまでにどれだけ自力を付けてきたかを示して貰うのが通例になっているんだよ」


「…………それでこの五年、派閥から不合格者を出していないのか?」


「そうだよ」


 皆優秀だからね! ふふん。これに関しては俺も胸が張れるね。何か周囲が若干引いている気がするけど。まあ、良し。


「では、先程の大講堂に戻りましょうか?」


 インシグニア嬢にそのように声を掛けたところへ、


「インシグニア!」


 先程まで受験生で溢れていたホールも、閑散となったところで、インシグニア嬢を呼ぶ男性の声が響き渡る。何者か? と声の方へ視線を向けると、そこにいたのはグロブス殿下たちであった。声を掛けてきたのはグロブス殿下であったらしい。エスペーシの声を間違える訳ないし、フレミア嬢だとすると声が低過ぎる。


 はあ。本当にトラブルはご遠慮したいのだがなあ。


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